主要な職業病の認定件数・認定率の推移(2021年度速報)

厚生労働省が毎年継続している、中皮腫及び石綿(アスベスト)関連肺がん(速報値)過労死・過労自殺を含む脳・心臓疾患及び精神障害の2021(令和3)年度労災補償状況の公表を受けて、主要な職業病の認定件数・認定率の推移をまとめてみた。ただし、それ以外の職業病の2021年のデータはまだ公表されていない。

主要な職業病の認定件数の推移

かつてはじん肺とその合併症及び振動障害が二大職業病だったが、両者は大幅に減少してきて、同じくらいの数になってきた。ただし、振動障害は過去15年ほど横ばい状態が続いているし、両者とも他の職業病同様、労災認定されずに埋もれた事例の存在が懸念されている。

筋骨格系障害の代表のひとつである上肢障害が、2012年度以降首位に立ち、2019年度の認定件数は1,634件となったが、2020年度は1,507件に減ってている。もうひとつの代表と言える非災害性(慢性)腰痛は100件未満にとどまっていて(ただし3年続いて増加)、埋もれた事例が多いと考えられる職業病の代表格である。

石綿(アスベスト)関連がん-中皮腫と肺がん-はひとつの教訓を与えてくれている。2005年末のクボタ・ショックにより人々に知られる前は認定件数はわずかだったが、その後高いレベルを維持している。しかし、被害が増大し続けていると予想されているなかでは、現状の認定件数は不十分であるし、中皮腫の認定件数が2020・21年度と減少していることが気になる。また、アスベストが原因だと気がついたときには、死亡から5年以上経過してしまっていて労災請求ができなかったという事例が多数あることが明らかになったことから、石綿健康被害救済法によりそれらの事例に対しても労災保険に準じた給付がなされている(労災時効救済)が、その数字はグラフに現われていない。今回の発表によると、その労災時効救済の請求件数が546件で、前年の14倍近かった(決定58件、認定32件で処理が追いつかなかった)。労災時効救済の請求期限が2022年3月27日で切れてしまい、急きょ石綿健康被害救済法の改正が行われて対象範囲・請求期限とも再延長されることになったが、それに向けて全国安全センターが中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会に協力して実施したホットライン等の成果だと思われる。なお、石綿関連疾患では、労災認定等された事例の事業場情報が公開されていることも重要である。労災時効救済と事業場情報の公表は、他の多くの職業病についても必要なことだろう。

精神障害の労災認定件数は増加傾向を示していて、2020年度ついに中皮腫を上回り、2021年度さらに差を広げた。それに対して、脳・心臓疾患は、クボタ・ショック前は、じん肺、振動障害、上肢障害に次ぐ職業病であったものが、最近は減少傾向がみられる。2021年9月に脳・心臓疾患の労災認定基準の20年ぶりの改正が行われたにもかかわらず、請求・認定件数とも減少している。認定件数は、その20年前の水準に迫る落ち込みである。それが実際に事例の減少によるものであればよいことであるが、そう言える状況にはない。図には示していないが、精神障害も請求件数の急増ぶりと比較すれば、認定件数の状況には問題がある。

なお、グラフには示していないが、新型コロナウイルス感染症の労災認定件数が2020年度に4,545件あり、2021年度も暫定データで19,264件と、ダントツで職業病認定件数のトップ-最大の職業病になっていることに留意しておきたい。

主要な職業病の認定率の推移

ここで認定率とは、決定件数に対する認定件数の率を言う。

ここでも図には示してていないが、新型コロナウイルス感染症の認定率が、2020年度95.9%、2021年度は暫定データで99.2%と、もっとも高いことに留意されたい。

中皮腫及び石綿(アスベスト)関連肺がん(速報値)、過労死・過労自殺を含む脳・心臓疾患及び精神障害については、毎年の厚生労働省発表のなかにこのデータが含まれている。他の職業病については、全国労働安全衛生センター連絡会議が情報公開法による開示請求によってデータを入手しているが、グラフに示したもの以外の職業病に関しては、データが得られていない。

以前は、おおざっぱに、①石綿(アスベスト)関連がん(中皮腫・肺がん)の認定率がもっとも高く、②筋骨格系障害(上肢障害・非災害性腰痛)が中間、③脳・心臓疾患、精神障害がもっとも低いという、三層構造が指摘できた。

しかし、非災害性腰痛の認定率が経時的に20%以上も減少してしまって、③のグループと同じレベルになってしまっていた。2019年度は46.9%に増加している。上肢障害の認定率もゆるやかな減少傾向がみられるようで、懸念されるところである。

脳・心臓疾患の認定率は、50%に到達することが期待されたこともあったものの、減少傾向にあり、精神障害の認定率とほぼ同じ水準になってしまっている。精神障害の認定率も、40%に到達することが期待されたものの、最近は32%前後にとどまっている。

こうした状況も踏まえて、認定基準の内容とともに、その運用についても見直しが必要である。2021年度の脳・心臓疾患の認定率の微増が2021年9月の労災認定基準の見直しによるものか見極める必要があろうが、2021年度の請求・認定件数は増加しないどころか減少しているので、あまり期待はできそうにない。現在、精神障害の労災認定基準の見直しが検討されているが、認定件数だけでなく認定率にどのような影響を及ぼすのかみていかなければならない。

各々の職業病の具体的事例等については、関係カテゴリー別の投稿を参照していただきたい。