産業医制度の在り方に関する検討会報告書 2016(平成28)年12月 産業医制度の在り方に関する検討会

目次

厚生労働省の「産業医制度の在り方に関する検討会」が報告書をまとめた。報告書の概要と産業医制度の課題については、次を参照されたい。

「産業医制度の在り方に関する検討会報告書」受け省令改正へ-産業医制度の改善進むか?

以下、報告書全文。稿末に、報告書PDF、同参考資料PDF。

産業医制度の在り方に関する検討会報告書 2016(平成28)年12月

産業医制度の在り方に関する検討会

Ⅰ はじめに

平成27 年12 月から労働安全衛生法(以下「法」という。)に基づくストレスチェック制度が新たに導入され、ストレスチェック及び面接指導の実施等に関することが産業医の職務に追加されるなどの状況にある。

また、法が制定された当時と現在では、産業構造や、産業保健における主要な課題が変化してきており、事業場において求められる労働衛生管理の内容や産業医に求められる役割等が変化してきている。

こうした背景から、法における産業医の位置づけや役割、小規模事業場における労働衛生管理体制等について、産業現場のニーズを踏まえつつ、改めて検討することが必要である。

このため、産業医学の専門家、法律の専門家、産業医、労働衛生の専門家、産業保健に関わる各団体、経営者団体、労働者団体の参画を得て、「産業医制度の在り方に関する検討会」を開催し、下記のとおり検討を行い、その結果をとりまとめた。

(検討状況)
第1 回検討会:平成 27 年 19 月 15 日
第2 回検討会:平成 27 年 12 月 15 日
第3 回検討会:平成 28 年 13 月 17 日
第4 回検討会:平成 28 年 15 月 20 日
第5 回検討会:平成 28 年 17 月 14 日
第6 回検討会:平成 28 年 19 月 15 日
第7 回検討会:平成 28 年 10 月 16 日

Ⅱ 検討結果

1 求められる労働衛生管理

(1)求められる労働衛生管理

ア 各業種共通の労働衛生管理

1)労働者の高齢化等が進展している中、定期健康診断の有所見率は、年々増加し、近年は5割を超えるに至っている。
また、近年過労死対策やメンタルヘルス対策が社会的にも重要な課題となっている。(脳・心臓疾患に係る労災認定件数251件(平成27年度)、精神障害に係る労災認定件数472件(平成27年度)等)
さらに、疾病や障害のある労働者等、多様化する労働者の健康確保も重要な課題となっている。(仕事を持ちながらがんで通院する者32.5万人(平成22年国民生活基礎調査に基づく推計)、雇用障害者45万人(平成27年障害者雇用状況報告)等)

2)このような状況の中、労働者が、就労することにより疾病にり患し、又は疾病が増悪することを防止するなど、労働者の健康を確保することは事業者の責務であり、また、労働者自らも健康の保持増進に努めることが必要である。

3)具体的には、事業者は、業種を問わず、健康診断等に基づく就業上の措置、過重労働による健康障害防止対策、メンタルヘルス対策、治療と職業生活の両立支援対策等の多様化する労働者の健康確保対策や積極的な健康保持増進対策などを的確に行うこととともに、労働者は、事業者が実施する健康診断の受診や健康診断の結果等を利用した健康の保持増進に努めることなどが必要であり、このための健康管理をはじめとした労働衛生管理が求められている。

4)また、法第3条第1項において、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」と規定されているなど、法令により事業者等の義務とされた対策に関する労働衛生管理のみならず、法令による努力義務や通達に基づく対策等に関する自主的な労働衛生管理の実施も重要である。

イ 事業場の特徴に応じた労働衛生管理

1)腰痛、熱中症、化学物質による疾病等の業務上疾病者は、年間約8千人を数えている。

2)事業場においては、これらの業務上疾病の防止等のため、化学物質を取り扱う作業や暑熱環境下での作業等の有害業務(特定化学物質障害予防規則等の規制の対象となる業務、労働安全衛生規則(以下「安衛則」という。)第13条第1項第2号に規定する業務等)の状況に応じて、作業環境測定の結果に基き行う作業環境改善等の作業環境管理、作業方法及び作業時間の改善等の作業管理並びに健康診断の結果等に基き行う健康管理が必要である。
ただし、有害業務が少ない事業場においては、作業環境管理や作業管理に関する産業保健活動の必要性は比較的小さい。

