COVID-19パンデミック下におけるテレワークと健康リスク:現場からの証拠と政策的意味合い-2021年10月22日 欧州労働安全衛生機関(EU-OSHA)報告書

4. まとめと勧告

COVID-19アウトブレイクによるかつてないテレワークの拡大は、この形態の労働の組織化の長期的な影響について疑問を生じさせた。それは、労働のデジタル化や労働編成の柔軟化の増大に向けた、すでにあった傾向を加速させだろうと考える多くの理由がある。

COVID-19危機の間における在宅勤務への大規模なシフトが、企業による労働の組織化慣行や労働者の意識に持続的な変化をもたらしたかどうか、またどのようなかたちでもたらしたか、さらに以前はこの労働編成を利用できなかった仕事にとって選択肢として残っているかどうか、を探求する研究がいくつか行われている。

・いくつかの研究は、労働者と管理者双方の在宅勤務に対する認識は、パンデミック開始以来大幅に改善されて、ハイブリッドな労働編成が一般的に好まれるようになっていることを示唆している。

・主な課題は、従来は直接監督の対象であった仕事、すなわち中級技能職に対して管理とパフォーマンス監視をどのように適応させるか、また、職務の高度な相互依存性やチームワークをともなう仕事において、連携と情報の伝達をどのように確保するかである。

・社会的相互作用の要求が高い仕事にテレワークをどのように取り入れるかについては、まだ検討の余地がある。
この関連で、現場調査から得られた主な知見は、以下のように要約することができる。

・強いられたテレワークは、多くの企業と労働者、とりわけこの労働編成の経験が浅い、またはまったくなかった者に、学習の機会を提供した。それは、適応するためにかなりの努力を必要としたが、予想以上の成果を上げることができた。

・管理とパフォーマンス監視の仕組みは、効果的であることが証明されているため、大きくは変更されなかった一方で、チーム連携がとりわけ困難だった。

・ほとんどの企業がテレワークを延長する計画を議論しており、ほとんどの労働者が将来も定期的にテレワークを継続することを希望しているか、または、いずれにしても要求に応じて[オンデマンドで]ときおり自宅で仕事をする機会を逃すことはないと表明している。

・このことは、とりわけ(事務職やその他の管理・技術スタッフなど)情報処理業務を行う中級技能職労働者における、ハイブリッドな労働編成の拡大を意味するだろう。

・要求に応じたテレワークは、社会的相互作用のレベルが高い職業で、より顕著になる可能性がある。

4.1 心理社会的リスク

COVID-19パンデミック中のテレワークの経験に対する一般的に肯定的な評価は、心理社会的リスクの発生を無視することを意味してはいない。

テレワークと健康関連影響に関する研究の最近の系統的レビューは、心理社会的リスクがこの労働編成に関連するもっとも一般的な健康リスクであることを示している。

この分野の研究のほとんどは、テレワークが主に臨時のものであり、主として高度の専門職の、限られた数の労働者について可能であるという状況で実施されたものだった。したがって、パンデミックの状況のなかで拡張された、長期間のテレワークの経験は、テレワーク、心理社会的リスク及び福利[ウエルビーイング]に関する従来の前提の再評価を求めるものである。

パンデミックの間の義務的なテレワークは、主にその義務的な性質と例外的な強度・期間によって、心理社会的リスクを悪化させた可能性があると言えるだろう。しかし、この期間中のテレワークの経験に関する研究は、ポスト・パンデミックの状況における労働安全衛生問題について貴重な洞察を提供する可能性がある。

4.1.1 職務内容の変化

COVID-19危機の間に実施された他の研究と同様に、現場調査によって、義務的なテレワークは、高いレベルの社会的相互作用や感情的要求を必要とする仕事の労働者にとって、とりわけ困難だったことを示している。

これは、教師やソーシャルワーカーだけでなく、ある程度対面でのやりとりを必要とする他の職業でも、質を落とすことなくバーチャルの手段によって再現することは難しいという経験の典型例である。

テレワークへの適応は、こうした仕事の内容や目的の大きな変化を伴うものであった。とくにパンデミックの初期には、企業と労働者のテレワークへの突然の以降に対する準備が不十分で、仕事量の増加やストレスにつながるケースがほとんどだった。しかし、労働者は、仕事の成果が上がらない、または「ベストの状態」を発揮できていない感覚と結びついた持続的なフラストレーションも報告している。

