死亡の7割が300万円弱、300万円超は少数のまま-想定を下回る石綿健康被害救済給付の実績

2021年1・2月号で「石綿健康被害補償・救済状況の検証」を特集したが、そこでは補償・救済給付の実績についてはふれられなかったので、今回あらためて検証してみたい。

環境再生保全機構は、毎年公表している「石綿健康被害救済制度運用に係る統計資料」のなかで「救済給付支給状況」に関するデータを示している。最新の令和元年度版(2020年9月16日公表)で紹介されているデータは表1に示すとおりである。なお表中には、同じ資料から認定者数のデータを追加するとともに、平均額等を計算している。現在のところ、環境省救済に係るこの統計が検証に用いることのできる唯一のデータである。

34%占める死亡後救済300万円弱

まず、認定の申請をすることなく亡くなった者の遺族に支給される「特別遺族弔慰金・特別葬祭料」(死亡後救済)をみてみたい。

制度的には、280万円の特別遺族弔慰金と199,000円の特別葬祭料の合わせて299.9万円が支払われることになっているが、実際には2006~2019年度累計で5,029件に対して150.7億円弱が支払われていて、一件当たり平均299.6万円である。請求は死亡者一人につき1回であるので、件数は死亡者数と考えてよい(5,029人は累計総認定者数14,981人の33.6%)。一件当たり平均がぴったり299.9万円ではないもののそれに近い結果である。

特別遺族弔慰金等の件数と「死亡後認定者」数を照らし合わせてみると、年度ごとの数字が一致しておらず、必ずしも認定を受けた年度に支給を受けているとは限らないことがわかる。また、累計認定者数5,086人(累計総認定者数14,981人の33.9%)と累計支給件数5,029件には差があり、57人は(まだ)給付を受けていないものと考えられる。仮に累計認定者数5,086人で累計支給金額150.7億円弱を割ると296.3万円になる(「E/人」欄)。

制度的な299.9万円と実績の299.6万円との間にの差があることや、給付を受けていないものがある理由は、「救済給付の免責」や「他の法令による給付との調整」も関係しているかもしれないが、この点は、後で再びふれることにしたい。

また、表には示していないが、「労災等でも認定」されているものが399件あり、これらの大部分は、299.9万円の救済給付を受けた後に、労災等による給付も受けているものと考えられる。

環境省救済はもともと療養者本人に対する救済を主目的として、死亡後救済は法制定当初は、法施行前死亡者のみを対象とした、3年間の時限措置とされていた。患者・家族らの要求を受けて議員立法により2008年と2011年に法改正が実現した結果、新たに未申請死亡者も対象に追加されるとともに、法施行前死亡者の場合も含めて、請求期限が延長されてきたものである。
もし、法改正がなければ、未申請死亡者の累計認定者1,455人と2009~2019年度に認定された施行前死亡者1,235人の合わせて2,690人は、救済が受けられなかったわけである。これは、死亡者の累計認定者数5,086人の52.9%、累計総認定者数14,981人の18.0%に相当する。当初の制度設計の欠陥だったと言わざるを得ない。

26%-死亡療養者の半数300万円弱

一方、療養者で認定を受けたものに対しては、健康保険等による給付額を除いた自己負担額に相当する「医療費」と月額103,870円の「療養手当」が支給され、被認定者が当該認定に係る指定疾病に起因して死亡したときには、葬祭を行う者に対しその請求に基づき199,000円の「葬祭料」が支給されるとともに、死亡した者の遺族に対し「救済給付調整金」が支給される場合がある。

「救済給付調整金」が支給されるのは、支給された医療費及び療養手当の合計額が特別遺族弔慰金の額(すなわち280万円)に満たないときであり、その額は、特別遺族弔慰金の額から当該合計額を控除した額に相当する金額とされている。すなわち、救済給付調整金が支給された場合には、医療費、療養手当、救済給付調整金を合わせて280万円が支給され、葬祭料も支給されれば総支給額は299.9万円ということになる。

葬祭料と救済給付調整金は支給件数を死亡した療養者数と考えてよいが、医療費・療養手当については支払一回ごとに件数がカウントされているので、支給件数は療養者数とは異なっている(ちなみに療養手当は原則隔月支払い)。

