三星化学工業職業性膀胱がん損害賠償裁判/職業性膀胱がん労災認定訴訟の動きなど・職業がんをなくそう通信28(2021.2.28)

2021年2月28日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

三星化学工業職業性膀胱がん損害賠償裁判いよいよ大詰め人証尋問

1 月27 日9 時30 分より福井地裁1 号法廷にて第9 回口頭弁論が開かれ原告本人らと証人による人証尋問が行われ25 名が傍聴しました。弁論の開始前に三星化学工業の断罪と被災者への賠償を求めた団体署名543 筆を支援する会等代表者が福井地裁に提出しました。入口で傍聴者の体温測定、手指消毒、マスク着用がされ、法廷内は半分空席、1 時間毎に休憩し扉開放換気等の対応がされました。

人証尋問は会社側証人3 名と原告本人4 名の順で行われました。会社側証人の衛生管理担当者は2006 年に行われた国のリスク調査でリスクは低いと評価されたため「一般化学物質として取り扱えば良いと考えた」と証言しました。国の報告書では曝露濃度は低いものの毒性が高いので引き続き注意してリスク評価をする必要があるとされており「一般化学物質として取り扱って良い」はずがありません。また化学物質の毒性情報が書かれたDSの管理も原料は資材課、製品は本社と管理が別で労働者に毒性情報が伝わっているかを一括管理できていなかったことも明らかになりました。続いて保護手袋の専門家である田中茂氏はゴム手袋を透過する化学物質があることを2000 年当時は産業衛生学会も含め認識が殆どなかったこと等を証言しました。原告らの曝露は圧倒的に手袋で保護された以外の皮膚や呼吸器などからのものでありそのような場合はもっと厳重な保護具が必要ではなかったかと問われ「当時の作業の様子を私は見ていないのでわからない」「手袋の話をしに来た」と答弁しました。事前に提出していた意見書では膀胱がん多発後に工場に訪れた際洗濯機もたくさんあり職業がんを発生させた工場には見えなかった(問題発生後洗濯機3 台から10 台に増やしたのであるが)と述べており当時の様子を知らないのに会社の擁護だけはするなど専門家としては非常に不誠実な姿勢と思いました。3 人目は2000 年当時工場長だった人物ですが猛暑の中での作業だったため半袖での作業を容認したこと、2000 年当時からOT の発がん性については認識していたこと、溶剤にOT が含まれていたことを定期的に分析して把握していたことなども証言しました。最後に多くの労働者が発がんするに至った原因を問われ「保護手袋からの浸透」と答弁したため原告側弁護士より「手袋以外からの曝露が厚労省報告書にも記載されそれらの状態を証言で認めていながら曝露は手袋からの浸透だと言うのですか?」と問われると長時間の沈黙・・・。それまで正直に事実に基づき円滑に証言していたのに発がんの原因についてだけは何故か「手袋」と証言し、そこを突っ込まれたら答弁不能になるのは自分の見解と違うことを証言したからに他なりません。会社側は「ゴム手袋からOT が浸透し」「そのOT ががんを発症させるなどとは知らなかった」と口裏合わせをしていたのではないかと推測されます。

午後からは原告らの尋問に入りました。まず田中氏が溶剤をたっぷり含んだ粉体を肘や腕、腰、足、膝を使って乾燥機に押し込む様子を身振り手振りで再現し身体がOT を含有する溶剤で濡れてしまうことや作業の様々な箇所での曝露の様子を証言しました。作業の途中ではシャワーに入れないこと、保護マスクのガス吸収管や手袋交換も十分でなかったこと、作業服の洗濯をする洗濯機も台数が足りなかったこと、同僚が膀胱がんを罹患していく恐怖や不安さらには自分も血尿が出て膀胱がんになってしまったことへのショック、術後の痛みや検査の不安などを証言しました。

会社側弁護士から入社後の印象を聞かれ、吊り荷の下に作業者が入るなど安全面での法違反が横行しており非常に不安があったとし、洗濯機も台数が少ないので3 日に1 回程度しか洗濯ができずその間2 着を使いまわしたこと、製品切り替えの際に乾燥機の中に入って壁にへばりついた結晶をヘラでこそぎ落とす作業をさせられ粉じんだらけになり本当に過酷で酷かったことなどを証言しました。

その他の原告についても曝露や健康診断の異常、膀胱がん発症時の恐怖、他の製品製造時にも悪心、吐き気、食事が喉を通らないなどの経験、健康障害や環境改善を訴えても対応してくれなかったこと、BCG 治療された方については治療時の発熱や痛みなど様々な曝露形態、治療と術後の痛みや恐怖・不安などが証言されました。

15 時過ぎに全ての尋問を終え進行協議となりました。尋問では会社の安全配慮義務違反が具体的に示され、また会社の言い分(保護手袋からの曝露)に無理があることが明らかにされました。次回はいよいよ結審です。会社がこれまで予防できたであろう曝露や発がんについての断罪は厳しく断罪されるべきであり、それは損害賠償額がそれに見合った金額でなければなりません。