そのような特徴をもつ職業の労働者にとっては、対面でのやりとりを維持することが依然として重要である。しかし、これらの労働者のほとんどは、ポスト・パンデミックの状況のなかで、ときおり及び要求に応じて在宅勤務をする機会を放棄することはないだろう。強いられたテレワークの経験は、一部の職務がリモートでより快適かつ生産的なやりかたで行えることを示した。

4.1.2 労働強化

研究文献のなかでは、テレワークの程度が、仕事量の増大に対処するため、または、仕事の要求に応えるために常に応答できるという期待を管理するために、非公式の残業や不規則な労働時間として、ストレスや健康関連問題につながることがしばしば確認されてきた。研究はまた、通勤時間が労働時間に変わるリスクにも言及している。

現場調査は、仕事の量の増加や不規則な労働時間パターンは、パンデミックの初期段階に集中しており、新たな状況に労働の組織化慣行を適応させる必要があったためだったことを示している。それは、危機の影響を大きく受けた企業の、一定の管理的責任のある労働者にとって重大であった。しかし、結果は、在宅勤務には労働時間の延長や仕事から離れることの困難さという明らかなリスクがあり、常に応答できなければならないという認識と結びついていることが多いことも示している。

通勤時間の減少は、労働時間のパターンにあまり明確な影響を及ぼさなかった。通勤時間の節約は、テレワークのもっともポジティブな効果のひとつと認識されている。しかし、これまで通勤に費やされていた時間が、(完全にまたは部分的に)労働時間に変わることも多い。通勤よりも仕事に時間を費やす方がやりがいがあるという労働者がいる一方で、在宅勤務では仕事に制限を設けることが難しいと表明する者もいる。

通常の勤務時間を超えた対応可能性に関する問題は、様々な要因に起因している。

・直接的な押し付けがましい管理は、常に応答可能でなければならないというプレッシャーにつながるかもしれないが、それはむしろ例外的で、パンデミックの初期段階に限られていた。

・(勤務時間外にメールを送るなど)その他の管理慣行がより一般的であり、応答可能性の延長の暗黙の期待につながるかもしれない。

・労働者は、同僚や管理者と離れて働いているとき、自らの仕事に対する応答性を示すために、より目につきやすく、「常にオン」でいざるをえないと感じるかもしれない。

・社会的相互作用のレベルが高く、(外部または内部の)顧客やサービス利用者との間に制限を設けることに難しさを経験することの多い労働者は、他のタイプの労働者よりも、応答可能性の延長への期待が相対的に顕著かもしれない。

4.1.3 孤立と集中的なバーチャルチーム連携

孤立は、研究によって、集中的なテレワークの主要な心理社会的リスクのひとつとして確認されている。COVID-19の状況下では、同僚や管理者と顔を合わせる機会の損失が長引いたため、孤立感が顕著に表われた。

並行して、ほとんどの労働者がリモートで働き、対面でのやりとりが最小に制限される場合、集中的なバーチャルチーム連携やコミュニケーション慣行に起因する新たな心理社会的リスクに注意を払う必要がある。チーム連携のデジタル強度は、パフォーマンスや心理社会的リスクに様々な影響を与える重要な問題である。それは以下につながるかもしれない。

・非同期及び同期形態のコミュニケーションを可能にする、複数の重複したデジタルツールからの大量の情報を管理することによる情報の過負荷

・非言語的過負荷:対面での文脈的情報は情報の組み立てと理解に役立つが、その喪失は、効果的なコミュニケーションを達成するための余分な努力を必要とする。

・とくに相互依存性が高く、反復性の高い業務プロセスに組みこまれた、頻繁な社会的相互作用に依存する労働者における、チーム連携やパフォーマンスの低下
現場調査の結果は、この研究ストランドに沿ったものである。

・チーム連携は一般的に時間がかかるものと認識されており、バーチャル会議数の増加や情報の過負荷を伴う可能性があり、仕事のペースが遅くなり、作業チームや組織内の知識の伝達に影響を及ぼす可能性がある。

