アスベスト国賠訴訟の解説:5地裁に16件のアスベスト(泉南型・工場型)国賠提訴 1月までに5件(被害者数26人)和解(2016年1月現在)/最高裁判決後の動き

片岡明彦(関西労働者安全センター/中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会)

目次

泉南アスベスト国賠訴訟の意義

2014年10月9日、泉南アスベスト国家賠償訴訟の第1陣、第2陣に対する最高裁判決が下され、国の責任の一部が認められた。判決内容詳細は本誌2014年12月号で報告したとおりで、「国の責任の一部が認められた」とは、 「国が工場内の局所排気装置設置義務づけを1958年5月26日~1971年4月28日の間行わなかった」という「規制権限不行使」が「国家賠償法の適用上、違法」ということ、また、国の責任は損害額の2分の1と認定されたに過ぎない。したがって、被害者原告が主張した「国の責任」のうち最高裁が認めたのは、まさに「その一部」ということである。

しかしながら、なかったことにされようとしていた泉南の石綿被害に対する国の責任を、最高裁に認めさせた意義はきわめて大きい。

重大で困難な裁判を戦い抜き最高裁判決を勝ち取った原告団、弁護団(大阪アスベスト弁護団)、泉南アスベスト市民の会をはじめとする支援団体の皆さんに最大限の敬意と感謝を捧げるとともに、大きな賛辞を送りたい。

日本全国の膨大な石綿被害がきわめて狡猾な方法で、「しかたなかったこと」「なかったこと」「労災がもらえているんだから」といった扱われ方をされようとしていた。この国と企業のやり口を、一部とはいえ、司法という場において打ち砕いたのであった。尼崎のクボタ旧神崎工場周辺被害が暴露された2005年6月の、いわゆる「クボタショック」後の10年間で最大の成果といっても過言ではない。裁判の過程では膨大な資料が発掘され、このことが今後の石綿被害の追及全般に大きな役割を果たしたことも特筆に値する。

石綿粉じんにばく露した時期や状況によって、国や企業の責任の認定が、司法上どのように判断されるのかは、膨大な石綿被害者の補償・救済の行方や制度改善のあり方に影響する。例えば、建設労働者の石綿被害にかかる国と石綿製品製造メーカーの責任を問う建設国賠訴訟では、国の責任の一部を認める地裁判決が出ているものの、いまだに、製造メーカーの責任は認めるられておらず、今後の動向が大いに注目されている。

石綿被害はばく露時期から長期間を経て発生する特殊性があるため、今後も当分の間、被害発生が減少する見通しはない。したがって、クボタショックから10年の間にようやく社会問題となったアスベスト被害、これをめぐる補償・救済、これにかかわる国・企業の責任は、今後も大きな焦点であることは間違いない。

裁判闘争の結果は成果であり、ひとつの限界、線引きという側面が発生することを覚悟しながら、肉を切らせて骨を断つ闘い方をしなければならないことがある。これが泉南アスベスト国賠訴訟だったと思う。今度は、その判決の地平を乗り越え、広げる運動を進めていきたい。その意味において、泉南アスベスト国賠訴訟の成果を吟味し、最大限活用していくことは重要である。

国は、最高裁判決後、同種事案に対する「和解解決方針」を示した。

該当する同種事案について、提訴の取り組みがさらに広がっていくことを期待し、厚生労働省・弁護団・報道資料などから筆者がまとめた、国賠訴訟提訴の状況を以下に報告する。

2016年1月までに、6地裁で16件が提訴され、5件が和解終結している。
提訴全体では、原告数84名、被害者数52名にとどまっており、石綿被害の労災認定件数や労災認定されていない石綿肺患者数と比べると、現在までの提訴件数はきわめて過少だといえる。

当全国労働安全衛生センター連絡会議でも、関係弁護団、労働組合などと連携をとりながら、石綿被害の政府の責任をより広範囲に社会的に明らかにしていくことが今後の石綿被害者運動にとってきわめて重要だとの観点から、国賠対象の可能性がある会員や相談者に呼びかけ、国賠提訴を積極的に支援している。

