頸肩腕障害、逆転労災認定-炭・マキ運搬作業に2年間従事●兵庫

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右肘部管症候群 右胸郭出口症候群との診断も

「労災申請したのですが認められませんでした。どうしたらいいのでしょうか?」と、Aさん(女性)からの相談電話があったのは、昨年の夏前だった。

Aさんは、B社に2009年7月に入社し、商品である炭やマキを販売する業務に就いた。炭は一箱が10㎏、12㎏、15㎏の種類があり、マキも一束10㎏から12㎏の重さがある。Aさんは、販売業務に伴い、炭やマキの入荷や出荷作業、在庫整理の作業にも従事していた。

2011年11月8日、Aさんは会社倉庫内で入荷した炭を運搬中に、右手に違和感を覚え、同時に右第5指の末関節周辺に激痛が走った。捻挫か突き指程度と思い、そのまま放置していたところ、疼痛と痺れが激しくなり、近院を受診して「右肘部管症候群」と診断された。その後受診した医院では「右胸郭出口症候群」、現在通院している診療所では「頚肩腕障害」と診断されている。

神戸東労働基準監督署に労災申請したものの「特に過重な業務に就労したとは認められない」との理由で、不支給となった。

B社における炭・マキの運搬作業は、そのほとんどをAさんと同僚Cさん(男性)の二人で行っていた。1日の仕事の流れは、午前中は入荷した炭の荷卸しと整理作業、午後は1日に5件から10件ぐらいの得意先等への配達作業だった。また、月に数回マキの入荷作業があり、週1回程度の倉庫内の整理作業、月1回の棚卸し作業があった。同僚のCさんはフォークリフトを用いた移動作業を行うが、Aさんはすべて手作業で炭・マキを移動させていた。

労基署調査に不備

監督署は、会社から提出があったAさんの発症前1年間の資料を基に業務量を検討した。まず、Aさんの1年間の作業日数(出勤日数)を271日と計算。月当たりの取り扱い数(箱数)を合計して年間49,685箱とし、そこからAさんの取り扱い個数を1か月4,140個、1日183個と算出した。
この平均値をもとに発症前6か月間をみたとき、発症1か月前についてはわずかに下回っているが、ほぼ平均取扱数量、1日当たりの取扱数量は発症5か月前及び1か月前についてはほぼ平均取扱数量となっていると判断した。また、認定基準にある「1日の業務量がおおむね20%以上増加し、その状態が1か月のうち10日程度認められ、3か月程度継続している」等は確認できないとして、不支給処分を決定した。

審査請求に当たり、Aさんの作業内容を詳しく聞き取った。すると、監督署の調査方法の不備が明らかになってきた。監督署はAさんが運搬した箱数を持って判断したが、実際の作業形態における何度も炭の箱やマキを上げ下ろししたり、商品を台車にのせて押す作業や、無理な体制での運搬作業が見落とされていた。

そこで、Aさんの作業内容に沿って、炭やマキの上げ下ろし作業回数と運搬個数から、移動した総重量を計算し直した。例えば、出荷作業においては、①倉庫内の置き場から台車に積む、②台車を押して運搬用の車まで移動する(約200㎏)、③台車から車に積み込む、④積み込んだ荷物の並び替え、⑤得意先に着き、車から台車に下す、⑥台車を押して配達先へ運ぶ、⑦配達先の納品場所に商品を納める、との手順になる。この場合、配達先へ15㎏の炭を50ケース運んだ場合、上肢にかかる重量負荷は2,250㎏となる。こうした作業は、同僚のCさんとの二人作業であるが、Cさんはフォークリフトに乗るため、手作業の割合は4対6の割合で、Aさんが多くなる。

このようにして、入荷作業・配達作業・在庫整理などすべての作業内容について、上肢への負担を数量で分かるように算出し直し、新たな資料として審査官に提出した。

審査官は、「筋力を要する反復作業によって上肢等に負担がかかることからすれば、請求人及び代理人の考え方は妥当である」と判断して、提出した資料に基づき検討を行った。

そして、「請求人の取扱重量比率をみた場合、平成23年9月が41.9%、10月が61.4%、11月が34.3%であり、平均すれば45.8%となり…他の従業員と比べ一人で相当の重量を取り扱っていることになり、とりわけ発症1か月前の10月においては、60%を超える比率に至っている」「女性である請求人は、男性労働者の1.5倍の重量を取り扱っていることになる」。
また、「平均の20%を超えた日数は9月で8日間、10月で5日間認められ、発症6日前の平成23年11月2日には、平均の232%増という突出した取扱重量が認められた。さらに発症日も20%増を超え、その後も20%増超えが2日間認められた」。

不支給処分取消し

「過重な業務への就労と発症までの経過が、医学的妥当なものと認められる」として、「監督署長が請求人に対してなした不支給処分は妥当ではなく、取り消されるべきである」とした。

審査官は、Aさんの1日当たりの平均作業量を約4,595㎏、発症前には1日で10,704㎏を手作業で運搬していたと判断した。この数値からも、男性労働者であっても過酷な労働であることは明確だ。

監督署が労働実態をしっかり把握し、運搬した個数計算ではなく、運搬した重量・回数に着目し調査していれば、ここまで苦労する必要はなかった。審査請求にあたり、Aさんは膨大な量の資料作成に挑んだが、その頑張りが認定へとつながったといえる。

発症から認定まで約1年半かかったが、仕事を離れAさんの体調が日ごとに回復しているのがなによりである。

安全センター情報2013年5月号