腰痛予防対策指針の改訂:3管理にリスクアセスメント追加 対策・改善に生かす活用を

認定基準含めた補償対策の見直しも必要

古谷杉郎(全国安全センター事務局長)

厚生労働省は2013年6月18日、「職場における腰痛予防の取組を!~19年ぶりに『職場における腰痛予防対策指針』を改訂~」と発表した。
新指針とその解説を添付した平成25年6月18日付け基発0618第1号「職場における腰痛予防対策の推進について」及び改訂のもととなった「職場における腰痛予防対策指針の改訂及びその普及に関する検討会報告書」も公表している。

旧指針以降の腰痛予防対策

旧腰痛予防対策指針は、平成6年9月6日付け基発第547号「職場における腰痛予防対策の推進について」として発出された。安全センター情報1994年増刊号としてこれを紹介している。

それ以前、職場における腰痛予防対策としては、昭和45年7月10日付け基発第503号「重量物取扱い作業における腰痛の予防について」、及び、昭和50年2月12日付け基発第71号「重症心身障害児施設における腰痛の予防について」が示されていた。それを、「職場における腰痛は、特定の業種のみならず多くの業種及び作業において見られる」ことから、「一般的な腰痛予防対策」を示したうえで、「腰痛の発生が比較的多い」

  1. 重量物取扱い作業
  2. 重症心身障害児施設等における介護作業
  3. 腰部に過度の負担のかかる立作業
  4. 腰部に過度の負担のかかる腰掛け作業・座作業
  5. 長時間の車両運転等の作業

の5作業について「作業態様別の対策」も示したものであった。
それ以降の経過については、今回の検討会報告書が「2 腰痛予防対策の現状」として概述しているが、以下のような動きがあった。

  1. 平成7年3月22日付け基発第136号「職場における腰痛予防対策に係る労働衛生教育の推進について
  2. 平成20年2月6日付け基安労発第0206001号「職場における腰痛発生状況の分析について」
  3. 平成21年4月9日付け基安労発第0409001号「介護作業者の腰痛予防対策のチェックリストについて」
  4. 平成21年度の中央労働災害防止協会委託事業の成果物として、「社会福祉施設における安全衛生対策マニュアル~腰痛対策とKY活動~」を公表
  5. 平成22年度の委託事業の成果物として、「介護業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」及び「運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」を公表

なお、検討会報告書では、「法令の基準」として、女性労働基準規則及び年少者労働基準規則による重量物取り扱い業務規制についてふれられているが、2011年12月14日に公表された母性保護に係る専門家会合報告書では、女性則について、「女性労働者の就業制限を緩和するような新たな知見は見当たらないため、引き続き現行規制により過度の負担から保護する」とされている。

今回の腰痛予防対策指針改訂で「旧指針と大きく変更した点」は、以下のとおりとされる。

  1. 平成17年の改正で労働安全衛生法に取り入れられたリスクアセスメント・労働安全衛生マネジメントシステムについて、新たに総論部分に項目立てして記述したこと
  2. 作業態様別の対策のうち「重症心身障害児施設等における介護作業」を「福祉・医療等における介護・看護作業」全般に拡大するとともに、リスクアセスメントの実施を取り入れる等、内容を充実したこと
  3. 作業態様別の対策のうち「長時間の車両運転等の作業」について、リスクアセスメントの実施を取り入れ、内容を充実したこと

他の筋骨格系障害予防対策

平成6年の旧腰痛予防対策指針に加えて、筋骨格系障害予防対策としては、以下のようなものが示されてきた。

  1. 昭和39年9月22日付け基発第1106号「キーパンチャーの作業管理について」
  2. 昭和48年3月30日付け基発第188号「金銭登録作業の作業管理について(金銭登録作業に従事する労働者に係る特殊健康診断について)」
  3. 昭和50年2月19日付け基発第94号「引金付工具による手指障害等の予防について」
  4. 昭和50年10月20日付け基発第608号「チエンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害の予防について」
  5. 昭和50年10月20日付け基発第610号「チエンソー取扱い業務に係る健康管理の推進について」(チェンソーについては昭和45年2月28日付け基発第134号等の先行・後続通達もあり)
  6. 昭和60年12月20日付け基発第705号「VDT作業のための労働衛生上の指針について」

