【追加提言】建設アスベスト被害の全面的救済に向けて-建材メーカーの「建設アスベスト被害補償基金」(仮称)への公正な資金拠出に関して-2022年5月20日/石綿被害救済制度研究会

【共同代表】
吉村良一(立命館大学名誉教授・民法/環境法)
下山憲治(一橋大学教授・行政法)
村山武彦(東京工業大学教授・リスク管理論)
森裕之(立命館大学教授・財政学)

【研究会事務局】
〒530-0047 大阪市北区西天満4丁目3番25号 梅田プラザビル9階 大川・村松・坂本法律事務所
弁護士 村松昭夫(大阪アスベスト弁護団団長)TEL:06-6361-0309

1 「緊急提言」における建材メーカーの資金拠出に関する提言と問題提起

当研究会は、2021年6月16日付け「緊急提言」において、建材メーカーの「建設アスベスト被害補償基金」(仮称)への資金拠出について、以下のような提言と問題提起を行った。

1) 建材メーカーの「対応の在り方」に関する基本的考え方

① 建材メーカーらが基金に資金拠出すべき立法事実は存在している

最高裁判決によって法的責任が確定した建材メーカーは10社(注:2022年2月の九州1陣最高裁決定においてケイミューの法的責任も確定したため、現在は11社である)であり、シェアが大きくない等の理由で法的責任があるとはされなかった建材メーカー、訴訟の被告となっていない建材メーカーも存在する。しかし、これらの建材メーカーも、アスベスト建材という危険な製品を製造・販売し、建設作業従事者がアスベストにばく露し、重大な健康被害を被るリスクを創出したこと、さらに、その危険性について調査・研究を行い、必要な警告等を行うべき立場にあったにもかかわらず、それらを十全に果たして来なかったことは疑いがない。最高裁も、すべてのアスベスト建材の製造・販売メーカーらが、建設現場での甚大な被害発生に大なり小なり関与していることを基本的前提としている。その上で、損害賠償責任を認めるか否かについては、個別建材メーカーのアスベスト建材の製造・販売行為と各被害者の石綿関連疾患罹患との因果関係(個別因果関係)が、司法判断のレベルで立証し得た否かで判断されたのである。しかし、基金という行政施策への資金拠出にあたって求められる立法事実は、司法判断において求められる個別因果関係の存否ではなく、アスベスト建材の製造・販売メーカーらが、建設現場での甚大な被害発生に大なり小なり関与しているという事実である。したがって、アスベスト建材という危険な製品を製造・販売し建設作業従事者をアスベストにばく露させ健康被害のリスクを創出し、かつ、その危険性についてのなすべき調査・研究や警告等を十全に行ってこなかった建材メーカーは、個別的因果関係が司法上認定されたか否かにかかわらず、行政施策(基金)に応分の関与をすべきである。

ちなみに、公害健康被害補償制度(以下、公健法)では、第1種指定地域の補償給付金の財源(賦課金)を汚染原因者(排出企業)に負担させるにあたって、「民事責任を踏まえた」とはしているが、制度創設の当時、四日市公害判決においてコンビナートを形成していた企業の共同不法行為責任は認められていたものの、賦課金を課せられた個々の排出企業と個別被害との因果関係や法的責任が司法上確定していたわけではない。にもかかわらず、公健法は、わが国の大気汚染全体が被害発生へ寄与しているという事実を立法事実として排出企業らに賦課金を課した。被害発生への責任という点では、公健法がコンビナートと直接関係のない全国のばい煙発生施設等設置者に賦課金を負わせたことに比べ、法的責任が確定されていない建材メーカーとアスベスト健康被害との関係ははるかに強い。建材メーカーらの基金への資金拠出に当たっても公健法のこの経験を大いに参考にすべきである。

② 建材メーカーらは、甚大な被害発生に関与している一方で、相当の経済的利益を得ている

建材メーカーらは、アスベスト建材を製造・販売することによって、「日本史上最大の産業被害」と言われる甚大な建設アスベスト被害(現在でも、労災認定者と石綿救済法認定者を合わせて1万人以上の未提訴の被害者がおり、今後も年間600人を越える被害者が増加し、その数は最終的には3万人を越えると予測されている)を発生させている一方で、アスベスト建材の製造・販売によって相当の経済的利益を得ている点も重要である。

