石綿曝露-四国電力アスベスト中皮腫労災死事件/鈴木意見書参考文献-⑫短報「イタリアの熱電力発電所労働者における悪性中皮腫」

第2部 アスベスト疾患のひろがり
第2章 悪性中皮腫とはどんな病気か
Ⅱ 鈴木康之亮意見書添付資料 Ⅲ「参考文献」翻訳
5 発電所と石綿関連疾患に関する文献

⑫短報「イタリアの熱電力発電所労働者における悪性中皮腫」

P.Crosignani,F.Forastiere,G.Petreili,E.Merler,E.Chellini,N.Pupp,
S.Donelli,G.Magarotto,E.Rotondo,C.Perucci and F.Berrino
American Journal of Industrial Medicine, 27, 1995, pp.573-576

石綿はイタリアの電力発電所で広く使用されてきたため、様々な職種での労働者への曝露の実例が知られてきている。予防的手段は1970年代後半になり初めて講じられた。われわれは、今回コホート調査が実施された3か所のイタリアの発電所労働者の中での4例の中皮腫を、また、トスカニ地区で悪性中皮腫に関して行われた総合調査による3例とを併せて報告する。コホート調査のデータを合わせると、肺癌の過剰死亡もまた明らかである。曝露に関する量的な評価なしでも、今回の報告は電力発電所での石綿のリスクの重要性を示している。リスクは何らかの特定の職種の作業者に限定されたものではないようである。

キーワード:発電所、熱電力、中皮腫、肺腫瘍、石綿、職業性リスク

はじめに

電機産業に関連した癌のリスクが最近報告されている。[Boffettaら,1991]量的なリスク評価は十分でない場合ですら、石炭、石油、原子力の一群は、癌の危険から無関係なものではない。伝統的な石油や石炭による火力発電所では、様々な既知の発癌物質や発癌が疑われる物質の曝露が起きている。石綿、多環性芳香族炭化水素、ヒドラジン、PCB、クロム、ニッケル、ベリリウム、[Cammaranoら,1984]特に石綿は高温蒸気(ボイラー、パイプ、タービン)に接する面や、電気のワイヤーの束の耐火隔壁の断熱材として広く使用されてきた。(通常12-18か月毎の)定期点検や故障例の際に曝露がおきる。調節したり修理しなければならない装置へ近づくには、断熱製品を除去しなければならない。いくつかの予防手段がとられた1970年代後半まで、石綿含有製品の除去作業は湿式化や真空掃除機の使用なしで、ハンマーやペンチを用いた手作業で行われていた。個人保護具はまれにしか使用されなかった。作業の実施領域が隔離されたり、封印されることはなかった。同じ作業場所で、しばしば発電所の労働者が日常の業務にあたっていたのである。

こうした場面における石綿による健康への危険に関する証拠は多くはない。1975年にBonnelらは、発電施設で労働していた断熱工と断熱補助員に8例の中皮腫が起きたことを報告した。Hirschらは、フランスの発電所の労働者に石綿曝露によると思われる臨床的な変化を報告している[1979]。これらの変化は、断熱作業に関係する労働者に限定されたものではなかった。Lermanらは、イスラエルの発電所で、2名の中皮腫が(事務員と断熱工に)生じたと報告した[1990]。

1991年、発電所の労働者の中皮腫の1例を、われわれのひとり[Paolo Crosignani]が報告した。この点に関して、さらに情報を得るために、他の中皮腫例を調査することは価値のあることであった。この目的で、われわれはコホート研究をすでに行った3か所のイタリアの発電所の臨床医と共に調査をした。[Cammaranoら,1984、1986、Forastiereら,1989、Petrelliら,1989]トスカニ地方で実施された中皮腫の調査[Chelliniら,1992]もまた参考にした。

