サムソン半導体・LG-LCD露光機装備業者のエンジニア肺癌労災認定判決に対するパノリムの立場(見解) 2020年9月21日/韓国の労災・安全衛生

1、経過

2000.12.  露光機装備業者(露光装備の設置とメンテナンス)に入社
-サムスン電子華城工場(半導体)に4~5年
-LGディスプレイ坡州工場(LCD)に7年勤務

2012.6.  肺癌を発病(当時、満38才)
2013.6.  死亡

2014.2.  遺族が産災(労災)申請
2017.3.  勤労福祉公団が産災を不承認

2017.11.  行政訴訟を提起
2020.9.11.  一審で産災認定判決(ソウル行政法院)

2、主な訴訟経過と主な判決内容

主な訴訟経過

  • ソウル大保健大学院の専門家の意見書を受けて提出
  • 職業環境医学会の呼吸器内科の鑑定を申請
  • 当時の同僚の証人欠席理由書の形で、具体的な作業環境を陳述
  • 鑑定申請と別に業務関連性評価意見書(職業環境医学と専門家)提出
  • 国際癌研究所が2018年にベンゼンと肺癌との関連性を認定(制限的根拠)

主な判決内容

  • 半導体/LCDフォト工程では、電離放射線、ベンゼン、ニッケル、ホルムアルデヒドなどに曝露する可能性がある。
  • 現在の科学水準では業務関連性を判断するのに不確かな部分があるが、先端産業の有害物質と疾病の間の因果関係が明確に糾明されるには相当な時間が必要で、色々な物質が営業秘密によって成分が知られていないことを考慮すれば因果関係がないと断定することは難しい。
  • 露光機設置、メンテナンス時の非正常的な状況によって、有害物質に曝露する可能性が高い。また、クリーンルームの換気システムによって、他の工程で発生した有害物質にも曝露する可能性がある。
  • 過去の作業環境測定資料は、当時の状況を反映するには限界があり、それだけで曝露レベルが低いと見るには難しい。
  • 被災者は好発年令に比べて若い年齢(満38才)で発病し、既存疾患や家族歴もない。16年ほどの喫煙歴はあるが、災害者の肺癌は腺癌であり、極めて急激に進行している。これを見れば、業務上の有害要因が喫煙と複合的に作用したものと見られる。

3、判決の意義

  • 今回の判決はLCD工場での肺癌発病の可能性を認めた事例という点で、大きな意味がある。LCD工場の場合、この間の疫学調査などで、肺癌発生の可能性は充分に認められていない。裁判所は被災者が勤めた半導体とLCD工場で、電離放射線、ベンゼン、ニッケル、ホルムアルデヒドなどの有害要因に曝露する可能性を認めた。
  • 医学的・自然科学的に厳格な因果関係を職業病立証の要件として、産災を不承認とした勤労福祉公団の判定を正した。
    被災者は露光機設置とメンテナンス業務を行ったが、露光機作業の色々な有害要因は既に確認されたところである。また、被災者に対する勤労福祉公団の産災判定(2017.3.)以前に、既に2件の半導体工場のエンジニアに対する肺癌の産災認定判定があった。公団が作業環境を評価する時、過去の勤務当時の環境を最大限再現したり、そうできなければ過去との作業環境の差を評価書に反映して、判定に考慮しなければならないが、このような差を反映しない問題が繰り返されている。勤労福祉公団は被災者が勤務した当時の作業環境と異なり得る不完全な作業環境測定結果などを根拠に産災不承認判定している。
    一方、裁判所は今回の判決で過去の大法院判決(2015トゥ3867)で確立された法理を適用した。『発生の原因に対する直接的な証拠がなくても、様々な事情を考慮した合理的な推論によって因果関係を認められ、因果関係を明確に糾明することが現在の水準で困難であっても、それだけで因果関係をたやすく否定することはできない』という法理を注意深く適用している。
    このような観点から、裁判所は作業環境測定時の曝露レベルが基準値より低くても、被災者が勤務した過去の作業環境をそのまま反映したものではないという点、設置とメンテナンス作業で曝露の危険が高いという点、営業秘密に有害要因の解明が妨害されている点、色々な要因が発病と悪化に複合的に作用した可能性が高いという点、複合曝露が潜伏期を短縮する可能性、被害者が発病した30代では肺癌発病事例が珍しいという点、喫煙のような非職業的な要因の存在にも拘わらず、職業的な要因が発病と悪化に寄与したという点など、職業病の判定で見逃してはならない点などを注意深く考慮し、産災認定の判決を出した。
  • 現在、勤労福祉公団の産災判定は、医学的・科学的に根拠が充分でないという名目で被災者の疾病の業務関連性を極めて簡単に排除している。産災保険で、そのように厳格な基準が適用されれば、被災者と遺族たちは、社会的な安全網から不当に排除され、事業場内の潜在的な危険性は簡単に見過ごされることになる。最近、公団の産災不承認の判定を逆転する裁判所の判決が続いている、今、産災保健が判断すべき業務関連性がどうであるかについての整理が必要だ。被害者と遺族に、引き続き長時間の法廷での戦いが強要されないようにするには、勤労福祉公団は、より一層裁判所の判決趣旨を反映する判定をしなければならず、政府と国会は産災判定システムを改善しなければならない。
  • 被災者が産災を申請した後(2014.2.)、一審判決(2020.9.)から職業病を認められるまでおおよそ7年に近い時間が必要とされた。勤労福祉公団が一審判決を受け容れ、永い歳月の産災認定をイライラしながら待った遺族が、苦痛の時間を続けないでよいようになることを願う。

2020年9月21日

半導体労働者の健康と人権守り(パノリム)