アスベスト指令・化学的因子指令見直しの意見-欧州労働組合連合(ETUC) 2021.2.9

労働における化学的因子及びアスベストへの曝露に関連したリスクからの労働者の保護に関する、欧州連合運営条約第154条に基づく社会パートナーとの協議の第1段階に対するETUCの対応

2021年2月9日の執行委員会で採択

欧州労働組合連合(ETUC)は、労働における化学的因子に関連したリスクからの労働者の安全衛生の保護に関する指令98/24/EC(化学的因子指令またはCAD)及び労働におけるアスベストへの曝露に関連したリスクからの労働者の保護に関する指令2009/148/EC(労働におけるアスベスト指令またはAMD)の双方を改訂する欧州委員会の意向を歓迎する。

改訂の目的は、指令の妥当性及び有効性を改善することである。これは、CADにおけるジイソシアネートの義務的職業限界値と生物学的限界値の確立または見直し、及びAWDにおけるアスベストについての義務的限界値の見直しによってなされれるだろう。

社会政策領域における提案を提出する前に、欧州委員会は、欧州連合の行動の必要性及び可能な方向に関して、経営者及び労働組合と協議しなければならない(TFEU[欧州連合運営条約]第154(2)条)。

欧州委員会は社会パートナーに対して、2020年12月17日付けのその協議文書C(2020)8944 finalに関連した以下の質問に回答するよう求めた。

(1)上述した諸問題に同意するか?
(2)それらは的確かつ十分にカバーされているか?
(3)そうであるとしたら、EUがこの問題に法的拘束力をもつ文書によって対処すべきであると考えるか?
(4)この協議で確認されたいずれかの問題に関して、TFEU第155条に基づく対話を開始したいと考えるか?

ETUCはそれゆえ喜んでこの第1段階協議に貢献したい。質問(1)及び(3)に対してETUCは、欧州連合は加盟国を拘束する新たな立法イニシアティブをとらなければならないという意見である。これは、労働者の安全と健康に対する、鉛と鉛化合物、ジイソシアネート及びアスベストへの曝露の有害影響を低減するだろう。

TFEU第155条に基づいて提供される社会対話手続の枠組みのなかでCADの改訂及びAWDの改訂を望むかどうかに関する質問(4)に対して、ETUCは社会対話に全面的に関与するが、これらの問題に対しては拘束力のあるEUの立法行動が必要であると考えており、またそれゆえ条約に基づいたEUレベルにおける使用者団体との交渉を開始する必要はないと考える。しかし、これは、問題を使用者と議論することや、有毒で生殖に影響を与える物質への曝露のリスクから労働者を保護するための最良の法的文書、またはEUレベルにおいて閾値のない物質の限界値に対して用いるべき新たな方法論の必要性などの問題に関する立場の一致を追求することを排除するものではない。

ETUCは、有害な化学物質の根絶または安全な代替物質への代替が最良の予防対策であることを想起する。ETUCはまた、化学物質への職場曝露に関連した健康リスクの調査研究において、女性労働者が非常に過小評価されていることを強調する。同様に、多数の女性労働者が行っている仕事に対する誤った思い込みが、彼女らの健康と安全を見過ごしている可能性がある。それゆえ、委員会が、化学的リスクからの労働者の保護を改善するために、今回及び将来のイニシアティブにおいてジェンダー差に関する特別の焦点を含めることが不可欠である。労働者は労働においてしばしば有害物質のカクテル[混合物]に曝露していることから、複合曝露も考慮されるべきである。

質問(3)に対するETUCの回答は、物質ごとに具体的であり、また、委員会によって確認された諸問題を以下の観察及び要求で補完するものである。

1. 鉛と鉛化合物

鉛と鉛化合物は、人の健康と環境の双方にとって有害な物質のグループと広くみなされている。それらは人の生殖にとって有害な物質(生殖カテゴリー1A)に分類されている。それらは現在CADの対象に含まれており、健康診断を実施する使用者への義務的要求事項によって補足される、義務的職業曝露限界(BOEL)と義務的生物学的曝露限界(BLV)が設定されている唯一の物質である。これらのEUの限界値(鉛として150µg/m3と血中鉛700µg/L)は、1980年代初めに決定されたもので、それ以来更新されていない。

