職業がんをなくそう通信15/MOCAによる膀胱がん・35条専門検討会・京都胆管がん会見ほか

2018年10月31日
職業がんをなくす患者と家族の会https://ocupcanc.grupo.jp/

MOCA による膀胱がん被害/膀胱がん発症者の調査結果発表される

9 月 28 日衆議院第 1 議員会館第 7 会議室にて厚労省要請を実施したことを先月号で紹介しましたが、その後、厚労省労働基準局安全衛生部労働衛生課長と化学物質対策課長より10 月 19 日付けで都道府県労働基準部長及び関係団体(一般社団法人日本化学工業協会、化成品工業協会、日本ウレタン建材工業会、ウレタン原料工業会、全国防水工事業協会、建設業労働災害防止協会)の長宛てに、MOCAによる健康障害の防止対策を徹底するよう通達及び要請(基安労発1019、基安化発 1019)が出されました。

具体的には管内の関係事業者団体、MOCA 取扱事業者に対する周知を徹底することと共に必要に応じて指導を行うこととされています。現在も MOCA の製造・取扱いを行っている事業場には①特化則に基づくばく露防止措置等の徹底②特化則に基づく健康管理の徹底③特化則に基づく記録の保存期間の延長④当面米国労働安全衛生庁(OSHA)が示す作業環境測定の併用を求めています。

7 事業場17名に膀胱がんが発症

2015 年 12 月福井県にある三星化学工業で膀胱がんの多発が明らかになり、厚労省がオルトトルイジンの取扱いがあった全国事業場で調査を進めたところイハラケミカルにおいて 7 名が膀胱がんを発症しておりうち 5 名がMOCA の取扱歴があるということが判明し 16 年 9 月報道発表しました。

今回は労基署が MOCA 取扱事業場に対して聞き取りを行い MOCA の取扱歴がありかつ膀胱がんの病歴がある労働者(退職者を含む)の人数について調査を実施したものが報告されています。

それによりますと、調査実施事業場数 538、膀胱がんの病歴があるものについては、7 事業場 17 名(在職者5 名退職者12 名)となっています(全て製造業)。また発症時の年齢は、40 ~ 49 歳 1 名、50 ~ 59 歳 4 名、60 ~69 歳 10 名、70 ~ 79 歳 1 名、80 歳以上 1 名で全て男性となっています。

17 名も発症していて労災申請が 1 件もない

10 月 19 日の発表を受け毎日新聞が詳しく報じ各報道機関もこの問題を取り上げ全国的な記事にもなりました。それによれば厚労省関係者は発症者らに労災制度を周知するよう会社側に要請してきたが現時点で労災補償請求が 1 件もないため本人や遺族に労災制度の仕組みや手続きを直接知らせる方向で検討していると報じられていますが、請求が 1 件もないのは厚労省が労災補償請求の説明や手続きを会社任せにしたことが招いた結果です。

9 月 28 日要請行動の場において三星化学工業での膀胱がん発症者で職業がんをなくす患者と家族の会田中康博代表が「そのようなやり方ではいつまで待っても請求は出てこない」「私は会社から労災申請しないよう圧力を受けた」と訴え、参加者からも「厚労省が労災隠しを見逃している」「労災申請がないから認定や規制、健康管理手帳発行など全ての遅れに繋がっている」と追及したことで厚労省が直接本人に知らせるよう動き出したというのが実態です。

11 月には静岡労働局に対し具体的に労災申請の手続きを進めているか聞き取りを実施する予定で静岡いのけんセンターに調整して頂いているところです。

化学工場 ぼうこうがん17人
全国7事業所で モカ製造従事

ウレタン防水材などの原料に使われ、発がん性がある化学物物質MOCA〔モカ)」を製造するなどしていた全国7カ所の事業所で、モカの取り扱い作業歴のある労働者と退職者計17人がぼうこうがんを発症していたことが、厚生労働省の調査で明らかになった。同省は各労働局や業界団体に改めて注意を促す通知を出すとともに、発症者が集中している事業所の従業員らに労災制度の案内に乗り出す方向で検討を始めた。【大久保昂】

2016年に静岡県富士市にある旧イハラケミカル工業(現クミアイ化学工業)静岡工場で、モカ製造に関わった労働者5人がぼうこうがんを発症していたことが発覚。これを受け、厚労省は各労働局に対し、他の事業所でも同様の事例を確認した場合は報告するよう求め、今月19日までに把握した事例を集計した。
この結果、全国6カ所の事業所で計8人のぼうこうがん発症者が出ていたことが判明した。全員にモカ取り扱いの作業歴があったほか、旧イハラケミカル静岡工場でも新たに4人が確認され、モカに絡んだ発症者は計17人にまで広かった。複数の専門家によると、同工場での発症率は不自然に高いという。
厚労省によると、発症年齢は60代が10人と最も多く、12人が退職した後だった。労働安全衛生法に基づく省令では、モカを扱った労働者のがん予防や早期発見などのため、半年ごとに特別な健康診断を受けさせることを事業者に義務づけているが、退職すると健診対象から外れる。
ぼうこうがんの多発とモカとの関連性を調べている労働安全衛生総合研究所の甲田茂樹所長代理(労働衛生学)は「長い時間がたってから発症する例が目立つ。発症のメカニズムを解明しないとはっきりは言えないが、退職後も健康状態を把握する仕組みが必要かもしれない」と指摘する。
厚労省の関係者にょると、発症者らに対して労災制度を周知するよう事業所側に要請してきたが、現時点でモカによる労災補償請求は1件もない。このため、厚労省は労働者本人や遺族に労災制度の仕組みや手続きを直接知らせる方向で検討し、同省補償課は「やり方や時期を慎重に考えたい」としている。

