ニチアス、控訴審でも敗訴/岐阜●最高裁に上告申し立て

労職研会員だった福田文夫さん(81歳)は、岐阜県羽島市にあるニチアス羽島工場で保温材や原材料の混合作業等に従事し、アスベスト粉じんにばく霧したことから、じん肺症の一種である石綿柿と合併症の続発性気管支炎に罹患した。
労災認定後、福田さんはアスベストユニオンに加入し、ニチアスとの団体交渉に臨んだが解決せず、2018年11月15日にニチアスに対する損害賠償訴訟を岐阜地方裁判所に提起した。今年1月31日に岐阜地裁は、ニチアスが福田さんに対して1430万円の損害賠償を支払うよう命じる判決を言い渡した。ニチアスはこの判決を不服とし名古屋高等裁判所に控訴していた。
5月30日、名古屋高裁で控訴審の期日が関かれたが1回で結審した。控訴審期日後の7月7日午前0時10分、福田さんは、判決を聞くことなくお亡くなりになった。
8月8日、名古屋高裁は、控訴を棄却するとの一審判決を維持する判決を言い渡した。
福田さんのお連れ合い(78歳)は、「とってもうれしいです。お父さんが一生懸命頑張った成果が本日の勝訴判決につながったと思います」とのコメントを発表し、長男(58歳)は、「長い間裁判をやらせていただき、本日、勝訴したことにより父の無念も請れたと思います」とのコメントを記者団に発表した。
福田さんがニチアスで働いたのは中学校卒業後の1959年3月から退職する1970年1月までの10年10か月間だった。ニチアスでの福田さんの仕事は、保温材の成型作業や「別荘」と呼ばれる建屋での原料混合作業だった。
成型作業では、混合槽というお湯を張ったタンクにアスベスト等の原料を投入する時に、同じ建屋内で作業をしていた福田さんのうえにアスベストが降りかかった。「別荘」という建屋内でのアスベストと珪藻土等、原料の混合作業では、コンクリートの床にぶちまけた原料をスコップで混ぜ合わせる時に大量の粉じんが発生し部屋中が真っ白になった。
ニチアス羽島工場では、これまで93件のアスベスト労災が認定されているが、会社に対して損害賠償訴訟を起こし認められたのは、福田さんを含めて3人である。2015年9月14日、岐阜地裁は、ニチアスに対して2人の元従業員に4180万円の損害賠償を支払うよう命じる判決を言い渡し、一審で確定した。この2人の元従業員は、福田さんの元同僚だった。
福田さんの訴訟では、中央じん肺診査医としての任務や、厚生労働科研労働安全衛生総合研究事業、労災疾病臨床研究事業の研究を推進する等の功績が認められたことから、昨年7月に令和5年度厚生労働大臣功績賞が授与された長崎大学の芦津和人教授による、福田さんのじん姉は管理1相当であるという意見書がニチアスから岐阜地裁に提出されていた。
9月3日、福田さんの訴訟を担当する弁護団から筆者にニチアスより上告受理申し立てがなされたと連絡があった。上告受理申立ては、高等裁判所の判決に判例違反その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むことを理由とする揚合の不服申し立ての方法である。
筆者は、ニチアスの上告受理申立てに大変驚き、建設アスベスト訴訟でも多くの事件を抱えているこチアスは、なりふり構わずという状況になっているのではと考えた。

文・問合せ:名古屋労災職業病研究会

安全センター情報2024年12月号