厚生労働省の和解方針

2015年3月、厚生労働省、はリーフレットを作成して、泉南アスベスト国賠訴訟と類似の事案への対処方針を明らかにしている。その内容は、以下のとおりである。

「石綿(アスベスト)工場の元労働者やその遺族の方々に対する和解手続による賠償金のお支払いについて

1 大阪泉南アスベスト訴訟について

大阪泉南アスベスト訴訟は、大阪府南部・泉南地域の石綿(アスベスト)工場の元労働者やその遺族の方々などが、石綿による健康被害を被ったのは、国が規制権限を適切に行使しなかったためであるとして、損害賠償を求めた事案です。
この訴訟については、平成26年10月9日の最高裁判決において、昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間、国が規制権限を行使して石綿工場に局所排気装置の設置を義務付けなかったことが、国家賠償法の適用上、違法であると判断されました。

2 今後のアスベスト訴訟における和解について

石綿(アスベスト)工場の元労働者やその遺族の方々が、国に対して訴訟を提起し、一定の要件を満たすことが確認された場合には、国は、訴訟の中で和解手続を進め、損害賠償金をお支払いします。

(1)和解の要件は、次のとおりです。

ア 昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと。
※労災保険や石綿健康被害救済法による給付を受けている方であっても、上記期間内に労働者として石綿粉じんにばく露する作業に従事した方は対象となります。

イ その結果、石綿による一定の健康被害を被ったこと。
※「石綿による一定の健康被害」とは、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚などをいいます。

ウ 提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること。
※期間内であるかどうかについては、法律の専門家である弁護士などにお聞きください。

(2)訴訟においては、前記(1)の要件を満たすことについて、日本年金機構発行の「被保険者記録照会回答票」、都道府県労働局長発行の「じん肺管理区分決定通知書」、労働基準監督署長発行の「労災保険給付支給決定通知書」、医師の発行する「診断書」などの証拠によって確認できることを条件として、和解手続を進めることになります。

3 和解によりお支払いする賠償金について

(1)和解により国がお支払いする賠償金の額は、疾患の種類や病状によって異なります。
(2)また、最高裁判決では、国による賠償義務は、賠償基準額の2分の1を限度とすると判断されました。
(3)このため、和解により国がお支払いする賠償金の額については、疾患の種類や病状に応じた賠償基準額の2分の1を限度として、算定を行います。」

対象「時期・作業」

いくつか注意すべきポイントについて、ふれておきたい。

「和解要件ア」は、対象ばく露時期を「昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間」とし、対象ばく露作業を「局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと」している。

したがって、従事していた作業が直接的な石綿製品の製造作業であった場合だけではなく、そうした作業を行っている工場内での作業(荷役での立ち入り、点検や修繕、打ち合わせなど)も該当する可能性があるので、就労実態が重要となる。

対象「疾病」

労災認定対象となっている、石綿肺(石綿によるじん肺)、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水とそれらの疾病を原因とする障害や死亡が、「和解要件イ」にいう「石綿による一定の健康被害」に該当する。たとえば、病苦によって自死に至った場合も該当する可能性がある。
石綿肺について注意が必要で、労災認定されていないケースが含まれる。
つまり、労災認定の対象は、「管理区分2、3イ、3ロ」であって、じん肺法上の法定合併症を発症している場合(肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気胸、続発性気管支拡張症。肺がんについては、石綿肺がんとして別分類で労災認定される)、及び、管理4の石綿肺に限定されている。
国賠対象疾病としては、これに、労災認定に至っていない石綿肺(管理2、3イ、3ロ)が含まれることになる。

「損害賠償請求権の対象期間」

死亡から20年を経過している場合は損害賠償請求権が消滅するという規定が民法724条が適用される。したがって、石綿被害で死亡してから20年を経過している場合は、厚生労働省は和解に応じないとみられる。最高裁判決でも死亡から20年を経過している原告については、損害賠償請求が棄却された。