過去数十年間ETUCは欧州委員会に対して、これらの値を改訂するよう繰り返し要求してきた。とりわけ最新の科学的・技術的発展及びいくつかのEU加盟国におけるより保護的な限界値の採用を踏まえて、2019年3月に欧州委員会はついに欧州化学物質機関のリスクアセスメント委員会(RAC/ECHA)に対して、鉛とその化合物についての現行の限界値の評価を求めた。

1.1 無防備なBLVによる労働における女性の差別

2020年6月に採択したその意見のなかでRAC/ECHAは、CADのもとで鉛として4µg/m3というBOELと血中鉛150µg/LというBLVの双方の値が採用されるべきであると勧告した。このBLVは、鉛とその無機化合物に曝露する労働者を鉛の慢性毒性から保護することを意味している。RAC/ECHAはまた、提案する鉛についてのBLVが出産可能年齢の女性の子孫を保護しないことから、生殖能力のある女性の職場における鉛への曝露は回避または最小限にすべきであることを指摘した、定性的声明をCADに追加することも提案した。

ETUCはそれゆえ欧州委員会に対して、提案された職場における女性についてのBLVは本質的に差別的であることを警告する。それがCADに採用されるとしたら、このBLVはまさに、女性が鉛とその化合物に曝露する可能性がある職場では女性を雇うことができないという状況を生み出すことになるだろう。使用者はあらゆるリスクまたは責任を回避したいと思うだろう。これは、EU法及び職場における男女間の平等な待遇と無差別に反することになる(TFEU第263条)。

欧州司法裁判所における訴訟のリスクを回避するために、ETUCは、人の健康の高いレベルの保護及び労働における男女間の平等な待遇を保証するようなBLVの採用を勧告する。

1.2 CADは「生殖毒性」から職場の男女を保護するのに不十分である。

鉛化合物は明らかに、職場に広く存在する生殖に有毒かつ否定的影響(「生殖毒性」として知られる)を与える唯一の物質ではない。ビスフェノールA、フタレート、非プロトン性溶媒など、その他多くのものがある。EU加盟国で約200万の労働者が、少なくともひとつの生殖に否定的影響を与える有毒物質に職場で曝露していると推計されている。

現在、そのような物質から労働者を保護するうえで、法令はきわめて脆弱である。それはCAD及び妊娠労働者指令(92/85/EEC)の一般条項に限られている。両指令は深刻な抜け穴を示している。

妊娠中の労働者、最近出産したまたは授乳中の労働者の保護に関する指令は、予防に関して一貫していない。曝露を回避する対策は、労働者がその使用者に妊娠していることを知らせるまでとられるべきことになっておらず、それは妊娠10週目あたりで生じる。しかし、妊娠の早い週に間における生殖毒性への曝露が、流産または先天性障害の相対的に高いリスクにつながる可能性がある。指令のなかで勧告されているような、職務転換または休職する可能性は、こうしたリスクを予防するには遅すぎる。

CADはまた労働者に適切な保護を提供するのに不足している。同指令は、生殖毒性物質に関する何らかの特別の条項を規定することなく、職場で製造または使用されるすべての有害な化学物質を対象にしている。それは使用者にリスクを根絶または最小限に低減することを要求するとともに、義務的または指針的職業曝露限界値を設定する対象を設定している。CADのもとで義務的限界値が設定されている唯一の物質グループは、上述したとおり、鉛とその化合物だけである。いくつかのEU加盟国はいまも稼働中の[鉛]鉱山をもっており、鉛の重要な供給者である。多くの鉱山労働者は、自らが曝露するリスクについて知っているとは限らない非EU労働者であることから、彼らがEU労働者と同じレベルの保護、訓練及び健康診断の資格があることがとりわけ重要である。

