石綿曝露-四国電力アスベスト中皮腫労災死事件/鈴木意見書参考文献-④『悪性中皮腫と転移性癌の鑑別診断における胸膜生検標本での免疫組織科学の価値』

第2部 アスベスト疾患のひろがり
第2章 悪性中皮腫とはどんな病気か
Ⅱ 鈴木康之亮意見書添付資料 Ⅲ「参考文献」翻訳
1 悪性中皮腫の病理診断に関するもの

④『悪性中皮腫と転移性癌の鑑別診断における胸膜生検標本での免疫組織科学の価値』

A. Grove and S.M. Paulsen
アールボルグ病院病理研究所(アールボルグ・デンマーク)
M. Gregersen
アーフス大学法医学研究所(デンマーク)
Path. Res. Pract., 190, 1994, pp. 1044-1055

要約

今回の研究の目的は、胸膜生検標本で悪性胸膜中皮腫と転移性の胸膜癌の鑑別診断における免疫組織科学の価値を評価することであった。悪性胸膜中皮腫(上皮型と二相型)の系列(総数39例)と転移性胸膜癌の系列(総数25例)を、Ber-EP4とCEAとLeu-MI(CD-15)に対するモノクローナル抗体で検討した。抗体が1つ、2つ、3つの場合を考慮して、悪性胸膜中皮腫(総数39例)と腺癌(総数19例)で最も感度と特異度が高い免疫組織科学のタイプを検出するように、コンピューター分析を行った。CEAとCD-15を指標として複合させた場合が、腫瘍の両カテゴリーを考慮して、最も特異度(悪性胸膜中皮腫で100%、腺癌で82.1%)と感度(悪性胸膜中皮腫で82.1%、腺癌で100%)が高かった。CEAとCD-15双方か単独での陽性の結果は、転移性腺癌の最も良い指標であった。CEAとCD-15双方やBer-EP4とCD-15双方への陰性の結果は、悪性胸膜中皮腫に100%の特異度を示した。剖検において、他の原発部位がなく、肉眼所見で悪性胸膜中皮腫と予め診断されていた9例の腫瘍において、三者のモノクローナル抗体の1つや2つもしくは3つすべてが陽性の所見が示された。(訳者注;9例中の)総数7例で電顕による検討では、1例は明らかに悪性胸膜中皮腫であり、その他の6例でも悪性胸膜中皮腫の診断を覆す結果は得られなかった。この7例で腺癌と思われる微細構造は認められず、PAS/ジアスターゼへの抵抗性はなく、アミラーゼ他のサーファクタント(訳注;肺癌の一部で産成される)は認められなかった。Ber-EP4は、悪性胸膜中皮腫の中で、8例に陽性と最も高く検出された。悪性胸膜中皮腫に特異的な抗体が利用できるようになるまで、胸膜の悪性腫瘍の全例の診断を解決するためには、免疫組織化学の手法の限界が考慮されなければならない。

はじめに

胸膜の腫瘍の大多数は、解剖学的に様々な部位に原発する腺癌の転移か、肺癌からの胸膜への直接浸潤である。いまも稀であるが、悪性胸膜中皮腫の頻度が増加してきている。他の悪性腫瘍と比べしばしば複雑であるため、悪性胸膜中皮腫の診断は困難なことがある。悪性胸膜中皮腫—上皮型や二相型-の最も重要な鑑別診断は、転移性腺癌である。しかし、肺癌(大細胞癌)と低分化の扁平上皮癌の転移もまた鑑別診断に含まれる。

中性ムチンの指標として、ヒアルロン酸と陽性のPASジアスターゼ染色の証明が、以前は悪性胸膜中皮腫と腺癌の診断の特徴として強調されてきた。それ以降、この仮説の例外を証明したのは、わずかの研究しかない。さらに、多くの例で、これらの染色が陰性であっても、これらの悪性疾患の鑑別を行うことはできない。

中皮腫の系列に対して商業的に使用できる特異的な抗体がないことで—多くの癌が陽性に染色される抗体を持っている例外として—、悪性胸膜中皮腫は、多くの癌に特異的な抗体への陰性の反応による除外診断により診断されてきた。最もよく使用されてきた抗体は、CEA、CD-15、Ber-EP4、B72.3である。

一式(panel)の抗体を使用した免疫組織化学染色が、悪性胸膜中皮腫と腺癌の鑑別診断の重要な手助けとして使用されてきた。極めて稀な例外を除き、悪性胸膜中皮腫と癌の免疫組織化学での比較研究は、原発部位の癌の外科的切除標本でのみ実施されたが、多くの例では、悪性胸膜中皮腫と肺の腺癌とのみ免疫組織化学的な比較がなされてきた。