5地裁で提訴、和解進む(2016年1月現在)

2016年1月までに、さいたま、東京、大阪、神戸、鹿児島の各地裁において、事件数で16件の訴訟が起こされ、5件で和解成立している。原告数84名、被害者数では52名。
筆者が把握できた限りの情報を、下の表にまとめた。
表中、「日本エタニット」の後継法人は「リゾート・ソリューション」、「三好石綿」は「三菱マテリアル建材」であることに留意されたい。
厚生労働省が毎年行っている労災認定事業場リストの公表では、2015年12月の公表で、公表のべ事業場数が1万を超えた。
このうち、国賠和解対象となる可能性のある事案は正確に推計することはできないが、膨大な数であることは明らかだろう。ここに労災認定されていない石綿肺患者を加えると、さらに増える。
石綿被害は未曾有の規模と言われる。
3月には石綿新法10年の節目を迎える今年となる。被害の実相・数字をいろんな手段で、これでもか、これでもかと社会的に明らかにしていく、記憶に刻みつけるたゆみない努力が求められている。
国賠提訴の運動はその一翼を担うものだ。

泉南型アスベスト国賠訴訟の提訴・和解状況(2016年1月現在)

報道記事による泉南型アスベスト国賠個別事例の紹介

以下に、報道記事からの抜粋によって、個別事例を紹介しておこう(提訴時と和解時双方ある場合には主に後者。すべての事例を網羅できていない)。詳細は記載してある担当弁護団まで。

万年スレート(大阪市西成区)・第一石綿工業(大阪市平野区)ー大阪地裁
●2015年6月18日毎日新聞(上の表の提訴順⑥)

国の対策不備が原因で石綿関連がんのため死亡したとして、大阪市内の石綿2工場の元労働者2人の遺族が19日、計約2,590万円の国家賠償請求訴訟を大阪地裁に起こす。
訴えによると、元労働者の1人は西成区千本南2の「万年スレート」(現在は廃業)で石綿を使った煙突製造にかかわり、肺がんで2007年に死亡した男性(当時89歳)。もう1人は平野区加美東4の「第一石綿工業」(現在は廃業)で石綿製の耐熱・気密材料を作り、中皮腫で2011年に死亡した男性(当時73歳)。
2人は、大阪・泉南地域の石綿訴訟で最高裁が国の責任を認めた時期(1958~71年)に働いていた。遺族らは、国が排気装置の設置を義務付けていれば2人は石綿粉じんを吸ってがんにならなかったとしており、石綿健康被害を巡る国の和解方針に合致していると主張している。
両工場の近くには別の石綿工場もあり、「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」は健康被害の掘り起こしを続けている。今回の弁護団は20日午前10時~午後4時、面接相談会と電話相談(06・6363・1053)を実施する。

担当弁護団:アスベスト訴訟弁護団

五稜石綿(稲田工場、東大阪市稲田上町)●2015年7月12日毎日新聞(提訴順③)

東大阪市内にあった石綿紡織工場の元従業員が、国の対策不備が原因で中皮腫のため死亡したとして、遺族が国家賠償を大阪地裁に求めた訴訟は3日、請求額,1430万円の全額を認める内容で和解が成立した。大阪・泉南地域の石綿被害集団訴訟で最高裁が昨年10月に国の責任を認定した後、国は、判決が示した条件に沿う被害者が提訴すれば和解する方針を示しており、泉南訴訟以外でこの方針による和解は初めて。
原告は、国の和解条件に合致すると主張し、今年3月の提訴から約3か月半でのスピード和解となった。
原告は、東大阪市稲田上町にあった「五稜石綿稲田工場」(廃業)の元従業員で大阪府警元警部、菊池武雄さん(享年69)の妻良子さん(67)。
訴えによると、武雄さんは1962年3月~63年6月、五稜石綿で石綿布を作っていた。府警に入り、定年退職後の2012年に中皮腫を発症して13年5月に死亡。同年11月に労災認定を受けた。
…原告側の位田浩弁護士は「基本的に労災認定された事実をもとにスムーズに和解できた。他の国賠訴訟の先例になる」と話している。