未だ会社は劣悪な労働環境で長年就労させその結果同一事業場で11 名もの膀胱がんを発症させておきながら被災者らに正式な謝罪もせず記者会見すら開いていません。司法判断として厳しい断罪をしなければこうしたケースを予防する効果も薄らぐことでしょう。裁判官には本事件の原告だけでなく社会的影響の大きさも十分配慮した判決を下して欲しいと思います。

終始責任を認めようとしない会社に対し化学一般労組と福井県労連は東京本社・埼玉工場・福井駅周辺で広報活動を継続しています。裁判前の1 月21 日には本社及び埼玉工場周辺でのビラまきと越谷労連へのオルグ、22 日は再び本社周辺にてビラまき、1 月27 日には福井駅前で早朝宣伝を行いました。本社周辺や福井駅前での行動では支援の声をかけてくださる方々も増えてきています。

職業性膀胱がん労災認定訴訟の動き

中国で業務中アゾ染料に曝露し帰国後に膀胱がんを若年発症された方の事案の動きをお知らせします。ちょっと難しそうな化学物質名が出てくるので、ご容赦お願いします。

【1 月29 日厚労省レクチャー】

参加者:山添拓参院議員、秘書、原告、代理人弁護士2 名、支援者4 名、厚労省医薬生活衛生局医薬品審査管理課化学物質安全対策室2 名、労働基準局補償課職業病認定対策室中央職業病認定調査官、厚労事務官(筆者は参加できず)

  • 家庭用品規制法における改定(特定芳香族アミンを生成するアゾ化合物を含有する繊維製品に関する規制)の経緯については、国内においては健康被害は報告されなかったがEU と同じ基準を取ることとした。基準超えの多くは中国製品であった。2016~2019 年度の4 年間で特定芳香族アミンを生成するアゾ染料に関して、約1000 件サンプリング調査し1 件の基準超えが発見され中国製品であった。
  • アゾ染料を取り扱う業種での労災認定事例はない。昭和51 年通達(芳香族化合物のニトロ又はアミノ誘導体による疾病の認定基準について)は主として染料中間体を製造する工場が対象で申請があった場合所属部署の在籍期間や作業内容、曝露の頻度(回数、時間)、保護具(手袋やマスク等)、換気装置、作業環境等を調査する。勤務場所の環境が変わっている場合は類似の労働者の状況を見て当時の状況を推認する。社会保険等の記録も参照し就労状況を確認する。ベンジジンは昭和42 年に製造禁止されている。

などの説明がありました。中国ではGB 法による規制がされていてもベンジジンが基準超えしている製品がEU 報告では多数ありますし今回の説明で日本に輸入されていた製品にもあったことがわかりました。原告が就労していた当時も製造現場で使用されていた可能性は否定できません。また「アゾ染料を取り扱う業種での労災認定事例はない」という説明でしたが、京友禅業の職人が筆を口に入れて染料の量を調整し膀胱がんが発生した報告がありますので労災認定の事例がないというのは疑問に思いました。

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/116785/1/35_2049.pdf
(吉田先生らの報告.色素(染料)による膀胱腫瘍の発生)

また職業がん労災補償状況(平成元年度)の表も参考資料として出されましたが、ベンジジンとベータナフチルアミンによる尿路系腫瘍はここ5 年13,6,5,4,2 件とまだまだ発症が継続しており(ジアニシジンによる尿路系腫瘍も5年で2 件発生)、石綿による肺がん中皮腫は902,927,899,910,916 件と横ばい、オルトトルイジンによる膀胱がんはH 元1 件(福井県)、ジクロロプロパンとジクロロメタンによる胆管がんは1,2,2,1,6 件と予断を許しません。

【2 月18 日進行協議】

進行協議の内容を詳細にお伝えすることはできませんが援者1 名が傍聴する中、発がん物質への曝露を立証していく方向と業務曝露以外に原因が見当たらないことを立証していく方向についての整理や中国での調査についての実現性などについてやり取りが交わされています。次回4 月2 日10 時より進行協議が行われます。

上顎がんの再審査請求事案について

大阪府の建設現場で複数の現場監督に従事していた方がくしゃみ・鼻水・強い目の痛みや頭痛を訴え2013 年43 歳で上顎がんを発症し2015年に亡くなりましたが木材粉じんによるものとして労災申請したものの2019 年2 月不支給、2020 年6 月審査請求棄却、現在再審査請求に入っています。木材粉じんによる上顎がんはIARCではグループ1(人に対する発がん性がある)に分類されていますが日本国内では認定事例はありません。当初公開審理を本年1 月14 日行うと連絡が来ましたが新型コロナ感染拡大下では出席が難しいため期日の再設定を求め5 月27 日となりました。但し今後の感染状況を見ながらということになります。