③ 建材メーカーの責任と企業倫理の視点から

建材メーカーらが、被害者救済の行政施策(基金)に応分の関与をすることは、社会のなかで活動し、アスベスト建材を製造・販売して甚大な被害発生に関与してきた建材メーカーの責任であり、企業倫理でもある。建材メーカーは外国企業との技術提携や国際石綿情報会議(IAIC)・国際石綿協会(AIA)での活動等を通じて外国の石綿関連産業と早くから交流しており、外国で先行して生じていた健康被害に関する情報を知り得る立場にあった。にもかかわらず、「管理使用」と称して国内でアスベストの使用を続けたことが被害の拡大につながっており、このことに対する責任は極めて重い。
④ 国が独自の支給制度を創設したこととの関係
建設アスベスト被害を発生させた原因者の内、国は、最高裁判決を受けて、その重大な責任を痛感し、上記の通り被害者に簡易、迅速に給付金を支給する制度を発足させた。一方、アスベスト建材の危険性を警告することなく製造・販売を続け、相当の経済的利益を得てきた建材メーカーが、被害発生に深く関与しながら、被害者救済の行政施策(基金)への関与を拒否し続けている姿勢は、上記の国の対応と比較しても不誠実かつ理不尽である。

⑤ 法的責任が確定した建材メーカーの責任、役割

建設アスベスト被害に寄与したすべての建材メーカーらが基金に資金拠出すべきことは当然であるが、損害賠償責任が確定した建材メーカーらの責任はとりわけ重大である。これら建材メーカーらは、自ら応分の資金拠出を率先して行うことはもちろん、被害の全面的な救済に向けた基金への資金拠出について、建材メーカーらを取りまとめるなどリーダーシップを発揮することが求められており、それが法的責任が確定した建材メーカーの責務である。

2) 建材メーカーの公平、公正な資金拠出に向けて

① 建設アスベスト被害が文字通り「日本史上最大の産業被害」であることを考えれば、建材メーカーらが、原因者として基金への応分の資金拠出を行い、全面的な被害救済を行うことは当然である。

② 問題は、公平、公正な資金拠出のあり方、拠出金の負担割合をどのように算出するかという点である。基本的には、公健法の資金拠出と同様に、各建材メーカーらの建設アスベスト被害全体に対する影響、寄与に応じた資金拠出が公平、公正なことである

③ その場合、建材メーカーごとにアスベスト建材の製造に使用した石綿使用量を調査、算出して、それに基づき建材メーカーごとに資金拠出を割り当てることが基本となる。同時に、国交省データベースや、日本石綿協会による「石綿含有建築材料廃棄物量の予測量調査報告書」、アスベスト建材の種別ごとの多数の市場調査資料(シェア資料)、それらに加えて、建材メーカーらからの資料提供やヒアリング等によって、アスベスト建材の種別ごとのアスベスト建材の製造・販売量、石綿使用量、石綿含有率、主要なアスベスト建材の種別ごとの建材メーカーらの市場占有率(シェア)等を概ね把握することが可能であり、さらに、過去の労災認定資料を分析すれば、職種ごとの労災認定者数と、職種別の認定者数の労災認定者全体の中に占める割合等も把握することができる。これに今後解体作業における被害発生が増加することから解体作業の危険性のレベルなども合わせ考慮して、建材メーカーらの建設アスベスト被害発生への影響や寄与をランク付けし(5~10ランク程度)、こうしたランク付けに基づいて資金拠出を行わせるという方法もある。

④ また、国としては、新法附則2条に基づく「検討」の一環として、建材メーカーからの資料提供を含めて、必要な調査を行うべきである。

3) 必要となる拠出額等について

国は、新法の制定にあたって、その施行に要する経費として給付金等の見込み額を約4000億円としている。これは、現在までの労災認定者等が約1万1500人、今後30年間に亘って労災認定者等が毎年650人増え続けるとして合計で約3万1000人に上ると仮定し、これに一人当たり1300万円を支給するとして算出したものである。