●提訴時2015年3月21日毎日新聞
良子さんは「夫の無念を思わない日はない」。そんな中、最高裁判決で国の規制権限不行使の責任を認めさせた泉南国倍訴訟を知らされた。良子さんは、夫の意思や古川和子さんらの助言を考え、訴訟を決意した。「正義感が強かった夫がいたら必ず声を上げていた」そう思うからだ。

担当弁護団: アスベスト訴訟弁護団

日本エタニット大宮工場(さいたま市)●2015年7月10日埼玉新聞(提訴順②)

国がマスク着用や排気装置設置などの規制を行わなかったため、石綿が原因で死亡したとして、さいたま市中央区にあった水道管工場で石綿加工に従事していた元労働者5人の遺族が国に1人当たり約1,560万円の損害賠償を求めた訴訟は9日、うち2人の和解がさいたま地裁(高野輝久裁判長)で成立した。国は1人当たり1,430万円を支払う。残り3人も8月に和解が成立する見込み。
昨年10月、国の責任を認めた大阪泉南石綿訴訟の最高裁判決を受け、厚生労働省は58年から71年に石綿工場で働いていた元労働者や遺族と和解に応じる方針を決定。原告も今年1月、さいたま地裁に提訴していた。最高裁判決後、和解が成立したのは全国で2例目で県内では初めてという。
訴状などによると、和解した2人は1954年から86年の間、旧「日本エタニットパイプ」の大宮工場で、石綿セメント管の製造に従事。2005~06年に肺がんや中皮腫で死亡した。原告は国の対策不備を主張。すでに企業側からは解決金を受け取っている。
原告代理人の牛島聡美弁護士は、日本エタニットパイプでの水道管事業は国策の下で進められていたとして、泉南基準以上の責任を国に求めていた。
今回、泉南基準での和解に踏み切った理由について「遺族が高齢化しているなか、早い段階での和解が必要と考えた。苦渋の決断だった」と明かした。
その上で「国は47年制定の旧労基法で措置を盛り込むことができた。期間を狭めるのではなく、規制してこなかった現実を認め、多くの被害者に対して誠実な対応をしてほしい」と訴えた。

泉南アスベスト集団訴訟第3陣和解●2015年7月30日毎日新聞(提訴順④)

国の対策不備で石綿の健康被害を受けたとして、大阪・泉南地域の紡織工場の元従業員や遺族ら19人が計約1億6,000万円の国家賠償を求めた訴訟は30日、15人について国が請求通り全額を支払うことで大阪地裁で和解した。残る4人も近く和解する見通しという。
今回は泉南アスベスト集団訴訟の第3陣に当たり、国の責任を認めた1、2陣訴訟の最高裁判決に基づく和解内容となった。
19人は今年3月に提訴した。原告の弁護団によると、和解額は15人で計約1億3,000万円(1人約350万~1,430万円)。
原告団の芝原明夫弁護士は記者会見で「提訴から約4か月での和解は評価できるが、被害者は高齢化している。和解手続きをより速くする努力を国に強く求めたい」と話した。
1、2陣訴訟では最高裁が昨年10月に国の責任を認めた。国は最高裁判決を受け、国の対策に不備があったとする1958~71年に石綿工場で勤務し、中皮腫などを発症した被害者や遺族が訴訟を起こせば同じ条件で和解する方針を示している。

