労働部の資料提出拒否で最悪の殺人企業選定が「無に」 2023年04月28日 韓国の労災・安全衛生
毎日労働ニュースと労働・安全団体が、労災死亡に対する警戒心を呼ぶために毎年選定している最悪の殺人企業名簿が、今年は空欄ばかりだった。雇用労働部が、個人情報の侵害と法人の名誉毀損を理由に企業名を隠した情報を提供し、正確な労災死亡の状況を確認することが難しかったからだ。「労災死亡対策準備共同キャンペーン団」は「労災死亡事故の責任を、企業(法人)と経営責任者に問おうとする社会全般の流れに、正面から逆らう態度」と労働部を批判した。
死亡事故の企業リスト提出要求に、下請名は削除、元請は最初のイニシャルのみ
労働健康連帯・毎日労働ニュース・民主労総で構成された共同キャンペーン団は27日、大統領室の前で『2023最悪の殺人企業選定式』を行った。共同キャンペーン団は、2006年から毎年4月28日の労災労働者の日に、前年度の「最悪の殺人企業」を選定して発表してきた。下請け労働者の死も元請けの責任という認識がなかった時代から、政府が提供した公式統計を利用して、下請け労働者の死亡事故も元請けの死亡災害として合算して公表するという意味があった。
『最悪の殺人企業選定式』で、企業を選定・発表できなかったのは今年が初めてだ。労働部が資料提出を事実上拒否したためだ。共同キャンペーン団は政府が企業名を隠して提供した資料を基に、昨年、元・下請け合算で最も多くの災害死亡者が発生した企業を現代産業開発と「推定」しているだけだ。昨年9月に大田の現代プレミアムアウトレットで発生した火災で、7人の労働者が亡くなっている。
労働部は、国会・環境労働委員会委員の「共に民主党」イ・スジン議員の労災事故死亡資料の提出要求に、先月22日、企業のイニシャルだけを表記した災害状況を提供した。下請け労働者の死を元請けの災害として含めてもいない資料だった。イ・スジン議員室の繰り返しの資料要求に、最終的に二人以上の死亡事故発生企業として、元・下請けの災害を合算して提供したが、元請名はイニシャルだけという状態だった。2021年までは提供していたすべての元・下請けの企業名、災害発生場所、災害報告日は、すべて削除された。
労働部の提出拒否は昨年から始まった。重大災害発生事業場を一部のマスコミがホームページに掲示し、「個人情報侵害、法人の名誉毀損の問題が提起された」という理由で、事故死亡者が二人以上発生した企業(元・下請け)状況だけを提供したのだ。共同キャンペーン団は、当時も事故現場である元請け事業場の住所が漏れていたが、元請け・下請けの被災者数は集計可能だと判断して、最悪の殺人企業選定式を行った。
労働部「捜査資料は公開できない、名誉毀損」
安全団体「公共の利益、国民の知る権利のため」
労働健康連帯のイ・サンユン代表は殺人企業選定式で、「労災死亡多発企業の名簿を公開することは、当然当該企業の名誉を傷つけることだが、これは公共の利害に関連する事項」とし、「その目的はもっぱら公共の利益のためで、名誉毀損には該当しない」と指摘した。イ・サンユン代表は「政府は企業の名誉と企業経営責任者の防御権よりも、国民の知る権利を保障せよ」と主張した。
労働部は昨年から資料不完全提出の根拠として、「重大災害処罰などに関する法律」(重大災害処罰法)の制定・施行を挙げている。公共機関の情報公開法9条によって「重大災害の調査は、起訴と裁判に繋がる捜査活動であり、非公開の理由」ということだ。労働部は「(重大災害の)確定判決の前に重大災害の発生状況を公開すれば、被疑事実の公表に当たる可能性がある」と説明した。事業場の名称・災害発生日・犯罪場所・犯罪事実などは、各々被疑者の氏名・犯罪時期・犯罪場所・犯罪事実での被疑事実と見るべきだという趣旨だ。労働部は、全資料を公開するには、国会・環境労働委員会の議決がなければならないという原則も提示した。
正義党のカン・ウンミ議員は「労働部が重大災害が発生した企業名を提出せず、殺人企業の選定は失敗に終わった」とし、「労働部が重大災害予防のための役割をするのではなく、重大災害企業への手加減行政をしている」と批判した。「共に民主党」のイ・スジン議員は「労働者の生命と安全のために、もう少し細かい産業安全保健に対する規制だけが、労働安全後進国という不名誉から抜け出させる」とし、「与野党が一緒に、正しい重大災害処罰法の改正をすべきだ」と強調した。
殺人企業選定式の特別賞に「尹錫悦大統領」
重大災害処罰法への否定的な発言が続き・・・「週69時間制で長時間労働を推進」
『2023年最悪の殺人企業選定式』の特別賞は、尹錫悦大統領に贈られた。重大災害処罰法の趣旨を壊しているというのが理由だ。
最近、週最長69時間労働ができるようにした勤労時間制の改編案を推進し、労働者を過労に追い込んでいるということも、特別賞選定の背景になった。
尹錫悦大統領は重大災害処罰法に対する否定的な認識を何度も表明した。大統領は昨年7月、法務部の業務報告で「企業活動を萎縮させる過度な刑罰規定を改善せよ」と話したが、重大災害処罰法の処罰を緩和すべきだという意味だと解説された。その年の12月の経済五団体との非公開晩餐会では、重大災害処罰法を巡って「法自体に欠陥が多い」とし、「行政府でできる措置をし、企業の被害を最小化する」とも話した。
2020年10月、クパンの漆谷物流センターで長時間労働をして過労死した故・チャン・ドクジュンさんの母親のパク・ミスクさんは、27日、最悪の殺人企業選定式を訪ねて「息子の死に対して誰一人責任を負う人がいない。」「労働者が過労にならず、健康に暮らせる労働時間と環境を作って欲しい」と訴えた。発言中に数回涙ぐんだ彼女は「27歳の青年だった息子の時間が止まり、2年6ヶ月が過ぎた。」「ご飯を食べることも寝ることも、薬に頼り、酒に頼らなければできない。二度と息子のような死が、私たち家族のような苦痛が繰り返されないことを切に願う」と付け加えた。
泰安火力発電所で落炭を片付ける作業中に亡くなった故・キム・ヨンギュン労働者の母親キム・ミスクさんも「事故が起きて4年が過ぎたが、ヨンギュンの裁判は未だに進行中だ。」「2月9日の控訴審で、処罰されるべき元請けの社長と法人に、無罪判決を行った裁判所は、(労働者)殺しを許可した共犯だ」と強調した。
参加者たちは記者会見文で、「重大災害処罰法が無力化され、市民は労働者を死亡させた企業の名前さえ知ることができない。」「この一年間に尹錫悦政府が台無しにした大韓民国の労働者の現実だ。殺人企業を庇護する大統領は、労働者殺しの犯人」と批判した。
2023年4月28日 毎日労働ニュース カン・イェスル記者
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