ガラス製造40年アスベストばく露作業従事で肺がん、「同一職場肺がん認定4件」理由に一転労災認定(石綿救済法・特別遺族給付金)、自庁取消しで/神奈川
概要・解説
本件は、ガラス製造工場で保温用に大量の石綿布を使用する作業などに40年従事し退職労働者が肺がんを発症し、死亡した労働者の遺族が遺族補償時効を過ぎた8年後に特別遺族給付金を申請し、医学資料なく不支給とされたが、支援団体に相談した結果「質疑応答集」に示された本省協議の条件を満たしていること(同一職場肺がん4件認定)が判明し再調査となり、追加調査の過程で会社保管の検診時レントゲン写真がみつかり同写真より石綿肺所見がみつかり、本省協議なく自庁取消し、労災認定された事案である。
2009年1月21日、「石綿所見なし」として一旦は不支給決定された故・Kさんの肺がんが、鶴見労働基準監督署で自庁取り消しとなり、石綿救済法の時効労災の適用を受けることになった。妻のKさんは「えっ!そんなことがあるの?」と驚いたそうだが、経緯は以下のとおり。
労災申請するも医学資料なく不支給
Kさんは、昨年3月29~30日に行われた「全国一斉・アスベスト被害無料相談」に相談した。その前日に、厚生労働省が公開した「石綿ばく露取り扱い作業による労災認定等事業場」を新聞で見ていて、夫の務めていた「旭硝子鶴見工場」があるのを見つけたと言う。相談を受け、私たちはさっそく労災申請の準備に取りかかった。
Kさんは、旧旭硝子㈱の川崎工場、鶴見工場(現京浜工場)で40年間働いた。2000年4月に定年退職したと同時に肺がんで入院し、同年8月に亡くなった。
石綿布を常用
職歴では他に自動車部品製造会社があるが、期間は3年と短い。同僚の話によると、功さんは切断作業に従事し、その際にアスベストを大量に取り扱っていたという。高温の炉によるガラスの温度を下げないために石綿布をかけて作業したという。石綿曝露作業が特定され、従事期間の長さからも労災認定は十分可能に思われた。入院していたY病院にはX線やCT写真は残されていなかった(保存期間が過ぎたため)が、同社には他にも肺がんで労災認定された者が一人いたので、申請することにした。会社の事業主証明は得られなかったため、Kさんは半ばあきらめながらの申請だった。
結果は、「不支給」。あきらめようか、不服審査請求しようか迷いながら、鶴見労基署に不支給決定の理由をたずねたところ、鶴見工場で今まで石綿肺がんが4件も認定されたにも関わらず(「石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧表」2008年10月27日)、本省協議扱いにしていなかったことが判明した。
調査マニュアルに反する調査判明
厚生労働省の「石綿による疾病事案の事務処理に関する質疑応答集」には、肺がん事案で診療録等の医証が全くない場合の取り扱いについて、「過去の同一事業場で、同一時期の同一作業に従事した同僚労働者が労災認定されている場合」には本省あて相談されたい」とされている。鶴見労基署の担当者は、これを怠っていたのである。この質疑応答集の解釈をめぐって若干議論した末、鶴見労基署は、自身が下した不支給決定を取り消さざるを得なかったのである。
追加調査したらレントゲン写真見つかり
石綿肺所見確認で一転、労災認定
最終的には、調査を見直した結果、旭硝子㈱京浜工場の診療所に功さんの定期健診のX線写真が残っており、その写真を局医に見せたところ、「石綿肺」の所見が得られたことをもって、鶴見労基署は本省協議扱いにするまでもなく業務上とした。
神奈川県内の労基署の中では最も石綿案件を多く扱う鶴見労基署にしては、ずいぶんと杜撰な調査をしたものだ。定期検診のX線写真を積極的に提供しなかった会社の非協力的な対応にも問題があるが、初動調査で会社保存の写真を見逃した鶴見労基署の責任も大きい。猛省を促したい。
安全センター情報2009年4月号