立つことも、座ることも苦しいのに『就労可能』 2023年10月10日 韓国の労災・安全衛生

資料写真/チョン・ギフン記者

自分がなぜ就職しにくいのか、終始身体の症状を乾燥だとして説明していたAさん(31)は、「人生の楽しみは何か」という質問に首をうなだれた。涙がポロポロと浮かんでは落ちる目元を拭った。「誰からも訊かれたことがないので、少し戸惑いました。免疫力が弱くて、友達にも会えません」と、突然の涙に自分でも驚いたのか、言い逃れるように話した。

Aさんは2011年、高校を卒業すると同時にサムソン電子に入社した。体の調子が徐々に悪くなったと感じられ、2019年7月になって仕事を止めた。勘は間違っていなかった。その年の10月にめまいがして倒れた後、髄膜腫(悪性脳腫瘍)と診断された。手術と抗がん・放射線治療を受けたが、昨年11月に脳腫瘍が再発した。今でも、座っていても激しい腰痛に悩まされ、バランスを取って歩くことも難しい。しかし、休業手当を申請する度に戻ってくる勤労福祉公団からの返事は「就労状態での治療が可能」だった。通院治療の期間だけ休業手当を支給するという通知だ。Aさんは再審議を申請したり、異議を提起した後になって、ようやく全部の休業手当が支給されるようになった。

公団は就労治療が可能かどうかを判断する基準を改善すべきだという声が高い。

高校卒業後に見つけた職場
31歳の青年の人生を変えたのに

Aさんに会ったのは9月20日、華城市のあるカフェだった。彼は脳腫瘍が再発した後、2022年11月~2023年1月の休業手当を申請したが、公団は「就労治療が可能だ」という公団の諮問意見を根拠に、通院治療の期間にのみ休業手当を支給するという決定をした。Aさんは再審議(労災審査請求)を行い、公団は不支給処分決定の一部を取り消した。2~7月の休業手当申請の時も、公団の決定は同じだった。Aさんが「公団は、審査決定時に取り消された原処分の根拠と同じ諮問の所見を根拠に、休業手当の一部不支給の処分をした」という異議を提起した後になって、公団は全期間について休業手当を支給する決定を行った。同じことが二度も繰り返されたのだ。

Aさんは「治療だけに専念することも難しい状況で、なぜ再び審査請求を受けなければならないのか、到底理解できない」と、もどかしさを吐き出した。同年代の友人たちは活発に社会・経済活動をする時期だが、Aさんの一日は無味乾燥だ。普通の人には憩いの場となる『座ること』もAさんには苦痛だ。彼は腰痛を「高層ビルに落ちて怪我をしたような感じ」と説明した。バランスが取れず、立って歩いては転んで、足にあざができることも多い。左手は思い通りに動かない。

彼は一時間余りのインタビューの間、腰の痛みに耐えられずに立ち上がったり、体をひねったり、顔をしかめたりした。主治医は彼に、「血液の数値が低すぎるので、感染しないように外部での活動には気を付けろ」と言う。友達に会うことが、危険を冒すことになった。

Aさんを代理するキム・ジナ公認労務士は「公団の就労治療の可能・不可能に対する判断が、どれほど形式的に行われているかを示す代表的な事例だ。」「公団の内部指針上の『就労』の概念が、法的な根拠もなく自営業者を含むなど、不当に広く規定されており、これに伴って、実際には就労が不可能でも休業手当が支給されない事例は一度や二度ではない」と批判した。

労災認定まで8年、
休業給付を受けるための二度目の闘い

休業手当の支給基準の問題は、被災労働者の苦痛に直結する。働いて、一生治癒しない疾病を得たが、労災を証明することも、自らの労働能力の喪失を立証することも、全て被災者の役割だからだ。