小さい生検標本の使用では、転移性の胸膜癌と悪性胸膜中皮腫の鑑別診断は、多くの場合困難である。われわれの研究の目的は、胸膜生検標本での免疫組織化学での診断の価値の可能性を評価することにある。

材料と方法

組織標本

1972年1月1日から1991年12月31日までに、われわれの病理研究所に記録されてきた、胸膜生検標本と手術標本と胸腔鏡下生検標本のすべての報告を検討した。悪性胸膜中皮腫の系列に含めた腫瘍は以下の基準を満たすものとした。

1)上皮成分を持つ
2)胸腔鏡及び胸腔切除術で得られた胸膜の生検標本を組織学的研究に使用する
3)死亡時期までの追跡調査
4)剖検で典型的な悪性胸膜中皮腫の顕微鏡所見を呈し、他の原発腫瘍の所見がな   いこと


転移性胸膜癌に含まれる基準は以下とする。

1)胸腔鏡及び胸腔切除術で得られた胸膜の生検標本を組織学的研究に使用する
2a)細胞学的診断か組織学的診断か手術標本で確認された既存の原発の悪性腫瘍
2b)死亡時まで追跡され剖検により組織学的に診断された原発腫瘍

表1に示したように、悪性胸膜中皮腫(上皮型や二相性)は39例からなる。転移性胸膜癌の系列は25例からなり、簡単に表1に要約した。転移性悪性黒色腫の1例はこの研究から除外した。

全例で、フォルマリン固定やパラフィン包埋組織ブロックを使用した。2つ以上のブロックが使用できるときは、腫瘍組織が大量に得られる2つを選んだ。厚さ5ミクロンの切片は、ヘマトキシリン-エオジン染色と、ジアスターゼの前処理のないPH2.7によるPAS/アルシアンブルー染色を行った。

免疫組織化学

5ミクロンの厚さのパラフィン切片は40度のestiplastで脱パラフィンし、100-70%と段階的に減少させたエタノールで再加水させた。内因性のペルオキシターゼ活性は、30分間、絶対エタノールに0.45%の過酸化水素を添加し、ブロックした最初の抗体のインキュベーション(孵卵)に先立ち、それぞれの切片は37度5分間のプロテーアーゼ(Sigma TypeⅩⅣ Pronase E,0.05%)とマイクロウエーブオーブンの前処理を行った(表2)。切片は表2にリストされている最初のモノクローナル抗体で一晩(16時間)インキュベートされた。すべての抗体は、0.25% Triton X100を添加した1%子牛アルブミンと0.1M pH7.4のPBS(燐酸緩衝生食)で希釈された。PBS(0.1MpH7.4、に0.25% Triton X100添加)によるリンス後、切片は30分間室温でbiotynylatedウサギ抗マウス抗体(DAKO、Glostrup、Denmark 1:400希釈)でインキュベートされる。PBSでの追加のリンスの後切片は、Streptavidin(DAKO、Glostrup、 Denmark 1:400希釈)とラベルしたペルオキシダーゼで室温でインキュベートされた。免疫ペルオキシダーゼ反応は、3-amino-9-ethylcarbazole(Sigma,St.Louis,Mo., USA)で発色させた。

切片は、Mayerのヘマトキシリンで反対染色され、Kaiserのグリセロゲラチンで固定された。

免疫染色の程度は、検査した全スライド中の陽性腫瘍細胞の比率を評価するスコア方法を使用して、半定量的にグレードを決定する。-なし;+<10%;++10-50%;+++>50%。染色結果の分析で+、++、+++とスコア化された腫瘍のすべてを陽性と計算した。

選択された9例では、PSPE 10 surfactant(DAKO;1:500希釈 クエン酸ナトリウム中で10分間マイクロウエーブオーブンの前処理)へのモノクローナル抗体と、1万倍希釈の抗ヒト唾液腺アミラーゼウサギポリクローナル抗体で、さらに分析を行った。アミラーゼへの免疫染色は、ジアスターゼで前処理した切片で実施された。

電子顕微鏡

 電子顕微鏡のために、小さい腫瘍組織は、2%グルタールアルデヒド0.1M PBS pH7.3中で固定され、オスミウムで後で固定し、標準方法により脱水し、Eponに包埋する。選択された超薄切片は、ウラニルアセテートとクエン酸鉛で染色され、JOELlooB-TR電子顕微鏡で検査される。

