沸騰点:暑くてたまらない職場で熱中症にならないために積極的に行動しよう/Hazards Magazine, No.162, 2023

屋内であれ屋外であれ、極度の暑さは仕事を不快にし、生産性を低下させ、危険なものにする。政府は、最大職場気温[基準]の導入を拒否している。しかし、だからといって使用者が自由に職場で揚げ物をさせていいというわけではない。太陽が出ているからといって、職場の安全義務が窓から飛び出すわけではない。
2022年に英国は、観測史上最高の年間平均気温を記録し、7月には初めて40℃を超えた。このため、安全衛生庁(HSE)は使用者に対して、「職場が将来の温暖化に対応できるよう、いますぐ行動を起こす必要がある」と警告した。
HSEのジョン・ロウは言う。「われわれは、使用者が最近の天候の変化を契機に、職場における高温リスクの評価方法を見直し、将来の備えとなるような変化を特定することを期待している」。
「すべての職場は、労働環境が変化していることを認識する必要がある。仕事の構造に対する低コストの適応もあるが、換気や空調の改善など、職場への投資を伴うことも検討すべきである」。
「このところの猛暑は止む気配がなく、使用者はいますぐ計画を立て、対応してほしい」。
TUC[労働組合会議]は使用者に対して、従業員を日差しや暑さから守るよう要求している。炎天下での労働は脱水症状、筋肉のけいれん、発疹、失神につながる可能性があると警告している。極端な場合、労働者は意識を失い、死に至ることもある。
TUCのポール・ノワック書記長は、「うだるような暑さの中で働くことは、オーバーヒートした店内であれ、焼けるようなオフィスであれ、直射日光が照りつける屋外であれ、耐えがたく危険なことだ」と述べた。また、「使用者は、屋外で働く労働者が定期的な休憩、大量の水分補給、日焼け止めの塗布、適切な防護衣で保護されていることを確保しなければならない」と付け加えた。
あなたの職場が安全な仕事をするために必要な措置を講じていることを確認していただきたい。
そして、次の年も気を抜かないことだ。熱波に見舞われる前に、包括的な保護措置が講じられていることを確認するために、いまから交渉を開始しよう。

オーバーヒート

身体は体温を調節するようにできており、摂氏37度(華氏98.7度)前後から逸脱してはならない。熱ストレスとは、体を冷やそうとする際に体にかかる負担[ストレイン]のことである。職場の暑さに影響を与える要因としては、太陽光による日射熱や、機械や照明から発生する熱がある。
熱に関連する病気は、軽いあせもや腫れから、横紋筋融解症(筋肉損傷)、急性腎障害、熱中症、熱ストレスによる心停止といった重症のものまで、その程度は様々である。糖尿病、肺疾患、心臓疾患などの持病をもつ労働者は、とくに危険である。
多くの建物は気候対策が施されていないために、建材が熱を吸収し、室内が外よりも暖かくなる場合がある。
湿度が高いと発汗が減少し、体内の冷却プロセスの効果が低下するため、湿度が高いと温度が高く感じられる。例えば、湿度が60%の場合、すでに不快な33℃の周囲温度は、衰弱しやすい50℃に近く感じられる。
気温が上昇すれば、負傷者の発生率も上昇する。米国のシンクタンク「パブリック・シチズン」が2023年5月に発表した報告書によると、気温が1℃上昇するごとに負傷者が1%増加し、その影響は気温が高いほど顕著になるという。
州の規制当局とワシントン大学が2016年に実施した米国ワシントン州の農業労働者を対象とした調査によると、主にハシゴの落下によるサクランボ収穫作業員の外傷の確率は、25℃を1℃上回るごとに1.53%増加した。
欧州の労働組合調査機関ETUIの2021年の報告書によると、気温が30℃を超えると労働災害のリスクは5~7%増加し、38℃を超えると災害の可能性は10~15%高くなる。

