二つの建設アスベスト訴訟に最高裁決定-外装材についても企業責任確定~弁護団・原告団声明

2022年2月10日に最高裁判所は、建設アスベスト訴訟九州一陣及び神奈川二陣に対する決定を行った。弁護団・原告団らが「声明」を発表している。

九州建設アスベスト訴訟原告団/弁護団/支える会「声明」

  1. 本日、最高裁判所第二小法廷(菅野博之裁判長)は、九州建設アスベスト一陣訴訟について、当事者双方(一審被告企業4社と一審原告ら)が申し立てた上告受理申立を不受理、前記企業4社の上告を棄却とする決定を行った。これにより、エーアンドエーマテリアル、ニチアス、ノザワ、ケイミューに対する一審原告らの勝訴が確定した。昨年5月17日の建設アスベスト4事件(首都圏神奈川1陣、同東京1陣、京都1陣、大阪1陣の各訴訟)の判決に続き、建設アスベスト被害について建材メーカーの責任があらためて断罪されたのである。
  2. 最も注目するべき点は、この決定によって、はじめて外装材(屋根材、サイディング材)について、それらを製造・販売したケイミューとノザワの責任が確定したことである。これらの外装材について、福岡高裁判決は、「屋外で施工される場合であっても…粉じんばく露は避けがたい」「加工がすべて屋外でなされるとも直ちに認定できない」といった理由により、両社の責任を認めていた。最高裁はこの判断を追認したのである。
    先行の最高裁判決では、外装材についての製造販売企業の責任が認められなかったが、高裁の事実認定の内容次第ではこれが認められることが明らかになった。この意義はきわめて大きい。製造販売企業の責任だけでなく、屋外工に対する国の責任を否定するという不当な判断を乗り越える道が拓かれたということもできる。
    私たちは、今回の判決・決定を力に、建設アスベスト被害救済の範囲を大きく広げるべく、取り組みを強めることを決意している。
  3. 今回の決定では、責任を負うとされた企業が4社に留まっており、前記先行4訴訟判決に比べて少ないという問題がある。また、賠償額について、今回の決定で確定した福岡高裁判決は、最初から基準慰謝料額の3分の1にとどめた上で、さらにそこから就労期間の短さ等を理由に減額を行っており、賠償額が過度に抑制されているという問題もある。
    しかしながら、今回、最高裁はこれらの点について高裁の判断を変更しないとしたに過ぎず、責任を負うべき企業の範囲を広げ、賠償すべき額を大きくすることは、決して困難ではない。私たちは、九州二陣訴訟、すでに全国で闘われている同種訴訟、さらにこれから提訴される新たな訴訟で、必ずこれらを実現する所存である。
  4. 企業に対する規制を怠ったことの責任を問われた国が、被害者に謝罪し、今後の被害根絶の協議の約束をして、基金による救済を行っている。その一方で、自ら危険なアスベスト建材を製造販売して国中に普及させ、被害を生み出してきた企業は、責任を認めようとせず、争いを続けようとしている。これは誰の目から見ても道理に反しており、製造販売企業には決定的に責任の自覚が欠けているといわざるをえない。
    アスベスト建材の製造販売企業は、真摯な謝罪をして、建物解体等による今後の被害発生を防止し、賠償のために国が設立した基金に参加するべきである。とりわけ、今回責任が確定した4社は、アスベスト建材の総合メーカーたるリーディング企業であり、アスベスト被害に対して特に重い責任を負っている。4社には率先して他企業にも働きかけ、解決に道を拓くよう務めるべき責務がある。国も、関係者も、ともに企業に解決を迫るために力を尽くすべきである。
    私たちは、4社をはじめとするアスベスト建材製造販売企業をこうした立場に立たせ、建設アスベスト被害救済を実現するため、今後も全力を尽くすものである。


建設アスベスト訴訟全国連絡会/建設アスベスト訴訟神奈川原告団/弁護団/神奈川県建設労働組合連合会「声明」

1 (ニチアス、A&A、ノザワの損害賠償責任の確定)

建設現場における作業を通じて石綿粉じんに曝露し、中皮腫や肺ガンなどの石綿関連疾患を発症した被災者及びその遺族が、国と石綿含有建材製造企業(以下、「建材メーカー」という。)を訴えていた建設アスベスト神奈川第二陣訴訟について、最高裁判所第2小法廷は本年2月9日付で、原告57名(被災者単位38名)との関係で、ニチアス、A&A、ノザワの上告受理申立を不受理とする決定をした。これにより、ニチアス、A&A、ノザワの損害賠償責任が確定するに至ったことになる。
同時に最高裁は、主に解体作業に従事した原告5名(被災者単位4名)との関係で、ニチアス及びA&Aの上告受理申立を受理し、本年3月28日15時から口頭弁論期日を開くとした。

2 (上告不受理決定の意義)

今回の上告不受理決定で確定した原判決は、東京高等裁判所第20民事部(村上正敏裁判長)が、2020年8月28日に言渡したものである。同判決は、国及び建材メーカー3社の損害賠償責任を認めただけでなく、建材メーカー3社の損害賠償責任を損害全体の4分の3の範囲で認めたものであった。
最高裁は、解体作業に従事した原告5名(被災者単位4名)との関係では、ニチアス及びA&Aが申立てた上告受理申立を受理し、本年3月28日15時から口頭弁論期日を行うとの決定をした。もっとも、それ以外の原告との関係では、建材メーカー3社の上告受理申立を不受理とし、4分の3の範囲で損害賠償責任を認めた原判決を確定させたことは、建材メーカーの損害賠償責任を高い水準で認めたものとして、評価することができる。

3 (建材メーカーらの責任)

この間、国は、昨年5月17日に言渡された最高裁判決を真摯に受け止め、菅首相自ら、原告らに対し直接謝罪したうえで、基本合意を締結し、訴訟係属中の原告らとの和解と、未提訴の被災者に対する給付金制度の創設による救済に踏み出した。
これに対して、建材メーカーらは自らの利益追求のために、石綿の危険性を十分に周知することをしないまま、大量の石綿含有建材を製造、販売することを長年にわたって続けてきた。このような直接の加害行為を行ってきたことを理由とする、重大な責任が最高裁判決で断罪されたにもかかわらず、建材メーカーらは、原告らに対する謝罪はおろか面会も拒否し、訴訟係属中の事件についてはさらに争う構えを示し、国が創設した給付金制度についても、基金への拠出と参加を拒否している。
しかし、建材メーカーをめぐっては、先行する神奈川、京都、大阪の1陣訴訟に加え今般の最高裁の決定で、その責任はもはや争いの余地がないものとなっているのである。

4 (最後に)

われわれは、建材メーカーらに対し、今回の最高裁による上告不受理決定によって、ニチアス、A&A、ノザワの損害賠償責任が4分の3の範囲で認められたことを真摯に受け止め、まず何よりも各社の代表者が自ら、原告らに対し直接謝罪したうえで、訴訟係属中の事件について和解すること、そして国の創設した給付金制度に参加して、基金への拠出を決断することを強く求めるものである。
また、国に対しても、今般の最高裁決定を機に、建材メーカーらに対し、給付金制度に参加し、基金への拠出を行うよう、強力に働きかけることを求めるものである。