労災死亡の60%は『疾病』なのに、産安法は依然として『事故』中心/韓国の労災・安全衛生2025年11月20日

病気で亡くなる労働者が労災死亡全体の60%を越えるのに、私たちの産業安全保健法体系は、依然として墜落・挟まれといった在来型事故の予防に留まっている。作業現場でどんな物質に、どうして、どのように、どれだけばく露されたかがきちんと把握されなければ、職業性疾患の予防は不可能だという指摘が絶えない。
20日に国会図書館で行われた『健康有害物質仕事場管理体系確立のための政策討論会』では、産業安全保健法を規定遵守中心構造から有害危険統制中心の構造に転換しなければならないという要求が集中的に提起された。専門家たちは既存の産業安全保健管理体系が、『書類で合っているかだけを見る制度』に閉じ込められており、実際の危険を減らす統合的な管理システムが不在だと診断した。
有害リスク管理の好循環が途絶えた現行法体系
2021年から今年6月までの5年間、肺ガン労災で亡くなった学校給食労働者は14人に達する。学校給食室で働いていた調理労働者の肺がんが、一足遅れで労災と認定されるまで、現場の危険は数年間放置されていた。調理ヒュームが発ガン物質という事実は国際的にすでに確認されたが、国内産業安全保健法の体系は、そのばく露をきちんと測定することも、体内負担を追跡することもできなかった。
順天郷大学のパク・ジョンイム教授(環境保健学)は、現行法制度の構造的な欠陥を一つ一つ指摘した。パク・ジョンイム教授は「現在、産業安全保健法はばく露の減少→体内負荷の減少→疾病の減少という、予防の基本指標を立証できない構造」で、「管理対象の空白、形式的な作業環境測定、有害物質情報の還流不在、研究・監視体系の断絶など、六つの構造的な限界が累積している」と診断した。
パク・ジョンイム教授は代表的な事例として、学校給食労働者の肺がんを挙げた。調理ヒュームが1級発ガン物質という事実は国際的に知られていたが、国内の作業環境測定は、調理労働者が一日中に吸引した油の煙を捕捉できなかった。測定は換気を極大化した特定時点で行われ、結果は常に『基準値以下』であった。しかし、調理台の前で20年以上働いた労働者たちは、一人二人と肺がんと診断された。書類上では『安全な調理室』だったが、労働者の肺の中では疾患が育っていたわけだ。
パク・ジョンイム教授は、「このように『測定結果は適法だが、労働者は痛む』逆説が繰り返される」とし、「作業環境測定、健康診断、危害性評価が互いに連結された一つのシステムにならなければ、実際の疾病の減少効果を確認することはでない」と強調した。
「規定を守ったか?」から「危険を管理したか?」へ
労働環境健康研究所のパク・ミジン室長は、産業安全保健法パラダイムの大転換を注文した。パク・ミジン室長は、「今、法の焦点は『法を守ったか』に固定されている」とし「今は『現場で有害危険を実際に管理したか』を尋ねる法に変えなければならない」と話した。
パク・ミジン室長は、化学物質を含む職業性疾患を予防するためには、現場の危険を、△把握、△評価、△統制、△記録、△点検する『有害危険管理五段階循環体系』を法に明記するべきだと説明した。例えば、どんな物質が使われて、どれほど危険で、どのように減らしたのか、その措置が実際に効果があったのかを、一つの流れで管理しなければならないということだ。そうしなければ、事故が起きる前に危険を減らす事前予防型統合システムは作動することができない。
問題は、今の法制度がこの流れを見ていないという点だ。トゥソン産業・大興R&T事件が代表的だ。両事業場はともに、労働者が発ガン物質と有害ガスにばく露して死亡事故にまで続いたが、重大災害処罰などに関する法律(重大災害処罰法)適用の可否は「露出管理が実際に失敗したのか」ではなく、「安全保健文書が備わっていたか」に分かれた。
トゥソン産業では、作業現場に有害ガスが充満していたが、会社は「危険性評価文書と安全保健管理規定が存在する」という理由で、責任を認めなかった。大興R&Tもやはり、労働者数人が毒性物質にばく露したにも拘わらず、会社が提出した書類上の手続きが整っていたという理由で、重大災害処罰法の疑惑の相当部分が無罪と判断された。実際の危険を統制できていなかったのに、『書類がある』という理由で処罰を免れたわけだ。パク・ミジン室長は「現行の構造では、重大災害処罰法は事前予防法制ではなく、事故が起きた後に文書責任だけを問う、事後責任規定として作動する」と批判した。
「管理対象の拡大、中小企業の混乱への懸念…」 段階的アプローチが必要」
財界は新しい管理体系の導入趣旨には同意しながら、現場の対応可能性を憂慮した。韓国経総安全保健本部のペク・セオン専任委員は「管理対象物質を約2300種に急速に拡大すれば、中小企業は準備の機会すらなく、混乱に陥るおそれがある。」「段階的な拡大と履行支援が必要だ」と主張した。
ペク・セオン委員はまた、作業環境測定と特殊健康診断制度に対する柔軟化の導入を提案した。一定基準以上に危険をよく管理している事業場には、測定周期の緩和などのインセンティブを付与し、自律管理体系に誘導しなければならないという意見だ。一方、労働界は、包括的な作業環境測定と普遍的な危険管理方式を強く要求した。ヒョン・ジェスン食品労組労働安全保健室長は、「有害性が確認された物質なら、どんな事業場でも、同じレベルの統制ができなければならない」とし、「今のようにメタノール事故が起きなければ管理対象にならない『事後型目録制』では、絶対に予防できない」と強調した。チョ・ドクヨン安全保健公団産業保健室長は現実的な問題を憂慮した。国内の事業場の約97%は小規模事業場であり、大部分が自主的な化学物質の管理能力を備えることは難しい。「現行制度の効果が現れるためには、結局この97%をどのように引き上げるかが核心」とし、「公団は小規模事業場のオーダーメード型の管理力量を育てるために『化学物質管理力量強化プログラム』(RIAC)を拡散している」と説明した。彼は「信頼を土台にしたコンサルティングと、自律管理力量の向上が重要だ」と付け加えた。
2025年11月20日 毎日労働ニュース キム・ミヨン記者
https://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=231325


