石綿曝露-四国電力アスベスト中皮腫労災死事件/鈴木意見書参考文献-⑬「火力発電所におけるアスベスト曝露」

第2部 アスベスト疾患のひろがり
第2章 悪性中皮腫とはどんな病気か
Ⅱ 鈴木康之亮意見書添付資料 Ⅲ「参考文献」翻訳
5 発電所と石綿関連疾患に関する文献

⑬「火力発電所におけるアスベスト曝露」

G.Scansetti, E.Pira, G.C.Botta, M.Turbiglio and G.Piolatto
Turin大学労働衛生研究所(イタリア)
American Occupational Hygiene, Vol.37, No.6, 1993, pp.645-653

要旨

古い混焼火力発電所でのアスベストの危険性に関する研究を実施した。大量のアスベスト含有物質(アスベスト断熱パイプ20km)の存在にも関わらず、正常な作業条件下ではアスベストの平均気中濃度は1.55繊維/l(SD 2.05)の低さであった。保守と修理作業中には明らかにはるかに高濃度となるだろう。人造鉱物繊維(MMMF)はいくつかのサンプル中に時折にのみ検出された。

研究対象の全521人の労働者の連続していない3回分の喀痰サンプルを集めた。:3.1%にはアスベスト小体があったが、喀痰g当たり4以上のアスベスト小体のある例はなかった。

大半の例で、不整形あるいは混合型の小さな陰影が470人のX線写真のうち15(3.1%)に認められる質で存在した。

これらの例にはアスベスト小体は認められなかった。胸膜の変化はあまり共通してはいなかった(10例、2.1%)。:両側性の5例のうち2例は喀痰中にアスベスト小体を有していた。

低アスベスト曝露の徴候の検出では、伝統的なレントゲン写真での後前(PA)像による胸膜異常の検索よりも、喀痰中のアスベスト小体の反復的な計数が有効だったと結論づけられる。

タービンと蒸気パイプからの熱放出を減らすために、火力発電所はかなりの量の断熱物質を必要とするが、そこにはかつてアスベスト含有物質が広範に用いられていた。その結果、いくつかのアスベストに関連のある健康影響についての意識が、新しい発電所の建設においてのアスベストを含まない断熱材の使用を促した。

これにも関わらず、古い発電所では定期的な保守作業がかなりの量のアスベスト繊維を空中に放ち、放出される繊維が対流する空気の動きで気中に拡散され続けた。したがって、いくつかの火力発電所では低いアスベストの危険性がいまだに持続していることが示唆されうる。

それゆえに、イタリアの混焼火力発電所でのこの問題の程度と特徴を調査した。現在の曝露レベルを周囲の気中アスベスト繊維の測定により評価した。繊維の保存を研究するために、まだ雇用されている労働者の喀痰中のアスベスト小体の計数を実施した。これらの小体は、肺の中で被覆されるアスベストよりも、繊維性鉱物において形成されうることをGROSSら(1967)は指摘し、こうして含鉄小体として記述されうることを示唆した。しかし、CHURGとWARNOCK(1977)は、アメリカの一般住民の構成員の肺から分離される含鉄小体の大多数は、アンフィボールアスベスト繊維を含むことを示した。

吸い込んだ繊維の一部分だけがアスベスト小体になる。:これは、肺で被覆されない繊維の総量は何桁かだけ高いはずであることを示している。結果として、喀痰中のアスベスト小体が少しでも存在すれば、以前のアスベスト曝露のよい指標として考えられうる。

肺の影響は標準的な放射線学的方法で調査した。

対象と方法

研究対象の発電所は1960年に運転を開始した。そこでは4つの圧縮蒸気タービン発電ユニットが作動し、それぞれ名目上320MWの出力をもつ。全体は蒸気再発生器で開放系サイクルで運転し、固形あるいは液体燃料のいずれをも燃焼することができる。;2つは気体状燃料を利用する。