選択された7例の腫瘍では、細胞質内の中間径フィラメント量と微絨毛の長さ直径比に特に注意して、超微細構造が評価された。中間径フィラメントは、ない場合は0、少数の細胞内にある場合は1、多数の細胞内にある場合は2、多数の細胞内に見られ、少数の細胞では繊維束の凝集が認められた場合は3,多数の細胞内で繊維束の凝集が認められれば4、と分類した。長さ/直径の比率の平均は最も長い5本及び最も長い10本の微絨毛を測定することによって推定した。

結果

転移性悪性腫瘍は、腺癌19例、扁平上皮癌5例、胚細胞腫瘍(セミノーマか胎児性癌)1例であった。腺癌の原発部位は、肺12例、乳房4例、卵巣1例、胃1例、直腸1例である。染色の結果は、表3に要約した。両系統の腫瘍は、低分子サイトケラチン(LMWCK)で染色された。Ber-EP4、CEA、CD-15は、悪性胸膜中皮腫より転移性腫瘍でより多く染色された。腺癌以外でCEAに染色された転移性腫瘍の3例は扁平上皮癌で、陽性反応は角化された細胞に限定されていた。Ber-EP4は、3例の扁平上皮癌と胚細胞腫瘍(セミノーマか胎児性癌)1例で染色された。CD15は、低分化型の扁平上皮癌以外の全腫瘍で陽性であった。

転移性腺癌と悪性胸膜中皮腫の免疫表現型の感度と特異度は、Ber-EP4、CEA、CD-15単独や2種類や3種類それぞれの場合を考慮して、コンピューターで分析された。その結果は、表4や表5に要約している。現在までのいくつかの研究結果に基づくと、Ber-EP4、CEA、CD-15をマーカーとする陽性の反応は、それぞれ悪性胸膜中皮腫より腺癌に特異的とされており、後者がより陰性の反応であるとされている。最も免疫の分類が可能なマーカーやマーカーの組み合わせは、感度や特異度が共に高いものである。

剖検での肉眼的な腫瘍の形態によると悪性胸膜中皮腫と診断され、免疫表現型では癌とされた9例は、すべてサーファクタントやヒト唾液アミラーゼは陰性であった。この9例の微細構造と免疫組織化学を複合した分析結果を、表6に示す。

表6の最初(M/51)と2番目の(M/53)の患者の腫瘍の光顕と免疫組織化学と電子顕微鏡所見を、図1から7と図8から14に、それぞれ示した。

討論

悪性胸膜中皮腫の、手術時や剖検標本での特徴的な形態は、厚さ数cmに及び、胸膜表面に浸潤し隣接する肺の実質を様々な程度で浸潤し、圧迫している、びまん性の腫瘍である。

悪性胸膜中皮腫と転移性胸膜癌の鑑別診断における免疫組織科学の目的を評価するには、悪性胸膜中皮腫の診断基準が明確に定義されていることが極めて重要である。結果をかく乱する免疫表現系による誤まった概念を防ぐことが緊急の課題である。

今回の研究では、特徴的な肉眼での腫瘍形態をした剖検例を、悪性胸膜中皮腫として診断した。その他に、患者さんが、既往歴においてもしくは剖検において、その他の原発部位の証拠がないことが必要であった。

顕微鏡的には、腫瘍は上皮的か二相的な悪性胸膜中皮腫に合致する形態をとっていた。壊死や肺浸潤や巨細胞の出現頻度やリンパ管症の程度(鑑別診断に関連して強調される特徴)は、考慮しなかった。

免疫染色反応の解釈は、特にひとつの陽性細胞の存在を除外的にするのかで、困難なであろう。様々な研究でのある抗体の特異度の比較は、ひとつの細胞の染色結果を腫瘍全体が陽性と解釈するのか、一定のカットオフ値を用いるのかで、明確に左右される。

今回の研究では、Ber-EP4が腺癌に対する単一のマーカーとして最も感度が高かった(84.2%)。この結果は他の研究において、腺癌に対して86から100%の陽性所見を呈した報告と合致する。著明に低頻度の染色陽性率(37%)との報告もある。