いずれも基本的に、「3管理(作業管理・作業環境管理・健康管理)」という伝統的な「労働衛生対策の基本原則」にしたがったものであった。

比較的対象作業・業務が限定されない旧腰痛予防対策指針とVDT作業労働衛生指針は、筋骨格系障害予防対策の中心とみなされてきた。(なお、4.5.は、平成21年7月10日基発0710第1号「チェーンソー取扱い作業指針について」及び同日付け基発0710第2号「チェーンソー以外の振動工具の取扱い業務に係る振動障害予防対策指針について」によって廃止されているが、これは、国際的な技術標準に連動した見直しであった。)

新たな労働衛生対策の流れ

平成11年4月30日付け基発第293号「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針について」は、「労働衛生対策の基本原則」とされてきた3管理にふれない初めてのものであったろう。

労働安全衛生マネジメントシステム(OSH-MS)の過程のひとつ「危険又は有害要因を特定する場合には、機械、設傭等に係る仕様書又は取扱説明書、化学物質等に係る安全データシート(MSDS)等の危険有害性情報、災害事例、ヒヤリ・ハット事例、健康診断結果等を活用するとともに、必要に応じ、セーフティ・アセスメント手法、リスク・アセスメント手法等を用いること」というかたちで、おそるおそるながら(?)リスクアセスメントに言及した。

平成13年6月1日付け基発第501号「機械の包括的な安全基準に関する指針について」は、労働衛生対策ではないが、リスクアセスメントとそれに基づく対策を基本原則に据えた画期的なものだった。

この後、前記6.の通達が平成14年4月5日基発第0405001号「VDT作業のための労働衛生上の指針について」によって廃止され、拡充された「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」が示されたが、非常に残念なことに、従来の「3管理」の枠組みのままだった。

平成11年の労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針に対する言及はあるものの、同指針「に基づき、事業者が労働者の協力の下に一連の過程を定めて継続的に行う自主的な安全衛生活動の一環として取り組むことが効果的である」と述べているだけである。
平成12年8月9日付け基発第522号の2「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針の策定について」、平成14年2月12日付け基発第0212001号「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」は、その点ではどっちつかずのものであった。

平成18年の労働安全衛生法改正によって、リスクアセスメント(危険・有害性等の調査)及びその結果に基づく措置が法第28条の2に規定され、OSH-MS指針も労働安全衛生規則第24条の2に根拠をもつものとなった。

「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(基発第0310001号)、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(基発第0330004号)が新たに策定されるとともに、OSH-MS指針(基発第0317007号)、過重労働による健康障害防止のための総合対策(基発第0317008号)、心の健康の保持増進のための指針(基発第0331001号)、さら翌年には機械の包括的な安全基準に関する指針(基発第0731001号)が、そろって見直された。

今回の腰痛予防対策指針改訂は、それ以降で初めての主要労働衛生対策の見直しということで、その内容が注目されていた。ちなみに、前述した平成21年4月9日付け基安労発第0409001号「介護作業者の腰痛予防対策のチェックリストについて」は、リスクアセスメントによる腰痛予防対策だったが、「社会福祉施設における安全衛生対策マニュアル」はずぶずぶの3管理スタイルだった。

OSH-MS・リスクアセスメントの核心

結果は、従来型の3管理(+1教育(労働衛生教育))に、リスクアセスメント・OSH-MSを付け加えたものになった。
私たちは、OSH-MSの核心を「持続的改善」、リスクアセスメントの核心を「優先順位付けに基づいた対策」ととらえている。
すなわち、

  1. 発生源で危険・有害性を徹底的に除去・最小化
  2. それでも残るリスクに対する工学的・組織的対策
  3. 最後の手段としての個人保護対策
  4. たえずより優先順位の高い対策を実現し、快適な職場環境を形成していく持続的な改善

である。
さらに、労働者の参加の確保の重要性を加えることができよう。

また、厚生労働省は、リスクアセスメント・OSH-MSを「現行の法体系に上乗せする使用者の自主的取り組み」と位置づけているのだが、私たちは、法体系も含めた労働安全衛生対策の根幹に据えるべきものと考えている。そして、そのためにも、作業管理・作業環境管理・健康管理を優先順位付けもなしに並べる3管理アプローチを克服するものとしてとらえることが、その理解と実践を促進するとも考えている。
その点で、今回の改訂はやや中途半端なものになってしまっているのが残念である。

