30代のサムソン半導体労働者、死亡後に「労災の判決」 2023年07月11日 韓国の労災・安全衛生
30代の前半に白血病に罹ったサムソン電子半導体の労働者に、亡くなった後で業務上災害を認められたことが確認された。勤労福祉公団は、疫学調査なしで、勤務期間が短いという理由で不承認としたが、裁判所は有害化学物質にばく露された蓋然性が高いと判断した。しかし、長期間かかった診療記録の鑑定で裁判が遅れ、被災者の救済が遅れたと批判されている。
有害物質の密集空間で作業
<毎日労働ニュース>の取材によると、ソウル行政裁判所はシン・某(34)さんが勤労福祉公団に対して起こした療養不承認処分取り消し訴訟で、7日、原告勝訴判決を行った。訴訟の提起から1年6ヵ月目のことだ。
事件は約10年前に起きた。2014年7月、サムソン電子メモリー事業部に入社したシンさんは、華城工場の半導体生産ラインでエッチング工程のエンジニアとして働いた。ラインが正常稼動できるように設備を配置・調整する「セットアップ」業務と「予防的メンテナンス」、故障時の整備などを主に担当した。シンさんは約1年8ヶ月間働いた後、2016年3月に退社した。
5年経った2021年3月、「急性骨髄性白血病」と診断された。シンさんは同年6月、勤労福祉公団に療養給付を申請した。作業の過程で、ベンゼン、ホルムアルデヒドなどの発がん要因に複合的にばく露したという判断からだ。シンさんは、特に作業者が出入りしない「Sub-FAB(半導体生産ラインが稼動するMain-FABの下部空間)」にもよく出入りした。化学物質の浄化設備とダクト管、電気ケーブルなどが密集した空間だった。生産ラインにない有害物質に曝される確率が高かった。
シンさんは入社の四ヶ月目から退社するまで、毎月、三週間を三交代で働いた。週六日間、一週間平均60時間(一日平均10時間)働いた。シンさんは過去、有害物質にばく露された業務をしたこともなく、白血病の原因となり得る免疫性疾患も患っていなかった。ところが、転職した会社で目にしびれが生じ、呼吸困難にもなった。結局白血病と診断された。
「2011年以降の勤務」を理由に労災は不承認
公団はシンさんが2014年に入社し『半導体従事者推定原則』に該当しないという理由で不承認とした。雇用労働部は2018年8月、8種の職業性癌に関しては、ばく露量と期間などが基準を満たさなくても、医学的因果関係があれば相当因果関係を認めるように定めたが、適用対象者を2011年1月1日以前の入社者に限定した。
これによって追加の疫学調査も実施されなかった。シンさんは昨年一月に訴訟を起こした。しかし、三回の弁論の後、昨年11月19日、シンさんは結果が出ないままに亡くなった。闘病一年九ヵ月目だった。母親が訴訟を引き継いだ。シンさん側は「公団が疫学調査自体を実施しておらず、有利な間接事実として考慮すべきだ」と主張した。
「カルテ鑑定」に時間がかかった。シンさんが亡くなった後、五回も裁判が行われた。裁判所の鑑定医は、△電離放射線・ベンゼン・ホルムアルデヒドの影響が微小、△夜間労働の白血病発病への影響の根拠の不存在、△化学物質の白血病誘発物質の未確認など、業務上災害を否認する所見を出した。『疫学調査の追加実施』に関しても、(関連データがない)2010 年以降の作業者の発症リスクに有意義な結果が出るかどうかは不明であるとしている。
裁判所「発がん物質使用」、遺族側「裁判の遅延が残念」
しかし、裁判所はシンさんが△有害化学物質にばく露、△極低周波磁場、△交代勤務などの有害要素で白血病が発病したと見て、シンさん側の手を挙げた。裁判所は「半導体製造工程の勤労者たちの癌発病の増加によって作業環境が改善されたという事情を考慮しても、故人が勤務した当時、発がん物質と認められていたり、相当に疑われる物質が使われていた蓋然性が高い」と判示した。
特に、シンさんがエッチング工程を担当して塩酸・フッ酸に直接ばく露されたり、部品を交換・洗浄しながら有機溶剤にばく露された可能性が高いと見た。半導体事業場全体の有害物質濃度が、産業安全保健研究院が2012年に発表した研究結果による作業環境ばく露の許容基準未満だとしても、累積して作用すれば有害性が増加しかねないと排斥した。更に、「Sub-FAB」に出入りし、極低周波電磁場にも直接ばく露した可能性も残している。昼・夜間の交代勤務も影響を及ぼしたと見た。
勤務二年足らずで31歳で白血病を発症したシンさんは、結局、勝訴を知らないまま目を閉じた。これについてシンさん側は、診療記録の鑑定が影響を及ぼしたと残念がった。シンさんを代理したイム・ジャウン弁護士は、「今回の事件は、疫学調査を実施しておらず、医学的な関連性を判断する資料がなかったため、鑑定を行う事案ではなかった。」「それでも裁判部が積極的に鑑定申請を勧めたことによって、鑑定を理由に裁判が遅延され、シンさんが亡くなった」と指摘した。
「半導体労働者の健康と人権守り」(パノリム)は昨年11月、シンさんの死亡以後に論評を出し、「サムソン白血病事件を初めて知らせた故ファン・ユミさんも、一年八ヶ月勤務し、それよりはるかに短かかった労働者の白血病も労災と認定された事例がある。」「2011年を前後して、サムソン半導体工場の作業環境が大きく改善されたという判断が前提とされているが、判断根拠が何なのかは全く提示されなかった」と批判した経緯がある。
2023年7月11日 毎日労働ニュース ホン・ジュンピョ記者
http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=216119