有害化学物質に対する私たちの取り組み

有機溶剤、化学物質に関する相談は、各地域労働安全衛生センター、全国安全センターまで

2012年に大阪の印刷会社に端を発した職業性胆管がん事件に続き、2014年には福井県の化学 工場を発端に職業性膀胱がん事件が発覚し、ここでは経皮曝露を主とした職業がんにも注目し なければならないことも明らかにされました。また、職業 性膀胱がんの実態の把握を進める中で、防水材、床材や全天候型舗装材などに利用されるウレタン樹脂の「硬化剤」として使われ る3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(MOCA)による膀胱がんの集団発生が確認されました。MOCAは特化則の特定第2類物質かつ特別管理物質に指定されていましたが、特殊健康診断に膀胱がんに関する項目が含まれていなかったこと等から、対策が追加されることになりました。新規及び既存化学物質のリスク評価に係る仕組みの中からも、新たに発がん物質として特化則の対象等に追加される物質も毎年増えています。

さらに、発がん物質ではありませんが、医薬品や化粧品の製造などにおいて国際的に広く使われている、有機粉じんの一種である「架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物を主成分とする吸入性粉じん」の製造事業場で、肺の繊維化や間質性肺炎など様々な肺疾患が生じている事例が判明したことから、厚生労働省は製品メーカー等に肺疾患防止対策を要請するに至りました。これまでに肺に対する有害性は確認されておらず、この吸入性粉じ んによる肺疾患の発生機序等は必ずしも明らかになってはいないとしています。

まだ、「未知」の化学物質等による被害が潜在している可能性が高いということです。私たちは、ひとつには、職業性胆管がん事件を担ってきた立場から、福井県の化学工場の職業性膀胱がん事件の関係者らによる「職業がんをなくそう集会」等に参加・協力し、また、厚生労働省に抜本的な対策の確立を求めています。

2016年6月1日に施行された改正労働安全衛生法によって、「人に対する危険性又は有害性が明らかになっている化学物質」については、1ラベル表示、2安全データシート(SDS)交付と3リスクアセスメントの3つがセットで義務付けられました。私たちは、「すべての化学物質」を対象とするよう求めたわけですが、そこまで至らないなかで、「危険有害性が明らかになっていない化学物質」に対する対応が問題になります。

この点で職業性胆管がん事件発覚直後に緊急に示された2013年3月14日付け基発0314第1号 「洗浄又は払拭の業務等における化学物質のばく露防止対策について」は、「危険有害性が不明の化学物質への対応」として、「(法)に基づくSDS の交付を受けることができない化学物質については、国内外で使用実績が少ないために研究が十分に行われず、危険有害性情報が不足している場合もあるため、洗浄剤として使用するのは望ましくないこと。やむを得ず洗浄又は払拭の業務に使用させる場合は、危険有害性が高いものとみなし、(上記)に規定する措置を講ずるとともに、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させることによりばく露を防止すること」としていました。

私たちは、これをとても重要であると考えて、業務を限定せずに化学物質管理対策の基本原則として示すべきだと訴えてきましたが、緊急の指示から対策が「整備」されるなかで消えてしまいました。2017年2月15日付け基安発0215第1号「安全衛生業務の推進について」は、「代替品に対する対応」として業務を限定せずに、「有害性等の低い物質への代替を促進することは重要であるが、GHS分類による区分がない物質の中には、単に危険有害性に係るデータがないだけで、注意すべきものがある」として、「やむを得ずSDSが交付されない化学物質を使用する場合は、危険性が高いとみなし、法第28条の2等に基づき管理を行うよう指導すること」などの、代替化の指導等に当たっての留意事項を示しました。このことは、大いに宣伝して、最大限に活用していきたいものと考えます。

2018年2月に策定された第13次労働災害防止計画は、「化学物質による健康障害の発生が疑わ れる事案を国が把握できる仕組みの検討が必要な状況にある」と言っています。その前段では、「近年、胆管がんや膀胱がんといった化学物質による重篤な健康障害が発生しているが、職業性疾病を疑わせる段階において、国がこうした事案を把握できる仕組みがないことから、事業者による自主的な情報提供等を端緒として、実態把握や対策を講じざるを得ない状況にある」としていますが、大阪の校正印刷会社SANYO-CYPに端を発した職業性胆管がん事件(2012年)も福井・ 三星化学でのオルトト-ルイジン等芳香族アミンによる職業性膀胱がん事件(2015年)も、実際には被害者自らが声をあげたことによって発覚したものです。

SANYO-CYPでは、被害者らが直接交渉して補償を実現させ、三星化学では会社が補償に応じないために、裁判がはじまっています。一方、後者に係るオルトト-ルイジン取り扱い事業場調査のなかで発覚した化成品製造工場における化学物質MOCAによる職業性膀胱がん事件(2016年)や、 樹脂製造化学工場における架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物の吸入性粉じんによる肺組織の線維化等の肺疾患事件(2017年)では、具体的な企業情報も被害者の補償等に関する情報も公表されていません。

被害者が苦労して気づきに至り、声を上げなければ何も変わらないという状況を改善するとともに、アスベスト関連疾患の労災補償等に係る事業場情報の公表と同様に、潜在的な被害者らに必要な情報を公開させていく必要もあります。