・集中的なバーチャル連携は、対人コミュニケーションの質を低下させ、情報の文脈を把握して誤解を避けるための重要な非言語的手がかりを失わせることになる。さらに、バーチャル会議は、相対的に職務に集中して、一層の情報交換の余地をなくす傾向がある。主な影響は、孤立感、疲労(非言語的過負荷)や誤解される危険性である。

・孤立感は、社会的相互作用のレベルの高い職種の労働者や新入社員でとくに顕著にみられた。対照的に、パンデミック前に孤立感を感じていた中級技能職のテレワーカーは、拡張されたテレワークの状況のなかで、認知度や支援が増加したと感じた。

4.1.4 ワークライフコンフリクト

最近の研究では、テレワークへの移行が、とりわけ共働きで子供のいる夫婦の間で、介護や家事の責任分担における既存のジェンダー不平等を悪化させる可能性があると説明されている。

義務的なテレワークによって、とくに自宅に適切な作業スペースがない者は、自分の好みに合わせて仕事と生活の境界を管理する個人の能力も根本的に変化したかもしれない。

現場調査の結果は、ワークライフコンフリクトは、COVID-19危機の最初の段階でとくに深刻で、明らかにジェンダー化され、とりわけ学校閉鎖中に学齢期の子供をもつ働く母親に、影響を与えたことを示している。ワークライフコンフリクトが、普段どおりに仕事ができないことによる不安やストレスにつながる場合もある。また、仕事に集中しすぎて介護の責任が果たせず、罪悪感を感じるケースもある。

パンデミックの初期段階のロックダウンと学校閉鎖中に集められた証拠は、ほとんどの労働者が新しい状況に適応したと報告しており、ワークライフコンフリクトの発生率は他の職務特性や社会経済的地位によって緩和されるために、一般化はできないかもしれない。

にもかかわらず、現場調査は、テレワークの経験に関してジェンダー化されたパターンが持続していることを示している。介護の責任を負う女性は、ワークライフバランスとの関連でテレワークのポジティブな側面を報告する傾向があるが、主に要求の高い仕事をしている場合には、潜在的なワークライフコンフリクトにより多くさらされている。さらに、自宅に仕事をするための適切なスペースがないことが、女性と男性の双方にとって、ワークライフコンフリクトのリスクを明らかに悪化させる。

4.2 筋骨格系障害その他の身体的問題

高負荷などの心理社会的ストレッサーはもちろん、長時間労働に関連した長時間の座位や静的姿勢によって、筋骨格系障害(MSDs)の有病率が高まるという証拠が増えている。しかし、MSDsの発生率に関する研究は、在宅テレワークよりも、ICT[情報通信技術]労働関連問題のより一般的なパターンに、主に焦点をあててきた。

在宅テレワーカーのMSDs発生率に関する研究は限られているものの、これらのリスクが増加している可能性を示唆するいくつかの兆候がある。現場調査は、様々な原因に関連した、自己報告された高い率のMSDsその他の身体的問題を示している。

・MSDsの発生率は大部分は、デスクワークの増加、自宅での人間工学的条件の悪さ、ストレスの多い労働条件または長時間労働の経験との関連で報告されている。

・デスクワークの増加との関連でみられるもっとも多い問題は、「主観的疲労感」の一般的感覚である。さらに、デスクワークの増加は、以前からあった身体的問題を悪化させるとともに、体重増加、腰や首の痛み、資格疲労や眼精疲労など、新たな問題の発生を助長する可能性がある。

・多くの労働者が直面するスペースの制約は、最低限の人間工学的基準を遵守して自宅のワークステーションを設定するのを妨げている。他の家族、すなわちやはり在宅勤務をするパートナーや学齢期の子供と作業部屋を共有しなければならない労働者にとっては、とりわけこの制約は深刻である。大都市に住む労働者が、テレワークのための不十分なスペースの影響をもっとも受けている。

4.3 緩和要因

テレワークの労働条件や福利に対する影響は様々な要因によって緩和されることが、研究によって示されている。テレワークの強度は明らかに重要である。全体的に研究は、ハイブリッドなテレワークの編成が、リモートワークの柔軟性と管理者・同僚との対面によるやりとりの間の最良のバランスを提供することを示唆している。驚くことではないが、現場調査その他の最近の調査は、企業と労働者双方におけるこの種の手配についての一般的好みを反映している。その他の緩和要因(自律性と組織的支援)に関連した知見を以下に紹介する。