表1によると、救済給付調整金の支給が3,828件あった。これは、療養中認定者で2019年度末までに確認された死亡者7,353人の52.1%に相当する。救済給付調整金と葬祭料はどちらも認定に係る指定疾病に起因して死亡したときに支給されるので、救済給付調整金の支給を受けた3,828人に対する総給付額は299.9万円であったと考えられる。

60%-死亡事例の72%が300万円弱

死亡した療養者7,353人のうちの52.1%に相当する3,828人について一人当たり総支給額が299.9万円であったとすれば、前述の死亡者5,029人と合わせて、12,382人(=7,353人+5,029人)のうちの8,857人(=3,828人+5,029人)、すなわち死亡事例のうち71.5%の一人当たり総給付額が299.9万円かそれに近かったということになる(累計総認定者数14,981人に対してだと59.5%に相当する)。

このような環境省救済のかなりの部分の一人当たり総支給額が299.9万円であるという実態は、それが事実上、一律定額の救済制度としてしか機能していないのではないか、そして救済制度としてそれでよいのかという疑問を提起するものである。

法制定当初、救済給付調整金は、制度施行後2年以内に死亡した者のみを対象とする時限措置であった。患者・家族らの要求による2008年の法改正によって恒久制度とされていなかったら、2008~2019年度の支給者3,323人(累計支給者3,828人の86.8%)は救済給付調整金を支給されなかったわけである。支給金額は49.2億円強で一人当たり148.1万円の救済給付調整金であり、療養者本人に支給された医療費・療養手当合計額は120.1万円ということになる。葬祭料199,000円を合わせても140万円の総支給額にしかならなかった。制度設計の失敗だったと言わざるを得ないだろう。

療養者の半数で本人に120万円だけ

環境省の「石綿による健康被害の救済に関する法律(救済給付関係)逐条解説(改正前)」は次のように解説していた。
「救済給付調整金は、制度施行前に発症し、制度施行直後に死亡した者及びその遺族が受けられる救済給付が、制度施行前に死亡した者の遺族に比べ少額となることから生じる不公平感の解消を目的としている。制度施行から2年を経過した後には、制度施行直後に死亡したがために、遺族が特別遺族弔慰金に相当する程度の医療費や療養手当も受けられないという状況はおおよそ解消されると考えられる。」

現実には、この予測はまったく外れている。
2008~2019年度の救済給付調整金支給3,323件で療養者本人に支給された医療費・療養手当合計額が120.1万円だったことはすでに示した。これは、2006~2019年度でみても、死亡した療養者7,353人のうち52.1%(3,828人)が平均160.5万円の救済給付調整金の支給を受けていて、療養者本人が受けた医療費・療養手当の合計は119.5万円にすぎない。医療費がゼロであったとしても、療養手当の受給期間は1年に満たないことになる。

中皮腫に代表される指定疾病=石綿健康被害の予後の悪さを象徴している。そのように予後の悪い健康被害に関して、死亡事例のうちの52.1%で療養者本人に対する総支給額が医療費・療養手当合計で119.5万円という救済でよいのかという疑問が提起される。

表1によれば、2006年度には、救済給付調整金の支給を受けたものの一件(一人)当たり平均支給額は270.6万円であった。ということは、支給された医療費・療養手当合計額は一人平均9.4万円で1月分の療養手当にも満たない。現実にも、医療費のみで、療養手当を支給されることなく亡くなったものが多かったのではなかろうか。この状況は、2009年度以降改善されたが、その理由は、2008年の法改正によって、医療費・療養手当の支給が認定申請日からだったものが、申請日から3年前まで遡及されることになったことも大きいと思われる。

それでも環境省「逐条解説」が予想したような、「遺族が特別遺族弔慰金に相当する程度の医療費や療養手当も受けられないという状況はおおよそ解消され」てはいない現実を直視した制度の見直しが必要であろう。

療養者の半数で遺族160万円、ゼロも

また、2006~2019年度に死亡した療養者7,353人のうちの52.1%(3,828人)で遺族に対して、平均160.5万円の救済給付調整金と199,000円の葬祭料を合わせて総額180.4万円が支給されたものと考えられる。

