石綿曝露-四国電力アスベスト中皮腫労災死事件/鈴木意見書参考文献-⑨抄録「火力発電所労働者における癌死亡率」

第2部 アスベスト疾患のひろがり
第2章 悪性中皮腫とはどんな病気か
Ⅱ 鈴木康之亮意見書添付資料 Ⅲ「参考文献」翻訳
5 発電所と石綿関連疾患に関する文献

⑨抄録「火力発電所労働者における癌死亡率」

Giuseppo Cammarano
Health Service, National Board cf Electvicity,Turbigo Power plant, Milan, Italy
Paolo Crosigrani, Franco Borrino
Epidemiology Unit, National Cancer lnstitute, Milan, Italy
Giogio Berra
Local Health Unit No.71, Castano Primo, Italy
Scand. J.Work. Environ. Health, 10(4), 1984 Aug.:259-261

Turbigo(イタリア・ミラノ)にある火力発電所において、多環芳香族炭化水素、アスベスト、ヒドラジン、PCB、クロム、ニッケル、ベリリウムのいくつかの発癌物質の曝露の疫学研究が行われた。労働者への検出された曝露の影響を測定するために、当集団の癌死病率を最も近くの町の対応するデータ及び近接県からの癌登録データと比較検討された。従事期間10年以上の就労者に過剰死亡が見られ、潜在期の中央値は20年だった。

キーワード:発癌性物質

Turbig(イタリア・ミラノ)にある火力発電所で、多環芳香族炭水化物、アスベスト、PCB、クロム、ニッケル、ベリリウムの数種発癌物質曝露の技術過程分析により明らかになった。プラントは1928年の創立。現在、年間106トン以上の石油ナフサが使われている。1956年から1960年の間に技術革新があり、1951年から今日まで発電量は35MWから1964年145MW、さらに1970年には1,385MWに高くなっている。

操作工程は以下のようにまとめられる。水(脱イオン化と脱気された)がボイラーのパイプへ送られる。そして、燃料オイルの燃焼によって熱せられる。蒸気が過熱され、タービンへ入り、発電機を回す。その蒸気は吸引濃縮され、得られた水が再利用される。

この工程は、1951年以降一定と思われる。発電力アップの間を除けば、1968年以来の換気装置によるボイラーで生まれる陽圧のため、蒸気の排気はまさに受動的である。

この研究の目的は、(発電所内の)発癌物質曝露の影響を評価することであった。対象と方法曝露 多環芳香族炭化水素(2)は、プラント内の燃料オイルに含まれ、燃焼時産生する。曝露は、燃料オイルとの接触、ボイラーから定期的に取り出される灰との接触、ボイラー内陽圧のための作業スペースへの煙の侵入に起因している。

パビア大学産業保険学部で実施された燃料オイルの分析結果は、phenanthrene(64μg/g)、anthracene(5.4μg/g)、fluoranthrene(5.4μg/g)、pyrene(14.4μg/g)、benz(a)anthracene(7.1μg/g)、crusere+triphenylene(8.5μg/g)、benzo(a)phrene(9.4μg/g)、benza(e)pyrene(6.7μg/g)、perylene(5.2μg/g);ボイラーの灰の分析から、70ppbのbenz(a)pyrene、66ppbのbenza(e)pyrene、さらに、50ppbのperyreneが認められた。多環芳香族炭化水素は汚染大気の直接測定ではないが、高レベルのSO2とnitrous  gases(5mg/m3かそれ以上のSO2  provinciallahoratory of Hygiene and prophalaxis of Milanoで測定された)が、しばしば記録されている。多環芳香族炭化水素を含んだ煙がボイラーから漏れている指標になると考えられた。 アスベスト(amosite  amphibolo)(5)は、タービン、ボイラーや配管まわりの断熱材として使用されたり、オイルタンク周囲の防火壁として使用されている。労働者は定期的メンテナンス時の取り外しの際、曝露をうける。

15% Hydrazine溶液(3)は、水—水蒸気行程での気泡抜き剤と防腐剤として使われ、労働者は定期的メンテナンス時の除去の際に曝露をうける。PCB(6)は、主にhexa-and hepta chorobiphenyls混合物として、poly chlorobenzeneの存在下に、dielectric in trans として圧力計として使われる。労働者はメンテナンス操作のいくつかの行程において、あるいは補充の際に曝露をうける。

