アスベスト肺がん労災認定、建設用安全ネット会社での補修・整備作業で石綿ばく露/石川・珠洲
建設現場の足場の外側を覆う建設用安全ネットなどの補修・整備作業に22年間従事した女性が、明らかな広範囲プラークを伴った原発性肺がんを発症し、アスベストばく露を認められて労災認定された事例である。建設用ネットは専門のリース会社が取り扱っており勤務する「キョーワ」は石川県珠洲市にネットの補修・整備工場があり、女性は地元労働者だった。いったんは不支給とされたが、再交渉ののち、本省協議に付され、自庁取消しによる認定となった。
建設現場外部の建設アスベスト被害
Hさんの母・Sさん(1937年生)は、1970年4月から1997年4月まで石川県珠洲市にあったキョーワ(株)の能登第一工場で、アスベストが付着していた建設用安全ネットの仕立て、補修、整備の作業に従事していた。
作業の流れは、運び込まれたネットについている「ほこり」や「番線」等を取り除き、水で洗浄した後に、乾かし、工場内で補修するというもので、汚れの少ない物は、洗浄せずに工場内で補修作業を行った。工場内は粉じんが舞っており、作業終了後には作業着等が汚れ、作業中のマスクの着用はなかった。
不当・不可思議「ばく露なし」認定で不支給に
Sさんは、2012年6月に肺がんを発症した。Hさんは、石綿曝露が原因だと考え、2014年に富山市で初めて行われたアスベスト相談会で、Sさんの石綿肺がんの労災について相談し、関西労働者安全センターの支援を受け、穴水労働基準監督署に労災請求を行った。
当初、労基署の調査で、サチ子さんの事案は、石綿曝露によってのみ肺に発生する胸膜プラークについては、胸部エックス線写真により明らかな陰影が認められ、かつ、胸部CT画像によっても広範囲に確認できるとされたが、石綿曝露作業への従事期間1年についての判断が労基署でできなかったため、厚生労働本省での協議が必要のはずだった。
しかし、労基署は本省協議に送ることなく、「石綿曝露作業を裏付ける客観的根拠が認められない」として、2015年6月8日に不支給処分とした。
本省協議を要求、実施後、自庁取消しで認定
Hさんと患者と家族の会は、厚生労働省に対して抗議するとともに、国会議員を通じて本省協議の実施を要求し、2015年8月31日に本省協議に伴う追加調査指示が労基署にされ、2016年2月26日の本省協議の結果、3月10日にSさんの肺がんを労災と認める、「石綿が付着していた可能性が認められるネットの補修の業務に1年以上従事していたことと、広範囲の胸膜プラークが画像上確認できる」との回答が行われ、3月14日に労災認定された。
石綿肺がんの労災認定基準では、胸部エックス線写真により明らかな胸膜プラークの陰影が認められ、かつ、胸部CT画像によっても当該陰影が胸膜プラークと確認できる所見と、左右いずれか一側の胸部CT画像上、胸膜プラークがもっとも広範囲に抽出されたスライスで、その広がりが胸壁内側の1/4以上の所見が見られるにもかかわらず、石綿曝露作業への従事期間が1年に満たないものについては本省協議することが定められているが、この事案では、最初の調査で労基署や労働局がこれを無視したことが問題だった。
行政の闇を感じた
この事案について、富山アスベスト相談会に先立って今年5月23日に記者会見で発表したところ、毎日新聞と中日新聞が大きく報道した(稿末参照)。初美さんは、穴水労基署に謝罪を求め、7月3日に行われた初美さんと石川労働局、穴水労基署との話し合いの席で、労基署は至急まで長時間かかり申し訳なかったと謝罪した。
Hさんは、「話し合いで労基署の労災課長が本省協議をしなければならない事案と考えていたにもかかわらず、上(労働局)でつぶされたことがわかりました。行政の闇のようなものを感じます。今回は行政不服審査等をして事案を明るみに出すことができましたが、泣いている人も多いのではと思います。今回の活動によって、こういうことを是正させることができればよいと思います」と話した。
安全センター情報2017年11月号