CADのもとでの指針的OELs(IOELs)は現在、150の有害物質を対象としており、そのうち生殖に対して毒性のものは11だけである。これら11のIOELsのなかで、いくつかは労働者を保護するのに不十分であると考えられれており、労働において広く使用されているこれらの生殖毒性物質への曝露に対処するのに、REACHのもとで採用された別の制限が適用されている(ビスフェノールA、フタレート、非プロトン性溶媒)。

1.3 CMDの対象への生殖毒性物質の包含

ETUCはそれゆえ、カテゴリー1A/1Bとしての分類のEUの基準を満たす生殖毒性物質はCADの対象から除いて、発がん物質及び変異原性物質指令(CMD)の対象にすべきという意見である。これは現在のOSHシステムを強化するとともに、EUレベルにおける法的一貫性とよりよい整合性をもたらすだろう。CMDのもとでの限界値は常に義務的であり、またたとえ労働者の曝露レベルが限界値以下だったとしても、なお技術的に可能な限りこのレベルを下げる義務がある。CMDはそれゆえ、職場における曝露レベルを低減することについて、CADよりも厳しい。これは、労働に存在する主要な生殖毒性物質が非閾値物質であることから(例えば、鉛は非閾値神経毒性、ビスフェノールとフタレートは内分泌かく乱物質でもある)、とりわけ重要である。

加えて、生殖毒性物質は、REACH規則による高懸念物質である。それらをCMDの対象に含めることはそれゆえ、発がん物質(C)、変異原性物質(M)だけでなく生殖毒性物質(R)も同じカテゴリーのなかで取り扱われる、REACH及び化学物質に関するその他のEU法令(農薬、殺生物剤、化粧品規則等)と一致することになるだろう。化学物質に関する他のEU法令とのこの整合性は規制の簡素化であるとともに、様々な法令間の相乗効果を改善するだろう。

最後に、EUの労働力の46%を代表する7つの欧州加盟国(オーストリア、ベルギー、チェコ共和国、フィンランド、フランス、ドイツ及びスウェーデン)がすでに、CMDを国の法令に転置するにあたって、CMDの対象を生殖に否定的影響を与える物質に拡張している。

ETUCは欧州委員会に対して、CMDの第4次改訂に関する進行中の議論のなかで、生殖毒性物質をCMDの対象に含めることによって、生殖毒性への曝露のリスクから労働者を保護する最良の法的文書に関する長年の議論を終わらせるよう主張する。

2. ジイソシアネート

ジイソシアネートは、ポリウレタンフォーム、プラスチック、塗料、ワニス、二液性塗料、接着剤等の製造工程で広く使用されている化学物質である。それらは呼吸器感作物質であり(すなわち、職業性喘息を誘発し、呼吸系に不可逆性のアレルギー反応を引き起こす可能性がある)、また、皮膚感作物質である(すなわち、皮膚に接触した後にアレルギー反応を誘発する)。ジイソシアネートは非閾値物質と考えられており、それはいかなる職業曝露にも職業性喘息を発症させるリスクを伴うだろうということを意味している(曝露が低いほど喘息発祥のリスクは低い)。

現在、ジイソシアネートについてEUの義務的OELはなく、様々な加盟国がこれらの物質について独自のOELsを設定しつつある。

ETUCはそれゆえ、EU全体においてジイソシアネートへ曝露する労働者の保護についての最低限の要求事項を確保するために、義務的なEUのOELが必要だという意見である。

2020年6月に採択されたジイソシアネートに関するその意見のなかでRAC/ECHAは、様々な過剰リスクレベルを伴なった曝露がOELを導き出す基礎を形成することができることを示唆している。これは感作物質についてEUの義務的限界値が設定される初めてのことであることから、ETUCは、どの曝露レベルでOELを設定するか決定するために、ジイソシアネートに曝露する労働者において許容可能な職業性喘息を発症させる過剰リスクレベルに関する事前の決定がなされるべきであると考える(すなわち、OEL濃度でジイソシアネートに1日8時間曝露した場合に、統計的に職業性喘息を発症するであろう労働者の割合)。労働者にとって許容可能なリスクレベルは、科学的団体によって決定することできず、それができるのは政治的決定からのみである。

