エアピック掘削作業で頸肩腕障害、労災認定。安心した療養の確保が課題/神奈川

典型的な上肢負担作業で

北海道出身のNさん(68歳)は、長年土木作業に従事してきた。
15年ほど前からは、上・下水道管の埋設作業を専門的に行なってきた。その際に、竪穴の中に入って、エアピックで穴を掘る工程がある。管を埋める穴は、微妙に傾斜をつけなければならない。それは大変熟練を要すると同時に、腕などにかなりの負担がかかる(写真参照)。

数年前からNさんは、エアピックを支える左腕、肩の痛みがひどくなって、整形外科にかかった。
「頚椎変形性脊椎症」と診断されたが、医者は「この程度の変形で、それほどひどい症状が出るとは思えない」とも言った。けん引などの治療をしたが、あまり効果が上がらなかった。一方、仕事を休むと症状は軽くなる。とはいえ、生活のためには働かざるを得ない。

頸肩腕障害と診断、労災申請し認定

2001年6月、いよいよどうしても作業が続けることができないくらい症状が悪化した。Nさんは、退職を余儀なくされる。十条通り医院(神奈川県大和市)で診察を受けたところ、「頸肩腕障害」の診断を受ける。本来であれば労災申請して、治療に専念するところである。しかし、年金も下りないNさんとしては、生活もままならない。やむなく建築会社の雑用アルバイトとして、仕事があるときだけ掃除、片付けなどをすることになった。

15年間の労働の蓄積による職業病と思われるが、認定基準から労災保険は、最後の3年ほど働いた千葉の会社のものを適用することになる。所轄の千葉労働基準監督署に2001年10月に労災申請したが、調査はなかなか進まなかった。会社も、事故ではないし、責任を認めようとせず、簡単な書類提出すら非協力的だったようだ。申請から1年半後、2003年2月末に、ようやく業務上認定される。

このNさんの業務上認定は、土木作業を辞めてからアルバイトに就くまでの、約2か月間の休業補償請求に対する支給決定である。その後は月に15日程度、腕に負担のかからない仕事をしてきた。これでは家賃も払えないので、建築会社の事務所の「部屋」に住んでいた。お金がないから、痛み止めの薬をもらう程度の治療しかできなかった。そもそも早く労災認定されていれば休業補償も出て、治療に専念できたはずだ。

健康で働けるようになるための労災認定にさせるために

こうした事情をよく知らない労働基準監督署の担当者は、「今後は通院日だけの休業補償になるかもしれませんねえ」などと言う。生活が苦しいから、職業病でも働かざるを得ず、それでさらに症状を悪化させて、結局、仕事も続けられなくなる。そして、せっかくの労災保険も調査に時間がかかったため、治療もままならず、働けるとみなされては、たまったものではない。これでは、厳しい労働条件で余裕のない労働者ほど救済されないという、とんでもない話だ。

今度こそ治療に専念して、とりあえず2003年3月分の休業補償を請求する。早急に全部支給決定してもらうように労働基準監督署に要請していく。

記事/問合せ:神奈川労災職業病センター

安全センター情報2003年6月号