日本冷熱石綿裁判判決へ/熊本●証人調べで被告の責任より明らかに

日本冷熱の元従業員である山崎さんが発病した振動障害と石綿肺がんの2つの労働災害に対する損害賠償を求める訴訟は、いよいよ判決を迎えることになった。

2021年5月に熊本地裁に提訴した訴訟は、10回の準備期日を経て、10月11日(午後)と10月25日(丸一日)の2日間、証人尋問が行われた。その後、原告・被告双方が最終準備書面を提出し、2月初日に結審、4月24日に判決が言い渡される。

10月11日は、原告側の証人2名と被告側の証人1名に対する尋問が行われた。原告の山崎さんは、日本冷熱天草工場に入社してすぐに、同期の全員と一緒に長崎へ研修に行き、三菱重工長崎造船所内において保温工事に従事した。被告は、「山崎さんが長崎に研修に行ったが、造船所での保温作業には従事していない」とし、石綿曝露を否定する主張を行っていた。

原告側証人の1人目は、山崎さんと同期入社で一緒に長崎に研修に行ったAさん。山崎さんとAさんは長崎では別の部署に配属されたが、宿舎での会話等を通じて、山崎さんが造船所で保温作業に従事していたことを証言した。

原告側の2人目の証人は、ヤマハ天草製造(株)で働いていたBさん。日本冷熱はヤマハから手こぎボートの製造を委託されていたが、そのヤマハの担当者がBさんだった。Bさんは、「昭和45年から昭和55年まで、船のFRP部品の整形や部品を船の本体に接着する際に、アスベストベーストと呼ばれるアスベストが含まれる接着用パテを使用していた」と証言した。また、「1缶20kgを5缶単位で週に1回(日本冷熱天草工業へ)持って行った」「アスベストペーストを使用した部分をエアサンダーなどで研磨すると、大量の粉じんが発生した」等と詳しく作業状況を話された。Bさんの堂々とした証言に被告側代理人は為す術がなく、反対尋問は予定時間の半分程で質問が終了した。

会社側証人のCさんは、被告側の主尋問において「製造においてパテはほぼ使用しない」「研磨等において電動工具を使用するが振動はほとんどありません」との発言を繰り返した。ところが原告代理人からの尋問により、Cさんはアスベストベーストを使用するボート部門ではなくユニットパス専門に作業を行っていたことが明らかになり、また逆に、「アスベストベーストやカレドリア(白石綿)を使用していた」ことを認めた。

10月25日は、午前中に会社側証人のDさん、午後は原告の山崎さんに対する尋問が行われた。

Dさんは被告側の主尋問において、「長崎での研修の際も、天草工場においても全員マスクをしていた。着用していない人がいると安全担当者が注意をしていた」「天草工場でパテを作ることがあったが挨は出なかった」「振動工具を使用して身体を壊した人はいない」等と証言した。一方、原告代理人からの反対尋問において「マスクを着用するのは粉じんが飛散していたからでは?」と尋ねると、「工場内は繊維がギラギラしていた。換気扇が回っていたが、それでも換気が追いつかずギラギラしていた」と答えた。

尋問の最後は、原告の山崎さん。入社後に長崎へ研修に行き造船所での保温作業において石綿粉じんに曝露したこと、天草工場でのFRP製品の製造においてアスベストペーストやカレドリアを使用したこと、研磨作業においてはパテに含まれるアスベストに曝露したこと、FRP製品の研磨作業においては電動工具を使用し、しかも長時間使用せざるを得ず振動障害を発病したことを丁寧に話された。被告代理人からの嫌らしい反対尋問が続いたが、山崎さんは冷静に回答し、被告代理人は質問符間を余したまま終了した。

被告側が申請した証人は、そもそも山崎さんとは作業上の接点が少ない職種の人物だった。会社側はま証人尋問を通じて、どのような体制で安全管理を行っていたのかを立証することはできなかった。そして、山崎さん本人、山崎さんの同僚、ヤマハの元社員の具体的な作業実態に関する証言を覆すには至らなかった。

証人尋問が終了後、裁判所から和解についての意見を聞くため、原告・被告双方が別室に呼ばれた。被告側は、「会社に責任がある前提では和解に応じることができない」「前回、原告側が提示した和解案には応じられない」との回答で、和解交渉のテーブルに着くことはなかった。

原告側は、最終準備書面において、石綿ばく露作業と振動作業についての事実をまとめ、被告の安全配慮義務違反の事実と損害についてあらためて主張した。石綿曝露作業については、三菱重工長崎造船所において防熱部の仕事に従事したこと、また、他の造船所へも派遣され保温工事に従事したこと、そして、ヤマハのFRP製ボートの製造作業においてアスベストペーストを使用し研磨作業においては大量の粉じんが発生したこと等を詳細に述べ、会社が粉じん対策を行っていなかった事実を主張した。

また、振動作業についても、長年、振動工具を用いてFRP製品の切断・研磨作業に従事したことを、担当した製品毎に使用した工具や1日当たりの作業時間を詳細に述べた。そして、防振手袋の未使用や特殊健康診断の未実施など、健康管理がなされていなかった事実を述べ、安全配慮義務違反が認められることを主張した。

原告の山崎さんは、「私は、肺がんと振動病で手術を経験しました。手術をした痛みや日常での苦しみは拭いきれません。肺がんの再発への不安を抱え、日々生活しています。再発した場合、どうなるのかと考えるだけで、不安で押しつぶされそうになります。趣味を制限され、日常生活にも支障が出ています。また、手指の麻療や冷えにも悩まされています。日本冷熱での仕事が原因で肺がんと振動病になりました。片方の病気を患っても辛いのに、両方の病気を患っています。二重の苦しみです」と訴えておられる。山崎さんは、当初アスベストユニオンに加入し会社に団体交渉を申し入れた。会社は交渉の席で真撃な対応をせず、「裁判で判断が示されればそれに従う」と豪語した。判決は4月24日の13時10分に言い渡される。

判決の内容、そして、会社の対応に注視を。

ひょうご労働安全衛生センター

安全センター情報2024年6月号