4.3.1 自律性

テレワークは通常、知覚される自律性の向上と関連しており、それは仕事の過負荷やストレスの知覚の緩和に貢献する。

この点について、様々な研究が、仕事の要求に対処し、仕事と私生活の境界を管理するうえで、個人の好みや能力を認識することの重要性も指摘している。

しかし、テレワークは、組織の規範や労働の組織化慣行によって異なる結果をもたらす可能性があり、労働時間のスケジュールや職務を編成するうえで、リモートワーカーに与えられる自律性の程度に影響を及ぼす。とりわけ、組織が労働者に通常の勤務時間外に応答することを期待する場合には、自律性が損なわれる。

この点に関して、現場調査では、3つの主要パターンが確認された。

・自律性のレベルが高く、要求の厳しい職種の労働者は、在宅勤務によって労働条件が基本的に変化していない。これは主に、すでに高い仕事量に対処していて、定時以外の時間の仕事の要求に応答できるようにすることが職務権限に含まれている、管理責任のある労働者である。これは、文献で言及されている「自律性のパラドックス」と一致するものである。労働の自律性のレベルが高い労働者は、仕事量の増加に対応する要求を内面化し、仕事上のアイデンティティと評価に関連した理由から、常に応答できるようにしている。

・労働時間や職務の編成にある程度の自律性をもつ労働者は、在宅勤務をする場合に、自律性が高まった、ともっとも多く報告している。これは、通勤時間の減少に加え、労働時間の配分を自分の好みに合わせて柔軟に変更できるようになったことを意味し、それは不規則な勤務時間につながるかもしれない。ほとんどの場合、テレワークは、自己知覚パフォーマンス、仕事の満足感やワークライフバランスにポジティブな影響をもたらす。こうした知見は、ワークライフバランスに対する仕事の要求の緩和要因として、労働時間に対する自律性の役割を強調する先行研究と一致している。これらの知見は、通常の勤務時間を超えて自宅で仕事をすることは、それが、労働者が好んだ労働スケジュールの結果であって、仕事量の増加や常に応答できる期待に対処しなければならないことの結果でない限りは、ワークライフコンフリクトや労働関連ストレスの認識と関連していないことを示している。

・高度に標準化された作業プロセスで働き、労働スケジュールや労働のペースに対する自律性が非常に限られた労働者は、在宅勤務する場合に大きな変化を経験していないが、通勤時間の減少はポジティブに受け止められている。

4.3.2 管理と組織的支援

テレワークに関する研究のほとんどは、テレワーク編成を成功裏に実施させるためには、管理と労働組織の慣行を適応させる必要性を指摘している。

上述した他の研究と同様に、今回の現場調査は、COVID-19危機の間のテレワークの経験が、テレワークに対する経営陣の不信感や消極性を克服するうえで大きな影響を及ぼしたことを示している。このことは、使用者と労働者双方によっておおむね認められている。興味深いことに、両者とも、管理と監視の仕組みは大きく変わっていないと報告している。

・使用者によれば、主な理由は既存の管理手段(自律性のレベルの高い仕事については目標による管理、相対的に定型的な仕事については監視システム)の有効性である。これは、テレワークを中級技能職にまで拡大することは、一部の研究で予想されていたよりも難易度が低いことが証明されたことを示唆している。

・文献では押しつけがましい管理慣行が懸念されていたが、労働者は、それは例外的であってCOVID-19パンデミック当初に起きたことであり、テレワークが次第に前向きで信頼に基づくスタンスへ発展した報告している。
使用者を対象とした現場調査は、これまであまり注目されてこなかったテレワークのいくつかの側面も明らかにしている。ほとんどの企業において、テレワークへの大規模な移行が、労働安全衛生リスクと予防についての何らかの議論につながった。労働者の間には、主なリスクは孤立と自宅における適切な労働条件の欠如であるという合意がある。しかし、企業の経験は、2つの重要な側面-テレワークのための物的支援の提供と心理社会的リスクの予防-において、大きく異なっている。

・パンデミック中のテレワーク対応支援は、ラップトップ及びリモートワークを可能にするソフトウエアの提供が中心だったが、労働者が自分の機器を使用しなければならないケースもあった。人間工学的機器や、とくにテレワークに関連する費用の補償は、相対的に限定的だった。さらに、パンデミック中に自宅のワークステーションのリスクアセスメントがまったく行われなかったことも強調しておくべきである。

