石綿(アスベスト)企業及び石綿肺症例の分布-中国1997~2019年 China CDC Weekly Reports, No.18, 2020.5.1 安全センター情報2020年10月号

抄録

この課題についてすでに知られていることは何か?
アスベストは、曝露が石綿肺やプラークに加えて中皮腫や肺がんを引き起こすことから、国際がん研究機関(IARC)によってクラス1発がん物質に分類されている。これまでにアスベストは67か国で禁止されているが、よく遭遇する種類のアスベストであるクリソタイルは、中国や大部分の開発途上国においていまもなお広く使用されている。多くの諸国でアスベスト起因がんのほとんどは報告も、記録も、補償もされていない。

本報告が追加するものは何か?
アスベスト製品を製造する企業は2010年と2019年の間に、経済的に開発された中国東部から、開発途上の中部及び西部に移動した。天津、北京、山東、新疆、甘粛、青海及び四川で報告された石綿肺は、中国の総事例数の大きな部分を占め、それはアスベスト関連企業の分布と一致した。報告された石綿肺事例対総じん肺事例は、2006年から2017年に2.81%から0.39%へ減少し、この割合は2018年には0.69%に達した。

公衆衛生慣行に対する意味合いは何か?
アスベスト関連肺がんの疫学を明らかにするためには確固とした労働・環境衛生評価・報告が必要であり、また、アスベスト及び既存のアスベスト含有製品の使用の管理が強化・フォローアップされる必要がある。企業は、より安全な代替品の使用を奨励され、次第に中国においてアスベスト製品を禁止すべきである。

アスベストは、たぐいまれな抗張力、熱伝導率の低さ、及び化学分解への抵抗性によって特徴づけられる、耐久性のある細い糸に分解される、6種類の自然生成の繊維状ケイ酸マグネシウム鉱物のことをいう。建物の保温材に加えて、アスベストは、屋根板、水道管、防火用毛布や接着剤など、様々な種類の製品に使用されている。しかし、アスベストは、採掘、加工や適用において大量のほこりの雲を生み出し、いったん大気に飛散されて吸入されれば、石綿肺、プラーク、胸膜炎、びまん性胸膜肥厚などの重大な健康問題、さらには肺や咽頭のがん、中皮腫さえも引き起こす。本研究では、中国における職業病報告制度及び商工業登録制度からデータを収集した。石綿肺事例及びアスベスト製品は、年、企業、及び地域分布別に分析・特徴づけられた。2010年に中国全体で合計188,739人の従業員を擁する合計1,611のアスベスト関連企業があり、2019年には1,936企業だった。1997年と2018年の間に中国では合計3,831件の石綿肺事例が報告された。アスベスト関連肺がんの疫学を明らかにするには、確固とした労働・環境衛生評価・報告が必要である。アスベスト及び既存のアスベスト含有製品の使用の管理が強化・フォローアップされる必要がある。

さらに、2016年の世界疾病負荷推計による最新の世界のアスベスト死亡数の推計は3,495件である。疫学研究は、今日、肺がんが全職業がんの54%~75%を占め、アスベストはそうした肺がんの55%~85%を占めるとともに、他のがんや他のアスベスト関連疾患も引き起こすことを示している。2006年に国際労働機関(ILO)は、「クリソタイルを含め、すべての種類のアスベストが既知のヒトに対する発がん物質と考えられる」ことを公式に確認した。国際がん研究機関(IARC)は、アスベストをクラス1発がん物質と発表した。これまでにアスベストは、イギリス、欧州連合や日本を含め、67か国で禁止されているが、中国や大部分の開発途上国ではいまもなお広く使用されている。最新の利用可能な消費データによれば、毎年推計203万トンが消費されている。生産・消費された20トンのアスベストごとに、世界のどこかで1人を殺している。現在のアスベスト消費・曝露は30~50年後に否定的な影響を引き起こすだろう。中国は2002年に角閃石系アスベストの生産、輸入、及び使用を禁止しはじめたが、クリソタイルは、労働衛生基準を遵守して安全に生産・消費することが許されている。現在、中国は世界第3位のアスベスト埋蔵量をもつだけでなく、世界で第2位のアスベスト製品生産・消費国でもある。