●提訴時2015年3月25日(提訴順④)
昨年10月9日の最高裁判決後、泉南石綿国賠訴訟の原告・弁護団・泉南地域の石綿被害と市民の会では、最高裁判決が、国に損害賠償責任があるとした期間に石綿工場で働いた被害者などあらたな被害の相談を募ってきた。
そして3月24日、新たに掘り起こされた被害者について、第3陣として大阪地裁に提訴に至った。
弁護団などによると、被害者14名(生存者8名、死亡者6名)について、原告としては総勢(本人・遺族)19名という規模の提訴となった。被害者の石綿関連疾病別内訳は、中皮腫2名、肺がん5名、石綿肺7名。損害請求額は、総額で1億6,555万円。
第1、2陣訴訟の被害者数は計59名で、そのうち、最高裁が損害を認めた「昭和33年から昭和46年の国の責任期間」の労働者として52名の請求が認められた(7名の請求を棄却。3名は昭和47年以降の就労、2名は除斥期間、2名は環境曝露で認められず。)。
そして、第3陣の被害者14名が新たに提訴したということになった。九州や島根県などから集団で泉南地域の石綿工場に就職し、退職後、地元に戻って、石綿関連疾患を発症している方がいることがすでにわかっており、第3陣原告にもこうした方が含まれている。また、退職後、様々な理由で大阪を離れている者もいることが明かであることから、弁護団は「潜在している被害者全ての救済を実現するには広く全国に周知する必要性がある」と訴えている。

担当弁護団:大阪アスベスト弁護団

日本エタニットパイプ大宮工場●2015年8月1日埼玉新聞(提訴順⑧)

厚生労働省が石綿による健康被害をもたらされた労働者らを賠償する方針を打ち出したことを受け、県内の元労働者1人と遺族8人が31日、国を相手取り、計9,020万円の損害賠償を求める訴えをさいたま地裁に起こした。
原告は旧日本エタニットパイプ(現リゾートソリューション)大宮工場で1966年から68年までセメント管の製造に従事していた元従業員男性(67)と、曙ブレーキ工業羽生工場の元従業員6人の遺族8人。
訴状によると、原告側は、国が石綿の健康被害を少なくとも1958年に知りながら、排気装置の設置を法律で規制しなかったとして、1人当たり1,430万~605万円の支払いを求めている。
石綿の健康被害は昨年10月、大阪泉南石綿訴訟の最高裁判決を受け、厚労省が健康被害を受けた労働者や遺族に対し被害を賠償する方針を表明。県内では7月9日、旧日本エタニットパイプの元労働者遺族が国を相手に起こした同様の裁判で国との和解が成立している。
埼玉アスベスト弁護団が国を相手に提訴するのは初めて。同弁護団の団長南雲芳夫弁護士は「全国でアスベスト関連の労災が認められるのは、少なくとも年1千人で推移。まだまだ埋もれている被害者がいる。訴訟を機に、被害者の救済を目指していく」と語った。

日本エタニットパイプ大宮工場●2015年8月8日毎日新聞(提訴順②⑨)

さいたま市にあった「日本エタニットパイプ社」の水道管工場で勤務中に石綿を吸い込んだ健康被害で死亡したとして、元従業員5人の遺族が国に1人当たり約1,560万円の損害賠償を求めた訴訟は7日、うち3人の遺族との和解がさいたま地裁(高野輝久裁判長)で成立した。国は1人当たり1,430万円を支払う。残る2人の遺族と国は7月に和解している。
また、同工場の別の従業員4人の遺族も国を相手に計約7千万円を求める損害賠償訴訟を同日、さいたま地裁に起こした。訴状によると、4人はそれぞれ1954~85年、石綿が使われる現場で勤務。その後に中皮腫や肺がんなどを発病し、死亡した。

●週間新社会(提訴順②)
中皮腫で亡くなった星野さんの長男の勉さんは「死ぬ間際には背中が曲がってしまい、本人は苦しい思いをして亡くなったので、今日の結果には満足しています」さらに「和解対象になる被害者は全国1,000人以上といわれており、まだ氷山の一角、今回の和解が多くの被害者救済につながってほしい」と話している。

藤田鉄工所(大阪市西淀川区)●2015年8月19日毎日新聞(提訴順⑤)

大阪市西淀川区の鉄工所で石綿を使った水道管加工作業に従事し、中皮腫で死亡した元従業員男性の遺族が、国に715万円の損害賠償を求めた訴訟は大阪地裁で和解した。泉南地域の石綿被害集団訴訟で最高裁判決が示した基準に沿い、国が全額を支払う。今月6日付。
和解したのは、2008年に死亡した藤田良男さん(当時67歳)の妻良子さん(67)=兵庫県西宮市。訴状などによると、良男さんは1959~61年に水道管の加工作業に従事。2007年に中皮腫を発症した。

