泉南アスベスト国家賠償訴訟第二陣大阪高裁判決、国の上告を受けての原告団・弁護団声明(2013年12月25日、2014年1月7日)

原告団・弁護団声明(2013.12.25)

泉南アスベスト国家賠償請求訴訟原告団・弁護団
大阪泉南地域のアスベスト国賠訴訟を勝たせる会
泉南地域の石綿被害と市民の会

1 本日、大阪高等裁判所第13民事部(山下郁夫裁判長、神山隆一裁判官、内山梨枝子裁判官)は、大阪・泉南アスベスト国賠訴訟2陣(一審原告58人・被害者33人)控訴審において、国に対して総額3億4474万円の支払いを命じる一審原告勝訴の判決を言い渡した。

2(1) 本判決は、

  1. 国は、昭和33年5月までには、局所排気装置の設置を義務付けるべきであった、
  2. 昭和46年以降も昭和49年9月までには、日本産業衛生学会の勧告値(1立方センチメートル当たり2本)を抑制濃度とする特化則に基づく告示の改正を行うべきであった、
  3. また、昭和47年9月には、特化則を改正して、防じんマスクを使用させることを義務付けるべきであり、さらに、使用者に対し、石綿関連疾患に対応した特別安全教育の実施を義務付けるべきであった

として、国の責任を厳しく認めた。

(2) 国の責任について、「使用者の労働者に対する安全配慮義務とは別個独立であり、被害者に対する直接の責任」とし、石綿被害についての国の責任の重大性を指摘し、全損害の2分の1を限度として賠償すべき義務があるとした。

(3) 基準慰謝料額自体も、筑豊じん肺の訴訟基準から各疾病において100万円増額した。

3 本判決は、泉南アスベスト被害について、1陣、2陣訴訟の各大阪地裁判決に続き、三度、国の責任を肯定し、さらに、高等裁判所として、初めてアスベスト被害に対する国の責任を認めたものである。
 そして、2陣地裁判決が認めた昭和35年における国の責任のみならず、昭和46年以降に規制を強化しなかったことの責任を認めており、規制権限不行使の時期・内容、義務違反の程度などの点において、厳しく国の責任を認める内容である点に大きな意義がある。
 また、本判決が雇用関係にない出入り業者に対する国の責任を認めた2陣地裁判決を是認したことも高く評価できる。

4 大阪泉南地域は、100年に亘る全国一のアスベスト産業の集積地である。石綿原料から糸、布を作る石綿紡織工場が集中立地し、戦前は軍需を、戦後はわが国の経済成長を下支えしてきた。石綿紡織工場の労働者、周辺住民、その家族らは、大量の石綿粉じんにばく露する中で、戦前から現在まで、地域ぐるみの深刻な石綿被害が発生し続けた。国は、70年以上も前に自ら行った調査によってその被害の重大性を確認しながら、規制や対策を長期間に亘って怠ってきた。泉南地域は、わが国のアスベスト被害の原点であり、国の加害の原点でもある。
 本判決は、泉南アスベスト国賠訴訟1陣最高裁の判断に大きな影響を与えることはむろん、全国6箇所の建設アスベスト訴訟、尼崎クボタ訴訟、さらには原発被害等で国の責任を追及する訴訟の原告らを大いに励ますであろう。そして、泉南地域のアスベスト被害の救済はもとより、全国に広がったアスベスト被害について、国の責任の明確化と被害救済のあり方の抜本的な見直しを迫るものである。

5 本判決が、アスベスト被害の深刻さに正面から向き合い、至高の価値である生命・健康を護る国の役割の重大性を改めて確認した意義は極めて大きい。本判決は、2006年5月の1陣提訴以来7年半に及ぶ本事件審理の集大成であり、本判決によって、泉南アスベスト被害について国の責任を認める司法判断は固まった。
 裁判の長期化によって、1陣、2陣訴訟の原告のうち裁判係属中に12名が亡くなり、提訴前の死亡者とあわせて被害者の6割近くがこの世を去っている。また、生存原告も日々、高齢化と病気の進行、重篤化に苦しんでいる。「命あるうちに解決を」は原告らの切実な譲ることのできない願いであり、「泉南アスベスト被害の早期全面解決」は広範な世論である。
 私たちは、国が、三度に亘って厳しく断罪されたことを真撃に受け止め、自らの責任を認めて原告ら被害者に謝罪し、正当な賠償金を支払うこと、そして、1陣訴訟を含めた泉南アスベスト被害者全員の早期救済に応じることを強く要求するものである。

2013(平成25)年12月25日

原告団・弁護団声明ー国の道理なき不当上告に断固抗議するー(2014.01.07)

大阪・泉南アスベスト国賠訴訟原告団・弁護団

1 昨年12月25日、大阪高裁(第13民事部)は、1陣地裁判決、2陣地裁判決に続いて、三度、国の規制権限不行使の責任を認める判決を下した。これに対して、国は、本日、上告する旨を明らかにした。
 原告団と弁護団は、国の道理なき不当上告に断固抗議するものである。

2 2006年5月の第1陣訴訟の提訴以来、本判決までに12名の原告が死亡し、さらにこの上告期間中にも1名の原告が死亡した。生存原告らも病状の悪化に苦しんでおり、「命あるうちの解決」は、文字どおり原告らの待ったなしの切実な願いである。国の上告は、原告らの願いと期待を大きく裏切るものであり、断じて許すことはできない。

3 この間、118名の与野党の国会議員から「泉南アスベスト被害の早期全面解決を求めるアピール」への賛同が寄せられ、12月25日には全野党の国会議員らが連名で、26日には自由民主党・公明党のアスベスト問題の責任者が、それぞれ上告断念を含む早期解決の決断を要請した。泉南アスベスト国賠訴訟の早期全面解決は、世論はもとより、政治においても多くの支持を得ている。

4 原告・国の双方は、本判決に至るまで7年半にわたり主張、立証を尽くした。そのうえで、本判決は、国の責任逃れの主張を完膚なきまでに退け、国が依拠した1陣高裁の不当判決(2011年8月)を完全に否定した。国は、本判決を謙虚かつ真摯に受け止め、早期に被害者救済に踏み出すべきであった。
 国の上告は、国民のいのちと健康を守る責務を放棄し、いたずらに被害者の苦しみを引き延ばすものでしかない。このような国の姿勢は、いのちや健康よりも産業発展が優先するという1陣高裁判決にすがるものであり、そこには何らの大義も道理もない。

5 原告団と弁護団は、引き続き、「命あるうちの解決」を実現するため、国に対して、泉南アスベスト被害の早期全面解決を強く求めると共に、最高裁においても全力で闘い抜くことを表明する。

2014(平成26)年1月7日

安全センター情報2014年3月号