看護師の中皮腫に労災認定、2例目。アスベスト混入タルクをゴム手袋再生作業に使用/大阪

2例目は東大阪労基署が認定。市内の病院勤務。

昨年8月、医療用ゴム手袋をガス滅菌し再利用するための作業工程において、アスベストに曝露した元准看護師(山口県)が、悪性胸膜中皮腫を発症し、労災認定された(2012年12月号記事参照)。

今回、新たに東大阪市の元看護士が中皮腫で死亡した件についても、東大阪労働基準監督署が労災認定した。

以前は、医療用のゴム手袋をガス滅菌したうえで再利用している病院が多くあった。ガス滅菌を行うための作業工程において、「打ち粉」としてタルクが使用されていたが、そのタルクにはアスベストが混入していた。

タルクとは滑石ともよばれる白い石。産業用には原石を粉砕して非常に細かい粉にして使用することが多く、ゴム製造、製紙、農薬・医療品製造、化粧品製造など多くの分野で利用されている。また、ベビーパウダーや「おしろい」は、まさにタルクそのもので、顔料などにも使用される。

昨年の1例目の労災認定事案を受け、同じ作業に従事した看護師・看護助手の方々のアスベスト被害の拡大が懸念されていたが、残念ながら二人目の被害が確認された。

今回、悪性胸膜中皮腫を発症されたTさん(2013年1月15日死亡、68歳)は、広島県や大阪府の病院に看護師として約40年間勤務された。そのうち約12年間(1983年~1995年)は、東大阪市にある病院の手術室と中央材料室に勤務し、ゴム手袋の再利用の作業に従事された。その間に、タルクに混入していたアスベストに曝露されたのだった。

1例目Kさんの報道をみて

Tさんは、2012年春に悪性胸膜中皮腫と診断された。居住歴や家庭内においても石綿曝露はない。ご本人もどこでアスベストに曝露したのかわからず、ご主人が建設会社の営業職をされていたので、ご主人の作業着に付着した石綿が原因ではないかと疑われていた。昨年8月、1例目だった山口県Kさんの報道を通じ、同じ作業を行っていた記憶が蘇ったのだった。

病院の医師の勧めで環境再生保全機構への申請を行っていたが、「山口県内の産婦人科の診療所で働いておられた元准看護師のKさんの記事を読ませていただき、私も昭和58年から約10年間手術室と中央材料室に勤務していて、ゴム手袋再利用のため、タルクを取り扱っていました。何年間取り扱っていたのか記憶がはっきりしないのですが、数年間は取り扱ったと思います」との手紙を添えられた。

そして、昨年9月には、東大阪労働基準監督署に労災申請を行った。残念ながら、労災申請の結果を聞くことができないまま、本年1月に他界された。

Tさんの件は、監督署では判断できず、労働局を通じ本省協議案件となっていた。本省の専門検討会を経て、東大阪労基署は2013年5月13日付けで休業と療養の労災認定を行い、5月22日付けで遺族年金と葬祭料の請求を労災と認めた。Tさんが待ち望んだ認定通知が、最初にご遺族の元に届いたのは5月20日であった。

同僚の協力

今回の労災請求に当たり、Tさんの同僚の協力があった。
「ゴム手袋の再利用作業を一緒に行った。当時の医療現場では手袋の再利用が当たり前で、その際にはタルクを用いていた」と証言された。同僚の証言からも、昨年の労災認定が特別案件ではなかったことが明らかとなった。

Tさんは、看護師の仕事に誇りを持ち、後輩の育成を常に気を配られていたそうである。中皮腫を発症され、タルクに含まれるアスベストの危険性を知ってからは、同僚の健康を気遣い、全国の看護師や看護助手の方々の石綿関連疾患の発症を懸念されていた。そうした思いもあり、5月26日に関西労働者安全センターにおいて、労災認定されたことを伝える記者会見を行った。

会見においてご家族は、「肩にちょっと触るだけでも激痛が走るほど苦しんでいた。石綿による中皮腫は潜伏期間が長く、これから症状が出る看護婦もいるのではないか」と危惧され、「妻は、今回の労災認定を通じて、同じ仕事をしていた同僚や後輩たちが大丈夫なのか、身をもって問題提起した」と話された。また、会見では、同僚の証言をもとにタルクをまぶす作業を再現したが、白い粉が煙のようにもうもうと立ちこめる状態であり、粉じん職場といってもおかしくない状況が明らかとなった。

記者会見時、模擬実演

マスコミの報道を通じて、同じ作業に従事された方は不安を抱えており、元看護士の方からの相談が続いている。今後も、患者と家族の会の皆さん、全国センターのネットワークも通じて、被害者の掘り起しと、行政への働きかけを強めていきたい。

ひょうご労働安全衛生センター

安全センター情報2013年10月号