(2)効果的な運用のための管理体制

1)事業場において、作業環境管理、作業管理及び健康管理を効果的に運用するためには、必要に応じて外部機関等も活用しながら、連絡・調整機能を有する、産業医等から成る産業保健のチームによる体制・対応が重要である。

2)また、産業保健のチームには、計画・実行・評価・改善を行うPDCAサイクルによって業務を行うなど、行われた各管理の効果を検証する仕組みが必要である。

2 産業医及び産業医以外の産業保健スタッフに期待される役割

(1)産業医に期待される役割

1)産業医の職務は、安衛則第14条第1項において、

  • 健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康保持のための措置に関すること
  • 長時間労働者に対する面接指導及びその結果に基づく労働者の健康保持のための措置に関すること
  • ストレスチェックの実施、高ストレス者への面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康保持のための措置に関すること
  • 作業環境の維持管理に関すること
  • 作業管理に関すること
  • 上記以外の労働者の健康管理に関すること
  • 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進のための措置に関すること
  • 衛生教育に関すること
  • 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止に関すること

であって、医学に関する専門的知識を必要とするものとしている。産業医の職務は、事業者に対して法令により実施が義務付けられている労働衛生対策のみならず、自主的に事業者が実施する労働衛生対策に関することや健康障害の原因の調査等必ずしも恒常的に実施するとは限らない労働衛生対策に関することもその職務としている。

※ 安衛則第14条第1項に関する通達(昭和63年9月16日基発第602号)において、⑥の「上記以外の労働者の健康管理に関すること」には、健康管理計画の企画・立案に参画すること、化学物質等の有害性の調査及びその結果に基づく措置に関することのほか、疾病管理及び救急措置に関すること等があるとしている。

2)また、産業医の役割において、事業者が実施する労働衛生対策のうち、過重労働による健康障害対策、メンタルヘルス対策、治療と職業生活の両立支援対策等の多様化する労働者の健康確保対策、積極的な健康保持増進対策等については、事業場における有害業務の有無等にかかわらず、職場の状況を把握した産業医が積極的に関与することが期待されている。

3)さらに、健康診断や長時間労働者・高ストレス者への面接指導等の結果を踏まえた、就業上の措置に関する医学的な判断は、医師のみが行える業務であり、専属産業医、嘱託産業医ともに、職場の状況を把握した産業医が行うことが期待されている。

4)産業医が関与することが期待されているこれらの対策のうち、治療と職業生活の両立支援対策は、治療技術の進歩等により、仕事を持ちながら通院しているがん患者が32.5万人に上る等の中、適正配置に関する法第62条の規定、健康診断の結果に基づく就業上の措置に関する法第66条の5の規定、病者の就業禁止に関する法第68条規定及びその関係通達※等を踏まえて、「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」(平成28年2月23日付け基発0223第5号)が作成されたところである。
事業場においては、これらを踏まえて、少なくとも、疾病のある労働者を就労させることにより当該疾病を増悪させないよう、主治医が作成した病状や就業継続の可否等に関する書面等が提出された場合には、産業医が主治医等と連携して就業上の措置等に関する意見を述べ、当該意見等を勘案して、事業者は、必要に応じて、適切な就業上の措置等を行うことが必要である。
そのために、治療と職業生活の両立支援対策に関することを、事業者が実施する自主的な労働衛生対策に関する産業医の職務の一つとして一層明確に位置付け、これらに基づき、治療と職業生活の両立支援対策に関する産業医への研修及び産業医を養成するための研修の充実などを図り、本対策に関する産業医の適切な関与を促進すべきである。

※ 法第68条の運用については、通達(昭和47年9月18日基発第601号の1)において、まず、その労働者の疾病の種類、程度、これについての産業医等の意見等を勘案して、できるだけ配置転換、作業時間の短縮その他必要な措置を講ずることにより就業の機会を失わせないよう指導することとし、やむを得ない場合に限り禁止をする趣旨であり、種々の条件を十分に考慮して慎重に判断すべきものであるとしている。