建材メーカーらの責任の重大性を考えれば、建材メーカーらは最低でも上記の国の拠出額と同額を基金に拠出すべきであり、それが今後30年間での資金拠出であることを考えるならば、建材メーカーらがこの拠出金を負担することは十分に可能である。

2 基金制度における建材企業からの公正な資金拠出金に関する検討

当研究会は、上記「緊急提言」を踏まえて、2021年10月から、基金制度における建材メーカーからの公正な資金拠出に関するさらなる検討を行うために、建設アスベスト訴訟原告弁護団からの資料提供などの協力を得ながら、プロジェクトチームにおいて追加的検討を行ってきた。

具体的には、建設アスベスト訴訟やアスベスト研究の過程等で収集した有価証券報告書やシェア資料、建材メーカーが訴訟で提出した主張書面や証拠、原告弁護団が行った全国の原告被害者の職種に関する調査結果、建材メーカーが京都1陣訴訟及び大阪1陣判決が確定したことから支払った賠償金に関する調査結果等の基礎資料を整理、検討し、同時に、そうした基礎資料の整理、検討を踏まえて、建材メーカーからの公正な資金拠出のあり方等の方向性を検討した。

そこで、以下においては、検討結果を踏まえて、建材メーカーからの公正な資金拠出に関して「緊急提言」の追加提言を行うものである。

3 基礎資料等について

① 石綿建材の種別ごとの出荷量・推定石綿含有率・推定石綿使用量について

  • 資料1:「石綿含有建築材料廃棄物量の予測量調査結果報告書」(日本石綿協会)
    石綿協会が、1981(昭和46)年~2001(平成13)年までの吹付材、混和材等を除いた主要な石綿建材について、石綿建材の種別ごとに、出荷量、推定石綿含有率、推定石綿使用量をまとめたもの。「今回の統計は、日本全体の90%以上はカバーしているものと思われる」としている。
  • 資料2:資料1を石綿建材の種別ごとに経年的にまとめた表

② エーアンドエーマテリアル(旧朝日石綿、旧浅野スレート)、クボタ、ニチアス、ノザワ、バルカーの石綿使用量(1961(昭和36)年~1998(平成10)年)等について

  • 資料3: エーアンドエーマテリアル、ノザワ、ニチアス、クボタの石綿使用量と石綿輸入量
  • 資料4:わが国の石綿輸入量
  • 資料5:エーアンドエーマテリアル、ノザワ、ニチアス、バルカーの有価証券報告書の石綿使用量をまとめた表
  • 資料6:クボタの石綿使用量

* 上記の各社の石綿使用量は、すべてが建材に使用されたものではない点に留意する必要があるが、相当量は建材に使用されたと考えられる。

③ 大阪1陣訴訟において被告となった建材メーカーが明らかにした石綿使用量について

  • 資料7:一定数の被告建材メーカーが大阪1陣訴訟において明らかにした石綿使用量とそれらをまとめた表
  • 大阪1陣訴訟において原告側からの求釈明に対する被告建材メーカーらの回答をまとめた(推計も含む)ものであるが、求釈明に応じていない被告建材メーカーが圧倒的に多い。

④ 主だった建材メーカーの石綿建材の製造・販売量とシェア、石綿含有率等について

  • 資料8:主だった被告建材メーカーの石綿建材製造販売一覧表
  • 資料9:石綿建材の種別ごとの主だった被告建材メーカーのシェア推移
  • 資料10-1:石綿建材の種別ごとの各建材メーカーのシェアと主だった被告建材メーカーのシェア合計
  • 資料10-2:引用書証一覧表

* これら資料は、大阪1陣訴訟の原告弁護団から提供されたものである。
* なお、主だった建材メーカーとは、石綿建材の種別ごとに概ねシェア10%以上の建材メーカーである。

