COVID-19と安全衛生・労災補償⑬(2021年9月3日)/請求1.7万、認定1.2万件突破、ビデオシリーズ、開示資料等公表-厚生労働省交渉でも取り上げる
労災保険
厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症に係る労災請求件数等の状況について、8月号で紹介した6月25日現在の6月30日公表以降、7月2日、7月9日、7月16日、7月21日、7月30日、8月6日、8月13日、8月20日、8月27日現在の9月2日公表と、1週間ごとの情報更新を継続している。昨年4月30日現在の公表以来、162回の情報公表となる(図1参照)。
請求件数は、2019年度-昨年3月の請求1件からはじまり(表2)、昨年7月13日に500件を突破した後、9月2日に1,000件、2021年2月19日に5,000件、4月23日に10,000件、5月14日に11,000件、6月4日12,000件、6月18日に13,000件、7月2日に14,000件、7月16日15,000件、8月6日に16,000件突破と増加し続け、8月27日現在16,969件となった。図1・表2でわかるように、今年に入ってからの急増ぶりが著しい。
8月号で紹介した6月25日現在の13,886件と比較すると22.2%の大幅増加である。業種別では、医療従事者等が10,682件から12,591件へと17.9%の増加、医療従事者等以1外が3,186件から4,349件へと36.5%の増加となっている。
認定(支給決定)件数は、昨年5月14日に最初の2件が現われ、8月31日に500件を突破、11月12日に1,000件、4月23日に5,000件、7月9日に10,000件、7月30日に11,000件、8月13日に12,000件を突破して、8月27日現在12,840件となった。6月25日の9,043件と比較すると42.0%増加した。4月は1,403件、5月は1,640件、6月は2,053件、7月は1,679件、8月は27日までで1,360件の認定である。業種別では、6月25日と比較して8月207までで、医療従事者等が7,183件から9,969件へと38.8%の増加、医療従事者等以外が1,845件から2,852件へと54.6%の増加である。
請求件数に対する支給決定件数として計算した「認定率」は、2021年に入ってから請求件数の急増に処理が追いつかずに減少も見えたが、2月19日現在の43.3%以降、ほぼ増加し続けており、8月27日現在75.7%となっている。医療従事者等が79.2%、医療従事者等以外が65.5%という状況である。
不支給決定件数は、昨年10月20日現在で初めて現われ11件だったが、昨2年末(12月28日現在で33件)時点では、すべてが新型コロナウイルス感染症ではなかった事例と確認されている。8月27日現在の不支給決定件数は257件で、医療従事者等の184件は新型コロナウイルス感染症ではなかった事例と考えられるが、医療従事者等以外の73件に新型コロナウイルス感染症であるのに業務上と認められなかったものが含まれるかどうかは不詳である。(支給+不支給)決定件数に対する不支給決定件数の割合は、全体で2.0%、医療従事者等では1.8%、医療従事者等以外では2.5%となっている。全体で決定件数の98.0%は認定(支給決定)されているということになる。
8月27日現在の業種別の状況を表3に示した。
メディアも認定1万件超報道
8月20日付け毎日新聞朝刊大阪版等朝刊は、一面トップで「コロナ労災1万件超、幅広く救済 認定率7割」と報じた。記事では、「労災被害者を支援するNPO法人東京労働安全衛生センターの天野理さんによると、療養が長期化し、病名が追加されたり別の診療科を受診したりしていると、労基署が『調査のため』」として数か月にわたり給付を停止したケースがあったという。天野さんは『安易に支給を停止せず、安心して療養できるように運用してほしい』と指摘。労災認定された業種が偏っていることを踏まえ『労働者や事業者も制度の理解が不十分であったり、労基署ごとに運輸尾にばらつきがあったりする。積極的な制度周知が欠かせない』と訴える。」とされている。
地方公務員災害補償
地方公務員災害補償基金による地方公務員災害補償の状況の公表は、8月号で紹介した5月31日現在の6月7日公表の後、6月30日、7月31日現在の8月13日公表と、2回更新された。月1回の更新である。
最大の特徴は、いまだに公務外認定がゼロのまま-決定件数に対する認定件数としての認定率が100%を維持していることである。
請求件数に対する認定件数としての認定率は、全体で81.3%(表4)。義務教育学校教員の初めての認定事例が6月30日現在、調理員が7月31日現在で初めて現われている。調査中は、警察官55件、看護師47件、それ以外が35件である。
7月31日現在の職種別状況を表4に示す。
国家公務員災害補償
人事院がウエブサイトの「新型コロナウイルス感染症」ページで「一般職の国家公務員に係る新型コロナウイルス感染症に関する報告件数及び認定件数」を公表していることがわかった。
確認できたのは、3月31日現在、5月31日現在、6月30日、7月31日現在が8月30日に公表された。
報告件数は45件→46件→57件→57件、認定件数は32件→346件→42件→44件、と推移しており、公務外認定はゼロ。
7月31日現在の職種別状況を表5に示す。
ビデオシリーズの公開等
全国安全センターでは、東京労働安全衛生センターの天野理さんを講師に、「新型コロナウイルス感染症と労災」について解説するビデオシリーズを企画し、7月9日以降、ウエブサイト上とYouTubeで順次、公開している。公開済みの内容とYouTubeのURLは以下のとおりである。
