日本冷熱に2800万円の賠償命じる／熊本●司法は解決引き延ばしを厳しく断罪

4月24日、アスベストユニオンの組合員、支援者、そして多くのマスコミが詰めかけた熊本地方裁判所502号法廷。日本冷熱（長崎市）と日本冷熱天草工場（天草市）を被告とする損害賠償訴訟の判決日である。

被告席に代理人の姿はなく、傍聴席にも日本冷熱関係者の姿もない。開廷前に着席した3人の裁判官は、13時10分の時刻を確認し判決文を読み上げた。「主文、被告らは、原告に対し、連帯して2772万円及びこれに対する平成28年3月98から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え」。法廷に笑顔が拡がった。完全勝利といえる内容である。

これまで何度も報告しているが、日本冷熱の元従業員である山崎勝利さんは振動障害と肺がんを発病し、どちらの病気も労働災害であると認定されている。ふたつの災害苦を被ったにも関わらず、会社からの謝罪も補償もないため、2020年3月に山崎さんからアスベストユニオンに相談が寄せられた。団体交渉を通じての解決を求めたが、会社が不誠実な対応を繰り返したため、2021年5月に日本冷熱（長崎市）と日本冷熱天草工場（天草市）を被告とする損害賠償訴訟が始まった。

判決文では、まず山崎さんの石綿粉じんへの曝露について、長崎の造船所への派遣時における保温工事の際と、天草工場におけるFRP製品の製造時に石綿を含むパテを使用したこと、そしてFRP製品の研磨・切断作業において石綿に曝露したことを認めた。

次に、山崎さんの振動作業への従事と程度については次のように判断した。「原告は、相当期間にわたって振動作業に従事し…FRPが相当程度の硬度を有する素材であることから作業時には振動工具を強く握る必要があるとうかがわれる」として、約15年間振動に曝露したと認めた。

そのうえで被告らの安全配慮義務違反について、石綿については「石綿に対応した防じんマスク等の支給や石綿の危険性に対する安全教育等を実施しなかった」とし、振動作業についても「防振装置を付けた振動工具や防振手袋の支給、振動作業の時間の管理や作業方法の指導、暖房設備や温水供給設備を備えた休憩室の設置等をしなかった」とし、「これらの義務を怠った」と判断した。そして、被告らの安全配慮義務違反と原告の肺がん発症と振動障害発症との相当因果関係を認めた。

こうした認定に基づき、原告の肺がん罹患及び振動障害による損害を2800万と認めたうえで、原告に喫煙歴があるため損害額より1割が減額された。その際に弁護士費用の1部が認められ、被告が賠償する総損害額を2772万円と判断した。

日本冷熱は、何度も話し合いにより解決する機会はあった。2020年6月に団体交渉を申し入れ、神奈川県労働委員会の斡旋により2020年11月に初めて交渉が行われたが、会社は出席せず代理人を通じて「裁判で判断が示されたらそれに従う」という態度であった。そのため、神奈川県労働委員会に不当労働行為の救済申し立てを行ったが、この件についても2022年5月に、ユニオンへの救済命令が出された。この時も、ユニオンとして団体交渉を申し入れ話し合いによる解決を求めたが、会社は中労委への再審査の申し立てを行った。中労委においても和解に向けての立会い団交が行われたが、会社側は、山崎さんへの補償問題については訴訟の判断を見守るという態度であった。

そうした中で訴訟も大詰めを迎え、2023年1月に裁判所から原告・被告側双方ヘ和解が打診された。原告・ユニオン・弁護団で検討し遅延損害金を放棄し、喫煙減額も甘受し、2600万円の和解案を提案した。しかし会社側は、この時も和解を拒否。2023年11月に証人調べが行われた後、裁判所から原告・被告双方に和解の意向について打診がなされた。その際も、会社側は和解の席に着くこともなく拒否したのであった。

会社は何度も解決の機会があったが、その度に拒否し判決に至った。そして、2772万円に年5分の遅延損害金を合わせた金員を払えという判決が出たのである。現時点で、遅延損害金を含め被告が賠償する総損害額は約3900万円となる。

ユニオンは地裁判決を受けての団体交渉を申し入れており、5月24日に長崎において開催されることが決定している。補償制度の創設と従業員への健康診断の実施を求め、そして、早期解決に向けて取り組んでいきたい。（アスベストユニオン）

本日はたくさんの皆さんにお集まりいただき、ありがとうございます。
判決において、私の主張が認められ、本当にうれしく思います。これも弁護団の先生方や支援していただいた皆様、そして、私の訴えに関心を寄せていただき報道していただいたマスコミの皆様のおかげだと思います。
日本冷熱に対して、最初に労働組合を通じて話し合いを申し入れてから、本日の判決までに長い時間を要しました。会社は、話し合いにより何度も解決する機会がありながら、それを選択しませんでした。
裁判において証言してくれた同僚は、証言に立った翌月の昨年末に亡くなりました。私の妻も、今回の判決を聞かないまま今月初めに亡くなりました。二人に勝利判決を直接伝えるととができず本当に残念です。
会社はこれ以上争いを続けず、裁判所の判断に従って欲しいと思います。そして、私以外にも日本冷熱においてはアスベストによる被害者がいますので、その人たちのためにも会社は企業補償制度を設けて欲しいと思います。（原告・山崎勝利）

文・問合せ　アスベストユニオン

安全センター情報2024年7月号