長時間労働が疑われる事業場に対する2019(令和元)年度の監督指導結果を公表~厚生労働省 2020年9月8日 約4割が過労死ライン超え/公表の中味に改善の余地あり

約33000事業場に「監督指導」実施

厚生労働省は2020年9月8日付で「長時間労働が疑われる事業場に対する令和元年度の監督指導結果」(2019年度分)を公表した。今回の対象事業場数は、32981事業場。

この「監督指導」はどのような事業場を対象にしたものか。

・・・各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場を対象としています。

長時間労働が疑われる事業場に対する令和元年度の監督指導結果を公表します(厚生労働省)

ということである。

ちなみに、「1ヶ月当たり80時間超」というのは、健康障害のリスクが高まるとされる、いわゆる「過労死ライン」と関連した目安である。

たとえば、『脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について』(平成13年12月12日付け基発第1063号厚生労働省労働基準局長通達)のなかに、

(1)発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
(2)発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる

との記述がある。

過労死ライン超え事業場 37.1%

厚生労働省発表が示した「ポイント」を以下に引用する。

【平成31年4月から令和2年3月までの監督指導結果のポイント】

(1) 監督指導の実施事業場:32,981事業場
(2) 主な違反内容[(1)のうち、法令違反があり、是正勧告書を交付した事業場]
 ① 違法な時間外労働があったもの:15,593事業場(47.3%)
  うち、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数が
  月80時間を超えるもの:       5,785事業場(37.1%)
   うち、月100時間を超えるもの:   3,564事業場(22.9%)
   うち、月150時間を超えるもの:    730事業場( 4.7%)
   うち、月200時間を超えるもの:    136事業場( 0.9%)
 ② 賃金不払残業があったもの:2,559事業場(7.8%)
 ③ 過重労働による健康障害防止措置が未実施のもの:6,419事業場(19.5%)
(3) 主な健康障害防止に関する指導の状況[(1)のうち、健康障害防止のため指導票を交付した事業場]
 ① 過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導したもの:15,338事業場(46.5%)
 ② 労働時間の把握が不適正なため指導したもの:6,095事業場(18.5%)

ほぼ4割の事業場で過労死ラインの月80時間超の非常に長い時間外労働を労働者にさせている。
しかも、「健康障害防止のため指導票を交付した事業場」は半数近く(46.5%)、さらには、労働時間は把握が不適正だと指導したのが2割近く(18.5%)という。
改善を要することは明確である。

実際、どのように解決していくのか。使用者はもちろん、厚生労働省や労働組合に重い課題が課せられている。

2016年度~2019年度の監督指導結果

厚生労働省は長時間労働対策の柱の一つとして、「長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導」を位置づけており、その結果について、2016年度分を2017年7月26日に初めて公表して以来、例年、7月に前年度分の公表を行っている(今年は9月になった)。

以下に、4回分の公表資料を紹介する(2019年度分は全文とPDFファイル。2018年度以前はPDFファイル)厚生労働省は毎回、監督指導結果、監督事例などをまとめている。

4年間でみると、監督実施事業場数は2016(H28)年度:23915から2019(R1)年度:32981と1万事業場近く増えている。

「違法な時間外労働があったもの」は、43.0%から47.3%とほぼ横ばい。

そのうち「1ヵ月当たり80時間を超えるもの」は、76.8%から37.1%へとほぼ半減している。2017年度:74.1%、2018年度:66.8%であったので、2019年度の下げ幅が大きかったが、そのあたりを含めての分析や自己の政策評価が、厚労省発表には書かれていないのはいただけない。内部的な総括・分析をしているはずであるからのであれば結果数字だけではなく、それを含めて公表するべきである。

また、年度間の比較が常に前年度との比較を提示するに限られ、しかも、発表時の各表の数値それぞれについては多くが比較すらおこなわれていない

本来は、もっとも詳細な報告項目について、初年度からの経年比較表を毎年度作成し、公表資料に含ませるべきである。

【今回】長時間労働が疑われる事業場に対する監督指導結果(平成31年4月から令和2年3月までに実施)

1 法違反の状況(是正勧告書を交付したもの)

監督指導実施状況

平成31年4月から令和2年3月までに、32,981事業場に対し監督指導を実施し、25,770事業場(78.1%)で労働基準関係法令違反が認められた。

主な法違反は、違法な時間外労働があったものが15,593事業場、賃金不払残業があったものが2,559事業場、過重労働による健康障害防止措置が未実施のものが6,419事業場であった。

