学校・教員アスベスト被害裁判-専門学校教員Aさん中皮腫公務外認定取消し訴訟第一回弁論/東京地裁
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東京地裁第一回弁論開かれる(2020/10/22)
山梨県立甲府技能専門学校の電気工事科教員Aさんが胸膜中皮腫に罹患し死亡した原因は業務でばく露したアスベスト(石綿)原因だとして地方公務員災害補償基金(以下、基金)に認定請求したもの公務外とされた。
その後審査請求、再審査請求と棄却となったためAさんのご遺族は公務外認定処分の取消を求めて裁判に踏み切った。
原告代理人福田護・山岡遥平両弁護士(神奈川総合法律事務所)。
神奈川労災職業病センター、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会などが支援に立ち上がった。
2020年4月10日に東京地方裁判所に提訴、10月22日、第一回弁論が開かれた。
※本件裁判の事務局は神奈川労災職業病センターであるので、お問合せは同センターまで。
職業訓練行う山梨県立甲府技能専門学校・電気工事科教員
1981年まで8年間、山梨県立甲府技能専門学校において電気工事指導教員を勤めた。
同校は電気工事科など各種科目がある。生産現場つまりは工事現場でも実技を習う。「応用実技」である。電気工事科を修了すれば「電気工事士」資格が付与される。技能者、技術者を育成するいわゆる職業訓練学校である。
Aさんは1986年11月に胸部に症状が発現、翌年2月山梨大学医学部附属病院に入院、悪性胸膜中皮腫と診断された。そして,その年の9月。妻と2子を残し帰らぬ人となった。享年38歳。
実習でのアスベストばく露
「応用実技」は県立学校など様々な公共施設等の建設現場だった。建設現場に行けば、アスベスト建材起源の間接ばく露は避けられないのは常識である。卒業アルバムの授業風景写真にはそうした模様が撮影されている。まさに、建設現場の電気配線工事そのものである。
実技授業中における、吹き付け石綿飛散、天井裏などでの電気配線作業、周辺でのアスベスト含有建材の加工作業などからの間接、直接のアスベストばく露があったことは疑いようもない。実技実施現場の設計図面関係にも裏付け証拠もみつかっている。
またカルテには、Aさんの問診記録に、講義中に使用した材料がアスベスト含有であったことや実習でのばく露にかんする内容が記載されているのである。Aさんは教員らしくアスベストに関する知識を有していたのであって、本人の聴取ができないまま死亡している状況では、カルテの問診記録は重要な証拠となる。
勤務先学校での建物アスベストばく露も
その道のプロである中皮腫・じん肺・アスベストセンターの永倉冬史氏が、勤務先の学校の設計図書に関する情報公開請求により入手した開示資料に基づく、調査を実地に行ったところ、Aさんが勤務中に出入りしていた建物に青石綿(トムレックス)吹付けが存在している可能性が非常に高いことが明らかになっている。
「認定基準」に違反する基金を正す裁判
Aさんの公務災害請求対する基金が2017年1月に公務外認定した理由は、次の通りである。
①潜伏期間が14年と非常に短い
②濃度の濃い状態で石綿を大量に吸ったとは考えにくい
③実習先の建物の吹付石綿除去工事(2007~08年)の際の石綿濃度測定は管理濃度の基準値を下回っている
これらは労災認定基準に基づかない、独自の判断要件を適用している。
つまり 、基金自身がそもそも『石綿による疾病の公務災害の認定については、労災認定基準に準じて判断する』としているのであるから、本件はその認定基準に自ら違反した判断を行ったということである。
このような、基金自身が定めた認定基準に違背した、きわめて恣意的な公務上外判断が基金において行われている疑いが極めて濃厚なのである。
教員のアスベスト被害は多数発生している(『石綿健康被害救済制度における平成18~30年度被認定者に関するばく露状況調査報告書』の職業分類「教員」は200人超)であるが、公務災害として認定されたのは数件に留まっているのであるから、Aさんの公務外認定処分に示されている基金の「姿勢」が、教員アスベスト被害という事実を闇に葬るためのものだともいえるのである。
Aさんの裁判は、教員アスベスト被害に対する基金のきわめて制限的な認定姿勢を正すための取組である。今後の成り行きが極めて注目されている。
以上つまり、この際、よく言われる「学校アスベスト問題」は、まずは、教員アスベスト問題であるということを強調しておきたいのである。