5)また、化学物質を取り扱う作業や暑熱環境下での作業等の有害業務に関して、産業医は、健康診断の結果等に基づく健康管理とともに、作業環境管理や作業管理等に関する業務についても、作業環境測定士等の有資格者と連携した上で、「医学に関する専門的知識」に基づく判断等を中心に実施、関与することが必要である。
その際の有資格者との連携については、衛生工学に関する事項を管理する衛生工学衛生管理者、作業環境測定士、労働衛生コンサルタント等の有資格者が行った作業環境管理や作業管理等に関する活動内容の報告を受け、労働者の健康に及ぼす影響等の観点から指導等を行うことが必要である。

6)さらに、産業医は、労働者の健康確保のため、必要があると認めるときは、事業者に対し、法第13条第3項に基づく勧告を的確に行うことが必要である。

(2)産業医に必要な情報取得のあり方

1)産業医は、毎月1回以上の頻度で職場巡視を行い、作業方法などを把握して、労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じることが求められている。

2)産業医による職場巡視は、作業環境、作業方法等の問題点を把握するのみならず、健康診断の結果等に基づく就業上の措置のフォローアップ、産業医と事業者及び労働者との良好な関係の構築、就業上の措置に関する意見を適切に述べる等のために有益である。

3)しかし、近年は、事業場における労働者の健康確保対策として、過重労働による健康障害の防止、メンタルヘルス対策等も重要となっており、また、嘱託産業医を中心により効率的かつ効果的な職務の実施が求められている中、これらの対策に関して必要な措置を講じるための情報収集の手段として、職場巡視とそれ以外の手段を組み合わせることも有効と考えられる。

4)このため、事業者から産業医に対して、定期的(月1回以上)に以下の情報が提供される場合においては、産業医の職場巡視の頻度を、事業者の同意を条件として、「毎月1回以上」から「2月以内ごとに1回以上」へ変更を可能とすることが適当である。

ア)過重労働対策などにとって有用な、安衛則第52条の2に基づき、事業者が月1回以上把握する長時間労働者に対する面接指導の基準(労働時間の部分)に該当する労働者及びその労働時間数

イ)作業環境、作業方法等の問題点の把握等にとって有用な、週1回以上の衛生管理者の職場巡視の結果

ウ)上記ア)及びイ)のほか、産業医に提供すべき情報として、各事業場の状況に応じて衛生委員会等において調査審議の上、定める事項
※ 例えば、事業場の実情に応じて、①法第66条の9の努力義務規定に基づく長時間労働者に対する面接指導の基準に該当する労働者及びその労働時間数(面接指導の基準に該当する者は安衛則第52条の8第2項及び通達により、衛生委員会等における調査審議により定める基準に該当する者等としている。)、②新たな対策の必要性等を判断するための、新規に使用される予定の化学物質、設備名及びこれらに係る作業条件・業務内容、③労働者の休業状況等の情報について、衛生委員会等において調査審議した上で、情報提供する事項とすることが考えられる。

なお、事業者の同意は、産業医の意見に基づいて衛生委員会等において調査審議を行った結果を踏まえて行うよう、国等が指導することが適当である。

5)事業者から産業医への情報提供に関して、産業医の職場巡視の頻度を変更しない事業者についても、上記ア)の安衛則第52条の2に基づき月1回以上事業者が把握する長時間労働者に対する面接指導の基準に該当する労働者及びその労働時間数の情報については、過重労働対策等にとって有用であることから事業者から産業医に対して定期的(月1回以上)に提供することを義務付けることが必要である。また、上記イ)及びウ)についても定期的に提供するよう、国等が指導することが適当である。
なお、産業医は、事業場における労働衛生管理上の課題によっては、必要に応じて、上記ア)、イ)及びウ)以外の情報についても、事業者から提供を受けるなどにより把握し、課題等に対応することが必要である。

(3)産業保健のチームでの対応

産業医の職務として示された事項を含め、事業場において求められる労働衛生管理を効果的に運用するためには、産業保健のチームにより対応することが重要であり、その際の産業医及び産業医以外の産業保健スタッフに期待される役割は以下のとおりである。

