労災保険給付等が少ない場合には石綿健康被害救済給付が受けられます-「他法令との併給調整の取扱いについて」(平成22年4月1日 環境再生保全機構石綿健康被害救済部)

平成22年4月1日
石綿健康被害救済部

他法令との併給調整の取扱いについて

石綿健康被害救済制度の被認定者に対し、同一の事由に基づき、他の法令による一定の給付が行われるべき場合においては、給付額の調整を行うこととされている(石綿による健康被害の救済に関する法律(以下「法」という。)第26条)。
法第26条第2項に基づく他の法令による給付との具体的な併給調整の方法については、次により取り扱うものとする。

Ⅰ 併給調整の対象となる他法令による給付

併給調整の対象となる他法令による給付(以下「災害給付」という。)については、法施行規則第21条に列挙されている29制度が対象となる。
これら諸制度の給付体系は、労働者災害補償保険法の制度(以下「労災」という。)に準じている場合が多く、また、実際に調整対象となる災害給付の多くが労災による給付であるため、以下、労災給付の例を掲げ、記述する。

労災による災害給付が、「同一の事由」(法第26条第2項)*-1によって支給された場合、併給調整の対象となる災害給付は、別表1のとおりである。
*-1「同一の事由」とは、指定疾病に羅患したこと及び指定疾病に起因する死亡をいう。

Ⅱ 併給調整の方法

法第26条第2項中、その給付に相当する金額として政令で定めるところにより算定した額の限度(以下「調整限度額」という。)については、法施行令第8条及び法施行規則第22条において、①一時金として支給された場合、②これ以外の場合、に区分されて規定されている。

具体的には、以下のように、環境省令で定める方法により算出した調整限度額と救済給付額とを比較し、その結果、救済給付額が調整限度額を超えるときは、その超えた額について支給し、超えないときは、給付の停止又は不支給として処理することとする。

1 調整限度額

(1)災害給付が一時金のとき
一時金の給付額を調整基礎額(一時金給付が複数のときは合計額)とし、これに一を乗じた額を調整限度額とする。
なお、休業補償給付及び介護補償給付は、一時金として支給額の合計に一を乗じた額を調整限度額とする。

(2)災害給付が年金のとき
次により算出された額(C)を調整限度額とする。
A=年金の年額
B=当該年金受給者の年齢から生命表*-2によって余命年数を求め、「法定利率による単科年金価格係数表」(別表2参照。)からその余命年数によって引用される係数
C=A×B
*-2 生命表とは、毎年、厚生労働省から発表される日本人の平均余命簡易生命表をいう。
ただし、年金受給者が死亡した時の調整にあたっては、死亡時までに現に支給された年金給付額を調整限度額とする。

2 併給調整の具体的方法

(1)被認定者が受給する給付(療養手当)の調整

石綿健康被害救済制度における療養手当に相当する労災の災害給付は、休業補償給付、障害補償給付(年金又は一時金)、障害補償年金前払一時金、障害補償年金差額一時金、傷病補償年金及び介護補償給付である。

基本的には、これらの労災からの災害給付がなされている場合、調整限度額に相当する療養手当の支給期間において、療養手当の支給を停止することとする。
具体的には、以下による。

①休業補償給付以外の給付が支給された場合
療養手当の停止期間については、以下により算定する。
A=次の枠内の算定により求めた療養手当の停止月数
前Ⅱ1の調整限度額から療養手当の月額(103,870円)を毎月差引いていき、差引後の残高*-3が正の最小値となるまでの停止月数を算出する。
*-3この場合、療養手当の支払い月数が12か月以上になる時は、2年目分については、残高に法定利率(年率5%)をかけ、3年目以降分については、それぞれ単利の法定利率(年率5%×2、×3、…)で残高分を支給時点での価値に換算することとする。なお、一時金と年金が複合的に支給された場合には、それぞれの調整限度額を合計した額を調整限度額とする。
B=療養開始日(基準日)の属する月の翌月から認定の有効期間の属する月までの月数
C=既に療養手当を支給した月数
よって、療養手当の停止期間は、
A≧B-Cのとき、有効期間の属する月まで療養手当の支給を停止する。
また、A<B-Cのとき、A-(B-C)月数の期間、療養手当の支給を停止する。
なお、当該調整に基づく療養手当の支給停止後、支給を再開する場合には、再開の最初の月は、調整眼度額の残高(正の最小値の額)を、その翌月からは療養手当の月額を法第16条第3項に基づく療養手当の支給月である偶数月(以下「支払期日」という。)毎に支給する。

②休業補償給付のみが支給された場合
後述のⅢに取扱いを定める。

③未支給の療養手当の調整
未支給の療養手当に相当する労災の災害給付は、休業補償給付、障害補償給付(年金又は一時金)、障害補償年金前払一時金、障害補償年金差額一時金、傷病補償年金及び介護補償給付である。
前記労災の災害給付が行われたときは、次により調整する。
A=療養手当の既支給
B=療養手当の未支給の額
C=労災の災害給付の支給額(未支給を含む。)
ア. A+B≦Cのとき、不支給とする。
イ. A+B>Cであり、B≦Cのときは、不支給とする。
ウ. A+B>Cであり、B>Cのときは、B-Cの額を支給する。
※なお、Aの額について、政策的判断に基づき返還を求めないこととする。