表1 監督指導実施事業場数

(注1) 主な業種を掲載しているため、合計数とは一致しない。

(注2)  かっこ内は、監督指導実施事業場数に対する割合である。

(注3)  労働時間に関する違反は、
労働基準法第32・40条違反〔36協定なく時間外労働を行わせているもの、36協定で定める限度時間を超えて時間外労働を行わせているものなど違法な時間外労働があったもの。〕及び労働基準法第36条第6項違反(時間外労働の上限規制)の件数を計上している。

(注4) 賃金不払い残業に関する違反は、
労働基準法第37条違反〔割増賃金〕のうち、賃金不払残業の件数を計上している〔計算誤り等は含まない。〕。

(注5)  健康障害防止措置に関する違反は、
労働安全衛生法第18条違反〔衛生委員会を設置していないもの等。〕、労働安全衛生法第66条違反〔健康診断を行っていない もの。〕、労働安全衛生法第66条の8違反〔1月当たり80時間以上の時間外・休日労働を行った労働者から、医師による面接指導の申出があったにもかかわらず、面接指導を実施していないもの。〕、労働安全衛生法第66条の8の3違反〔客観的な方法その他の適切な方法により労働時間の状況を把握していないもの。〕等の件数を計上している。

(注6) 「その他の事業」とは、派遣業、警備業、情報処理サービス業等をいう。

表2 事業場規模別の監督指導実施事業場数
表3 企業規模別の監督指導実施事業場数

2 主な健康障害防止に関する指導状況(指導票を交付したもの)

(1) 過重労働による健康障害防止のための指導状況

監督指導を実施した事業場のうち、15,338事業場に対して、長時間労働を行った労働者に対する医師による面接指導等の過重労働による健康障害防止措置を講じるよう指導した。

表4 過重労働による健康障害防止のための指導状況

(注1) 指導事項は、複数の場合、それぞれに計上している。なお、「月45時間以内への削減」と「月80時間以内への削減」は重複していない

(注2) 1か月80時間を超える時間外・休日労働を行っている労働者について、面接指導等の必要な措置を実施するよう努めることなどを指導した事業場数を計上している。

(注3) 「長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること」又は「労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること」について、
① 常時50人以上の労働者を使用する事業場の場合には衛生委員会で調査審議を行うこと、
② 常時50人未満の労働者を使用する事業場の場合には、労働安全衛生規則第23条の2に基づく関係労働者の意見を聴くための機会等を利用して、関係労働者の意見を聴取すること
を指導した事業場数を計上している。

(注4) 時間外・休日労働時間を1か月当たり45時間以内とするよう削減に努め、そのための具体的方策を検討し、その結果、講ずることとした方策の着実な実施に努めることを指導した事業場数を計上している。

(注5) 医師による面接指導等を実施するに当たり、労働者による申出が適切になされるようにするための仕組み等を予め定めることなどを指導した事業場数を計上している。

(2)  労働時間の適正な把握に関する指導状況

監督指導を実施した事業場のうち、6,095事業場に対して、労働時間の把握が不適正であるため、厚生労働省で定める「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(労働時間適正把握ガイドライン(参考資料1ー後掲))に適合するよう指導した。

表5 労働時間の適正な把握に関する指導状況

(注1) 指導事項は、複数の場合、それぞれに計上している。
(注2)  各項目のかっこ内は、それぞれの指導項目が、労働時間適正把握ガイドラインのどの項目に基づくものであるかを示している。

3 監督指導により把握した実態

(1) 時間外・休日労働時間が最長の者の実績

監督指導を実施した結果、違法な時間外労働があった15,593事業場において、時間外・休日労働が最長の者を確認したところ、5,785事業場で1か月80時間を、うち3,564事業場で1か月100時間を、うち730事業場で1か月150時間を、うち136事業場で1か月200時間を超えていた。

表6 時間外・休日労働時間が最長の者の実績(労働時間違反事業場に限る)
(2) 労働時間の管理方法

監督指導を実施した事業場において、労働時間の管理方法を確認したところ、2,852事業場で使用者が自ら現認することにより確認し、13,512事業場でタイムカードを基礎に確認し、5,595事業場でICカード、IDカードを基礎に確認し、9,859事業場で自己申告制により確認し、始業・終業時刻等を記録していた。

表7 監督指導実施事業場における労働時間の管理方法

(注1) 労働時間適正把握ガイドラインに定める始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法を指す。

(注2) 監督対象事業場において、部署等によって異なる労働時間の管理方法を採用している場合、複数に計上している。

(注3) 労働時間適正把握ガイドラインに基づき、自己申告制が導入されている事業場を含む。

【参考】 2016年度~2019年度の監督指導結果の推移

(筆者注:厚生労働省公表資料では前年度の監督指導結果との比較だけが提示されているに過ぎないので、筆者でまとめた。Excelファイルでもダウンロードできます。公表資料現物は稿末PDFファイルを参照ください。)

2016~2019年度公表資料(PDF)