脳・心臓疾患、精神障害(過労死・過労自殺を含む)の労災認定状況の分析(2019年度速報)
厚生労働省は2020年6月26日、令和元[2019]年度「過労死等の労災補償状況」を公表した[https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11975.html]。
厚生労働省の発表
同省自身が指摘する2018年度の特徴は、以下のとおりである。
■ポイント
過労死等に関する請求件数は2,996件で、前年度比299件の増となった。
また、支給決定件数は725件で前年度比22件の増となり、うち死亡(自殺未遂を含む。)件数は前年度比16件増の174件であった。
■脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況
① 請求件数は936件で、前年度比59件の増となった。
② 支給決定件数は216件で前年度比22件の減となり、うち死亡件数は前年度比4件増の86件であった。
③ 業種別(大分類)では、請求件数は「運輸業,郵便業」197件、「卸売業,小売業」150件、「建設業」130件の順で多く、支給決定件数は「運輸業,郵便業」68件、「卸売業,小売業」32件、「製造業」22件の順に多い。
業種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに業種別(大分類)の「運輸業,郵便業」のうち「道路貨物運送業」144件、61件が最多。
④ 職種別(大分類)では、請求件数は「輸送・機械運転従事者」185件、「専門的・技術的職業従事者」127件、「サービス職業従事者」114件の順で多く、支給決定件数は「輸送・機械運転従事者」68件、「専門的・技術的職業従事者」と「サービス職業従事者」26件の順に多い。
職種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに職種別(大分類)の「輸送・機械運転従事者」のうち「自動車運転従事者」177件、67件が最多。
⑤ 年齢別では、請求件数は「50~59歳」333件、「60歳以上」294件、「40~49歳」248件の順で多く、支給決定件数は「50~59歳」91件、「40~49歳」67件、「60歳以上」42件の順に多い。
⑥ 時間外労働時間別(1か月または2~6か月における1か月平均)支給決定件数は、「評価期間1か月」では「120時間以上~140時間未満」33件が最も多い。また、「評価期間2~6か月における1か月平均」では「80時間以上~100時間未満」73件が最も多い。
■精神障害に関する事案の労災補償状況
① 請求件数は2,060件で前年度比240件の増となり、うち未遂を含む自殺件数は前年度比2件増の202件であった。
② 支給決定件数は509件で前年度比44件の増となり、うち未遂を含む自殺の件数は前年度比12件増の88件であった。
③ 業種別(大分類)では、請求件数は「医療,福祉」426件、「製造業」352件、「卸売業,小売業」279件の順に多く、支給決定件数は「製造業」90件、「医療,福祉」78件、「卸売業,小売業」74件の順に多い。
業種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに業種別(大分類)の「医療,福祉」のうち「社会保険・社会福祉・介護事業」256件、48件が最多。
④ 職種別(大分類)では、請求件数は「専門的・技術的職業従事者」500件、「事務従事者」465件、「サービス職業従事者」312件の順に多く、支給決定件数は「専門的・技術的職業従事者」137件、「サービス職業従事者」81件、「事務従事者」79件の順に多い。
職種別(中分類)では、請求件数、支給決定件数ともに職種別(大分類)の「事務従事者」のうち「一般事務従事者」339件、49件が最多。
⑤ 年齢別では、請求件数は「40~49歳」639件、「30~39歳」509件、「20~29歳」432件、支給決定件数は「40~49歳」170件、「30~39歳」132件、「20~29歳」116件の順に多い。
⑥ 時間外労働時間別(1か月平均)支給決定件数は、「20時間未満」が68件で最も多く、次いで「100時間以上~120時間未満」が63件であった。
⑦ 出来事(※)別の支給決定件数は、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」79件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」68件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」55件の順に多い。
※「出来事」とは精神障害の発病に関与したと考えられる事象の心理的負荷の強度を評価するために、認定基準において、一定の事象を類型化したもの
■裁量労働制対象者に関する労災補償状況
令和元年度の裁量労働制対象者に関する脳・心臓疾患の支給決定件数は2件で、すべて専門業務型裁量労働制対象者に関する支給決定であった。また、精神障害の支給決定件数は7件で、すべて専門業務型裁量労働制対象者に関する支給決定であった。
請求・認定件数
全国労働安全衛生センター連絡会議は、今回発表されたデータだけでなく、過去に公表された関連データも含めて分析・検討を行っている。
取り急ぎ「速報」ということで、請求・認定件数及び認定率の推移のみグラフ化して紹介したい。
まずは、請求・認定件数。
脳・心臓疾患及び精神障害ともに、請求件数が増加し続けていることが一目でわかる。とくに精神障害の請求件数の増加が著しく、2009年度に1,000件を超え、2019年度に2,000件を超えた。
これに対して認定件数のほうは同じような増加傾向は示していない。精神障害の認定件数は、2019年度は前年度の465件から509件に増加したものの、脳・心臓疾患の認定件数は、2012年度の338件以降減少傾向を示して、2019年度は216件と2006年度以来の少なさになってしまっている。
認定率
「認定率」について、以下のふたつの数字を計算している。
認定率①=認定(支給決定)件数/請求件数
認定率②=認定(支給決定)件数/決定件数(支給決定件数+不支給決定件数)
もちろん認定率②の方が本来の「認定率」にふさわしいわけだが、これが計算できるようになったのは、2002年度以降分からである。
脳・心臓疾患及び精神障害とも、また認定率①及び認定率②ともに、2013年度以降減少傾向を示していることが非常に気にかかる。
請求件数が増加し続けているにもかかわらず、認定率が減少し続けているために、認定件数が増加しない、どころか脳・心臓疾患では減少傾向すら示しているという結果になっているのである。
認定基準の内容とともに、その運用についても見直しが必要である。