死亡した療養者のうちの47.9%では救済給付調整金が支給されなかった理由は、主に、支給された医療費・療養手当の額が280万円を上回ったか、または、「認定に係る指定疾病に起因して死亡した」ものではないとされたかであろう。後者の場合には、葬祭料も支給されなかったことになる。救済給付調整金が恒久措置として、言わば最低総支給額を担保するものとして機能している現実に照らして、「認定に係る指定疾病に起因して死亡」という支給要件は撤廃するべきであると考える。

さらに、同じく2008年の法改正によって、法施行前に死亡した場合だけでなく、法施行後に認定の申請をすることなく亡くなった場合であっても、遺族に対して280万円の特別遺族弔慰金と199,000円の特別葬祭料を合わせて299.9万円が支給されるようになっている。

きわめて予後の悪い疾病との闘病に寄り添い、多くの場合あっという間に愛する者を亡くした療養者の遺族に対して、現状のような救済でよいのかという疑問が提起される。

なお、葬祭料が支給されたのは6,068人(82.5%)なので、死亡した療養者7,353人のうちの1,285人(17.5%)は葬祭料が支給されていないということである。

300万円超は最大でも全体の2.5~4割

法制定当時に想定されていたと思われる「特別遺族弔慰金(280万円)を超える額の医療費・療養手当の支給(葬祭料199,000円も支給されるとしたら合計299.9万円を超える給付)を受ける」ことが実現できた可能性のある療養者の数は、最大で、累積認定者9,895人から救済給付調整金支給者3,828人を除いた6,067人である(累計総認定者14,981人の40.5%に相当)。

医療費・療養手当・葬祭料・救済給付調整金の累計支給金額合計は約354.8億円である。一方、救済給付調整金支給者3,828人に対する医療費・療養手当・葬祭料・救済給付調整金の累計支給金額合計が一人当たり299.9万円と仮定すると、合計約114.8億万円になる。この差額の240億円を救済給付を支給されていない療養者の累計認定者数6,067人で割ると、395.6万円になる(表2参照)。

現実には、この6,067人は、以下のものによって構成されているものと考えられる。
① (療養継続中か死亡したかにかかわらず)支給された医療費・療養手当の額が280万円を超えるもの
② 支給された医療費・療養手当の額が280万円に満たずに死亡したものの、「認定に係る指定疾病に起因した死亡」ではない等として救済給付調整金が支給されなかったもの
③ 療養継続中で支給された医療費・療養手当の額がまだ280万円に満たないもの
④ 環境省救済認定後に労災等他制度との重複認定により他制度に移行したもの
⑤ 労災等他制度から行われた同一の事由についての給付が救済給付に満たないものとして差額分だけが支給されたもの
⑥ 環境省救済認定後に同一の事由についての損害のてん補がなされて支給が停止されたもの
⑦ なされた同一の事由についての損害のてん補が救済給付に満たないものとして差額分だけが支給されたもの

④⑤は石綿健康被害救済法第26条「他の法令による給付との調整」、⑥⑦は第25条「救済給付の免責」に関する規定と関連している。前者については、2010年4月1日付けで環境再生保全機構石綿健康被害救済部から「他法令との併給調整の取扱いについて」と題した文書が示されているので、この機会に紹介しておきたい。とくに⑤の取り扱いは、環境省救済を、労災保険等他の制度による給付を受ける者も含めて、最低基準として機能させていることに留意しておきたい。

①~⑥に該当する療養者の数は示されていないが、環境再生保全機構の「統計資料」は、認定者のうち「機構のみ認定」と「労災等でも認定」の内訳も示している。療養者については累計で、「機構のみ認定」7,625人、「労災等でも認定」2,270人、計9,895人である。

「労災等でも認定」2,270人は④⑤に該当するものだと考えられるが(⑥⑦も含まれるかもしれない)、その場合の総給付額は280万円よりも少ないのではなかろうか。

もしそうであるとしたら、280万円を超える医療費・療養手当(葬祭料199,000円も支給されるとしたら合計299.9万円)を支給されたものは、最大でも6,067-2,270=3,797人(累計総認定者14,981人の25.3%)ということになるかもしれない。

6,067人で395.6万円だった一人平均総支給額は、3,797人であったら単純に1.6倍くらいに増えるかもしれない。他方で、総支給額増加の主な理由は支給期間の長さであり、相対的に予後のよい石綿肺やびまん性胸膜肥厚のほうが総支給額が高くなり、もっとも予後が悪い中皮腫が総支給額が相対的に低くなっている可能性が高いと考えられるが、疾病別のデータはまったく公表されていない。