現在の労働者数は521人で、1960年以降の異なった時点で初めて雇われている。

発電所全体に分布し、アスベストを含むことが疑われる種々の保温材から採取されたサンプルを調査することにより、アスベストの存在する程度をあらかじめ評価した。36のサンプルのうち、16は水、蒸気、ナフサパイプから、20はヒーター、タンク、フィルターなどから採取した。サンプルはその後、Philips X線回折計(XRD)(1300/00型)を使用して分析した。

以前の調査から得られる繊維濃度データと、労働者が集まる区域について経験のある労働者による指摘を考慮して空気採取地点を選んだ。

静的な気中ダストのサンプルは定常流ポンプ(Dual Zambelli)を使用し、Milliporeフィルター(直径37mm、孔サイズ0.8μm)で採取した。流速は2l/分で120分間採取した。

フィルターはその後N-メチル-2-ピロリドン(脱イオン水中70%)を2、3滴加えて、80℃で20分間恒温オーブンに入れて洗浄した。それから、WaltonBeckett接眼レンズレチクルを使用し、光学顕微鏡(OM)で伝統的なAIA(1979年)計数規則にしたがって繊維を測定し、数を数えた。

4個のサンプルもまた、電子顕微鏡(EM)で調査した。金で被覆された両面テープを用いて、使い残したフィルターに直接移した後、OMに使用されたフィルターの一部について、走査型電子顕微鏡(SEM)での観察を実施した。SEM装置は元素分析のため、エネルギー分散X線解析(EDXA)を備えたPhilips 515であった。

クリソタイルは別として、アンフィボール繊維が気中ダスト中に存在するかどうかを評価することにわれわれは関心があったので、いくつかのサンプル上での繊維の同定をするためだけにEMを使用し、繊維の計数は意図しなかった。したがって、結果の項で報告される気中繊維濃度はOMによるものである。

任意の連続していない3日間の早朝に、あらかじめ重量を測定した広口のプラスチックカップを用いて、各被験者から喀痰のサンプルを採取した。:個人の粘液-線毛クリアランスのための喀痰量の周期的変化を考慮して、連続していない日が選ばれた。

再び重量を量った後、サンプルを50-60mlの洗濯用漂白剤(Cl2≧7%)で分解した。カップを数分間振り、完全にきれいになるまで(48-72時間)恒温オーブン内で40℃に保った。:必要があれば過酸化水素を数滴加えた。

分解されたものをそれからMillipore膜フィルター(セルロースの混合エステル:直径25mm、孔サイズ0.8μm)を通じて真空濾過した。フィルターはその後乾燥させ、アセトン蒸気で洗浄した。

観察と計数は、洗浄した膜全体の上で光学顕微鏡(×400倍、位相差)により行った。:結果を喀痰g当たりの小体数で表した。

胸部レントゲン写真を吸気時のPA像で撮影し、3人の熟練した産業健康医が別々に、ILO1980年分類にしたがって読影した。結果は3人の各々の読影の平均として表した。

結果

保温材には、クリソタイルがアモサイトよりも高い頻度で、より多くの量が存在することが分かった(表1)。

表2は、アスベスト繊維濃度の増加にしたがって挙げられた41の環境空気中サンプルの粒子サイズの分布を示している。アスベスト繊維濃度は、われわれの例のように、気中繊維数が低い環境サンプリングによく用いられる単位である、繊維/リットル(ff/l)で表す。実際、サンプルの大半(83%)で繊維濃度は2ff/l以下であった。:1サンプルだけが6ff/lを越え、実際のレベルは12ff/lであった(すなわち、観察された最高濃度であった)。4ff/lを越える濃度はタービン部門だけで見られた。

電子顕微鏡(EM)で調べられた繊維の大半はクリソタイルであったが、まれにいくつかの典型的なアモサイト繊維が観察された。MMMF(鉱物性ウールまたはセラミック)はときどきにのみいくつかのサンプルで観察された。