ア 産業医のチームにおける役割

1)産業保健のチームにおける専属産業医又は比較的多くの活動時間を確保できている嘱託産業医等の産業医は、チームにおいて、産業保健に関する業務を、計画・実行・評価・改善するPDCAサイクルによって実施する際のチームリーダーであることが必要である。
その際には、専属産業医等の産業医は事業場の実情に応じて以下の事項を行うことが期待される。

ア)産業保健のチームリーダーとして、また、労働衛生管理について調査審議等を行う衛生委員会等の委員として、産業保健に関する業務の具体的な内容、実施時期、実施方法(外部機関の活用を含む。)等を計画するとともに、実施状況や課題を把握及び評価し、その後の業務内容等に反映させること
また、事業場内の関係部署への働きかけや連絡・調整等を実施し、又はこれに関与すること

イ)健康管理に関する業務について、必要に応じて看護職等と連携し、健康診断及び長時間労働・高ストレス者に対する面接指導の結果に基づく就業上の措置又は保健指導等を実施し、又はこれに関与すること

ウ)作業環境管理、作業管理に関する業務について、専門の有資格者等と連携した上で、「医学に関する専門的知識」に基づく判断業務等を中心に実施し、又はこれに関与すること(具体的には、衛生工学衛生管理者、作業環境測定士、作業主任者等の他の産業保健スタッフ等が行った作業環境管理、作業管理に関する業務の報告を受け、労働者の健康に及ぼす影響などの観点から指導等を行うなど)

エ)衛生教育、健康教育、健康相談及び労働者の健康障害の原因の調査・再発防止に関する業務については、産業医が実施し、又はこれに関与するのみならず、衛生管理者等を含むチーム全体で対応すること

オ) 産業医自ら職場巡視を行うとともに、衛生管理者が高頻度で行う職場巡視の結果の報告を受け、労働者の健康に及ぼす影響などの観点から指導等を行うこと

2)事業場規模が比較的小さい事業場においては、必ずしも、事業場内に産業保健スタッフが常駐していないことから、作業環境管理、作業管理及び健康管理を効果的に運用するため、外部機関や労働衛生コンサルタント等を積極的に活用するとともに、嘱託産業医で時間的な制約がある場合の産業医の役割については、衛生管理者等が連絡調整等を行うコーディネーターとなり、産業医は以下の業務を中心として担うことが必要である。

ア)健康診断及び長時間労働・高ストレス者に対する面接指導の結果に基づく就業上の措置について意見を述べること等の医師のみが関与できる業務

イ)衛生工学衛生管理者、作業環境測定士、作業主任者等が行った作業環境管理又は作業管理に関する業務の報告を受け労働者の健康に及ぼす影響等の観点から指導等を行う業務

ウ)産業医自ら職場巡視を行うとともに、衛生管理者がより高頻度で行う職場巡視の結果の報告を受け、労働者の健康に及ぼす影響等の観点から指導等を行う業務

また、状況に応じて、健康診断の事後措置において、医師又は保健師が努力義務の措置として実施することが求められている保健指導や健康相談等を加えたものとすることが必要である。

イ 産業医以外の産業保健のスタッフのチームにおける役割
(ア)看護職

1)保健師及び産業保健に知見のある看護師は、産業医とともに必要に応じて主治医と連携するなど、積極的に保健指導や健康相談等の産業保健に関する業務を行うことが期待されている。

2)特に保健師は、引き続き、衛生管理者として活用されることも期待され、産業医が実施することと法令に規定する業務の中で、本来医師が行うべき業務以外において、一次予防に関する業務も積極的に行うことが期待されている。