クロム、ニッケルとベリリウム(4, 7)はボイラーの灰の中にあり、労働者はハンマーとピックで取り除く際、曝露をうける。濃度は上記の産業保健学部とNationalBoad of Electricity 中央研究所で測定されている。クロムで痕跡程度から1.35重量%、ニッケルで0.18から13.22重量%、さらに1回のベリリウム測定結果は0.01重量%であった。対象 1960年1月1日現在、あるいは当研究期間を含む少なくとも6か月以上プラントで就労した、1969年12月31日までに雇用された270名全員の労働者、集団への追跡調査が十全になされ、198★年12月31日までの会社名簿と労働者の住む地域の人口調査データが検討された。26名の労働者が死亡となった。方法 死因は、死亡地の役所での死亡登録から確認し、情報が詳細不明の時はいつも近親者からの聞き取りと臨床記録の照合をしている。Varese Provinceの南端から5kmに位置するTurbigo市(労働者のほとんどが住んでいた)の1965年から1979年の間の死亡登録を入手し、1976年から1977年の間に対応するVarese Province(Lombardy CancerRegistry)のCancer Registerの両者の癌死亡率を検討した。Person-year法により、この集団の死亡推計は計算されている対象として2群が選ばれた。小数のTurbigo男性(1971年人口調査の3,225名)に対応して、Lombardy Cancer Registryの376,128名の男性住民に対して死亡推計がなされた。Varese Provinceにおける1976年から1977年の間の悪性新生物以外の死因は、National lastitute of Healthを参考にした。

これらは公式のItalian Institute of Statisticsの死亡データに基づいている。

結果

研究期間中に労働者のうち15名が癌死した。表1は、Lombardy Cancer Registryからのデータによる推定値と部位別死亡数を示す。全部位の癌による全標準死亡率(SMR)は、95%信頼限界(CL)で198、Poisson分布で111~326であった。

Turbigo市における死亡統計による癌死亡の推定値は7.98、標準死亡率(SMR)188であった。

いくつかの発癌物質(アスベスト、多環芳香族炭化水素)は、一般に労働環境にもまた存在した。多くのメンバーはしばしば他職にも就いていたので、曝露を評価できる適切な指標はその期間であった。集団の職歴を2群に分類した。一群は10年未満、他群は10年以上の曝露である。後者で最初の10年の雇用を除いたもので(9)person-yearsが計算された。過度の危険が最も曝露を受けたグループにのみ認められた。Lombardy Cancer Registry(95%CL143-482)のデータ比較で標準死亡率276であり、Turbigoデータとの比較で260であった。より少量曝露のグループの癌死亡率は、一般と同等で推計値3.35に対し、3名の死亡であった(Turbigoデータでは3.35)。曝露開始から癌死までの中央値は19年であった。

考察

結果から、この研究対象とした火力発電所での長期間(10年以上の)雇用者の中で、全ての部位の癌で2~3倍高い癌死亡率が認められた。部位特異性をみた数字(表1)からは、何れか特異な器官への集中は考えられなかった。いくつかの発癌物質(いくつかの既知のあるいは推定標的器官のある)が存在し、集団の数が少ないために、最も有意な影響示標となるのは全部位癌死亡率と思われた。

実数と推計値の差が生じるかどうか確認することは、対象集団の死因のベターな確証となるかは疑問となるかもしれない。われわれの検討では臨床記録の照合と近親者の聞き取りから一つのケースで“悪性新生物”の一つと修正分類した例は“死因特定なし”の例であった。

Lombardy Cancer Registryによる死亡データに加えて死亡診断書と臨床記録の照合によっている。われわれは、それゆえ、対象集団のフォローマップに用いた方法に対して認められた過大か別の死因である可能性を除外できる。

喫煙習慣の全集団への(考慮は)適当でない。プラント内の雇用者の習慣であったけれども。対象集団と1980年にVarese Province南部で実施された疫学研究(10)にみられる集団と比較検討した。年齢をマッチさせて比較したところ、プラントでの労働者は非喫煙者の割合が高く(推計値24%に対し34%)、ヘビースモーカー(一日20本以上)の割合が低かった(推計値38%に対し33%)。したがって、癌の多発をたばこ消費量の差によるとみることは不適当と思われた。

悪性新生物以外の死亡の比較検討がなされた。Varese Provinceの人口調査による死亡率を用いると、推計値32.54に対し、11名の死亡だった。この結果は、よく知られている“健康労働者効果”による比較に適した階層の欠除によるものかもしれない(11)。

表1にみられるように、差が10年曝露に至る前に特に著明である。それ以後は縮小している。このような強い影響は、集団の雇用時年齢(中央値28.5)が高いことで説明されるかもしれない。対象集団は特別健康な人が選ばれたようにみえるので曝露影響は真の値よりおそらく低く測定されている。なぜなら過度のリスクは被曝露集団との比較においてだけでなく、曝露集団と同様対象との比較からも。

われわれは、火力発電所の形態についていくつかの示唆が得られたものと結論する。これらの対策が、悪性新生物の疾病予防の条件であると思われた。

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