石綿肺がん(港湾荷役作業)労災認定、組織検査で石綿小体5748本、自庁取り消し/神戸港

概要・解説

本件は、港湾における石綿荷役作業に20年間従事した男性が原発性肺がんを発症し、切除手術を受け、労災申請したが、2度にわたり不支給とされた後、審査請求中に残存肺組織の石綿小体を計測したところ5000本以上が計測されたことで、原処分庁である労基署が不支給処分を取り消し(自庁取消し)労災認定された事案である。可能な組織検査もせず安易に不支給としたことは調査の明らかな不備であり、港湾のアスベスト被害を軽視しているとの抗議がなされ、労基署がこれを認めて謝罪した。

アスベスト荷役作業20年
2度の不支給決定

Nさん(79歳)は、2004年9月に肺がんのため右下葉の切除手術をし、2006年3月13日に石綿肺がんの労災申請を神戸東署にした。しかし、不支給決定となり、さらに審査請求も棄却された。

2回目の労災申請を行ったのが2010年7月5日だった。だがまたもや、認定基準の胸膜プラーク、石綿小体が確認できないことを理由に、11月30日に不支給決定となった。しかし、20年間にも及ぶ港湾での石綿荷役への従事歴があり、不支給決定にどうしても納得することができなかった。

2011年1月26日に審査請求をしたが、このままでは同じような結果を招くと考えられたため、神戸労災病院へ石綿小体の計測依頼を行った。

5748本の石綿小体を検出、労災認定へ

すると、石綿小体の計測検査結果で乾燥肺1g当たり5,748本が確認され、3月18日に審査官あてに石綿小体計測検査報告書を添えて「認定基準の石綿暴露作業の従事期間が10年未満の者への救済をも満たすものであり、当然業務上の労災認定がなされるものである」との申立書を提出した。

すると4月7日に審査官より「監督署に戻したい」と本人に連絡が入り、5月12日に労災認定調査官より「不支給決定を取り消し、支給決定とする」との報告を聞いたが、組合は「納得いかない。いままでの石綿認定闘争の経緯もあり、これでは決定書は受け取れない」「組合としての見解を出す」との申し入れを行い、当日は退席した。

労基署の謝罪、審査請求取り下げ

5月20日、担当官が同席するなか労災課長に対して、組合としての要請書を提出した。組合からは、今回の事案は、肺がんの摘出手術が行われ、組織が保存されていながら肺組織の検査結果も出されていない。主治医の「石綿小体なし」の結果だけを採用した。国が定めた認定基準で石綿小体の有無を問題にしながら「生体検査に基づくものか」「それは検査を行ったうえの『なし」なのか。検査を行わずの『なし」なのか」、さらに「肺組織が摘出されながら生体検査をしないで決定を下すのは、過去に重篤な人にまで生体検査を求めた経緯からも、行政の認定作業からしてもおかしい」
「港湾石綿被害の甚大さに対して、過去の経緯も踏まえ慎重に取り扱いをするよう」強く要請した。労災課長からは、「そちらの主張どおりです。申し訳ありませんでした」とのコメントがなされ、5月11日付支給決定書を受理することになった。

療養開始日は原発性肺がんの確定日である2004年8月10日からとなった。
5月23日に審査官との話し合いが行われ「自庁取り消しとさせていただきたい」「審査請求はあったが、審査はしなかったものとなる」というものだった。労災管理調整官も同席し、「不手際に謝罪する」とのことで審査請求の取り下げに署名し、終結した。

ひょうご労働安全衛生センター

安全センター情報2011年8月号