2 月24 日20 時よりWeb 会議で専門家、弁護士、医師、大阪職業病対策連絡会、患者と家族の会等のメンバーで打ち合わせを実施しています。職場環境については監督署調査官が本人からの聞き取りを行う前に亡くなってしまっていることから改めて当時の働き方(複数現場を受け持ち深夜まで働いていたこと、常時鼻水が出ていたこと等)をまとめること、作業現場のビデオ映像があるので活用の仕方を検討すること、国側専門家の意見書への反論などの準備をしていくことが確認されました。

木材粉じんはセルロース、多糖類、リグニンのほか様々な種類の有機化合物を含み合板の裁断では接着剤、防腐剤、表面コーティング材に含まれるホルムアルデヒド、フェノール類の化学物質のほか真菌等の微生物も含まれます。1970 年代から1996 年まではクロム銅ヒ素系防腐剤(CCA)などの有害物質が混入していた時期がありました。建設労働者の上顎がんの発症率が高いことを伺ったことがありますが、10 万人あたり数名の極めて稀ながんであることから職業がんであることが見過ごされてしまっています。

(参考文献)

北原照代,垰田和史,柴田英治,毛利一平(2017)木材粉じん及びホルムアルデヒド等の有害物質曝露との関連が疑われる上顎洞がん事例,59(1):23-28
https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/000678662.pdf
(業務上疾病に関する医学的知見の収集に係る調査研究報告書.木材粉じんによるがん)

ガラス繊維による気管支喘息事案

実験室などで使うマントルヒーター(図)を製造する大阪にある現場でガラスクロスを裁断し縫製する作業でガラス繊維粉じんを吸引し喘息症状を発症した女性の事案については労災不支給決定がされ現在審査請求段階です。

(マントルヒーター:学生時代使った方も多いのでは?)


この会社は女性社員には作業服を支給せずマスクや保護手袋も満足なものを支給しませんでした。ガラスクロスをハサミで裁断すると細かいガラス繊維の粉じんが舞い上がり、作業者の女性は皆咳をしており飴を舐めると良いとか体内で溶けるから呑み込めば良いなどおよそまともな衛生教育を受けないまま作業を続けていました。局所排気装置もなく作業中は換気扇のスイッチを切り室内を無風状態にしていたそうです。私服にガラス繊維が刺さるのは困るので自前の割烹着で作業をしていたのですが胸についてる黒猫のアップリケは細かいガラス繊維が無数に刺さっていました。実物を見ると割烹着のあちこちに繊維が刺さっているのがわかりますが証拠では写真のコピーを添付しただけなので局医らは曝露の酷さがわからなかったと思います。同期に入社した女性も辞めていきましたが我慢して作業を継続したもののついに吐き気や喘息症状で作業ができなくなり労働相談に至りました。通院もせず飴を舐めて我慢してきたため症状の経過の記録がありません。大阪社会医学研究所の中村先生に見ていただき作業の中止と療養が必要と診断書をもらいようやく職場から離れることができました。職場から離れることにより症状は好転していきますが、喘息症状を示す検査結果が残らずこのことが労災認定の壁になってしまいました。

また暫くして退職することになったのですが会社は彼女の退職後に職場の環境測定を行い作業環境は問題ないと報告がされました。

1 月26 日私たちは実際に使用されていたガラスクロスを全種類裁断しガラス繊維の粉じんが飛散する様子をビデオカメラで撮影し、ガラスクロスの種類によって粉じんの量や飛散の様子が違っていることを映像と一覧表で示し追加意見書として提出しました。会社が行った環境測定はどのガラスクロスを用いたのか書かれておらずA 測定1時間、B 測定10 分間と極めて短時間でのものでした。私たちが裁断した際にはマスクと手袋を装着しましたが裁断した方は眼や喉に痛みや違和感を感じ暫く洗顔・うがいを繰り返しました。飛散する様子は目視でも十分確認できこのような作業を長時間行えば相当の曝露を受けてしまうことがわかりました。

現在審査は参与会での検討段階とのことでしたが1 月29 日大阪労働局に出向き審査官に映像と意見書を持参し粉じんの飛散と曝露の様子を訴えました。

さて、ガラス繊維の裁断作業は粉じん障害防止規則でいくつかの規制を受け1993 年厚労省から出された指針でも「石綿にかわる安全な繊維」と認識され十分な労働衛生管理ができていない現状があるとし、眼や皮膚等への健康障害だけでなくがん原性を示すものもあり今後は指針の周知を図り各事業場において健康障害防止対策を実施するよう記されています。

当該事業場は粉じん障害防止規則の健康障害防止に関する事業者の責務、換気の実施、休憩設備の設置に違反し、指針の労働者の呼吸器、眼、皮膚等の健康障害の防止、健康診断の実施、局所排気装置等の設置、休憩設備および除じん装置の設置、立ち入り禁止措置、洗顔洗身うがい設備および更衣洗濯設備の設置、喫煙飲食の禁止措置、保護眼鏡や作業専用保護衣の使用、作業標準の作成、粉じん飛散防止および換気方法・保護具の使用方法・ガラス繊維の有害性に関する衛生教育の実施に違反しています。

これだけ違反をし健康障害を発生させ被災者が労災認定されないのでは法や指針の価値が問われてしまうでしょう。