ETUCは、この問題が、労働者、使用者と政府を代表する、三者構成の労働安全衛生に関するEU諮問委員会(ACSH)において議論及び合意されることを要求する。

3. アスベスト

アスベストは肺がんと中皮腫によりEUで毎年少なくとも47,000の人々を殺しており-また、今後数十年間にわたってそうし続けるだろう。アスベストの製造、上市及び使用はEUでは2005年以降禁止されているものの、アスベストはいまもなお多くの欧州の建物や鉱山の岩盤に存在し続けており、何百万もの欧州労働者にとって重大な安全衛生上の脅威である。世界の別の場所では、アスベストが製造及び使用され続けている。ETUCは欧州委員会に対して、アスベストの世界的禁止のために活動するよう要求してきた。アスベストは閾値のない発がん物質であり、それはあらゆるレベルの曝露は、たとえ低レベルであっても、がんを引き起こすリスクをもたらすことを意味している。欧州グリーンディールと欧州リノベーションウェーブの採択にともない、数百万の建物が補修、改築または解体されることが予測されている。建設部門における全世代の労働者のアスベストに曝露するリスクが増大するだろう。

建設業はEUで3番目に大きい部門であり、自営業者の大きな部分を含め、国境を越えた労働者の10%の割合を占めている。低賃金諸国の臨時雇い労働者の割合がきわめて高い。こうした労働者はとりわけ安全衛生基準違反に対して脆弱である。労働者はこの致死的繊維の危険性に気づいていないこともしばしばあり、また多くの国で必要な注意喚起、訓練や安全対策を欠いている。改築または解体作業中のアスベスト繊維への曝露によって引き起こされるがんは潜伏期間が長く、そのことがリスクにさらされる者が健康上の脅威を過少推計する理由のひとつになっている。
労働におけるアスベスト条約(AWD)第22条にしたがって報告された各国の実施報告から、委員会は以下の結論を導き出している。

  • 同等の職場において、適用されるOEL[職業曝露限界]について加盟国の間に著しい差があり、いくつかの加盟国は非常に厳しいOELを採用している。
  • アスベストの登録と管理、すなわち特別な監視措置の適用はもちろん、建物内のアスベストの存在の義務的確認に関して、いくつかの加盟国はより厳格な措置を採用している
  • いくつかの加盟国では、化学的健康リスクアセスメントに基づいて、解体についての追加的要求事項やアスベストに関する危険事象が生じた場合の特別の報告など、追加的な措置が導入されている。

ETUCは、EUの安全衛生基準を強化して、アスベスト含有物質に関わって働くまたは接触する可能性のある労働者がEU全体で完全に保護されているようにするために、労働におけるアスベスト指令(AWD)[に関する議論]を再開する委員会の意向を歓迎する。大きく及び最新の科学的知見と技術的進展に沿ってOELを引き下げることは、この点で重要である。しかし、「建物のアスベストの管理とその安全な除去」が欧州連合の活動にとって重要な課題であるべきであると委員会が正しく指摘してはいるものの、OELだけに焦点をあてることは諸課題に対応するにはあまりにも狭すぎるアプローチである。多くの加盟国がすでにアスベストの登録と管理についてより厳しい措置を採用し、アスベストに関わる様々な種類の作業に追加的な措置を導入している事実は、すべての労働者の効果的な保護のために可能な最高レベルに到達するようにEUの最低基準を改善することができるし、しなければならないことを示している。

このような理由から、ETUCは、現在と将来において、労働者(及び建物やインフラの居住者と利用者)を守るために、EUにおけるすべてのアスベストの安全な除去のための包括的戦略を要求する。包括的戦略は、OEL、すべてのアスベスト関連疾患の認定・補償(3.2)及び部分的にはTFEU[欧州連合運営条約]第153条の範囲を越える追加的諸措置(3.3)を含めて、労働におけるアスベスト条約の改訂(3.1)に焦点をあてるべきである。EUにはこれを最後にきっぱりと、欧州の建築環境からこの危険な発がん物質を安全に除去するチャンスがある。EUがいまこの機会を利用して、グリーンディール、リノベーションウェーブ及びリカバリーストラテジーによって提供された相乗効果の機会を活用しなければ、致死的なアスベストの遺産が次の世代の労働者、居住者や建物利用者に引き継がれてしまうだろう。

