フィリピン人労働者の腰痛・頸肩腕障害 東京●老健施設の入浴介助作業で発症

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妊娠、退職、職場復帰

フィリピン出身のSさん(女性・46歳)が、介護老人保健施設で働き始めたのは2007年。その後、三人目のお子さんを妊娠し一旦退職。出産後の2010年春にまた職場に戻り、入浴を担当するように言われた。
この施設は、4~8階の計5フロア各々に30人前後の入居者を抱えている。うち4フロアはそれぞれ週2回、1フロアのみは週1回で入浴枠を組んでいて、各フロア=およそ30名の入浴に、Sさんを含め毎回4~5名の職員で対応するのが常であった。
自力で入浴できる利用者は各フロアに10名前後いて、銭湯のような大きな湯船と5名ほどが座れる洗い場があり、基本的に自身で身体を洗う。介助者は利用者の様子をみながら体を洗うのを手伝ったり滑りやすい足元などに気を配ってあげなければならない。この作業は、午前のみのパート1名とフロアスタッフ1名、あるいは午後ならフロアスタッフが行っていた。
自力で入れない車いす使用の方などは、座位姿勢のまま入浴できる「中間(ちゅうかん)」と呼ばれる機械を使う。車いす使用も難しい人は「ストレッチャー」と呼ばれる横に寝た姿勢のまま入れる機械を使って入浴する。各フロアで「中間」「ストレッチャー」を使う。

「中間」担当で入浴介助
フロア業務も手伝う

各フロアの平均12、3人程度は「中間」を使う人たちで、自力入浴、ストレッチャーと比べて数も多いのであるが、その担当がSさんだった。
まず、Sさんは浴室入り口で看護士さんやスタッフが手伝い脱衣をすませた入浴者を車いすに乗せ、浴室内へと異動する。入浴者を「中間」の椅子にトランスし、中腰や前傾斜姿勢で頭から足の先まで洗ってあげる。洗い終えたところで、足元、ウエスト部分をベルトで入浴者の身体を固定し、椅子ごと機械にセットしお湯に浸かってもらう。そして、入浴者を椅子ごと「中間」の機械から出し、タオルを敷いた車椅子にトランスし、着衣作業を待っているスタッフにゆだねる。
午前・午後それぞれ1時間半~2時間の入浴時間。各フロア12~13名前後が一台の「中間」で湯につかる時間も合わせて考えると、一人の入浴は10分程度。Sさんは手順よく動き、時間が少し余れば自力入浴の人やストレッチャーの入浴の利洗髪や洗身、ストレッチャーからのトランスなども手伝った。

一日中、入浴介助をしているSさんは、手際の良さもあり、自然と介助する人数も多くなる。午前・午後合わせて60人前後が入浴するが、そのうち「中間」を使ってSさんが担当する人数は、午前・午後合計で20~25人、さらにSさんは「中間」が終わり次第、他の作業を手伝うのも当然としていた。また、お湯は、冷めてしまわないように、温度設定はかなり熱めに設定されていた。湿気と暑さも入浴者には10分、15分でも、作業者は1時間半~2時間なので、体力的にも消耗する環境である。

入浴者の体重といっても30kg~60kgと様々だが、入浴で石鹸、リンスなどを使うため、滑らないよう、ケガをさせないようにと誘導、作業するなかで、Sさんの手指、手首、肘や肩にと、自然と力が入り負担がかかった。腰に負担のかかる中腰・前傾斜姿勢も繰り返し行わざるを得なかった。入浴担当と言われていたものの、午後の入浴が終わると、Sさんは休む間もなく終業時間までフロア業務の手伝いをした。トイレ介助、おむつ交換、清拭等、行う作業は他のスタッフと何も代わりはなかった。

腰痛認定されたが・・


2012年8月、トランスでバランスを崩したとき、腰に痛みを感じたSさんは労働基準監督署に労災申請し認定された。1週間ほど休業した後、またすぐ仕事をはじめた。きれいに腰の痛みが消えたわけではなかったが、その後は市販のシップ薬などで対処していた。しかし、昨年2月頃よりSさんの腰痛はどんどんひどくなるとともに、右首肩から右腕、指、右下肢の痛みと痺れまで感じるようになった。春になり、その痛みは常に続く状態となり、夜半に尿意で目が覚めても痛くて身体が起こせずトイレまで這っていくことさえあった。

腰痛・頸肩腕障害診断で休むも短期で復帰
労働組合加入し団交

知人の紹介で、2013年6月28日ひまわり診療所受診し、7月6日、腰痛症、頚肩腕障害と診断されたが、家計が苦しいので、休みたくても「有給休暇を使わせてくれない」という不安から、一旦休んだものの、状態がなにも改善されないままに、またもや1週間後には職場に戻った。
その後、労働組合に加入し会社交渉をしたSさんは、8月、労災申請を出した。「うちには有給休暇はない」と言っていた施設にも有給休暇を申請し、堂々と休むことができるようになり、9月から入浴の仕事から外してもらいフロア日勤に移動もしたが、フロアの仕事も座る隙もないほど忙しく、腰の負担をゼロにできるわけもない。
痛みを押さえる座薬を使いながら、無理に無理を重ねての就労を続けていたSさんの業務上認定は、この3月、やっと決まった。
今後、よりしっかり治療を行うとともに、職場の労働環境そのもの改善も含め、求めていかなければならない。

安全センター情報2014年7月号