39例の悪性胸膜中皮腫の内8例(20.1%)が、抗Ber-EP4陽性に染色された。この所見は、上皮型と二相型の悪性胸膜中皮腫に限定したGaffey et alによる32.7%の頻度と合致する。陽性の腫瘍細胞が1%以下の腫瘍を除外すると、悪性胸膜中皮腫の20.4%が陽性に染色された。Ber-EP4の表現が極めて低頻度であること(0-7%)が、他の多くの研究で明らかにされてきている。われわれの1例でも、腫瘍細胞の10%以下が染色された。3と4の腫瘍は、それぞれ++や+++にスコアされた。腫瘍の2つは、CEAとCD-15に陰性であった。ひとつの腫瘍は、CEAとCD-15の共に染色された。すべての腫瘍が、サーファクタントやアミラーゼに陰性であった。腺癌への特異度(79.5%)はむしろ低く、このマーカー(訳者注;Ber-EP4)は、悪性胸膜中皮腫と腺癌の鑑別に重要ではなかった。

Gaffeyらが結論しているように、Ber-EP4の部分的な(腫瘍細胞の1%から25%に対する)反応や、よりびまん的な反応は、彼らの1例やわれわれの7例で認められており、悪性胸膜中皮腫の診断を除外しない。

電子顕微鏡(6例)で、悪性胸膜中皮腫の診断を支持する、中等度から大量の中間径フィラメントが検出された。長さ/直径の比率(LDR(5))は4.0から10.5まであり、腺癌と悪性胸膜中皮腫の鑑別診断に有効ではなかった。Dardich et alが結論するように、悪性胸膜中皮腫は様々な微絨毛形態をとるため、今回の腫瘍において微絨毛の長さ直径比で悪性胸膜中皮腫としての診断を変更するには到らなかった。腺癌への分化を支持する、ムチンや分泌顆粒や層状封入体の所見は認められなかった。どの腫瘍もジアスターゼ抵抗性のPAS陽性顆粒を認めなかった。

CEAに対するモノクローナル抗体は、転移性腺癌の78.9%(19例中15例)と悪性胸膜中皮腫の7.7%(3例)に染色された。CEAは、腺癌に対して最も高い特異度(87.2%)を示したが、その感度(78.9%)は、CD-15やBer-EP4を使用して得られたものと同等かやや低い結果であった。CEAに陽性の免疫反応を示した悪性胸膜中皮腫の3例中2例は+++のスコアであり、3例目は++のスコアであった。3例全例がBer-EP4も陽性であり、1例はさらにCD-15に関しても陽性であった。電顕では(2例は)腫瘍に悪性胸膜中皮腫の診断を支持する中間径フィラメントが中等度から大量に含まれていた。微絨毛の長さ/直径の比率(LDR(5))は、6.3と10.3であった。電顕では腺癌への分化を示す所見は認められなかった。

CEAに対する抗体が悪性胸膜中皮腫と腺癌を鑑別診断する価値を持ちうるかに関して、現在までの報告では、意見が分かれている。CEAに対するポリクローナル抗体は通常、非特異的な交差反応抗原(NCA)にも反応し、これがいくつかの研究で悪性胸膜中皮腫の4から20%が染色される理由とされている。悪性中皮腫の例外的な例で、CEAのモノクローナル抗体で染色されるが、多くの研究では悪性中皮腫はCEAに対して一貫して陰性を呈している。

Leu-M1(CD-15)は、われわれの研究では、転移性腺癌の78.9%(19例中15例)に染色され、悪性胸膜中皮腫の12.8%(39例中5例)に染色された。CD-15が陽性である悪性胸膜中皮腫の頻度は、Brownらが示した6%と比べ著しく高くはなかったが、その他の研究では、悪性胸膜中皮腫ではCD-15が陰性であったものが多い。

われわれの研究の3例で、腫瘍細胞の10%以下がCD-15に染色された。しかし、3例の再評価では、反応物質は腫瘍細胞内に局在しており、腫瘍細胞の細胞質に含まれる貪食された骨髄球細胞によるものではないことが再確認された。通常の多型核白血球に豊富に反応する腫瘍もなかった。

CD-15が陽性の残りの2例の悪性胸膜中皮腫は、それぞれ++と+++にスコアされた。電顕では、2例とも腺癌の分化の兆候を全く呈さず、免疫組織学的にサーファクタントやアミラーゼの所見を認めなかった。1例(M/36)では、高い長さ/直径の比率が悪性胸膜中皮腫の診断を強力に支持した。

ひとつのマーカーの代わりに、モノクローナル抗体を使用することの重要性は、診断手段として免疫組織化学を用いる際に、広く強調すべきである。近年Brownらは、悪性胸膜中皮腫と肺腺癌の鑑別診断に、2から3のマーカーを複合して使用した感度と特異度を報告している。その研究では、CEAとB72.3の免疫表現型が共に陽性であることは、腺癌に対し極めて高い(100%の)特異度と感度(88%)を示している。共に陰性の染色結果は、悪性胸膜中皮腫に対し、極めて高い特異度(100%)と感度(88%)を示している。