本研究は、中国本土における石綿肺の発生率とアスベスト関連企業の従業員数、事業対象、種類や地域分布の双方を分析した。2019年のアスベスト関連企業の従業員数は得られなかった。包含の基準は、事業対象にアスベストを含有する原料または製品を含んでいる企業であった。原料カテゴリーには、アスベストの採掘または売買、一次製品製造のためのアスベスト使用が含まれた。製品カテゴリーには、ビニル・アスベストタイル、アスベストセメント、アスベスト屋根用フェルト、アスベスト強化プラスチック、アスベスト接着剤、シーリング材、アスベスト衣、及びコーティング材など、アスベストを含有する製品が含まれた。すべての統計的分析にはRソフトウエア・パッケージ(バージョン3.6.2)を用いた。
2010年と2019年におけるアスベスト関連企業の分布を図1に示した。中国本土において登録された、各々、1,611と1,936のアスベスト関連企業があった。2010年には、アスベスト関連企業は主として中国東部の沿岸地域に集中していて、中部地域にわずか、全体で188,739人の従業員を擁し、企業当たり平均117人であった。アスベスト関連企業は、河北、江蘇、浙江その他10の州レベルの行政区分に集中し、合計の82.9%を占めた。それらのうちの289企業が、大城県[河北省]、河間市[河北省]、余姚市[浙江省]、慈渓市[浙江省]、及び姜堰区[江蘇省泰州市]に所在し、全アスベスト関連企業の17.9%を占めた。アスベスト鉱床・採掘地帯に所在した企業は相対的に少なかった。青海、四川、甘粛、陝西には73アスベスト企業しかなく、全体の4.5%であった。2019年には、68.6%のアスベスト関連企業が中国東部から中部・西部、主として甘粛、雲南、新疆、及び貴州に移った。これらのうち、大城県、広州市[広東省]、河間市、酒泉市[甘粛省]、霊寿県[河北州]がもっともアスベスト関連企業の集中した地域で、498(25.7%)を占めた。甘粛、新疆、青海、雲南、四川その他の州レベル行政区分には46のアスベスト採掘企業が所在し、それは大きな増加とアスベスト採掘地域への集中を示した。浙江、江蘇、上海、河南、北京、その他地域におけるアスベスト関連企業の数は、2010年と比較すると大きく減少し、とりわけ浙江では85.1%減少した。アスベスト関連企業の分布は、2010年に集中パターンを、また2019年には分散パターンを示した。浙江、江蘇及び上海におけるアスベスト関連企業は大きく減少した。

事業の種類を表1に示した。主な事業の種類は民間企業、個人経営及び有限責任会社で、全体の86.1%を占めた。主として浙江、江蘇及び山東に所在する44の合弁会社は、香港、澳門、中国の台湾及び外国から投資を受けたものだった。個人経営は河北(27.3%)と浙江(15.6%)で相対的に高い割合を占めた。こうした企業は主として中国東部(78.4%)にあることから、中国西部のものは8.0%を占めるだけだった。大部分の企業の事業対象には原料の加工と一次製品の製造が含まれたが、ビニル・アスベストタイル、アスベストセメント、アスベスト屋根用フェルト、アスベスト強化プラスチック、アスベスト接着剤、シーリング材、アスベスト衣やコーティング材など、そうした製品の多くは中止された。蒸気エンジン、配管や機関車にアスベスト保温材を使う会社がいる一方で、それをボイラー、ガスケット、セメント、屋根材や自動車用ブレーキパッドに使うものもあった。2019年には、アスベスト関連企業は主として有限責任会社、個人経営及び集団企業で、96.5%を占めた。外国から投資を受けた4企業が、浙江、重慶、遼寧及び新疆にあった。中国東部のアスベスト関連企業が2010年と比較して10.9%減少した一方で、中国西部における数は2010年と比較して約3.7倍、269.8%増加した。とりわけ、新疆、貴州、江蘇及び雲南(4つの省レベル行政区分において2.2%から14.5%への増加)など相対的に開発とジュノ地域では、ポリウレタンフォーム、非晶質シリカ生地、超硬化性プラスチックパウダーやセルロースファイバーなど、いくつかの相対的に安全な代替品が入手可能になった。アスベスト製品は事業の一部にすぎないものの、とりわけ中国西部では、セメントタイルが主要なアスベスト製品であり、その割合は4.0%から16.2%に増加した。

1997年と2018年の間に報告された3,831件の石綿肺事例の分布を図2に示した。それらのうち1,471件と2,361件が各々1997~2007年と2008~2018年に報告された(60.6%の増加)。とりわけ、天津で報告された事例数が187件から1,175件に増加(528.3%の増加)した一方で、江蘇、新疆及び吉林でも著しい増加がみられた。天津、北京、山東、新疆、甘粛、青海、四川、浙江及び江蘇で報告された事例は合計の90.7%を占めた。にもかかわらず、北京、青海、四川、浙江及び江蘇における事例数は著しく減少しており、とりわけ北京では報告事例が68.3%減少した(394件から125件)。貴州、河南及び西蔵では報告された事例がなかった。報告された石綿肺事例は、1998~2011年に減少傾向を示した(294件から89件)。報告されたじん肺事例の割合も、1998年の3.55%から2017年の0.39%へと減少傾向を示した。この割合は2006~2017年に減少し続け(2.81%から0.39%)、2018年には0.69%に達した。

討論

アスベスト鉱山の分布とは対照的に、アスベスト製造企業は、2010年には主として中国東部の沿岸地域に所在していた。アスベスト関連企業は、アスベスト製品への大きな需要のゆえに、経済的に発展した地域で繁栄した。アスベストの豊富さにもかかわらず、多くの他の地域における劣悪な輸送インフラのために、少数のアスベスト関連企業は開発途上地域を選択した。その中心的な地理的位置と輸送の利便性から、河南と河北がアスベスト原料と最終製品のトランジットエリアになった。多くのアスベスト関連企業は、リソースの存在と経済需要に基づいて、河北省ライ源アスベスト鉱山、山東省日照アスベスト鉱山及び遼寧州朝陽アスベスト鉱山を選んだ。