(イ)技術専門職

作業環境管理や作業管理等においては、衛生工学衛生管理者、作業環境測定士、労働衛生コンサルタント等の専門家が積極的に業務を行うことが期待されている。

ウ 具体的なチーム体制等

健康診断等に基づく就業上の措置、過重労働対策、メンタルヘルス対策、治療と職業生活との両立支援対策等の多様化する労働者の健康確保対策や積極的な健康保持増進対策、有害業務に関する健康障害防止対策等の産業保健活動については、事業場の実情に応じて、産業保健のチームで行うことが重要であるが、その際の具体的な産業保健のチーム体制、チームの事業場内外の構成員の役割分担、適切な外部機関(健康診断機関や作業環境測定機関等)の活用、主治医や労働衛生コンサルタント、外部機関等との連携方法等について、事例収集等を行い、専属産業医の選任が必要な大規模事業場や嘱託産業医の選任が必要な小規模事業場の別、有害業務の有無等のケースごとに、好事例や取り組み方法等を示すことが必要である。

なお、具体的なチームの構成員としては、産業医、歯科医師、看護職、衛生管理者、衛生工学衛生管理者、作業環境測定士、作業主任者、心理職、事務職員等が考えられる。

3 小規模事業場における労働衛生管理の促進について

1)小規模事業場における労働衛生管理については、

ア)産業医、衛生管理者、安全衛生委員会等の選任率・設置率については、労働者数50~99人の事業場では、それぞれ、81%、80%、74%(平成22年労働安全衛生基本調査)であり、これらの選任・設置の徹底が必要であること。

イ)定期健康診断の実施率については、実施している事業場の割合が労働者数10~ 29人の事業場では89%(平成24年労働者健康状況調査)にとどまるなど、その徹底が必要であること。

ウ)ストレスチェックの実施については、労働者数50人未満の事業場では努力義務であり、その自主的な取組の促進を図ることが必要であること。

エ)努力義務である保健指導については、実施している事業場の割合が労働者数10~49人の事業場では65%にとどまるなど、その促進を図ることが必要であること。(本値は、定期健康診断の結果、所見があるとされた労働者がいる事業場のうち、再検査・精密検査の指示等の保健指導を行った事業場の割合であり、労働者数5,000人以上の事業場では91%であるのに対して、労働者数10~49人の事業場では65%である。(平成24年労働者健康状況調査))

などの状況にあり、引き続き労働衛生管理の徹底が必要である。

2)定期健康診断の有所見率が50%を超え、異常所見者の就業上の措置に関する医師等からの意見聴取が、事業場の規模にかかわらず義務とされており、また、当該就業上の措置に関する業務は産業医に期待される重要な職務である。
しかし、産業医の選任義務のない労働者数50人未満の小規模事業場を中心に、異常所見者の就業上の措置に関する業務の実施が低調である。(定期健康診断の結果、所見があるとされた労働者がいる事業場のうち、健康管理等について医師又は歯科医師から意見を聴取した事業場の割合は、労働者数10~49人の事業場では22%、労働者数50~99人の事業場では40%(平成24年労働者健康状況調査)等の状況。)
このため、優先的に行うべき課題として、当該業務の充実や実施の徹底を図るとともに、健康診断と同様に事業場規模に関わりなく義務付けられている長時間労働者に対する面接指導の業務の充実や実施の徹底を図り、小規模事業場における産業保健サービスの改善を図るべきである。
これらの義務とされた措置を確実かつ効果的に実施するためには、健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(平成27年11月30日付け健康診断結果措置指針公示第8号)等で示している

ア)事業者が、意見聴取を行う医師又は歯科医師に対して、異常所見であった労働者の業務の状況(労働者に係る作業環境、労働時間、作業態様等)等の情報を提供すること

イ)意見聴取を行う医師又は歯科医師は、産業医学に関する知見を有する者とすること。また、国等はこれらの医師又は歯科医師に対して最新の知見等の提供、支援を行うこと

などが必要であり、上記ア)の情報については、意見を述べる医師等は、既に産業保健活動等により入手している場合があるなどの状況にあるが、当該情報提供の着実な実施を図るため、事業者は、当該医師等が意見を述べるために必要と認める労働者の業務に関する情報について、当該医師等から提供を求められたときは、当該情報を提供することを義務付けることが必要である※。