・心理社会的リスクについては、包括的な予防方針を策定した企業はわずか、すなわちパンデミック発生前にテレワークの経験が豊富な企業やすでにテレワークの大幅拡大を計画していた企業だけだった。今回の現場調査は、応答可能性の限度の設定、労働者の福利に関する情報の収集や、心理社会的リスクに関する理解を深めることを含め、管理・労働組織慣行を適応させるためのライン管理者の訓練など、最近の研究に沿ったいくつかの実践例を確認した。これに関連して、ICT[情報通信技術]の利用に明確な限度を設けることは、きわめて重要であると思われる。つながらない権利[right to disconnect]が正式に認められたのは大企業1社だけだったが、他の企業ではいくつかのHRM(人事労務管理)の実践が確認された。しかし、通常の労働スケジュールを超えて応答できることを期待される問題は、まだ解決されてはいない。

4.3.3 社会対話と企業レベルにおける団体交渉

COVID-19危機という異常事態にもかかわらず、現場調査は、社会対話と団体交渉がテレワークの規制において重要な役割を果たす可能性があることを示唆している。労働協約は、拡大テレワークへの移行あるいは、テレワークが可能とみなされる仕事、テレワークの強度、在宅勤務と現場勤務のローテーションルールや金銭的支援の提供など、規制的側面を促進するうえで、役立ってきている。小企業も、労働者代表との協議またはより直接的参加の仕組みのいくつかの事例を提供している。

このテーマに関する研究は少ないが、既存の証拠は、主に労働者の参加を強化し、企業のパフォーマンスを改善するよう設計された人事労務管理方針は、心理社会的リスクや健康への悪影響を予防するもっとも効果的な方法ではないようである。社会対話と団体交渉は、よりよい労働条件とより透明性の高い規制の枠組みを提供すると思われる。このことは、テレワークがパンデミック前よりも、より多くの労働者-多くは中級技能職-が利用できる選択肢になるだろうことを考えると、とくにポスト・パンデミックの状況に関係している。

4.4 国レベルにおける規制の傾向

テレワークに関するEU枠組み協定(2002年)は、ほとんどのEU加盟国にとって、テレワークに関する国の法令と団体交渉の主要な参考資料である。これには、テレワークの定義とその主要側面-使用者と労働者双方にとっての自主性、責任、平等雇用、訓練と団交権、データ保護、プライバシーの尊重及び労働安全衛生についての使用者の責任-の規制が含まれている。

EU加盟国は、法令または社会対話と団体交渉によって、テレワークを規制している。ほとんどの国で、両方のタイプの規制が(適用範囲や意義は異なるものの)用いられ、互いに補完し合っている。

テレワークの規制において、国や労使関係者が果たす役割は様々であり、国の労使関係の伝統に依存する部分もある。

COVID-19のアウトブレイク前に、ほとんどの国が、労働法典や関連規則のなかに規定された、テレワークに関する法的定義と具体的規制をもっていた。他の諸国(デンマーク、アイルランド、キプロス、ラトビア、フィンランド及びスウェーデン)では、テレワークの法的定義がなく、テレワークに関係する問題は、データ保護、安全衛生または労働時間に関連した様々な法律のなかで扱われていた。

EU枠組み協定を参考にして、規制された主な革新的諸側面を要約すると、以下のようになる。

・定期的及び臨時のテレワーク:EU枠組み協定は、定期的なテレワーク(少なくとも週1日)のみを対象としていた。しかし、(労働時間の20%未満及び/または特定のパターンに従わない)臨時のテレワークが、テレワークの重要な形態として現われた。国のアプローチは多様であった。あらゆる強度を網羅するようにテレワークの法的定義を変更した国がある一方で、定期的及び臨時のテレワークに別々の定義とルールを策定した国もあった。

・つながらない権利:EU枠組み協定は、テレワーカーは、国の法令と団体交渉による制限のもとで、労働時間の組織化を管理しなければならないと述べている。管理者や顧客による常に応答可能であることへの期待は、いくつかの国で、労働時間の配分、応答可能時間の制限と休憩に関する合意を含め、つながらない権利の規制につながった。