労災保険等とは明らかな格差

労災時効救済(特別遺族給付金)では、遺族の人数等に応じて240~330万円の特別遺族年金、または、年金受給権者がいない場合には1,200万円の特別遺族一時金が支給される。240万円の額は、労災保険法による遺族補償給付の額等を勘案して決定されたと説明されるが、「遺族が一人で平均的な賃金をもとにした場合の年金額約210万円に、生前の医療費や生活支援的な額を上乗せした」と伝えられた。

労災保険では、療養補償給付によって自己負担なく治療や薬剤の支給が受けられるとともに、療養のために労働することができず賃金が受けられなければ、特別支給金と合わせて平均賃金の80%の休業補償給付が支給される。また、労働者が業務上疾病により死亡したときには、死亡の当時生計を同じくしていた遺族がいる場合には遺族の人数等に応じて平均賃金の175~245日分の遺族補償年金等、生計を同じくしていた遺族がいない場合には平均賃金の1,000日分の遺族補償一時金等が支給される(遺族補償給付)。

実際に石綿健康被害に対して支給された労災保険・労災時効救済の給付実績は公表されていない。しかし、労災保険給付事例の多くが労災時効救済の額を上回っていることは確実だろう。

労災保険・労災時効救済と環境省救済との間には、理念的にだけでなく、実際に明らかな格差があり、この格差を解消することを中心にして、より公正な補償・救済制度を確立することが求められる。

非労災救済制度国際比較の試み

実は、韓国のチームが国際環境研究公衆衛生誌(IJERPH)で「アスベスト(石綿)とがん:近隣の工場、鉱山、汚染土壌やスレート屋根からの曝露」という特集を企画している。

意欲的な企画で、以下のような論文が予定されている-「石綿鉱山周辺の自然生成石綿の諸活動による曝露レベル」、「ベンチュリ石綿分離装置を用いた土壌中石綿による大気中石綿濃度の評価」、「波形スレート屋根による石綿曝露レベル」、「非職業石綿曝露経路に従った過剰生涯発がんリスク評価方法」、「労働衛生コホートにおける石綿関連がん」、「台湾の産業における中皮腫クラスター:全国労働監督データベースをがん登録と組み合わせて用いた石綿関連がんの相対リスクの検討」、「台湾における石綿関連疾患の負荷:国民健康保険と死亡率データベースのビッグデータ分析」、「韓国の放棄された石綿鉱山近隣住民におけるがん及び石綿関連疾患の発生率:国民健康保険データベースを用いた後ろ向きコホート研究」、「韓国における将来の中皮腫発生率の予測」、「石綿全面禁止管理の失敗」、「非職業性石綿関連疾患に対する補償制度の比較」。
https://www.mdpi.com/」ournal/ijerph/special_issues/Asbestos_Cancers

責任編集者が旧知の釜山大学梁山病院労働環境医学のカン・トンムク教授であることもあり、「非職業性石綿関連疾患に対する補償制度の比較」の担当筆者から、日本の石綿健康被害救済制度における「疾病別一人当たり平均給付額」のデータを入手できないか要請を受けた。
すでに環境再生保全機構の「統計資料」等は承知していて、そのようなデータを提供できないか、すでに機構とも接触をもっていたようだ。

情報公開法を活用して必要なデータを入手することができるのではないかという具体的な要請であった。そこで、環境再生保全機構に対して、疾病別療養者一人当たりの総給付額及び受給期間に関する情報の開示請求を行いながら、機構の担当者と、どのようなかたちなら「統計資料」で示されている以上の少しでも有意義な情報を入手できるか相談した。現実にそのような統計をとっていないだけでなく、システムから情報をとりだすのが簡単にはいかないということで、結果的に文書不存在を理由に不開示という結果になってしまった。

本論考は、それをきっかけにあらためて検討した結果でもある。

韓国チームは、やはり疾病別データで国際比較をしたいということで、日本のデータを提供することはできなかったが、彼らの成果が出版されたら、あらためて紹介したいと思っている。

また、日本の石綿健康被害補償・救済制度による給付実績のよりよい検証に努めるとともに、何よりも抜本的に、隙間なく、より公正・完全な補償・救済制度の実現をめざしていきたい。

安全センター情報2021年3月号