仕事にも影響

消極的な使用者は、暑さで苦しむのは労働者だけではないことを考慮した方がいいかもしれない。「アトランティック・カウンシル」が2021年に発表した報告書では、米国における猛暑の経済的・社会的影響を調査し、生産性の低下は農業と建設業で最も大きいと指摘している。
しかし、屋内ビジネスの多くは空調設備や十分な換気がないため、レストラン、運輸、接客業、倉庫業などのサービス業が最大の損失を被っている。
英国ではそれほど深刻な問題ではないかもしれないが、それでも労働者の大部分にとっては重大な問題である。ダブリンを拠点とする調査機関ユーロファウンドの報告によると、英国では全労働者の20%以上が少なくとも4分の1以上の時間、高温にさらされており、欧州平均の23%とさほど違わない。
2021年に英国健康安全保障庁(HSA)は、こう警告した。「近年観測された記録的な暑さの夏がたんなる“普通の”夏になることで、2050年までに暑さによる死亡者数は3倍になると予測されている」。
外来種の病気を媒介する蚊が繁殖し、「デング熱、チクングンヤ熱、ジカ熱など、英国ではめったに見られない病気のリスクが高まる」とHSAは警告している。「マダニも公衆衛生上の懸念事項であり、英国ではすでにライム病が流行している。冬や春が温暖化すれば、マダニが活動し、咬まれる期間が長くなる(ただし、夏が温暖化すれば、マダニの活動が制限される可能性もある)」。
つまり、ライム病やその他のダニ媒介性疾患のリスクが高まるということである。
これらはすべて、あなたが職場で直面するリスクに影響する。使用者が気温上昇に伴う真のリスクを認識し、最小限に抑えるよう行動することを確実にしていただきたい。ちょっとした不快感よりもはるかに深刻である。間違えば、命に関わるミスにもなりかねない。

情報源

  • TUCのビデオ「涼しく保つための8つのステップ」及び対話型ガイド「熱すぎる、寒すぎる」
  • TUC「極度の温度で働くことに対するガイド」
  • EU-OSHA[欧州労働安全衛生機関]「労働における暑さ[熱]-職場のためのガイダンス」2023年5月
  • NRDCビデオ「気候危機:極度の安全衛生」2019年
  • NYCOSH[ニューヨーク労働安全衛生委員会]「屋内・屋外労働者が暑さに打ち克つための保護を要求する!」2023年
  • ILO「温暖化する地球で働く:熱ストレスが労働生産性とディーセントワークに及ぼす影響」2019年7月
  • HSE「労働における温度」に関するウエブページ及びガイド「温度:労働者ガイド」「温度:法律で定められていること」、「温度:屋外作業」
  • Claudia Narocki「職業ハザードとしての熱波:暑さと熱波が労働者の健康・安全・福利及び社会的不平等に及ぼす影響」ETUI[欧州労働組合研究所]2021年6月報告書
  • 「高温から労働者を守るためのEUの行動の必要性に関するETUC決議」2019年5月
  • パブリック・シチズン「ホットテイク:危険な気温の上昇に伴い、即時の労働者保護の要求が高まっている」2023年5月
  • カリフォルニア州基準§3396「屋内雇用場所における熱中症の予防」
  • 国立労働安全衛生研究所/疾病管理予防センター「推奨暑熱基準:暑熱環境への職業曝露」2016年
  • OSHA[労働安全衛生庁]「屋外及び屋内労働環境における熱傷害及び熱中症予防規制の策定」
  • OSHA熱中症予防キャンペーン
  • Luke A Parsons他「屋外労働者について過小評価されている湿熱曝露による世界の労働損失」 Environmental Research Letters, 17巻1号, 014050, 2022年
  • 英国政府環境監査委員会「熱波:気候変動への適応」2018年7月26日

暑さ[熱]を感じる

暑さ[熱]による体調不良は、あらゆる仕事においてリスクとなり得る。症状に注意しよう。
熱ストレス-早期の警告サイン。脱水症状(のどが渇く)、筋肉のけいれん、あせも(あせもまた汗疹)、錯乱、に注意。
熱疲労-頭痛、吐き気、めまい、脱力感、イライラ感、多量の発汗、尿量の減少/非常に濃い尿、視覚障害、動悸。
熱中症-最も深刻な熱関連病。赤く熱く乾燥した皮膚、発汗停止、高体温、錯乱/不合理な行動、失神/めまい(熱失神)、痙攣。命にかかわることもある。
労働災害-暑い作業は集中力に影響を及ぼし、疲労の原因となるため、危険な事故や怪我のリスクが高くなる。手のひらに汗をかいたり、目に汗をかいたり、眼鏡が曇ったりすると、リスクが高まる。
その他の影響-日光は黄斑変性症(進行性の視力障害)を引き起こす。腎臓病は、屋外労働者の高温や脱水と関連している。皮膚障害と皮膚がんは、日光の浴びすぎと関連している。横紋筋融解症(筋肉への深刻な損傷)は、熱ストレスと長時間の肉体労働に関連している。熱への過度の曝露は、心臓不整脈、「ねばねば血液」、心臓発作のリスクの増大を引き起こす。むくみ(熱水腫)。
熱中症は急速に悪化する。熱ストレスに注意。労働者が熱疲労または熱中症の兆候を示した場合は、ただちに医療援助を追求すること。