⑤ 職種別の被害の発生状況について

  • 資料11:全国の原告被害者の職種別の人数と割合

4 基礎資料等からの考察

① 建材に使用された石綿使用量は、石綿輸入量の7割~8割が建材に使用されていることを前提にすれば、600万~700万トンと推測される(資料1など)。

② 石綿が多く使われた石綿建材の種別は、スレート波板(189万トン)、住宅屋根用化粧スレート(158万トン)、スレートボード(92万トン)であり、次いで、押出成形セメント板(40万トン)、ケイカル板1種(38万トン)などである。なお、吹付材、石綿含有混和材(テーリング等)の石綿使用量の資料は入手出来ていない(資料1、2など)。

③ 石綿含有率が高い石綿建材の種別は、吹付石綿、混和材と並んで、ケイカル板1種(10~25%)、スレートボード(10~20%)、スレート波板(10~15%)、住宅屋根用化粧スレート(10~15%)、押出成形セメント板(12%)、窯業系サイディング(5~15%)などである(資料1)。

④ 各石綿建材の種別ごとのシェア上位企業(概ねシェア10%)や、訴訟で賠償責任が認められた主だった建材メーカーは、エーアンドエーマテリアルクボタノザワニチアスエムエムケイバルカー日鉄ケミカル日本インシュレーションウベボードケイミューパナソニック神島化学大建工業太平洋セメントナイガイ日東紡績旭硝子旭トステム昭和電工住友大阪セメント東レACEニチハ積水化学の22社程度である(資料8、9、10)。

上記④の建材メーカーの内、エーアンドエーマテリアルクボタノザワニチアスの石綿使用量は、合計約370万トンであり、建材への石綿使用量の50%~60%にも上ると推測される(資料3、4、5、6)。

⑥ エーアンドエーマテリアル、クボタ、ノザワ、ニチアス以外の主だった建材メーカー18社の内、バルカー日鉄ケミカル日本インシュレーション積水化学以外の石綿使用量は把握できなかったが、各建材メーカーが製造した石綿建材の種別の数、石綿建材の種別ごとの製造量・石綿含有率・シェア等を考えれば、これら主だった建材メーカーの石綿使用量は、それぞれ1万トン~10万トン程度と推測される(資料7、9、10)。

⑦ 上記④以外の建材メーカーの石綿使用量は、多くてもそれぞれ数十トン~数千トンであり、石綿使用量も全体で1割程度(50万~60万トン程度)ではないかと推測される(資料7)。

⑧ 各石綿建材の種別ごとにシェア上位企業(概ねシェア10%)数社のシェア合計を見ると、どの石綿建材の種別でも70~100%である(資料10)。

⑨ 3種類以上の石綿建材を製造販売していた建材メーカーは、エーアンドエーマテリアル(吹付石綿、吹付ロックウール、ケイカル板1種、スレートボード、スレート波板、サイディング材等)、ニチアス(吹付石綿、吹付ロックウール、ケイカル板1種、ケイカル保温材など)、ノザワ(吹付石綿、吹付ロックウール、スレートボード、押出成形セメント板、スレート波板、石綿含有混和材など)、エムエムケイ(スレートボード、ケイカル板1種、押出成形セメント板、スレート波板)、大建工業(ケイカル板1種、吸音天井板、住宅屋根用化粧スレート、サイディング材)、神島化学(ケイカル板1種、サイディング材、ケイカル保温材など)、パナソニック(吸音天井板、住宅屋根用化粧スレート、サイディング材)、バルカー(吹付石綿、吹付ロックウール、耐火被覆板)、ナイガイ(吹付石綿、吹付ロックウール、耐火被覆板)などである(資料8)。

⑩ 被害が多く発生している職種は、大工、内装工、左官、電気工、塗装工、配管工、解体工であり、合計で70%程度を占めている(資料11)。

⑪ 大工、内装工、左官、電気工、塗装工、配管工の各職種の被害発生に主要に影響を与えた石綿建材の種別は、各下級審判決を踏まえれば、吹付材、スレートボード、ケイカル板1種、石綿含有混和材、押出成形セメント板、ロックウール吸音天井板、サイディング材などである。