症例報告

4例を、発電所の臨床医が把握していた。発電所の過去の従業員の他の3例は、トスカニ地方の調査のファイルで発見された。

表1に、各人の概要を示した。全例が顕微鏡で診断をされていた。第3例を除いたすべてが、直接イタリア国立電気局(ENEL)に雇用されていた。

全例に石綿曝露の可能性があった。第1例は、断熱目的で被覆物や他の石綿製品を扱っていた。第2、4、5例は、断熱材の除去に関してしばしば補修作業に従事していた。第3例は、直接断熱工として働いていた。第6例は、石綿で汚染された作業環境で清掃工として働いていた。事務員である第7例は、直接石綿含有製品を扱うことはなかった。しかし、発電所の汚染区域で作業時間の一部を過ごしていた。今回報告した7例は、発電所の様々な作業に従事していた。今回の報告は、石綿の危険は断熱工のように直接従事した労働者に限定されずに、発電所のほぼすべての労働者に関係していることを示している。

過剰危険度の推定は、1,577名の個人からなる既に報告した2つのコホート[Cammaranoら,1984、1986、Petrelliら,1989]に属する2例(第1例と第2例)の検討から得ることが可能である。もし1992年末まで、これらの人の追跡が死亡や脱落なく継続されたとすると、初曝露から20年以上経過した労働者の中での中皮腫の期待値は、0.15であるのに対して観察値は2例であるからである[LanphearとBuncher,1992]。期待値の評価に、われわれは1976年から1987年までのロンバルデイ癌登録(LCR)の死亡率を用いた[LCR;Crosignaniら,1992]。LCRは発電所のひとつがある近くの工業化地域を含んだものである。LCRの中皮腫の死亡データが特に信頼できると思われるのは、80%以上の例が顕微鏡で確定診断をされており、全例が臨床的(診断の)注意を払われていると考えられるからである。

討論

今回記録された7例の臨床的診断と発電所における初雇用の時期との関係は、石綿による中皮腫の潜伏期間と合致するものである[LanphearとBuncher,1992]。今回の例の前職歴を表1に示した。おそらく第4例を除いて、他における石綿の職業性曝露の証拠はない。このように今回の全例が、発電所の作業に起因するものと思われる。

今回報告した4例は、労働人口の健康問題として注意を払ってきた発電所に雇用されていたために発見された。追加の3例は、トスカニ地方での全中皮腫を包括する調査システムにより発見された[Chelliniら,1992]。今回の症例報告がすべてを明らかにしたものではなく、他の発電所で働いてきた人における他の中皮腫例が予測される。

今回、肺癌のリスクの増加もまた示された。Cammaranoらによる[1984、1986]のコホート調査において、有意とは言えない肺癌の過剰がみられた(期待値2.83に対し観察値5)。Forastiereらによるコホート踏査[1989]で、有意とは言えない肺癌の過剰の危険が観察された(期待値4.50に対して肺癌死8)。Petreliらが研究したコホート調査[1989]では、期待値4.39に対して6名の肺癌死がみられた。この3つのコホート調査は、すべてENELに雇用されているものである。観察期間や作業環境や予防手段は類似のものである。もし肺癌に関して、この3か所のイタリアでの研究の結果をあわせるとすると(11.72の期待値で19の肺癌死亡の観察値)、全体での標準化死亡率の増加は職業性呼吸器発癌物質の曝露との関連を疑わすものとなる。(SMR;1.6290%C.I. 1.06-2.38)

今回の環境が、多環性の芳香族炭化水素のような[Cammaranoら,1989]他の呼吸器発癌物質の曝露環境にもあることは記録に値する。

イスラエルの発電所の過去の従業員に胸膜中皮腫が報告され[Lermanら,1990]、今回の石綿曝露の関係が示唆されてきている[Hirschら,1979]。肺癌の危険の増加の証拠とともに、胸膜腫瘍の報告もある今回の場合、伝統的な発電所の各種の作業の労働者は石綿曝露により深刻な健康上のリスクを有することを示唆している。

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