④決定通知書の送付
前①により調整したときは、別紙-1[省略]により、前③により調整したときは、別紙-3[省略]により療養手当の請求者又は受給者に対し通知する。

(2)遺族が受給する給付(葬祭料、特別遺族弔慰金等、救済給付調整金)の調整

石綿健康被害救済制度における葬祭料、特別遺族弔慰金等及び救済給付調整金に相当する労災の災害給付は、遺族補償給付(年金又は一時金)、遺族補償年金前払一時金及び葬祭料である。
前II1により算出した調整限度額を用いて、次の方法により調整する。
なお、一時金と年金との組み合わせで支給される場合は、それぞれの調整限度額の合計を調整限度額とする。

①調整方法
ア 調整限度額≧救済給付額のとき、不支給とする。
なお、救済給付が既に支給されているときは、返還を求めるものとする。
イ 調整限度額<救済給付額のとき、救済給付と調整限度額の差額を支給する。

②決定通知書の送付
前①により調整したときは、別紙-3[省略]により請求者又は受給者に対し、通知する。

(3)その他留意事項

①年金たる給付又は児童扶養手当の調整
災害給付が行われることを理由として、厚生年金保険法若しくは国民年金法の規定による年金たる給付又は児童扶養手当法の規定による児童扶養手当の支給(以下「年金等」という。)が行われないこととなる場合には、災害給付の額から支給が行われない年金等の額を差引き、この額を調整基礎額として取り扱うこととする。(規則第22条第2項後段)

②同一死亡者(被認定者)に係る給付であっても、他法令の災害給付の対象者の規定と救済給付の対象者の規定が異なるために、結果として給付対象者が異なっている場合には、調整を行わない。

Ⅲ 休業補償給付のみが支給された場合

1 労災給付額の算定の基礎となる「給付基礎日額」を確認し、給付基礎日額が5,771円*-4以上であれば、認定の有効期限の日の属する月まで療養手当の支給を停止する。
なお、「給付基礎日額」が5,771円以上であっても「給付日数」が少ないこと等が確認できた者については、調整限度額から療養手当の月額(103,870円)を毎月差引いていき、差し引き後の残高が正の最小値となるまでの停止月数を算出し、その月数の療養手当を停止する。また、再開の最初の月は、調整限度額の残高(正の最小値の額)を、その翌月から療養手当の月額を支払期日毎に支給する。
*-4 5,771円
療養手当の月額を日額に換算した額(103,870円/30日×60%=5,771円)

2 休業補償給付の給付基礎日額が5,771円未満の療養者については、次の(1)及び(2)の方法によって支給額を算定する。

(1)さかのぼり調整
療養の開始日(以下「基準日」という。)から直近の療養手当支払期日の前月末日(以下「調整日」という。)までの調整(以下「さかのぼり調整」という。)
A=基準日から調整日までの療養手当の算定額
B=調整日以前に実際に支給された休業補償給付の額
C=既に支給した療養手当の額
D=調整額=(A-C)-B
Dが、+のときは、その額を一括して支給する。
Dが、0又は-のときは不支給とし、Dが-のときは、その額の正の額(X)を次の2の調整に加えて算定する。

(2)将来調整
休業補償給付の支給決定は、1か月毎に行われるケースが多いため、その決定毎に調整を行うことは、請求者、機構双方にとって煩雑であることから、認定の有効期限まで当初決定された日額の給付を受け続けると仮定して調整を行う。
なお、休業補償給付の支給停止・変更などの事情により、差額支給額の変更が必要になった場合は、再調整を行う。
前(1)の調整日の翌日から認定の有効期限日までの調整(以下「将来調整」という。)
E=この間機構が給付すべき療養手当の額(103,870円×Y)
Y=将来調整期間内の月数
F=休業補償給付の給付予定額(給付基礎日額×Z×60%)+X*-4 ママ
Z=前1の2(l)Bの支給期間の翌日から認定の有効期限日までの日数
*-4ママ Xは、前(1)でいうX(さかのぼり調整で繰越された要調整額)。
G=調整額(差額支給)
F≧Eのときは、認定の有効期限日の属する月まで停止する。
F<Eのときは、(E-F)/Y=G
Gの月額(以下「差額支給」という。)は、上記(1)の調整日の翌日の属する月から認定の有効期限日の属する月までの問、毎支払期日に支給する。

3 決定通知書の送付

前1により調整したときは、別紙-1[省略]により、前2により調整したときは、別紙-2①[省略]により療養者に対し通知する。
4 処分通知後の再調整

(1)前3による決定通知後、労災の支給額に変更が生じた場合には、前2に準じて再調整を行うものとする。
なお、再調整が煩雑になる場合は、当該受給者と調整のうえ、まとめて調整を行うことができる。

(2)また、労災から一時金又は年金の支給が開始されたときは、差額支給を直ちに停止し、新たに支給される一時金又は年金の給付開始以降の療養手当の支給予定額について、前Ⅱ2(1)の算定に基づき療養手当の停止月数を算定し、休業補償給付に係る差額支給を停止した月から認定の有効期限日の属する月までの月数を超える場合には、不支給として処理する。

(3)前(1)又は(2)により、再調整したときは、別紙-2②[省略]により療養者に対し通知する。

Ⅳ その他

(1)本取扱に該当しない事項又は疑義等が生じた場合は、別途、協議する。

(2)本取扱は、平成22年4月1日より実施する。ただし、療養者に対する療養手当の差額支給を伴うものは遡及して実施する。

(参考)死亡の7割が300万円弱、300万円超は少数のまま-想定を下回る石綿健康被害救済給付の実績