われわれの研究で、CEAとCD-15が共に陽性の結果は、腺癌に対する2から3のマーカーの複合で高い特異度(97%)を示したが、感度は極めて低かった(57.9%)。CEAとCD-15が共に陰性の表現型は、悪性胸膜中皮腫に対して最も感度(82.1%)も特異度(100%)も高かった。腺癌に対する感度の高い陽性のマーカーとしては、CEAとCD-15共に陽性の場合とBer-EP4とCD-15共に陽性の場合は腺癌に100%の感度を持ち、CEAとCD-15共に陰性の場合とBer-EP4とCD-15共に陰性の場合は悪性胸膜中皮腫に100%の特異度を示した。しかし、CEAとCD-15の複合が悪性胸膜中皮腫にも転移性腺癌にも最も感度と特異度が高かった。われわれの研究では、CEAもしくはCD-15の場合かCEAとCD-15共に陽性の所見が、転移性腺癌の最も良い免疫組織化学の複合の指標であり、陰性の反応が悪性胸膜中皮腫の最も良い指標であった。

結論として、モノクローナル抗体の少数のパネルの使用で、免疫組織化学は日常での量の少ない胸膜生検標本の解釈に、重要な役割を果たしうると思われる。CEAとCD-15及びBer-EP4とCD-15共に陰性の染色は、悪性胸膜中皮腫に100%の特異度を示した。一方、3つのマーカーの1つや2つや3つすべてに陽性であるからと言って、悪性胸膜中皮腫を除外はできない。悪性胸膜中皮腫として診断されており、陽性の免疫表現型を呈した9例の腫瘍のすべてで、サーファクタントやアミラーゼや、腺癌の分化の微細構造が見られなかった。中間径フィラメントの量は悪性胸膜中皮腫の診断を支持し、微絨毛の長さ直径比は悪性胸膜中皮腫を除外せず、1例では悪性胸膜中皮腫の診断を強く支持した。9例の免疫表現型は多くの悪性胸膜中皮腫の免疫表現型とは異なったが、われわれはこの9例を偽悪性中皮腫型癌と診断するより、悪性胸膜中皮腫として診断することが妥当であると思う。偽悪性中皮腫型癌は肉眼的には悪性胸膜中皮腫と鑑別できないが、免疫組織科学的にはサーファクタントを産成する特徴を持ち、Ⅱ型肺胞細胞かクララ細胞の特徴を電顕で呈するからである。アミラーゼは様々な肺腺癌で見られ、同様に偽悪性中皮腫型癌として診断される腫瘍に見られる。悪性胸膜中皮腫でのアミラーゼの検討は過去に1報告しかないが、われわれの研究で悪性胸膜中皮腫にアミラーゼは見いだされなかった。

謝辞

この研究は、Nordjyllands Amts Forskningsrad と Aalborg Stifts Julelotteriの助成により、行われた。

キーワード

免疫組織化学、胸膜、悪性中皮腫、転移性癌

*以下の図が添付されている。

図1 腫瘍組織の乳頭状パターン。上皮は繊維血管索にそっている。ヘマトキシリン-エオジン、×13
図2 Ber-EP4に陽性で、腫瘍組織の基底側の細胞質に特に強く染まっている。LSAB、×320
図3 細胞質がCEAに陽性。LSAB、×320
図4 CD15に表面及び細胞質が強く陽性。LSAB、×320
図5 短くて鈍な微絨毛をもった腫瘍細胞の表面。×5,000
図6 細胞質に中間径フィラメントをもった腫瘍細胞。×15,000
図7 中間径フィラメントの束をもった腫瘍細胞。×20,000
図8 壁側胸膜上を増殖する充実性腫瘍組織の低倍率像。×25
図9 充実性の索をつくって増殖する腫瘍細胞。矢印に細胞室内腔を示す。ヘマトキシリン-エオジン、×320
図10 EP-4に膜が陽性。LSAB、×510
図11 CEAに細胞質が強陽性。LSAB、×320
図12 表面と細胞間隙に多くの微絨毛をもつ腫瘍細胞。×6,000
図13 長い微絨毛をもつ細胞室内腔。×6,000
図14 短い束をなした中間径フィラメントを細胞室内にもつ腫瘍細胞。×20,000

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