アスベスト肺がん公務災害認定、元海上自衛隊員、自衛艦内などボイラー・配管作業 で石綿ばく露/広島

概要・解説

本件は、自衛艦内の機関室などでボーラー、配管の整備、補修作業においてアスベストにばく露し、肺がんを発症し、公務災害申請を防衛庁に行い、8年後に公務上として認定されたものである。本稿にあるとおり、自衛隊員の石綿被害は少なくないが、申請から決定までの遅延が問題になっている

記事/問合せ:広島労働安全衛生センター

公務災害請求して5年間放置

元呉海上自衛隊員のYさん(77歳)が、アスベストによる肺がんで公務上災害認定を受けた。

Yさんは1955年7月に海上自衛隊に入隊。1989年に定年退職するまで、1965年10月~68年2月、自衛艦「あけぼの」や「ゆうぐれ」などで機関科に所属。ボイラー室に詰めて整備作業や応急修理でアスベストを扱っていたが、当時はマスクなどの使用はなく、指導も行われなかったという。

1999年8月に呉医療センターで肺の検査を受けた際に異常を指摘され、呉医師会病院で精密検査の結果原発性肺がんと診断された。広島市民病院で放射線化学療法を受け軽快したが、治療に伴う放射性肺臓炎のため、再び広島市民病院で入院加療。2005年には急性心筋梗塞で呉医療センターに入院。2006年にも、冠動脈バイパス術を受けるため、また左胸水貯留でも各々入院した。

Yさんはこうした病歴後に、2006年5月に公務災害請求を呉海上自衛隊総監部に行った。呉総監部の対応は、Yさんに何の連絡もないまま2011年まで(約5年間)放置されていたという。広島労働安全衛生センターが「労災・アスベスト110番」を開設した日に電話をかけてこられ、Yさんの事情を知ることとなった。

良性石綿胸水でなくアスベスト肺がん

その後、広島市の平弁護士ととも連絡をとりながら公務災害認定に向けて取り組みを行った。昨年末に公務災害請求に対する医師の「意見書」ができたと知らせがあった。「意見書」に記載された、防衛医科大学、自衛隊中央病院の医官等の見解には、「本件は海上自衛隊勤務における石綿ばく露により生じた良性石綿胸水とは判断できないものの、石綿ばく露により生じた肺がんと診断する」と書かれていた。
しかし、その後も音沙汰がないために、全国安全センターを通じて民主党アスベスト議連会長の近藤昭一衆議院議員に依頼して、防衛省におけるアスベスト関連疾患公務災害認定の現状について説明を求めるとともに、Yさんの件をはじめ請求から長期間経過している事案の早期認定を要請してもらった。その結果、7月28日の公務災害認定になった。

防衛省は遅すぎる

Yさんは「随分、無回答のままで、回答を得るまで長かった。横須賀など全国にいる仲間は一刻も早く申請してほしい」と述べた。

防衛省によると、海上自衛隊のアスベストによる公務災害申請はこれまで51件あり、Yさんを含めこれまでに全国で14件公務上認定、5件が公務外。審査中が32件あり、一番古いものは2005年のクボタショック直後に請求されたものである。労災保険や地方公務員災害補償基金等と比べても、防衛省の手続は遅すぎる。
公務上認定されたものは、艦艇内及び駐屯地内作業双方により、ボイラー周辺や各種配管の断熱材として使用されていたアスベストに曝露したものである。

安全センター情報2014年10月号