●提訴時2015年5月1日毎日新聞(提訴順⑤)
「息子残しさぞ無念」 男性の妻会見
「18歳だった息子を残して亡くなった。さぞ、無念だったろう」。石綿製品の加工に携わり、悪性胸膜中皮腫で死亡した藤田良男さん=当時(67)の妻良子さん(67)は30日、会見で国家賠償訴訟に踏み切った思いを語り、涙を浮かべた。
良男さんは1961年までの2年間、大阪市西淀川区の鉄工所で石綿製の水道管を加工していた。生前「白煙が立ちこめるかのように粉じんが舞い、1メートル先も見えなかった」と話していたという。
長年の潜伏期間を経て2007年、ゴルフのプレー中に突然倒れ、同年2月に中皮腫と診断された。闘病中は「痛い、痛い」と繰り返し訴え、亡くなった。
良子さんは「何とか元気になって家に帰ろうと頑張っていたが…。60代は若い。悔しいです」と言葉を詰まらせた。

担当弁護団:アスベスト訴訟弁護団

藤本石綿紡織(大阪府泉南市)●2015年9月15日毎日新聞(提訴順④)

国の対策不備で石綿の健康被害を受けたとして紡績工場の元従業員や遺族らが国に賠償を求めた集団訴訟で、7月末に和解した県内の原告や被害者団体「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」のメンバーがこのほど県庁で記者会見した。出稼ぎや集団就職で県外の工場で働き、がんなどを患う潜在被害者がなお存在するとみて「原告以外でも被害の心当たりがあれば連絡してほしい」と呼びかけた。
集団訴訟は、大阪・泉南地域の工場の元従業員らが提訴した。最高裁は昨年10月、排気装置設置の義務化の遅れを認定し、国の責任を初めて認めた。判決後の今年3月には元従業員や遺族ら19人が新たに大阪地裁に提訴し、ほぼ全員が7月末までに和解した。3月の訴訟には県内から参加した原告もおり、県内在住者の和解は初めてという。
被害相談などにあたってきた「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」南九州支部は、高度成長期に出稼ぎや集団就職で関西などの石綿工場で働き、帰郷してから発症する被害者が多いとみている。国は最高裁判決を受け、1958~71年に石綿工場で働いて健康被害が出た元従業員らが提訴すれば和解する方針を示しているが、被害の実態把握が進んでおらず、救済は十分に進んでいないという。
石綿訴訟に携わってきた谷智恵子弁護士は「被害者は泉南地域だけでなく、全国にいる」と話している。

◇「これは人災だ」 原告の八木さん

県庁での記者会見には3月の提訴に加わり、7月に和解した鹿児島市吉野町の八木千年さん(73)も出席した。
八木さんは旧大隅町(現曽於市)出身。中学卒業後、同級生らとともに泉南地域の石綿工場で約2年3カ月働き、石綿を袋から出す作業などに従事した。工場の窓は閉め切ったまま。「行けばお金になるからと行った。工場は粉じんで1メートル先も見えないくらいだった」という。
2009年6月ごろの健康診断でレントゲンに陰が見つかった。じん肺症状のレベルを示す管理区分は4段階のうち上から2番目の3。肺がんも患っており、抗がん剤治療を続けている。八木さんは「いろいろな人にお世話になったので一人でも被害者を探し出したい。これは人災だ」と訴えた。

担当弁護団:大阪アスベスト弁護団

山口鉄工所(兵庫県西宮市)・河原冷熱工業(神戸市)●2015年11月28日毎日新聞(提訴順⑬)