※ 本項については、50人未満の小規模事業場のみに限定するものではない。

3)労働者数50人未満の小規模事業場において、健康診断の異常所見者に係る医師からの意見聴取や長時間労働者に対する面接指導等の充実・徹底を図るためには、労働基準監督署等による事業場への指導の充実・徹底とともに、異常所見者に対して意見を述べるなどの業務に関して知見を有する産業医有資格者、健康診断実施機関、地域の医療機関等を積極的に活用することが必要であり、併せて、保健師等による保健指導等の実施を促進することも必要である。
上記の異常所見者への対応等の業務を行う医師の支援のため、また、労働者数50人未満の事業場における労働者の健康相談、保健指導又は努力義務となっているストレスチェックの実施等の産業保健サービスの充実のため、(独)労働者健康安全機構、産業保健総合支援センターや地域産業保健センター(地域窓口)等による支援サービスの充実を図るとともに、小規模事業場に対する助成金制度の活用・充実を図ることが必要である。
加えて、小規模事業場における産業保健活動の促進のため、好事例の公表等も必要である。

4)労働者数50人未満の事業場においては、上記2)の取組みを優先的に行うとともに、法第13条の2に基づき、労働者数50人未満の事業場において選任することが努力義務とされている「労働者の健康管理等を担当する医師」についても、当該医師が義務とされている異常所見者への対応等の上記2)の業務を行うことにより、質の高い着実な実施が図られることから、小規模事業場に対する助成金制度等の指導援助の充実により、その促進を図るべきである。(「労働者の健康管理等を担当する医師」の選任率は労働者数30~49人の事業場では42%、労働者数10~29人の事業場では30%である。(平成23年労働災害防止対策等重点調査報告))

5)分散型の小規模事業場における産業医選任については、通達(昭和47年9月18日付け基発第91号)において、「出張所、支所等で、規模が著しく小さく、組織的関連、事務能力等を勘案して一の事業場という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一の事業場として取り扱うものとする。」とされており、本通達の周知・徹底なども必要である。

6)事業場の規模等に応じて、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医及び衛生管理者の選任及び衛生委員会の設置が義務付けられており、また、常時50人未満の労働者を使用する事業場では、労働者からの意見聴取の機会の設定や健康管理等を担当する医師の選任が努力義務とされており、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場では安全衛生推進者等の選任が義務付けられているが、これらの実態や課題等について、詳細な実態調査や調査研究等を行い、当該結果を踏まえて、必要に応じて、産業医、衛生管理者、衛生委員会等の設置基準等を検討すべきである。

4 その他産業保健の機能向上等に関すること

(1)産業医やその他の産業保健スタッフ等の資質向上のあり方

1)産業医や異常所見者及び長時間労働者の就業上の措置に関して意見を述べる医師等について、資質向上の場が十分でないこと等から、当該医師等の業務の充実を図るため、産業保健総合支援センター等の活用促進を図ることにより、継続して最新の労働衛生に関する最新情報の提供や系統的な専門的研修の実施等の支援を行うことが必要である。

2)また、上記の産業医等以外の産業保健スタッフに対しても、産業保健総合支援センター等の活用促進を図ることにより、継続して最新の労働衛生に関する最新情報の提供や知識の獲得への支援等を行うことが必要である。
さらに、治療と職業生活の両立支援対策において、労働者の病状や事業場において配慮することが望ましい事項等について意見を述べる主治医に対する研修等の充実が必要である。

(2)産業医と事業者の関係

1)産業医は、法に基づき、労働者の健康確保のため、事業者に対して勧告することができるが、法人の代表者等が産業医を兼務した場合、労働者の健康管理と事業経営上の利益が一致しない場合も想定され産業医としての職務が適切に遂行されないおそれがある。このため、これを禁止する改正省令が平成28年3月31日に公布され、平成29年4月1日に施行されることから、当面は本改正省令を円滑に施行していくことが必要である。

2)また、引き続き、産業医と事業者との関係について状況の把握に努めることが必要である。

(3)産業保健サービスを提供する外部機関の質の確保

1)産業保健サービスを提供する外部機関の質の確保のため、外部機関に関する実態調査を行い、課題等を検討すべきである。

2)また、外部機関における専門家等の人的リソース等が明確でない場合もあることから、外部機関の活用の促進のためには、これらをインターネット上で検索できる仕組み等が必要である。