・テレワークの権利:自主性の原則が維持されていたとしても、いくつかの国は、テレワークを要求する(企業が拒否する場合、労働者は書面による回答を受け取る権利がある)、または、ワークライフバランスを支援する観点から、一部のグループに対し特別な取り扱いを提供する権利を規制した。

・特別の労働安全衛生条項:いくつかの国では、リスクアセスメントを実施し、労働者に潜在的リスクを知らせる使用者の義務が、法令に明記されている。しかし、リスクアセスメントの手順は様々であり、いくつかの国では、使用者はプライバシーの権利によって厳しく制約を受けている(その場合、リスクアセスメントは、テレワーカーによって提供された情報に基づくことになる)。対処される労働安全衛生リスクの範囲も様々である。いくつかの国は、特定の心理社会的リスク(すなわち、孤立、ワークライフコンフリクト及びストレス)を評価及び予防するための規則を策定した。最後に、労働災害に対する使用者の責任はデリケートな分野であり、この点に関する国の規制はかなり異なっている。

COVID-19アウトブレイク以来、各国政府は、労働における関連する労働安全衛生問題への注意を喚起するための努力を行っている。労働におけるパンデミック拡大を防止するための一般的ガイドラインは、多くの企業と労働者がこの労働編成の経験がないことに留意しつつ、安全なテレワークへの移行を促進するための、より具体的な手引きや情報と結びつけられてきた。

さらに、ほとんどの国では、激しい持続するテレワークの経験が、テレワークの規制をポスト・パンデミックの状況によりよく適応させることを目的とした、立法や議論の変化を促進してきた。2021年3月までに、5か国-スペイン、イタリア、ラトビア、ルクセンブルグ及びスロバキア-がすでに法的変更を実施した一方で、他の多くの国(ベルギー、ドイツ、アイルランド、クロアチア、キプロス、ハンガリー、マルタ、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル及びスロベニア)では、法令の見直し中であった。テレワークに関する法的変更と政策議論は、4つの主要な側面を含んでいる。①(定期的及び臨時のテレワークの区別を含め)テレワークの法的定義、②つながらない権利、③テレワークの権利及び④労働安全衛生条項である。それらは、パンデミック前にすでにあった傾向に準じいる。機器とテレワーク費用の補償に関連した問題も関連性を得つつある。

対照的に、ノルディック諸国では、パンデミック中のテレワークの経験が法的変更や政策議論につながっていない。個々の及び非公式な合意を通じた臨時のテレワークの実施が伝統的に、特別の管理上の制約なしに、代わりに使用者と労働者の間の信頼に依拠して(責任に基づく自由アプローチ)、自己規制に基づいて行われてきていた。このアプローチはパンデミックの間、有効だったようである。デンマークは、自己規制の強化に合致していると思われるものの、テレワークに関する幅広い議論のある唯一のノルディック諸国である。

4.5 政策の指針

テレワークやより柔軟な労働の組織化の手配が、使用者と労働者にとってより顕著な持続的未来になる可能性がある。多くのEU諸国において、法令の変更、団体交渉や議論が、労働者の福利と健康に対するテレワークの潜在的リスクに対する注意の増大を示している。つながらない権利の規制、心理社会的リスクの予防や労働安全衛生基準の執行が関連する諸側面である。しかし、テレワークに関する国の規制には大きな違いがあり、安全で健康的なテレワークに対する共通のアプローチの証拠はない。社会パートナーによる2002年のテレワークに関するEU枠組み指令の見直しは、今後に向けた重要なステップだろう。

企業によるテレワーク編成の適応の成功は、管理と労働の組織化慣行を適応させるとともに、労働安全衛生政策を改善する一層の努力を必要としている。

・企業レベルにおけるテレワーク編成は、テレワークが可能な仕事と職務、テレワークを要求する手順、機器と費用、テレワークの強度とパターン、つながらないことと通常の勤務時間を超えた応答可能性の限度、に関する明確で透明性のある規則を提供しなければならない。

・ライン管理者は、テレワーカーの労働条件を形成するうえできわめて重要な役割を担っている。経営陣は、自律性と支援的なパフォーマンス監視に基づいて、ライン管理者と労働者の間により信頼性の高い関係を育成しなければならない。