ハザーズ・チェックリスト

職場が暑い?上司に冷やすように言おう!
うだるような暑さの中で働くのは休日とは言えない。仕事の質も低下し、安全にも影響を及ぼしかねない。気温が急上昇したときには、簡単な行動で違いが生まれる。

  1. リスクの評価-使用者は、安全代表と協議のうえ、職場のリスクアセスメントを実施すべきである。温度だけでなく湿度も考慮することを忘れない。湿度が高いほど暑く感じる。
  2. 計画の立案-熱ストレス計画は、使用者によって作成され、包括的であり、労働組合と合意しており、労働者に周知されていなければならない。計画には、関連するトレーニング要件や、弱い立場の労働者を保護するために必要な措置の詳細が含まれていなければならない。
  3. コミュニケーション[周知]-使用者は、熱リスクの管理方法について労働者や労働組合の代表者と協議しなければならない。労働者は、過度の暑さに対処する最善の方法について自分なりの考えを持っているはずである。
  4. 保護-長時間の日光曝露は屋外労働者にとって危険であるため、使用者は日焼け止めを提供し、必要に応じて紫外線保護衣、眼保護具、帽子を提供すべきである。
  5. フレックス勤務-可能であれば、出勤時間を早めたり遅くしたりすることで、通勤ラッシュ時の息苦しさや不快な状況を避けることができる。また、暑い間は自宅で仕事ができるようにすることも検討すべきである。
  6. シンプルな解決策-職場は、窓を開ける、扇風機を使う、従業員を窓や熱源から遠ざけるなど、シンプルな対策を講じることで涼しさを保ち、耐えやすくすることができる。
  7. 気候耐性-使用者は、換気、空冷、エネルギー効率改善措置を導入することで、ますます暑くなる天候に備え、施設や作業方法を事前に準備すべきである。
  8. 服装規定-事務職は、ジャケットやネクタイは着用せず、通常よりもカジュアルな服装で勤務できるようにすべきである。使用者は、気温の上昇に対する保護衣の適合性を検討し、利用可能な最も適切な保護装備を提供すべきである。
  9. 福利厚生-従業員が頻繁に休憩を取れるようにし、冷たい飲み物を供給することで、労働者を涼しく保つことができる。
  10. 避難場所とスケジュール-過度の暑さの場合、屋外での作業は、紫外線レベルと気温が最も高くなる午前11時から午後3時の間ではなく、早朝と午後の遅い時間にスケジュールすべきである。上司は、可能であれば天蓋や日陰を用意し、「クールダウン」エリアを設けるべきである。
  11. 順応-過酷な暑さの中での労働に順応するには時間がかかることがあるため、仕事量や期待、労働時間を適宜調整すべきである。
  12. 仕事量とペース-使用者は、労働者が可能な限り自分のペースで働けるようにし、収入減やその他の罰則がないようにすべきである。極端な高温時には、仕事量を減らすか、仕事を中断すべきである。
  13. 複雑な要因-身体的に負荷のかかる仕事、個人保護具を着用する仕事、消防、ケータリング、建設、鋳物工場、パン屋など複数のリスクを伴う可能性のある仕事は、リスクアセスメントや介入において特別な配慮が必要である。勤務時間を短縮し、休憩時間を増やす。
  14. 記録の維持-災害記録簿の活用-熱ストレスの事例は、職場の状況が適切でないことを示す早期警告となりえるし、また、一人の労働者がめまいを起こしたり、失神したりした場合には暑さとは無関係かもしれないが、複数の事例があるとすれば職場の問題を指し示している可能性がある。
[上図]日本の全国安全センターに似たアメリカの
労働安全衛生評議会[全米COSHネットワーク]が
作成したリーフレット「全米に猛暑注意報/労働者
の権利、熱中症の危険な症状と仕事中の労働者を
守るために使用者に求める措置」
https://www.nationalcosh.org/resources/
emergency-alert-workers-exposed-heat

https://www.hazards.org/heat/index.htm

安全センター情報2023年10月号