例えば、危険・有害性の特定と関連する「腰痛の発生に関与する要因」として、動作要因、環境要因、個人的要因、心理・社会的要因といった多岐にわたる要因を指摘しながら、「作業管理」、「作業環境管理」として指摘されている内容との関連付けが弱い。しかし、これを改善することは可能だろう。

また、改訂指針に限ったことではないのだが、リスクアセスメントについて、リスクを「高い」「中等度」「低い」と「評価(見積もり)」して、「低い」とされれば行動に結びつかないと理解される場合がしばしばある。アクション・チェックリストは、そうならないためのまさに「改善・対策志向型」のツールであることなども、もっと強調した方がよい。

いずれにしろ、私たちが、リスクアセスメント・OSH-MSの核心と考えていることを、前面に押し出すことがもっとも重要である。そのような視点で、改訂腰痛予防対策指針の活用を図っていただきたい。
2013年1・2月号で、韓国の筋骨格系疾患予防法の活用・改善、EUの筋骨格系障害(人間工学的リスク)予防指令の策定をめざす取り組みを紹介したが、そうした海外の動向ももっと取り入れてもらいたかったし、それらの方向性は私たちが考えているものと同じだと考えている。

国際標準化機構(ISO)の人間工学規格等の動向にも注目していきたい。
わが国でも、腰痛に限定せずに、上肢作業障害等を含めた筋骨格系障害全体の予防対策の強化が求められている。

認定基準等の労災補償問題

ちなみに腰痛の労災認定基準の経過は、以下のとおりである。
①昭和34年4月11日付け基収第4514号の2「腰部捻挫に伴う疾病の業務上外の認定について」
②昭和43年2月21日付け基発第73号「腰痛の業務上外の取り扱いについて」
③ 昭和51年10月16日付け基発第750号「腰痛認定基準等について」
④ 昭和51年10月16日付け補償課長事務連絡第42号「腰痛認定基準の運用上の留意点について」

上肢作業障害の方は、以下のとおり。

① 昭和39年9月16日付け基発第1085号「キーパンチャー等の手指を中心とした疾病の業務上外の認定基準について」
② 昭和44年10月29日付け基発第723号「キーパンチャー等手指作業にもとづく疾病の業務上外の認定基準について」
③ 平成9年2月3日付け基発第65号「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準について」
④ 平成9年2月3日付け補償課長事務連絡第1号「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準の運用上の留意点について」

詳しくは、2012年9月号等(2013年9月号で最新データ掲載の予定)を見ていただきたいのだが、上肢作業障害については、平成9年の労災認定基準改訂以降、認定件数が急上昇した。労災認定件数でみると、平成8年度234件が、最大で平成20年度の986件へ。いわゆる業務上疾病公表件数でも、平成8年77件が、最大で平成20年の246件へといった具合である。

腰痛については、重大な職業病であり続けているものの、上肢作業障害の場合のような顕著な増加はみられていないそもそも、非災害性腰痛として労働者死傷病報告書が届けられたものの多くが、災害性腰痛に振り替えられて公表されていることが知られてはいるものの、その妥当性や、届け出られているにもかかわらず労災補償を受けていないものがどれくらいあるのかなど、明らかになっていないことも多すぎる。

最近明らかになっている、腰痛関係の届出件数、公表件数、認定件数は、以下のとおりである。

これから、2010年には452件、2011年は487件、非災害性腰痛から災害性腰痛に振り替えられていることがわかるのであるが、その理由は説明されたことがなく、届出件数に比して認定件数が少なすぎる

たんに統計上の問題だけでなく、(とりわけ非災害性腰痛の場合の)認定の難しさ、(とりわけ災害性腰痛の場合の)休業・療養期間を抑制する圧力、医師・医療機関の理解、有効な治療方法等、腰痛、あるいは筋骨格系障害全体をめぐる課題は山積みである。

予防対策指針の改訂を契機に、労災認定基準の見直しにただちに着手するとともに、腰痛の補償をめぐる諸問題の改善にも取り組むべきである。

注)本稿で触れている通達、指針の多くは、2020年現在において、改訂されているものがあるので参照される場合は、最新のものをあたっていただきたい。

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安全センター情報2013年8月号