保温工の石綿肺、審査請求で労災認定、時効救済=特別遺族年金支給:「肺繊維症」死亡の労災認定判断、同僚に石綿疾患多発を重視/岡山

概要・解説

本件は、「肺繊維症」死亡から約14年後、遺族が石綿救済法の時効救済である特別遺族給付金を申請したところ、労基署は「医学的資料からは石綿との関連が明らかな疾病が確認できない」として不支給とし、審査請求し、支援団体の協力のもと、わずかな残存カルテの調査や同僚被害や証言を収集し証拠提出したところ、不支給処分が取り消され労災認定された事案である。石綿救済法の対象疾病は疾病名としては石綿肺としているが、石綿肺とは石綿を原因とする肺繊維症、であるに過ぎず、労基署が石綿ばく露歴調査をきちんと行えば、審査請求段階で請求人から提出された証拠は収集できたはずであって、かつ、原処分段階で地方労災医員が「肺繊維症」と判断すれば、労基署が本件を石綿肺だと判断し、業務上とできただろうことは、石綿肺の定義上、必然であった。労基署の病名というものの定義への無理解が生んだ不支給処分であったともいえよう。
なお、あとになって判明したことであるが、特別遺族給付金の認定調査にあたっては、同一職場の被害状況がある場合は本省に相談を指示することなどを記載した省内会議メモが2006年10月に作成されていることがわかっており(「石綿による疾病事案の事務処理に関する質疑応答集」2006年10月8日臨時全国労災補償課長会議)、本件特別遺族給付金請求に対する労基署の処理は、この文書に照らすと適正な処理がなされていなかった疑いがある事案であった。

死亡病名「肺繊維症」
医学資料から石綿肺と確認できない、で不支給

2007年2月7日、岡山労働者災害補償審査官は、岡山労基署が昨年8月にNさんの遺族に対しておこなった特別遺族年金の不支給決定処分を取り消すという決定を行った。

Nさんは、岡山県にある山陽断熱に約18年間勤め、配管の保温工事に従事した。1991年に集団検診で胸部の異常を指摘され、検査を受けたところ、「肺繊維症」と診断されたた。その際に家族は、医師から、「肺に石綿がささり、細胞が固くなり、ふくれたり、しぼんだりしなくなって呼吸が苦しくなる病気で、薬も治療方法もない」との説明を受けた。その後、Nさんの状態は深刻となり、1992年8月に亡くなられた。

Nさんの遺族は、「肺に石綿がささっている」との医師の説明を鮮明に覚えており、昨年3月に実施したアスベスト新法ホットラインに電話をかけてこられた。遺族は独自に岡山労基署に申請を行ったが、「医学的資料から石綿との関連が明らかな疾病が確認できない」と不支給となった。

数枚の残存カルテに石綿との関連記載あり

遺族から不支給の連絡を受け、昨年秋からひょうご労働安全衛生センターとして調査に関わるようになり、病院のカルテ、同僚への聞き取りを始めた。Nさんが亡くなられてから14年が経過し、病院には数枚のカルテしか残っていなかった。しかし、カルテには「石綿作業に従事、じん肺検査希望にて来院」の記述があり、CTスキャン報告には「外套部には網状影が肺尖まで存在、胸膜肥厚もみられる」と記載されていた。
石綿粉じんを18年間吸引したNさんが、じん肺検査を受けるため来院し、肺の繊維化が認められるのであれば、傷病名は「肺繊維症」ではなく、「石綿肺」と記載するべきであったと言える。

熱絶縁工事=保温工事=高濃度石綿ばく露作業
アスベスト被害多数

また、Nさんが勤めていた山陽断熱の同僚の方々から話を聞く中で、熱絶縁工事は高濃度の石綿粉じん作業であったこと、そして石綿関連疾病の患者が多発していることが分かった。Aさん一石綿肺・管理区分4(死亡・労災認定)
Bさん一石綿肺・管理区分3(続発性気管支炎で療養中・労災認定)
Cさん一石綿手帳取得
Dさん一石綿手帳取得
という状況である。

さらに、聞き取りを通じ胸膜プラークがあることが判明した同僚2名が石綿健康管理手帳の申請を行い、3名の遺族が労災申請を行う(1名は認定が決定)こととなり、こうした実情についても資料を提出した。

じん肺管理区分4相当の石綿肺

審査会において、地方労災医員は、「じん肺管理区分4相当の石綿肺に罹患していたものと判断する」と意見を述べ、Nさんの 死亡は石綿肺によるものと認められ、岡山労基署の不支給処分が取り消された。

監督署の調査では、地方労災医員は、「対象疾病であるとかどうか、カルテでは分からない」と意見しており、同じ労災医員でこうも極端に判断が分かれることがあっていいのだろうか。
山陽断熱で多発するアスベスト被害の実情に基づき調査を行い、診療記録をしっかりと調べていれば、不支給とはならなかったはずである。

記事/問合せ ひょうご労働安全衛生センター

安全センター情報2007年6月号