西宮市の工場で石綿土管の加工作業をし、2014年に中皮腫で死亡した男性元従業員(当時73歳)の遺族と、神戸市内の工場で石綿布団の製造作業に従事し、びまん性胸膜肥厚と診断された淡路市の女性(82)が27日、国の対策不備が原因として、国家賠償訴訟を神戸地裁に起こした。
大阪・泉南地域の石綿被害集団訴訟で最高裁が昨年10月に国の責任を認定した後、国は、判決が示した条件に沿う被害者が提訴すれば和解する方針。同日会見した弁護団は「2件とも条件を十分満たしている」と述べ、早期の和解を目指す考えを示した。
訴状によると、西宮市の「山口鉄工所」(廃業)の従業員だった山村悦三さんの遺族3人らが原告。山村さんは1960~66年に勤務し、クボタから請け負った石綿土管の加工などの作業で石綿を吸い込んだ。淡路市の女性は62~67年、神戸市の「河原冷熱工業」工場で働いていた。請求額は、計約2,700万円で、最高裁判決で示された基準で算出した。
会見には、山村さんの長男、謙吉さん(45)が出席。「父は生前、国が早期に対策をしていればこんなことにならなかったと話していた。国はしっかり責任を認め、広く補償をする用意があることを知らせてほしい」と語った。
最高裁判決以降、県内で和解条件に基づく提訴は今回が初めて。弁護団によると、県内の石綿作業での労災認定は、13年度までに少なくとも176人。弁護団は「和解条件を満たすと考えられる。ぜひ一度相談してほしい」と話している。

担当弁護団:アスベスト訴訟弁護団

カナエ石綿工業(大阪府茨木市)●2015年12月5日南日本新聞(提訴順⑭)

大阪府茨木市の石綿工場で働き、中皮腫で死亡した鹿児島kんないの男性の遺族4人が4日、国に1,430万円の損害賠償を求め、鹿児島地裁に提訴した。原告を代表して前村和広さん(47)=肝付町=が鹿児島市で会見し、「父は息苦しさで夜も眠れないほど苦しんだ。父と同じように出稼ぎで石綿工場に行った人がまだいるはずだ」と、埋もれている被害者の掘り起こしが必要と訴えた。
…国は同様のケースで元労働者や遺族が提訴すれば和解に応じる方針で、これまで49人が提訴。県内在住者では、泉南国賠訴訟に加わった元労働者が7月に和解成立した。
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会によると、国の救済方針を受けた提訴は、鹿児島地裁では初めて。
前村さんの父一己さんは1965~73年、農閑期の出稼ぎで石綿工場で働いた。2002年に悪性胸膜中皮腫と診断され、2007年に76歳で死亡した。前村さんは「国は石綿が害があると分かっていながら対策を取らなかった。父は害を知らず、地域の人に出稼ぎをすすめるまとめ役だった。亡くなった父に代わり、被害者を支援したい」と語った。

東洋機器興業(東京都墨田区)●2015年12月9日上毛新聞(提訴順⑮)

東京都墨田区の工場で働き、石綿肺を患った高崎市の田中信義さん(74)が8日、国に約1千万円の損害賠償を求める訴えを等級地裁に起こした。重症のために酸素吸入器を24時間使用している田中さんは「石綿が危険だと分かっていれば働いてなかった。国には責任をきちんと取ってほしい」とかすれ気味の声で求めた。
石綿製造工場の元労働者に対する国の賠償責任を認めた昨年10月の最高裁判決を受け、国が示した基準に該当するとして、和解を目指す。石綿被害者の支援団体「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」によると、同判決後、県内関係者が提訴するのは初めて。
訴状などによると、田中さんは1957~64年にボイラー設備工として勤務し、石綿製品も製造した。40巣年前に出身地の本件に戻って暮らしていたが、2004年に受けた健康診断をきっかけに石綿肺を患っていることが判明。症状が急激に悪化した12年に労災と認められた。今年7月ごろ、同会に電話で相談し、提訴を決めた。
48年間連れ添ってきた妻のみよ子さん(66)は「夫のみに何も起きないことを祈るばかりの日々を過ごしている」と悲痛な声を上げた。

安全センター情報2016年3月号