アスベスト小体が16人の労働者(3.1%)の喀痰に認められた。:4人は、調査した発電所か以前の仕事での保温作業で明らかにアスベスト曝露があった。:さらに3人は、配管工として携わっており、おそらくアスベストに曝露されていたと考えられた。しかし、アスベスト小体の数は少なかった。:g当たり4アスベスト小体を越えた例はなかった(表3)。

主な放射線学的検査所見を表4に報告する。521のX線写真のうち、470(90.2%)が分類可能と考えられた(1980年ILO分類による技術的質等級1-3)。1/0以上の尺度の小陰影をもつ割合は3.2%(15例/470例)であり、大半は不整形(8例/15例)でいくつかは粒状影(3例/15例)か混合型(4例/15例)であった。2例(ILOのじん肺分類にしたがって、それぞれ、尺度  1/1; s/t; p/s型)には、調査した発電所内で、または以前の仕事で、配管工として直接曝露した可能性があった。しかし、15例のどの喀痰サンプル中にもアスベスト小体は認められなかった。

胸膜異常が10例(2.1%)に認められ、内5例は両側性であった。3人の被験者は保温工として、内2人は調査した発電所で、あと1人は以前の仕事で、明らかに曝露されていた。;他の2人はその発電所で配管工であったので、このように、おそらく曝露された(上に報告したように)と分類された。両側性の肥厚をもつ3例の内の2例にアスベスト小体が認められたことは注目すべきである。

討論

調査対象の発電所内のアスベスト断熱パイプの全長は20km以上である。このことは、かなりの量のアスベストの存在を単に示唆するだけであり、正常な状態では大量の空気汚染を結果するものではない(平均繊維濃度1.55ff/l,SD 2.05)。アスベスト含有物質から繊維の放出する保守や修理作業の間には、周囲の空気では、明らかにはるかに高いアスベスト濃度となりうる。比較の基礎となっている文献に存在するデータは不十分で、主に過去の経験について言及している。

保温作業後24時間で、HIRSCHら(1979)は、対照とした自動車工場で1ng/m3のクリソタイルと検出できない量のアンフィボールを認めたのに対し、2-40ng/m3のクリソタイルと1-90ng/m3のアンフィボールを発電プラントで認めた。しかし、これらのデータをわれわれの所見との比較のために用いることは困難である。全体濃度から繊維数濃度に変換するために受け入れられる要素はひとつもないからである。例えば、NRC(1984)とアメリカ環境保護庁(1986)により、EM分析を用いて提案されている値は、HIRSCHら(1979)の例のようにそれぞれ、1f/mlに対して0.5μg/m3と、1f/mlに対して30μg/m3である。さらに、変換要素は異なる条件下で得られるサンプルには適用することができない。

アメリカ環境保護庁の公共建造物の調査は、損傷したアスベスト含有物質のある建造物内で最高濃度を示した(0.73±0.72ff/l)(CHESSONら,1990)。したがって、上述のわれわれの発電所で観察された平均濃度は、CHESSONら(1990)により認められた平均値の約2倍の高さである。

0.1から1.5ff/lの濃度が、吹き付けアスベスト(主にクロシドライト)で断熱されたドイツの学校やスポーツセンターで認められた(MARFELSら,1984)。

この調査では、喀痰中に認められたアスベスト小体をもつ例の割合(3.1%)は、ありうる、または弱い曝露レベルに関連した文献によって示された値に近い。表5は、ひとつの曝露カテゴリーから次に低いカテゴリーに移るにつれ、アスベスト小体の平均保有率が約一桁小さくなることを示している。:「明らかな、深刻な曝露」の38.4%であり、「曝露がありうる、または弱い曝露」の2.9%と、「アスベスト曝露なし」の0.1%であった。最後の値は、一般住民に対する「一般的な合意」により示される0.3%の有病率と矛盾しない(MEETING REPORT, 1993)。いままでの研究を基礎としては定量化をすることは困難であるが、このように、「ありうる、または弱い」と分類される曝露と関連する3%の有病率は、いくぶん高い曝露レベルを示している。