⑫ 確定している大阪1陣訴訟と京都1陣訴訟における建材メーカーからの賠償額の平均は、元金ベースで被害者一人当たり約680万円である。

⑬ せんい強化セメント板協会の資料などを収集、整理すればさらに基礎資料等は豊富になる。

5 公正な資金拠出を考えるにあたってのグループ分け(添付の表を参照)

① 上記の通り、石綿建材を製造販売した建材メーカーは多数あるが、石綿使用量、石綿建材の製造販売量、石綿建材の種別ごとのシェア、製造販売していた石綿建材の種別の数、製造販売していた石綿建材の危険性(石綿含有率や飛散性など)、被害が多く発生している職種とそれに影響を与えた石綿建材の種別、判決で責任が認められた建材メーカー等の情報を検討すれば、建設アスベスト被害全体に対して与えた影響、寄与には建材メーカーごとに大きな違いがある

② 石綿使用量が多い建材メーカーと、被害が多く発生した職種に影響を与えたと判決で認定されている建材メーカーは、必ずしも一致していない状況もある。

③ そこで、石綿使用量を基本としながらも、石綿使用量の把握が十分でないことや、石綿建材の製造販売量と石綿建材の種別ごとのシェア、製造販売していた石綿建材の種別の数、製造販売していた石綿建材の危険性(石綿含有率や飛散性など)、被害が多く発生している職種とそれに影響を与えている石綿建材の種別、判決で責任が認められた建材メーカー等を考慮して、大きくは4つのグループに分けることが可能ではないか。

Aグループ- 建設アスベスト被害全体にとりわけ大きな影響を与えた建材メーカー(5社)
エーアンドエーマテリアル、クボタ、ノザワ、ニチアス、エムエムケイ

Bグループ- Aグループに次いで建設アスベスト被害全体に大きな影響を与えた建材メーカー(6社)
バルカー、太平洋セメント、日鉄ケミカル、日東紡績、ナイガイ、神島化学

Cグループ- Aグループ、Bグループ以外の主だった建材メーカー(11社)
日本インシュレーション、ウベボード、ケイミュー、パナソニック、大建工業、旭硝子・旭トステム、昭和電工、住友大阪セメント、東レACE、ニチハ、積水化学

Dグループ- 石綿建材を製造販売した建材メーカーの内、上記各グループ以外の建材メーカー(数十社)

④ Aグループの建材メーカーについて

エーアンドエーマテリアル:石綿使用量(約135万トン)がクボタと並んで多いこと、石綿含有率も飛散性も高い吹付材のシェアが高いこと、製造販売した石綿建材の種別が多く、各石綿建材の種別ごとのシェアが高いこと、石綿建材の製造販売期間も長いこと、判決でも多くの被害者との関係で責任が認められていること、業界団体で主要な役割を果たして、わが国の石綿建材の普及の中心になっていたことなど、建設アスベスト被害全体に大きな影響を与えた建材メーカーである。

ノザワ:石綿使用量(約61万トン)が多いこと、石綿含有率や飛散性が高い吹付材のシェアが高いこと、石綿含有率が高く作業時の飛散性が高い石綿含有混和材で圧倒的なシェアを占めていること(9割以上)、製造販売した石綿建材の種別が多いこと、石綿建材の製造販売期間も長いこと、判決でも多くの被害者との関係で責任が認められていること、業界団体で主要な役割を果たして、わが国の石綿建材の普及の中心になっていたことなど、建設アスベスト被害全体に大きな影響を与えた建材メーカーである。

クボタ:何よりも石綿使用量(約144万トン)が最も多いこと、石綿含有率が高い住宅屋根用化粧スレートや窯業系サイディングで大きなシェアを占め、今後多くの被害発生が予測される解体工への影響が大きいこと、戸建住宅向けの石綿建材を他に先駆けて導入し、その普及に大きな役割を果たしたことなど、建設アスベスト被害全体に大きな影響を与えた建材メーカーである。

ニチアス:石綿使用量(約29万トン)が多いこと、石綿含有率や飛散性が高い吹付材を最初に導入して普及させ、かつ、ケイ酸カルシウム板及びケイ酸カルシウム保温材など、製造販売した石綿建材の種別が多いうえ、多くの種別において高いシェアを有していること、判決でも多くの被害者との関係で責任が認められていること、業界団体で主要な役割を果たして、わが国の石綿建材の普及の中心になっていたことなど、建設アスベスト被害全体に大きな影響を与えた建材メーカーである。

