韓国の労災・安全衛生「厨房に油の煙が」揚げ物調理で肺がん・・・死亡日に労災認定 2023年06月08日 韓国の労災・安全衛生

チョ・ユンサンPD

振り返ってみると、キムチチヂミが最も難しかったという。調理師と栄養士はいつも給食調理員に「キムチチヂミは薄く焼け」と言った。給食調理員はその指示に従わざるを得なかった。熱い鉄板に数百枚のチヂミをぎゅうぎゅうと押しつけていると、指先から肩まで節々が痛んだ。

ゴム手袋の中に厚い軍手をはめていても、チヂミが焼ける鉄板の熱気が徐々に伝わってきて、手までも焼けるそうだ。熱気を冷ますために窓を少しでも開けようものなら「風で炎が安定しないからダメだ」という言葉が返ってきた。

チヂミや揚げ物がメニューにある日は、調理室には料理の煤煙が雲のように立ち込めた。もうもうとした煙には強い洗剤の臭いも混じっていた。油汚れの着いた調理器具を洗浄するために水で溶かした「薬品」の臭いだ。

このような日には早退する同僚が多かった。煤煙と薬品が混じった煙をたっぷりと吸い込んだ同僚たちは、頭が痛くて吐きそうだと言って病院へと向かった。

「がんになりそうだ」冗談だったのに・・・・

「チヂミを焼きながら冗談で言ったんです。『こんなに臭いを嗅いでいたらがんになりそうだ』、『私たちは長くは生きられないね』って。冗談でそんな話をしていたのに、本当に肺がそうなりました。」

学校給食室で25年間働いてきたAさんは、昨年3月に肺がんの判定を受け、今年5月に労災を申請した。全国17市道の教育庁が給食従事者4万2077人に対して肺検診を実施した結果、異常所見者は1万3653人に上った。このうち肺がんの疑い、あるいは肺がんと判定されたのは341人。

グラフィック/チョユンサンPD
写真/チョユンサンPD

給食従事者の肺に問題を起こした原因としては「料理ヒューム」が挙げられる。料理ヒュームとは、高温の油を使う調理で多く排出される一種の粒子状物質だ。調理で生じる粒子状物質はそれ自体が発がん物質だが、ホルムアルデヒドや多環芳香族炭化水素といった有害物質も含まれている。

国際がん研究機関は、料理ヒュームを肺がんのリスク要因に分類している。勤労福祉公団職業環境研究院のキム・デホ業務関連性評価部長(職業環境医学科専門医)は、「調理期間が長い、料理ヒュームの濃度が高い、換気設備がないなどのケースでは、肺がん発生のリスクが一貫して高いことが知られている」と話した。

料理ヒュームは学校給食室だけの問題ではない。労働環境健康研究所のイ・ユングン所長は「熱を使って食材を調理する職業は、ほとんどが(学校給食室と)同じ現象が起きていると思う」と話した。

故オ・ジョンホンさん/遺族提供

学校「外」の死の厨房

昨年5月に肺がんで亡くなったオ・ジョンホンさんは、経歴13年のベテラン料理人だった。オ・ジョンホンさんが勤めていたウェディングホールの調理室は、換気が難しい場所だった。地下にある調理室の換気設備としては扇風機と窓しかなかった。それさえもきちんと利用できていなかった。換気をすると、上の階で働く職員たちが熱気が上がってくると不平を言ったからだ。

調理室に溜まった油の煙は、丸ごと彼の体に吸収された。帰って家で服を脱いでも油の臭いは消えなかった。出勤時も、油を体に巻き付けているような感覚は同じだった。地下鉄に乗ると、なんとなく周りの人々が避けているような気がした。彼は鼻先に止まっている油の臭いを消し去りたかった。「タバコを吸えば少しはましだよ」。会社の先輩はタバコを勧めた。タバコを再び吸いはじめたのはその頃だった。

オ・ジョンホン氏が労災申請当時、調理室の業務内容を自筆で書いた事実確認書。/遺族提供

オ・ジョンホンさんは熱い油の前を離れることができなかった。職歴の浅い頃は仕方なく、ある程度の経歴を積んでからは責任感からだった。他の人たちは油で火傷をしたくないから、体に臭いが着くのがいやだから、揚げ物料理を敬遠した。「自分がやれば済むこと」と思っていたオ・ジョンホンさんは、そこで数多くの酢豚と魚のフライを作った。

数年後、これ以上油のにおいに耐えられなくなった彼は職場を離れた。しかし在職中に吸い込んだ料理の煤煙は、肺に回復できない傷を残していた。

オ・ジョンホン氏が労災申請当時、調理室の業務内容を自筆で書いた事実確認書。/遺族提供

専門家たちは、給食室だけでなく調理労働の現場の至る所に料理ヒュームのリスクが潜んでいると指摘する。国際聖母病院職業環境医学科のリュ・ジア教授は、「社会の全体の飲食業従事者の中からも、高危険群を発掘すべきだ」と話した。特に、問題が深刻だと指摘されるのは中華料理店、チキン店などの揚げ物料理を多く調理する零細な事業所だ。

嶺南大学病院予防医学教室のサ・ゴンジュン教授(職業環境医学科長)も「揚げ物料理は体に有害だが、町ごとにある中華料理店の料理長は推して知るべし」、「チキン店など(の零細事業所)に(料理ヒューム)問題を広めていかなければならない」と語った。

写真/チョユンサンPD
写真/チョユンサンPD

「排気フード」の方向を変えるだけでも

料理ヒュームのリスクはどうすれば軽減できるのだろうか。現実的にみて、料理ヒュームを完全に厨房からなくすことは不可能だ。しかし、換気設備をきちんと整えれば、調理室の労働者が料理ヒュームにできるだけ曝されないようにすることはできる。リュ・ジア教授は「職業性がんは有害因子に曝されるのを減らせば予防はできる」と強調した。

専門家たちは、換気システムの最優先の目的が「熱を外に逃がす」から「労働者の保護」へと変わらなければならないと提案する。

普通の排気フードは調理台に垂直に、労働者の頭上に設置されている。熱を効率的に排出することはできるが、料理ヒュームが労働者の鼻と口に入るような構造だ。しかし排気フードを壁に配置すれば、かなりの量の料理ヒュームを労働者の呼吸器を経ずに外へ出すことができる。昌原大学産業工学科のキム・テヒョン教授は、「できれば斜め方向に、壁側に(料理ヒュームを)向かわせれば、吸引は遙かに減る」と話した。

2023年6月8日 ハンギョレ新聞 チェ・バンソク記者

https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/1094844.html