慢性腎不全症で毎週三回の血液透析を受けなければならないBさん(45)は、休業手当の一部不支給処分に不服として審査請求を準備している。彼は1997年から2009年まで、サムソン電子器興工場で、設備の維持・補修の業務をする下請け労働者として働いた。誠実な労働の対価は、2014年3月末に腎臓病の判定として戻ってきた。その年に労災を申請したが、公団は不承認の決定をした。2019年3月に行政訴訟を提起し、2022年2月に労災と認定された。業務上災害の確率が高いという趣旨の鑑定結果が出ると、判決が出る前に、公団は労災不承認申請決定を取り消すと明らかにした。労災認定を受けるのに丸8年かかった。今年4月、再び別の闘いが始まった。週三回の透析日にしか休業手当を支給しないという、休業手当の一部不支給の決定を受けたためだ。今は、自分の日常が病気によってどのように壊れたのか、なぜ仕事が見つからないのかを証明する時間だ。

Bさんを代理するムン・ウンヨン弁護士は「医師たちは、がん患者であれ、透析患者であれ、横になっていたり看病が必要な人でなければ、仕事の種類と関係なく働けると判断する。」「だめなら商売でもしろというが、患者が経験する臨床的な症状と、医師たちが知っている病気との間にギャップがある」と指摘した。

リュ・ヒョンチョル職業環境医学専門医は「被災者は複数の疾患を持っている可能性があり、うつ病に伴う別の問題があり得るが、公団諮問医の(休業手当支給決定に関する)判断が総合的に行われない傾向がある。」「疾病自体だけでなく、疾病が持つ特性と職業環境による多様な制約を考慮していない」と批判した。

Cさん(48)は、2001年に慢性白血病の診断の後、最近まで抗がん治療を続け、全身浮腫、関節痛、めまい、皮膚発疹、頭痛、筋肉痛、嘔吐、下痢、消化不良、全身衰弱感、眼球乾燥などの合併症が伴って、働くのは容易ではない。彼も休業手当の支給を拒否されて、行政訴訟を提起している状態だ。

資料写真は記事の内容と無関係/チョン・ギフン記者

公団の一部手続き改善にも
労働界「根本問題の解決ではない」

被災者と労働・市民社会団体が長い間、休業手当支給の決定システムに対する問題提起をしてきたが、改善は遅い。

昨年の国政監査で「共に民主党」のウ・ウォンシク議員が、公団の休業手当の支給基準に問題があるとして改善を要求すると、公団は7月1日に一部のシステムを改善した。就労治療が可能かどうかについて主治医と諮問の所見が異なれば、諮問医師会など、多数の専門家の意見を聴取して決めるようにした。また公団は「専門家会議の結果を土台に、職業性癌(肺がん、血液がん)に対する休業手当に最短期間を設定し、支給基準を改善した」と説明した。

パノリムのイ・ジョンラン公認労務士は「公団の諮問の一人で決めるより、多くの人が決めるという点で改善はされたが、根本的な解決ではない。」「就労市場に対する考慮が抜けている」と批判した。彼女は「就職よりは、原職復職の概念で、就労治療の可能可否を判断しなければならない。原職に復職できないほどに身体機能を回復できない場合は、休業手当を支給すべきだ」と付け加えた。肺がんと血液がんの場合、最短休業手当の期間を設定したが、その期間がどれ位なのかを公開せず、実質的な改善がなされたのかが判断しにくいという考えだ。

リュ・ヒョンチョル理事長は「休業手当の最短支給期間という下限を置くのは、行政的に便利だ」としながら、「最短基準を算定しても、障害等級を決める時のように(休業手当の期間を決める)構造化された枠組みに対する工夫が必要だ」と指摘した。

ムン・ウンヨン弁護士は「民事訴訟では、労働能力の喪失率によって損害賠償率を計算することもあるが、休業手当は『就労治療が可能だ』という判断が出てくれば、『0』あるいは『100』」で、「ある被災者は、病院を月に一度あるいは六ヶ月に一度訪れるが、その場合は、事実上与えないのと同じだ」と批判した。休業手当の決定基準に根本的な解決が必要だという声だ。

資料写真/チョン・ギフン記者

2023年10月10日 毎日労働ニュース カン・イェスル記者

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