エムエムケイ:石綿使用量は把握できていないが、長期間に亘って多くの石綿建材を製造販売してきたことから、石綿使用量が多いことが推測されること、なかでも石綿スレートボード、ケイカル板1種、石綿スレート波板などにおいて高いシェアを有していること、今後多くの被害発生が予測される解体工への影響が大きいこと、判決でも多くの被害者との関係で責任が認められていることなど、建設アスベスト被害全体に大きな影響を与えた建材メーカーである。

⑤ Bグループの建材メーカーについて

これらの建材メーカーは、石綿使用量はAグループよりも少ないが、いずれも吹付材(バルカー、太平洋セメント、日鉄ケミカル、日東紡績、ナイガイ)やケイカル板1種(神島化学)など、石綿含有率や飛散性などから危険性が高い石綿建材の種別において高いシェアを有していること、今後多くの被害発生が予測される解体工への影響が大きいこと、被害が多く発生している職種に大きな影響を与え、判決でも被害者との関係で責任が認められていることなどの事情から、Aグループに次いで建設アスベスト被害全体に大きな影響を与えた建材メーカーらである。

⑥ Cグループの建材メーカーについて

これらの建材メーカーは、石綿使用量の把握が十分できていないが、石綿建材の製造販売量と石綿建材の種別ごとのシェア、製造販売していた石綿建材の種別の数、製造販売していた石綿建材の危険性(石綿含有率や飛散性など)、被害が多く発生している職種とそれに影響を与えている石綿建材の種別の関係、判決で責任が認められているなどの事情を考慮して、Aグループ、Bグループに次いで、建設アスベスト被害全体に影響を与えた主要建材メーカーらである。

⑦ Dグループの建材メーカーについて

これらの建材メーカーは、石綿使用量が数十トン~数千トンであり、石綿建材の種別ごとのシェアも低いが、石綿建材を製造販売して建設アスベスト被害全体に一定の影響を与えていたことが明らかな建材メーカーである。


* なお、添付した表は、基礎資料からの情報を上記グループごとにまとめたものである。

6 建材メーカーからの公正な資金拠出のあり方に関する試案

  • 30年間で4,000億円の負担と想定し、(厚労省による建設アスベスト給付金の国の負担分の試算を適用)、1年あたり133.3億円の負担が必要として計算を行っている。
  • Aグループの算出基準として、判明している4社分(エムエムケイ以外)の石綿使用量から1社あたりの平均使用量を92.25万トンとみなし、5社で461.25万トンと推定する。これは日本の石綿消費量(1930~2004年)約988万トンに対して約46.7%であり、この比率を基準とする。
  • Aグループに対して、被害責任の寄与度としてBグループは2分の1、Cグループは5分の2と暫定的に設定し、残りの1割強をDグループが負うこととした。

資料目録

資料1 石綿含有建築材料廃棄物量の予測量調査結果報告書(日本石綿協会)
資料2 資料1を石綿建材の種別ごとに経年的にまとめた表
資料3 エーアンドエーマテリアル、ノザワ、ニチアス、クボタの石綿使用量と石綿輸入量
資料4 わが国の石綿輸入量
資料5 エーアンドエーマテリアル、ノザワ、ニチアス、バルカー有価証券報告書の石綿使用量をまとめた表
資料6 クボタの石綿使用量
資料7 一定数の被告建材メーカーが大阪1陣訴訟において明らかにした石綿使用量とそれらをまとめた表
資料8 主だった被告建材メーカーの石綿建材製造販売一覧表
資料9 石綿建材の種別ごとの主だった被告建材メーカーのシェア推移
資料10-1 石綿建材の種別ごとの各建材メーカーのシェアと主だった被告建材メーカーのシェア合計
資料10-2 引用書証一覧表
資料11 全国の原告被害者の職種別の人数と割合

[編注] 資料は省略。PDF版はこちら

安全センター情報2022年7月号