2010年と2019年の入手可能なデータに基づいて、アスベスト関連企業は次第に経済的に開発された中国東部の沿岸地域から、相対的に開発途上の西部・中部地域に移動した。この傾向は、中国の開発戦略、投資、及び西部地域の開発を促進する政策によるものかもしれない。中国東部の大都市における環境規制の厳格化も役割を果たし方かもしれない。

10年以上にわたって中国西部における輸送インフラは著しく改善された。地域の経済発展はアスベスト製品の需要を増加させた。とりわけ道路や建物の建設がアスベストセメント製品の需要を高めた。大規模な市場の需要に応えて、アスベスト関連企業は中国内のいくつかの地域に集中した。

にもかかわらずアスベスト関連企業はなお零細化、個別化及び提携によって特徴づけられる。多くの企業がいくらかアスベストの健康ハザーズを隠した。「アスベスト」という言葉を企業の名前のなかに使ったのは、2010年に1,611企業のうち114(9.8%)だけ、2019年には1,936企業中182(9.4%)だけだった。いくつかの企業は、建材会社やシーリング材工場など、最終製品の名称を使った。アスベスト事業の性質を企業名から判断することは困難だった。その一方で、大部分のアスベスト関連企業はまた、アスベスト以外の様々な製品も扱った。これら企業のうちの2010年に12.5%(202/1,611)、2019年に25.9%(502/1,936)だけが専らまたは主としてアスベスト製品を扱っていた。

石綿肺事例は主として、天津、北京、山東及び新疆でみられ、それはアスベスト関連企業の分布と一致していた。とりわけ、河北で操業するアスベスト関連諸企業が2010年(348/1,691)と2019年(470/1,936)に中国で第1位にランクされたが、1997年から2018年の20年間に26件の石綿肺事例が報告されただけである。対照的に、天津には2010年と2019年に67(67/3,547)のアスベスト関連企業があったが、1,362件の石綿肺事例が報告された。明らかなアスベスト関連企業の存在にもかかわらず、広東、貴州及び湖南ではわずかな石綿肺事例しか報告されていない。よりきわだって、貴州では過去20年間に報告された石綿肺事例がない。これは、地域の労働衛生機関の限られた診断能力や臨床経験など、いくつかの要因によるものかもしれない。石綿肺の病理組織学的診断には、通常の間質性肺炎(UIP)と同様な、間質性の肺線維症を伴なった被覆されないまたは被覆されたアスベスト繊維(石綿小体)の存在が必要であり、そのため他の肺疾患と容易に誤診断されやすい。さらに、過少診断または未診断は、事例の報告に関するエラーの主要な原因である。その他の影響を及ぼす要因には、不適切な報告、関係事例の現場から離れた報告や貧弱な規制が含まれる。とりわけ2010年に合計で188,739人の従業員だった。それゆえ、みつけられていない多数の石綿肺患者がいるかもしれず、その危害が著しく過小推計されている。

石綿肺事例は減少傾向を示しており、それは2002年に中国で角閃石系アスベストが禁止されたことと密接に関係していた。調査研究は、アスベスト曝露が、10~15年の潜伏期間をもつ、石綿肺や悪性中皮腫など、様々な疾病を引き起こし、石綿肺のリスクがもっとも高いのは初回曝露から40~60年後にみられることを確認してきた。にもかかわらず、アスベスト代替化の政策インセンティブはアスベスト企業に原料の切り替えを促進するし、アスベスト曝露の減少が石綿肺の発生率を減少させた。

本研究は、少なくともいくつかの限界があった。われわれが収集した情報が限られていたために、アスベスト曝露に関する情報を提供できなかったが、それは労働衛生においては重要である。また、信頼性、包括性及び正確性について、様々な地域で報告された石綿肺事例を評価することができなかったが、これが報告された石綿肺事例の地域分布に影響があるかもしれない。

アスベスト関連企業及び石綿肺の分布は、アスベスト管理に関する健全な労働衛生戦略の重要性を強調している。本研究の知見に基づいて、いくつかのねらいを絞った戦略を実行することが可能である。第1に、行動の改善を促進するために相対的に安全なアスベスト代替品に関する情報及びインセンティブが提供されるべきであると同時に、鍵となる省・地方自治体における分布パターンに応じてアスベスト関連企業の監督を集中することができる。第2に、零細化及び民間個人化に応じた断片的契約、現場監督及び実証的なプロモーションを採用することができる。事業の性質の秘匿を解決し、ネーミングを組み込み、労働衛生の宣言を強化するために、商業、消防及び保安部門と協力して、アスベスト企業の情報データベースを駆逐することができる。最後に、とりわけ診断能力の不十分な地域おいて、アスベスト関連疾患の早期診断、治療及びリハビリテーションを改善させることができる。アスベスト関連肺がんの疫学を明らかにするためには確固とした労働・環境評価・報告が必要である。

※http://weekly.chinacdc.cn/fileCCDCW/journal/article/ccdcw/2020/18/PDF/200023.pdf

安全センター情報2020年10月号