火力発電所ではそうであるように、クリソタイルとアモサイトの両方もまた調査した発電所で検出された。MCDONALDら(1992)が最近指摘したように、両方のタイプのアスベストの曝露は喀痰中のアスベスト小体をもつ例の率を倍加しうる。

放射線学的所見は説明がより困難である。:実質または胸膜異常をもつ全25例があり(すなわち調査した労働者数の5.3%)、肺実質の陰影の数(8例で不整形)は胸膜の変化のそれより高かった。

もし、最初の曝露から十分な期間が経過していたならば、低いアスベストレベルにおいてすら胸膜プラークの存在が期待されるが、たいてい肺実質の陰影はより重度の曝露と関連がある。おそらく過去に起こったピーク濃度が、この調査で認められる平均濃度を基礎として推定されるよりも、累積曝露量を高くしたのならば、それがこの研究における真相であるのかもしれない。

比較に利用できるデータは研究によって大きく異なる結果を示している。Harvard研究グループ(OLIVERら,  1991)は、ILOカテゴリー1/0以内の尺度をもつ不整形陰影が「外部でのアスベスト曝露のない」学校用務員の3人だけ(2.5%)に認められたものの、彼らの21%に胸膜プラークが発見されたことを最近報告した。ボストンにある大規模な大学の研究室、保守、用地係の職員で、大学におけるアスベスト曝露の不明な717人からなる集団に関するEPLERら(1982)のデータを比較のために用いた。この集団では胸膜プラークの有病率は全部で1.8%であった(以前に職業上の曝露のあった者を除くと0.7%)。: OLIVERら(1991)はその後、学校用務員の胸膜プラークの発生は過剰であったと結論づけた。さらなる研究(CASEとOLIVER、1992)で、83人のボストンの用務員労働者の集団から得られる十分な喀痰サンプル中(45サンプル、返却率66%)にはアスベスト小体は認められなかった。

われわれの研究は発電所の労働者の、PA像だけを利用する日常的な放射線学的検査に基づいたが、OLIVERら(1991)は4つのX線写真像(すなわち後前(PA)、側面と両斜位)を評価している。それら著者は、斜位像の寄与を検討したが、そこでは3.8から40%と異なるアスベストに関連する胸膜変化の検出の増加を示している。それゆえに、われわれがPA像だけを用いたという事実が胸膜異常の実際の有病率の過小評価を導いていたのかも知れないと、われわれは感じた。

アスベスト小体の計数は、個人の曝露評価のための利用には、感度が低過ぎるが(MEETING REPORT, 1993)、「喀痰中に典型的なアスベスト小体を一つでも発見すれば職業上のアスベスト曝露を示唆する」という点で高い特異性が報告されている。

われわれの結果に従うと、喀痰サンプル中の反復的なアスベスト小体計数により、個人のアスベスト曝露の検出の可能性は、増加するだろう。

結論

この調査は火力発電所で実施されたいくつかの研究のひとつを代表している。 今回測定されたように曝露レベルは大変低く、すなわち、大都市に住む一般住民に対するいくつかの研究で報告されているのと同程度だが、ピーク濃度は保守作業の間に起こりうる。過去のこれらの作業の不十分な処置は曝露レベルをより高くしてきたかもしれない。

それゆえ、現在の測定は、過去における実際の曝露を表わすことができていないだろう。そうすると、個人の累積曝露は現在の値から期待されるよりも高くなるだろう。この事実とアモサイトの存在は、アスベスト小体と実質の放射線学的異常の観察される有病率に責任がありそうである。文献に従うと、アスベスト小体保有率(約3%)はたいてい、この調査で認められる値よりも幾分高い平均繊維濃度で期待されうる。

謝辞

この研究を可能としてくれたENEL SPA(国立電気会社)の援助に謝意を表す。

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