それゆえ、AWDの改訂に加えて、ETUCは欧州委員会に対して、EUにおけるすべてのアスベストの除去のための包括的戦略を提示するよう要求する。これには、国のアスベスト除去計画のための欧州枠組み、アスベストの調査と登録、(社会的公正移行の精神で、また不安全な違法除去を防止するための)建物所有者に対する最終支援、労働監督の強化、及びアスベストを循環経済から締め出し続ける戦略が含まれるべきである。ETUCは、この発がん物質がさらなる被害者をつくらなくなるのは、包括的で調整・統合された戦略によってアスベスト問題が対処されたときだけであると確信している。これはまた、欧州がん撲滅計画、すべての既存アスベストを根絶するためのアスベスト関連労働衛生脅威と見通しに関する2013年欧州議会決議[2013年5月号]、EUをアスベスト・フリーにすること(2015年)[2015年10月号]及びエネルギーリノベーションにおけるアスベスト関連作業(2019年)に関する欧州経済社会委員会の意見にも沿ったものでもある。

3.1 労働におけるアスベスト指令(AWD)において必要な変更
3.1.1 アスベストについてのEUのOELの改訂

現在、AWDに規定されたBOELは曝露労働者に十分なレベルの保護を提供していない。それゆえ、効果的にアスベストを根絶するためのこれからの欧州計画の一部として、この限界値を改訂することは重要である。科学的知見と研究における最新の進展という観点では、フランス、ドイツ及びオランダが、すでにアスベストに関する国のOELを改訂している。AWDにおける現行の時代遅れの0.1繊維/cm3と比較して、フランスとドイツは0.01繊維/cm3という国のBOEL、オランダは0.002繊維/cm3という国のBOELを採用している。国際労働衛生委員会(ICOH)や医学研究の専門家は、アスベスト除去作業においてがんから労働者を適切に保護するために0.001繊維/cm3という限界値を提案している。ETUCはそれゆえ、新たなEUのBOELをこのレベルに設定することを要求する。

3.1.2 AWDにおいて必要なその他の変更

加えて、アスベスト除去及び鉱業によるアスベスト被害者の新たな波を防ぐために、ETUCは欧州委員会に対して、AWD改訂に以下の変更を含めることも要求する。

〇指令は、すべての種類のアスベストが発がん物質であることを明らかにすべきである。また、人の健康に同様の有害な影響をもつ既知のすべての種類の繊維を含めるよう、指令の対象を拡大すべきである。委員会はそれゆえ、アクチノライト、アンソフィライト、トレモライト、グルネライト、リーベカイトはもちろん、ウインチャイト、リヒテライト、フルオロ-エデナイト[フッ素エデン閃石]及びエリオナイトの繊維状切片を含めるべきである。

〇個人保護機器及びその他の保護対策をとらないことを認めるための、散発的曝露で低強度という概念はもはや使うべきではない。また、リスクのレベルを決定するための、飛散性[friable=本来の意味は破砕性]及び非飛散性アスベスト含有物質という概念はもはや使うべきではない。代わって、計画された作業工程に関連した個別リスクアセスメントによって必要な義務的保護対策を決定すべきである。

〇すでに使用されているアスベスト含有部品・材は、修理、維持、封じ込め、囲い込みまたは遮蔽するのではなく、安全に除去及び廃棄しなければならない。それゆえ、アスベストの囲い込み及び封じ込めは禁止されなければならない。指令はまた、既存製品に対する作業が「製品の加工」禁止に含まれることを明確に述べるべきである。国レベルで、社会パートナーの効果的な関与を確保した、具体的な実施対策が規制されるべきである。

