[記者手帳]貧弱な給食トレーだけを怒らないで/韓国の労災・安全衛生2024年05月10日
中学生だった頃に一番楽しかった時間を挙げるとしたら、断然昼食の時間だった。教室の入り口の掲示板に貼られている献立表を確認して、美味しいおかずが出る日を蛍光ペンで塗っておいて、友達と今日のメニューについてわいわいおしゃべりをするのは1時間目の前の必須のコースだった。特食でも出る日には、早く配膳するために、4時間目の授業が終わる5分前から机の外側に片足を出しておいて、終わりの鐘が鳴るやいなや、歓声を上げながらどっと跳び出したこともあった。
同窓生に会うと「あの時はそうだった」と、笑いながら想い出したが、数年前からは給食の話に心が落ち着かなかった。母校の給食室で12年間働いていた給食労働者の一人が肺がんで亡くなった、という便りに接してからだった。2005年から母校で働いていたというから、学生時代にあれほど好きだった給食も、その人が作ってくれたのだろう。学校給食労働者の肺がん死亡が労働災害と認められた初めての事例だったので、広く知られることになったが、この間、どれほど多くの給食労働者が、私たちの給食を作って倒れたのかを推し量ることさえ難しい。
個人的な経験を想い出すようになったのは、最近オンライン上に拡散したある中学校の給食の写真のためだった。ソウルのある中学校の給食の写真だったが、ご飯とスープ、おかずが一つだけ載っていて『不良給食』という非難が起きた。給食を食べても足りないという子供の話に悲しんでいたある保護者が、区庁長に「子供たちにきちんとした給食を食べさせてくれ」という嘆願もした。
調べてみると、この学校では今年初めから給食を作る人数が足りず、給食調理に支障をきたしていたという。三月には調理員が2人だけになって、給食を中断する危機になり、おかずを4種類から3種類に減らすという苦肉の策を執らなければならなかった。この学校の調理従事員の配置基準は9人だが、2人の調理員で千人を越える生徒の昼食を作っていたのだ。現在は代替要員と日雇いの7人で給食の調理を担当しているが、依然として、配置基準よりも2人足りない状況だ。
この学校だけの問題ではなかった。既に「給食室の欠員事態」は全国的に確認されている問題だ。労働・市民社会、進歩政党で構成された「学校給食室肺がん対策委員会」によれば、新学期が始まった三月時点で欠員とされた給食労働者は、ソウルで203人、京畿で481人、仁川で200人、忠北で130人、済州で93人などだった。新規採用者の未達率も、ソウルと忠清南道が30%、忠清北道と済州では60%という高いレベルだ。人員補充が上手くいかないために、残っている人も長くは我慢できずに去って行く。このような悪循環が繰り返されると、子供たちの給食にも影響を与えるところまで続く。
給食室の欠員の主な原因としては「劣悪な処遇」と「危険な労働環境」が挙げられる。給食労働者は200万ウォンに満たない低い賃金である上に、休み中は給食室を運営しないので、一年の内三ヶ月ほどはこれさえも受け取れない。給食労働者一人が担当しなければならない食数人員が他の機関よりも2~3倍ほど多く、強度の高い労働になる上に、換気施設が正しく整備されていないために、調理の過程で出てくる発ガン物質(調理ヒューム)に曝される危険性もそれだけ大きい。
教育当局は、当面の労働強度を減らすための方法として、食器類の洗浄の外注化や給食ロボットの導入などを検討しているが、問題を解決するには不充分だ。数年間にわたって給食労働者たちが要求してきたのは、処遇改善と一人当りの食数人員の縮小、換気設備の改善といった根本的な対策だ。貧弱な給食を巡る非難が繰り返されないためには『死の給食室』を改善してくれ、という給食労働者の絶叫から聴くべきではないか。給食労働者が安全で幸せに働けなければ、子供たちも給食時間を思う存分楽しむことができないのだから。
2024年5月10日 民衆の声 ナム・ソヨン記者