石綿曝露-四国電力アスベスト中皮腫労災死事件/鈴木意見書参考文献-⑮「発電所労働者におけるアスベストに関連した健康障害」

第2部 アスベスト疾患のひろがり
第2章 悪性中皮腫とはどんな病気か
Ⅱ 鈴木康之亮意見書添付資料 Ⅲ「参考文献」翻訳
5 発電所と石綿関連疾患に関する文献

⑮「発電所労働者におけるアスベストに関連した健康障害」

Y.Lerman,A.Finkelstein, Y.Levo,M.Tupilsky, Mimi Baratz, A.Solomon
Israel Defence Forces, Medical Corps, Ichilov Medical Centre, Tel Aviv, Israel
G.Sackstein
Israel Electric Company, Medical Division, Tel Aviv, Israel
pp. 404-405

アスベストで絶縁する労働者の研究では、悪性中皮腫による予測死亡率より高い死亡率が明らかにされている1。蒸気パイプとタービンの温度の絶縁用に発電所では、アスベストが広く使われてきたが、発電所労働者におけるアスベストに関連した健康への影響は、稀にしか報告されていない2。(及び、J Bonnellら,XVⅢ,International Conference on Occupational Health,Brighton,1975)われわれは、電気発電所の現場監督(clerk)と断熱工の悪性胸膜中皮腫の2例を報告する。

症例報告1

72才の男性が、左胸膜痛、乾性咳、息切れ、進行するだるさのために入院した。既往歴と家族歴は役に立たなかった。家族歴では、2人の兄弟姉妹に骨腫瘍と乳癌を認めた。入院の7年前まで、患者は発電所で31年間退職するまで働いた。その前は5年間建築労働者であり、9年間は、材木産業(the wood industry)の支配人をしていた。発電所以外では、アスベストへの曝露歴はなかった。

身体検査では、患者は栄養失調で軽い肺の苦痛を示した。胸壁の圧痛はなく、腫瘤は触れられなかった。叩くと左肺野は濁で、呼吸音はかなり衰弱していた。胸部レントゲンは、左の胸膜肥厚と胸水を認めたが、右肺は正常だった。胸水穿刺で、800ccの出血性の浸出液が出、組織学的な検査では多数のリンパ球と組織球に比べ、中皮細胞はほとんどなかった。

胸部のCTは、右肺に比べて左肺が小さくなっていた。左肺は周囲を円く鋸歯状に胸膜で器(うつわ)され、左肺底部に胸水があった。随伴する胸水よりも、不規則に肥厚した胸膜の方が、減水が著しかった。疑われた診断は、広汎な胸膜中皮腫であった。右背部胸膜面の石灰化した胸膜プラークの存在は、遠い過去のアスベスト曝露を示していた。(図1)

胸膜生検は、過形成の中皮細胞と繊維索(フイブリン)に部分的に覆われた厚く繊維性の胸膜を示した。繊維の多い間質の中には、紡錘型細胞の束がみられ、あるものは、大きな過染色性の核を有していた。これらの所見は細胞繊維性の中皮腫に合うと解釈された。(図2)患者は、呼吸不全によって7か月後に死亡した。

症例報告2

54歳の男性が繰り返す胸水で入院した。彼は31年間断熱工として働き、症例1と同じ発電所にいた。彼にはアスベストへの曝露歴はなかった。身体検査では、患者の栄養状態は良好で、呼吸不全はなかった。左胸の膨張は減弱していた。左肺は打診にて濁で、胴部で呼吸音は減弱していた。胸部レントゲンは大量の左胸水を示し、胸腔鏡では、1500ccの緑色浸出液と、臓側胸膜下3分の1と横隔膜と心のうをとりまくゼラチン状の固まりを認めた。胸膜腫瘍の生検では、多くのシャウマン小体を伴う悪性上皮性中皮腫を認めた。患者は胸腔内へのナイトロジェンマスタード、サイオテーパ、イットリウムの治療と経静脈的なアドリアマイシンの治療を受けた。4か月後の腹水穿刺では、悪性中皮腫細胞を認めた。彼は、12か月後に呼吸不全で死亡した。

考察

熱発電所は発電機で電気エネルギーを産生する。発電機は、ボイラーとタービンという2つの基本的なユニットからなる。タービンとスチームパイプから発生する熱は、発電所のいくつかの健康障害要因(health hazards)のうちのひとつで3、基本的に熱の絶縁を必要とする。

アスベストが、この目的のために広く用いられてきた4。発電所内外の大気中のアスベストの測定では少ない繊維数を示したが、アスベストが貯蔵され、取り扱われる貯蔵室においては、高濃度認められた2。  発電所でのアスベストに関連した健康へのリスクは、発電所労働者の喀痰中の含鉄小体の存在で確認されてきた2

断熱工の間のアスベストに関連した健康被害はよく記載されているが1、発電所の労働者でのそれは、ほんのわずかしか記載がない2。(及びJ Bonnell,1975)Bonnelは、ロンドンのひとつの発電所の77人の絶縁労働者の間でのアスベスト関連疾患の報告をしているが、8例の中皮腫が記載されている。フランスのフルタイムの発電所労働者55人の調査では、アスベスト曝露のリスクは、被覆の作業に限られてはいない。含鉄小体と主に胸膜肥厚と石灰化というアスベストに関連した異常が、他の職種の労働者の間にも存在した2。最近のレビューでは、Commaranoらは、イタリアの火力発電所の労働者の間での臓器に特異的な死亡について報告している8。 32の期待値に比べて、18例の新生物の患者が観察された。肺癌が50(期待値2.83)だったが、中皮腫はいなかった。

ここに報告した一例目の患者の曝露の性質は、低レベル長期曝露型である。数人の著者は、補修労働者(「間接(bystander)」曝露)や近隣者や家族のようにごく少量の曝露でも悪性中皮腫を起こりうることを示唆している6,7。この型の曝露によるアスベスト肺の危険性はほとんどない1。このような低レベル曝露の状態の下では、中皮腫の例が健康破壊の指標となる。この文献での症例報告は、発電所労働者の間でのリスクを正確に評価するために、大規模な疫学調査が必要なことを強調している。

*以下の図が添付されている。

図1  胸部CTは、胸水をともなった厚い胸膜腫瘍が左肺を覆っていることを示す。右後方の胸膜表面に石灰化した胸膜のプラークが見られる。
図2  繊維の多い間質の中の紡錘型細胞の束(ヘマトキシリン-エオジン染色、×100)

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