権限のある当局に対する届出に含められる情報は、以下によって補足されるべきである

  • 労働者の保護及び除染のために用いられる機器に関する追加データ
  • 廃棄物処理に用いられる機器
  • 作業過程の期間
  • 現場に割り当てられた個々の労働者のリスト及び識別情報
  • 彼らの能力及び訓練の証明
  • 個人情報保護に関する国の規則にしたがった、彼らの義務的健康診断の日付

〇指令は、技術的に可能な最低レベルまで空気中のアスベスト繊維濃度を引き下げるための技術的な最低限必要な要件を規定すべきである。これには、発生源における粉じん抑制と粉じん吸入、常流沈降、除染手段及びアスベスト密閉区画と周辺の間の圧力差の最低要求、新鮮な空気の供給、及びHEPAフィルターが含まれるべきである。ETUCは、密閉区画と周辺間の人の往来、フィルターの目詰まりや強風などの外的要因に対して十分な安全マージンを確保するために、-10(マイナス10)の最低圧力差を提案する。新鮮な空気は十分に離れた地点から供給されなければならない。HEPAフィルター交換後及びアスベスト除去開始前または少なくとも年一回、直読粒子計測器で除去の効率を測定することによって、負圧ユニットと局所排気装置のパフォーマンスを確認すべきである。さらに、ロボットの義務的使用を検討すべきである。

〇指令は、サンプリング[試料採取]が、アスベスト含有物質から生じる粉じんへの労働者の個人曝露を代表するものでなければならないことを確保すべきである。サンプルは、代表的かつ現実的な状況で採取されなければならない。代表的なやり方でサンプリングができない場合には、すべての利用可能な保護対策が適用されなければならない。

もっとも感度の良い繊維計測方法が要求されるべきである(例えば、分析透過型電子顕微鏡)。

作業開始前のアスベスト調査[スクリーニング]が義務付けられるべきである。使用者だけでなく主要な請負業者、契約当局、所有者も、何らかの作業を委託する前にアスベスト診断を実施することを義務づけられるべきである。作業開始前のアスベスト調査を委任できるのは、資格のある認証を受けたオペレーターのみとすべきである。プロセスには作業場所の特性に合わせた診断が含まれなければならない。報告書はアスベストの不在または存在のいずれかを述べなければならない。後者の場合には、汚染の性質とその所在を特定し、アスベスト含有物質の量を推計しなければならない。予備スクリーニングに続けて、個別サンプリングが行われなければならない。

〇解体またはアスベスト除去だけでなく、アスベストに関わる可能性のあるあらゆる作業のやり方について、アスベストに関連した何らかの作業の前に作業計画を策定しなければならない。

アスベストに関わる作業に関する訓練の義務的な最低限の要件を示した新たな付録を指令に導入すべきである。これは、専門除染企業の労働者及び作業実施中にアスベスト含有物質に曝露する可能性のある何らかの専門職のすべての労働者(例えば、ビニル・アスベスト床タイルの清掃や結果として生じる排水の処理も含む)の双方に対してのものであるべきである。具体的な実施措置は、社会パートナーの実効性のある関与のうえで、国レベルで規定されるべきである。すでに指令に規定されている要求事項に加えて、付録には、訓練インストラクターの資格と権限のある当局による認証についての要求事項、満足できるやり方で訓練が行われたことを示す義務的な訓練証明、3労働日の最低訓練期間、及び個々の労働者が訓練に参加しなければならない最低4年の一定間隔が含まれるべきである。

解体またはアスベスト除去作業に従事する労働者は(指令2009/104/ECにしたがって)、作業プロセスのなかでアスベストの発散・拡散を抑制するための技術的機器・機械の使用に関する追加的訓練を受けるべきである。彼らはまた、利用可能な最新の飛散させない技術・機械、またはそれが技術的にまだ可能でない場合には、アスベスト繊維の発散・拡散を抑制するために飛散の少ない作業手順に関しても訓練を受けるべきである。