・労働の組織化慣行を適応させ、心理社会的リスクと関連する健康に対する悪影響についてのより深い理解を育むために、ライン管理者に対する訓練が必要になるかもしれない。

・労働時間の管理は重要な側面である。ライン管理者は、通常の勤務時間を超えた、応答可能な時間やコミュニケーション方法、仕事の依頼に関する明確なルールを設定することによって、つながらない権利の執行に重要な役割を果たさなければならない。

・労働の組織化慣行の適応は、非同期的に達成できる職務や作業プロセスと、同期的な調整や対面でのやりとりが必要な職務や作業プロセスとの間の明確な区別を示すものでなければならない。このアプローチは、労働者の労働時間に対する自律性を高める。

・バーチャルコミュニケーションの管理も、複数のデジタルチャンネルが重なり合うことに関連することの多い、過負荷、「ZOOM」疲労やストレスを低減するために重要である。それは、バーチャル会議の適切な頻度と時間について合意が存在し、また、非公式な交流や会議間の休憩のための時間が設定されていなければならないことも意味している。

・孤立を防ぐためのもっとも効果的なアプローチは、テレワークの強度を制限することである(例えば、週50%まで)。管理者や同僚とのスムーズなバーチャルコミュニケーションは、孤立を緩和する。

・筋骨格系障害その他の身体問題(目の疲れなど)の増加は、在宅勤務における、人間工学と健康的行動(例えば休憩や身体活動)の関連性を浮き彫りにしている。

・労働安全衛生政策は、労働者との協力による自宅のワークステーションのリスクアセスメントと人間工学的基準を遵守するための手引きからはじめなければならない。人間工学的機器(事務用什器やデジタルデバイス)が関連する側面である。

・包括的な労働安全衛生予防政策は、心理社会的及び身体的リスクの確認及び予防に、労働者を参加させなければならない。これには、訓練、労働者がその懸念を表明することを促進する仕組み、及び労働者の心理社会的及び身体的福利に関する系統的情報の定期的収集が含まれる。

最後に、企業レベルにおける社会対話と団体交渉が、テレワーク編成を規制するうえでより関係のある役割を果たさなければならないことを強調しておくことが重要である。それは、テレワーク編成を規制し、心理社会的リスクの積極的予防を育成し、労働安全衛生基準の遵守を強化するための、より透明性がある、参加型の枠組みを提供する。

※報告書の「2.5.2 国レベルにおけるテレワークに関する規則」から一部を、以下に紹介する。

2.5.2 国レベルにおけるテレワークに関する規則(一部紹介)

労働安全衛生条項:

・ラトビアの労働保護法の改訂…使用者に労働安全衛生についての責任があることは変わらないが、労働者もリスクの評価にあたって使用者に協力しなければならない。労働者の代表(または信頼される者)もリスク評価に加わる。

・スペインの新しい法令は、人間工学、心理社会的及び組織的側面を含めた、安全衛生問題に対する包括的なアプローチを採用している。使用者は、テレワークの場所(自宅または代替スペース)のリスクアセスメントを実施しなければならない。職業リスクに関する情報を入手するために、企業(または労働安全衛生関連サービス)は、テレワーカーが選択した勤務場所を訪問することができる(それが自宅の場合はテレワーカーの許可がある場合に限る)。許可が与えられない場合には、リスクアセスメントは、予防の実施基準にしたがって、テレワーカーから収集した情報に基づいて実施されなければならない。使用者はまた、妊娠中の者など、とりわけ影響を受けやすい労働者を支援するための防護措置を講じなければならない。

・ルクセンブルグの新規則は、労働者は、企業の労働安全衛生サービスに彼らが選択した労働の場所を調査するよう求めることができるが、使用者に、現場調査を実施する権利はない。…

機器と費用:

・スペインとスロバキアにおける法改正は、テレワークに伴う費用(インターネット接続と通信、資料など)を払い戻す使用者の義務にも対処している。

・ルクセンブルグでは、新しい規則が、使用者と労働者の間の協約にはテレワークの費用を補償する支払いを含めなければならないこと、及び、使用者はテレワーカーが求める必要な機器を費用支払い及び提供しなければならないことを明定している。

https://osha.europa.eu/en/publications/telework-and-health-risks-context-covid-19-pandemic-evidence-field-and-policy-implications

安全センター情報2022年3月号

■本ウエブサイト上「テレワーク」関連記事