(4)遠隔による労働衛生管理活動のあり方

情報通信機器を用いた衛生委員会の遠隔による開催等、衛生委員会が有効に機能するための条件等や産業医等が対応しにくい山間部等の事業場における情報通信機器を用いた遠隔による活動方法等について、活用可能な機器等の要件、活用方法、留意事項等も含めて、検討が必要である。

(5)その他

1)産業医及び保健師と事業場の需給のマッチングを図る仕組みの整備・普及が必要である。

2)また、より適切な産業医の職務の実施等のため、産業医の労働者1人当たりの業務時間について調査や検討等を行うことが必要である。

Ⅲ おわりに

検討会では、ストレスチェック等に関することが産業医の職務に追加されるとともに、産業構造のみならず、産業保健における主要な課題や、それに対応する産業医に求められる役割などが変化してきた現状を踏まえ、産業医の位置づけや役割などについて、有識者の参画を得て検討した。本報告書は、検討会における意見や議論について、引き続き検討が必要なものや、具体的に措置すべきものについて、取りまとめたものである。今後、厚生労働省において、本報告書で指摘した課題について、適切に検討・措置されることを期待する。

産業医制度の在り方に関する検討会要綱

1 趣旨・目的

平成27年12月からストレスチェック制度が新たに導入され、ストレスチェック及び面接指導等に関することが産業医の職務に追加されたことに伴い、産業医が担うべき職務が増大していることに加え、労働安全衛生法が制定された当時と現在では、産業構造や、産業保健における主要な課題が変わっており、産業医に求められる役割が変化してきている。

こうした背景から、労働安全衛生法における産業医の位置づけや役割について、改めて見直す必要性が出てきている。

このため、産業医学の専門家、法律の専門家、産業医、労働衛生の専門家、産業保健に関わる各団体、経営者団体、労働者団体の参画を得て、産業現場のニーズを踏まえつつ、産業医制度の在り方及び具体的な見直しの方針について、必要に応じて法令の改正も念頭に置いた検討を行うこととする。

2 検討事項

(1)産業医の職務の範囲
(2)保健師等の医師以外の産業保健スタッフの役割
(3)小規模事業場における労働衛生管理体制の強化
(4)事業者と産業医の関係
(5)その他

3 構成等

(1)本検討会は、厚生労働省労働基準局長が別紙の専門家の参集を求めて開催する。
(2)本検討会には座長を置き、座長は検討会の議事を整理する。
(3)本検討会には必要に応じ、別紙参集者以外の有識者の参集を依頼できるものとする。
(4)本検討会は、必要に応じ、関係者からヒアリングを行うことができるものとする。

4 その他

(1)本検討会は、原則として公開するものとする。ただし、個人情報、個別企業等に係る事案を取り扱うときは非公開とする。
(2)本検討会の事務は、厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課産業保健支援室において行う。

産業医制度の在り方に関する検討会参集者名簿

◎相澤 好治 北里大学名誉教授
 明石 祐二 日本経済団体連合会労働法制本部統括主幹
 天木 聡 天木診療所院長
 井伊久美子 日本看護協会専務理事
 石田 修 石田労働安全衛生コンサルタント事務所所長
 圓藤 吟史 日本産業衛生学会理事長
 大神あゆみ 日本産業保健師会会長
 川上 憲人 東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野教授
 甲田 茂樹 労働安全衛生総合研究所所長代理
 小林 治彦 日本商工会議所産業政策第二部長
 小松﨑雄一 日本基幹産業労働組合連合会中央執行委員
 清宮 昭夫 日本労働安全衛生コンサルタント会顧問
 髙松 和夫 日本労働組合総連合会雇用対策局長
 竹田 透 労働衛生コンサルタント事務所オークス所長
 土肥誠太郎 三井化学株式会社本社健康管理室長・統括産業医
 中澤 善美 全国中小企業団体中央会事務局長・総務企画部長
 浜田 紀子 UAゼンセン日本介護クラフトユニオン特任中央執行委員
 増田 将史 イオン株式会社グループ人事部イオングループ総括産業医
 松本 吉郎 日本医師会常任理事
 三柴 丈典 近畿大学法学部法律学科教授
 森 晃爾 産業医科大学産業生態科学研究所産業保健経営学研究室教授
(50音順:敬称略、◎:座長)

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