MOCA(モカ)
主にウレタン樹脂を固める硬化剤に使われる化合物,世界俣健機関(WHO)の下部組織の国際がん研究機関は2010年、人に発がん性があると認定した。厚生労働省によると、取り扱い作業歴のある労働者(退職者は除く)は国内で3700人を超える。

毎日新聞 2018年10月25日

35 条専門検討会が開催される/オルトトルイジンが職業がんリストへ

労基法施行規則第 35 条とはいわゆる職業病リストを明示するもので、35 条専門検討会とはその検討を行う委員会です。10 月 16日に開催された専門検討会の検討対象とする疾病にオルトトルイジンによる膀胱がん
があり、2016 年 12 月三星化学工業で多発した膀胱がんの業務上外に関する検討会報告書が資料で添付されています。

この 35 条専門検討会で検討対象になれば全てリストに載るかといえば決してそうではありませんが、オルトトルイジンに関しては国内で膀胱がんが集団発生している点や国際的な発がん分類において人に対する発
がんの証拠が十分であるとされている点などを踏まえれば、35 条別表に記載され、健康管理手帳の発行がされるのではないかと推測されます。

京都胆管がん労災認定記者会見

10 月 18 日 14 時京都府政記者クラブ別室にて、大日本印刷において印刷業務に従事した元労働者が労災認定された事案に関し、当該ご家族・同僚元労働者・京都職業病対策連絡会・職業がんをなくす患者と家族の
会が記者会見をしました。

被災者は京都市在住 60 代男性、昭和 44年より昭和 63 年 9 月まで印刷業務・エンボス加工業務に従事し(それ以降は平成 27 年まで事務作業)、ばく露期間は約 13 年 9 ヶ月、発病までの潜伏期間が41年7か月であったことなどを説明しました。

特徴としては、ジクロロメタンへの単独ばく露での認定であること、校正印刷ではなく通常印刷業務であったこと、同様な作業に従事した労働者が相当数いるであろうこと、約 40 年という比較的長い潜伏期間であったこと、ジクロロメタンを含有するスケルトンという剥離剤を使用していたことなどが上げられます。

京都新聞はかなりの紙面を割いて取り上げ他紙もデジタルニュース等で報じました。少しでも職業がんの掘り起こしに役立てればとご本人・ご家族が頑張りました。

会見後、同僚元労働者の方に当時のお話を伺 うことができました。昔は床の洗浄でスケルトンを使用する際汚れを書き落とすのにへラなどでは作業が進まないので袖でやっていたとか、同僚で黄疸症状が出て休んだまま来社しなくなった人もいたとか酷い状況だったとのことでした。

この問題は認定されたから終わりではなく、同様な作業に従事した方々にリスクを伝え早期発見の検診体制を確立させることが求められています。

化学物質原因、胆管がん発症で労災認定 大日本印刷工場で勤務

大日本印刷(本社・東京都)と関連会社の京都工場(京都市右京区)で、印刷機の洗浄業務などに従事した際に使用した有機溶剤の化学物質が原因で胆管がんを発症したとして、京都上労働基準監督署が、京都市右京区の60代の元従業員男性を労災認定していたことが分かった。18日、男性の家族と支援団体が同市内で記者会見して明らかにした。

印刷会社従業員の胆管がんを巡っては、大阪市の会社で発症が相次いだことが発覚した2012年に問題化。厚生労働省によると、12~17年度で14都道府県の計42人が労災認定された。府内にある印刷関連事業所の従業員の胆管がんが労災認定されるのは2例目とみられる。

男性の認定は4月11日付。男性は京都工場で1969年3月~88年9月、印刷や加工の現場作業に従事した。インク汚れなどを落とすため、発がん性が指摘される化学物質「ジクロロメタン」を含有する有機溶剤「スケルトン」(商品名)を使用した。

防毒マスクの装着はなく、胆管がんの労災認定に関する同省の専門家検討会は、ジクロロメタンに繰り返しさらされた期間が75年1月力、らの約13年9カ月間に及ぶと推定。男性は退職後の2016年8月に胆管がんと診断されたが、他に発症の危険因子は確認されず、検討会は「ジクロロメタンに長期間、高濃度でさらされたことが原因で発症した蓋然(がいぜん)性が極めて高い」と結論づけた。

大日本印刷広報室は取材に対し、「認定は重く受け止めている。調査には全面的に協力してきた」とした。同社では2013年から、グループ会社も含めて胆管がんの原因物質を含んだ製品の使用を全面的に禁止したという。

京都新聞(デジタル)2018年10月18日

職業性膀胱がんと企業補償/企業内補償協定の実態とは

かつてベンジジン等を製造していた化学会社では職業性膀胱がん患者を相当数出しており、治療や早期発見のための検診体制の確立、発症者への補償などをしてきたはずですが、労働組合が補償まで書かれた労働協約を会社と締結している例は極めて稀であるのが実態です。

合化労連があった 1980年代に職業性膀胱がん問題を抱える労組が集まりベンジジン共闘会議が開催されてい
ましたが、現在は患者の発生状況に関する報告会に留まりそれぞれの協約の中身に関する議論には入れない状態が続いています。

検査や治療、手術の種類による補償が具体的に書かれた協約を労使で締結していれば患者への負担は大幅に軽減されます。肉体的精神的経済的苦痛や負担に対し患者がその都度会社と交渉するのは気苦労が多いですし混乱も招きます。また発がんするのは会社を退職してからが多いですから本当に不安で心細くなってしまいます。

化学一般には職業性膀胱がんの補償まで包括した協約を持っている労組が一つだけあり内容も大変優れたものです。今月は徳島と京都に出向き学習会をしてきました。福井の三星化学の裁判を見ると労組はやっぱりしっかりした協約を結ぶことが重要だと痛感します。