〇指令は、権限のある国の機関によって与えられる許可制度を通じて、アスベスト除去企業が解体作業を行うのに必要な能力を備えていることを確保すべきである。許可は、申請者が適切な最先端の機器及びその個々の労働者の訓練証明の証拠を提出し、また、会社とその管理の信頼性に疑いの余地がない場合にのみ与えられるのでなければならない。許可は5年ごとに更新されなければならない。加盟国は、許可を取得した企業の公的にアクセス可能な登録を確立すべきである。

〇指令は、除染手順を規定・特定すべきである。

〇指令は、個人保護呼吸器が義務的なフィッティングチェックの対象でなければならないことを明定すべきである。これは、個々の労働者にとって呼吸保護機器を安全にするために不可欠なことである。

すべての曝露労働者に対して、資格のある職業専門医による定期健診[医学的フォローアップ]及び離職後健診[健康監視]が提供されるべきである。アスベスト曝露が関わる専門職活動後に、制限なしに、定期健診[定期的スクリーニング]が利用可能でなければならない。職業専門医は、労働者個々人の医療記録に含めるために、使用者によって作成されたアスベスト曝露記録の写しを受け取るべきである。使用者はまた労働者に対して、毎年一回曝露証明を提供しなければならない。労働者が企業を辞めた場合には、使用者は当該労働者に対して、アスベスト曝露が関わった具体的作業を列挙した完全な記録を提供すべきである。曝露の個々の記録は、国の法令及び慣行にしたがって設定された全国中央曝露データベースに保存され、少なくとも40年間保持されるべきである。

〇全加盟国において認定されるべきすべての既知のアスベスト関連疾患(アスベストによって引き起こされた、石綿肺、中皮腫、肺がん、良性胸膜疾患、喉頭がん、卵巣がん、結腸直腸がん、及び胃がん)のリストを備えた新たな付録を指令に導入すべきである。

3.2 アスベスト関連疾患の認定及び補償

アスベストに曝露した労働者の労働条件には、アスベスト関連職業病の認定、治療及び補償に対する簡単なアクセスが含まれるべきである。ETUCは欧州委員会に対して、欧州連合運営条約第153条のもとで、すべての既知のアスベスト関連疾患を含め、職業病の被害者の認定及び適切な補償のための欧州最低基準の立法提案を提示するよう要求する。新たな指令の基礎として、委員会は、欧州職業病一覧表に関する2003年9月19日の勧告を更新すべきである。指令は、そのような疾患の認定及び補償のための官僚的でない最低限の要求事項を確立すべきである。それには、立証責任の改訂または少なくともその効果的な簡素化、職業病に関するすべての問題のワンストップ処理、及び認定手続において職業病被害者を支援するための国の行政監察官(または独立的な助言サービス)が含まれるべきである。

3.3 欧州連合におけるすべてのアスベストの除去に向けた包括通的戦略のための追加的要素

建物のアスベストの管理及びその安全な除去に向けたEUの取り組みは、グリーンディールとリノベーションウェーブを含め関連する政策イニシアティブ、欧州社会権の柱(EPSR)、がん撲滅計画、EU多年度財政枠組み(MFF)とリカバリー戦略、新たなEU労働安全衛生戦略及び循環経済行動計画の実施と相乗効果を発揮する必要がある。また、アスベストに関するEUの取り組みは、加盟国のベストプラクティスの事例を利用すべきである。ETUCは、以下のEUにおけるすべてのアスベストの除去に向けた包括的戦略のための追加的要素を提案する。

〇EUにおけるすべてのアスベストの除去に向けた包括的戦略があることをう確保するためには、国のアスベスト除去計画のための新たな欧州の法的枠組み。この枠組みのなかで加盟国は、問題の規模の評価、関連する費用、費用負担者についての詳細、適切な公的財政支援、及びこれがいつ達成されるべきかに関する明確なスケジュールを含めた、アスベスト除去戦略を策定すべきである。

〇枠組みには、国または地域におけるすべての既存アスベストをマップしたデジタル・アスベスト登録のための最低基準をつけたモデルが含まれるべきである。アスベスト登録は、労働者、企業及び影響を受ける居住者・市民がアクセスできるものでなければならず、また定期的に更新されるべきである。入手可能な情報には少なくとも以下が含まれるべきである。

  • 建物またはインフラの種類(民間、公共、商用)
  • アスベストの具体的所在(内側/外側、床、壁、天井、屋根等)
  • 建築年(国のアスベスト禁止前/後)
  • 物質の種類(アスベストセメント、断熱材、パテ等)及び量
  • 行われるべき作業(修理、除去等)、作業方法(穴開け、切断等)
  • 計画される作業の期間
  • 除去・管理計画のスケジュール
  • 一般の人々、とりわけ企業・労働者のアクセスビリティ(例えば、中央管理されたデジタルデータベースまたは建物改築パスポートなどの建物専用の「ログブック」)

エネルギーリノベーション及び/または解体前の調査[スクリーニング]は義務的でなければならない。ETUCは欧州委員会に対して、改築作業開始前に義務的調査及びその結果に基づくアスベストその他危険物質の除去の要求事項を導入する、建物リノベーションウェーブと関連した、指令2010/31/EU第7条に対する的を絞った改正を提案するよう要求する。

〇ETUCは委員会に対して、建物の販売または賃貸前の義務的調査[スクリーニング]の立法提案をするとともに、2005年以前に建てられた建物についてのアスベスト証明を確立するよう要求する。提案には、最低限、以下の要素が含まれるべきである。

  • 建物(またはその一部)を販売または賃貸する前に、アスベストの所在を確認するために建物の調査を委任する(公共/民間の)所有者の義務
  • 指令2009/148/EC及び国の法令・慣行にしたがって、また権限のある国の機関の監督のもとで、認証を受けたオペレーターによってのみ実施される調査
  • 調査の結果は権限のある国の機関に報告され、同機関が証明を発行、証明の国の登録を保存、及び所有者に対して適用される法令、安全な除去及び財政支援について助言を与えるべきである。
  • アスベスト証明には、みつかったアスベスト含有物質の種類のリスト、それらの正確な所在及び安全な除去のためのコンセプトを含め、調査の結果が含まれなければならない。
  • 定められた責任期間をつけて、規定された調査を委任せず、販売または賃貸する前に権限のある機関にそれを報告しない建物の販売者及び賃貸者に対する、効果的で釣り合いの取れた抑止的罰金が設定されなければならない。

〇調査がアスベストの存在を示す場合には、所有者は、認証を受けたオペレーターによって、確認された安全な除去に関する規定にしたがって、アスベストが除去されているようにすることを求められるべきである。

建物所有者に対する財政支援のためのEU枠組みは、公正移行及び社会的責任の精神で、アスベストの節約除去のための公的財政支援を保証すべきである。これは違法で不安全な除去の防止に大いに役立つに違いない。ETUCは、欧州リカバリー戦略及び建物リノベーションウェーブとの関連で、アスベスト除去のために必要な財政的支援を提案する。

〇リノベーションウェーブ及びアスベスト除去戦略を実施する間に、使用者及び建物所有者が実際にすべての適用される安全衛生ルールを遵守することを保証するためには、労働監督の強化を通じて適用される法令を執行することが不可欠である。ETUCは、監督の回数、頻度及び質を大きく改善するために、労働監督官に対する支援の拡大及びリソースの増加を要求する。EU及び加盟国は、労働者1万人ごとに1人の監督官という国際労働機関(ILO)の最低目標を大きく上回るべきである。

労働者が知らずに危険な物質を再利用するのを防ぐために、アスベストが循環経済に入ってこないようにしなければならない。建材のライフサイクル管理は循環経済の重要な一部である。(持続可能な構築環境のための戦略、リサイクル材料のなかの懸念物-及びそこから作られる品物の存在を追跡及び最小化する方法、懸念物質の存在についての調和のとれた情報システムを含むことが想定される)新たなEU循環経済行動計画の枠組みのなかで、既存の建物・インフラの既存アスベストの登録(前出)は、循環経済からアスベストを根絶するための最初のステップでなければならない。

https://www.etuc.org/en/document/etuc-response-first-stage-consultation-social-partners-under-article-154-treaty

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