7月31日には、神奈川県医療ソーシャルワーカー協会と神奈川労災職業病センターの共催により、天野さんを講師に、学習会「新型コロナ感染症の労災認定について~労災申請、認定基準、注意点など~」が開催された。神奈川では「神奈川モデル」と言われる新型コロナウイルス感染症対策の医療提供体制が実施されており、各区分の医療機関で実際に患者・家族に対応している医療ソーシャルワーカーの経験は、安全センター・スタッフにとっても示唆に富むものだった。
情報公開等による独自情報
ビデオシリーズや学習会の基礎になっているのは、公開されている情報とともに、情報公開等を活用して、全国安全センターが独自に入手した情報である。すでに以下の情報をウエブサイトに公開しているほか、新たに開示された情報も整理中であり、また、後述の厚生労働省交渉後に、2021年5月11日付け職業病認定対策室長名事務連絡によって認定実務要領が改定されているとの連絡があり、開示請求をしているところである。
・情報公開で明らかになった「新型コロナウイルス感染症の労災保険給付請求に係る調査等に当たっての留意点」/「調査要領」(2020年5月1日付け業病認定対策室長補佐事務連絡)
・情情報公開で明らかになった「『新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて』に関するQ&A」(2020年5月22日版 職業病認定対策室)
・情情報公開で明らかになった「新型コロナウイルス感染症疑い(PCR検査陰性)事案の当面の取扱いについて」(2020年10月20日 職業病認定対策室)
全国安全センターの厚生労働省交渉
7月20日に全国安全センターの厚生労働省交渉が行われ、新型コロナウイルス感染症の労災補償問題も取り上げられた。要望事項と事前文書回答の内容を紹介しておくが、交渉における具体的なやりとりは、https://joshrc.net/archives/10530に近く紹介する予定なので、参照していただきたい。
【要望①】 新型コロナウイルス感染症の継続する症状について、医学的研究が途上である現状を踏まえると、「治癒」「症状固定」に関する調査のため休業補償給付等の支給を停止する判断は極めて慎重に行うべきである。少なくとも、退院後も継続する症状で療養している場合には、退院して数か月のうちに支給停止する対応は、打ち切りを急ごうとする不当な対応である。支給を停止された被災者は生活に困窮し、「なんのための労災保険制度なのか」との声も被災者から上がっている。継続する症状について労災を積極的に適用する方針を示すこと。
【回答①】 一般に、業務により新型コロナウイルスに感染し、症状が長期にわたり継続している場合についても、当該症状が新型コロナウイルス感染症によるものであり療養や休業が必要であれば、保険給付の対象となります。
一方で、労災の休業補償給付等は、請求ごとに支給の可否を判断する必要があるため、既に業務上と認められた傷病でも、改めて請求対象期間についての支給の可否に係る判断を必要とし、事案によっては支給決定までに時間を要することがあります。
被災労働者の救済のため、迅速、公正な労災保険給付に努めてまいります。
【要望②】 新型コロナウイルス感染症の継続する症状の一つとして、精神障害の発症が指摘されている。そうした症状への対応として、一律に労災認定基準の心理的負荷表をあてはめるのは適切ではない。そのようなあてはめ方では、感染前に職場での長時間労働やクラスター対応にあたったなどの事情が無い被災者の精神症状について、労災補償の対象から外されてしまう危険がある。継続する症状としての精神障害について、労災を積極的に適用する方針を示すこと。
【回答②】 精神障害の労災認定基準においては、発病前おおむね6か月間の心理的負荷を評価することとしており、新型コロナウイルス感染症で労災認定を受けた方が精神障害を発病した場合についても、認定基準により判断することとなります。
被災労働者の療養経過等は事案によって様々であり、請求内容ごとに、主治医等に医学的意見を聞いた上で、適切に判断してまいります。
※2020年度の新型コロナウイルス感染症に関連する精神障害の認定件数は7件。
【要望③】 新型コロナウイルス感染症に感染し、入院せずに自宅療養や宿泊療養になった方が休業補償給付の請求を行う場合、休業期間について診療担当者の証明を得られないことがある。その場合労基署では、保健所の就業制限期間証明書によって確認を行っていると聞いている。被災者が請求を諦めてしまうことがないよう、診療担当者の証明を得られなくとも上記のような方法で休業補償の申請が可能である旨を、厚労省ホームページのQ&A(労働者の方向け)に掲載するなど周知すること。
【回答③】 1 御指摘のとおり、療養期間中において、一度も医療機関に受診していない場合、医師が休業期間を証明することができない場合には、休業(補償)等給付支給請求書に保健所で発行される就業制限通知書等を添付していただくことで差し支えないこととする取扱いを行っています。
2 ただし、原則としては、コロナ禍の状況にあっても、従来どおり、医師の証明が必要であることに変わりはないことから、この点に誤解が生じないよう、今後、厚生労働省ホームページへの掲載内容を検討してまいります。
【要望④】 中皮腫、肺がん、じん肺症で労災認定されている被災者が新型コロナウイルス感染症に罹患し、死亡した場合は遺族補償給付を支給すること
【回答④】 1 中皮腫、肺がん、じん肺症で労災認定された方が、死亡された場合、新型コロナウイルス感染症に限らず、当該死亡原因と労災傷病との医学的因果関係について、死亡に至るまでの治療の経過等を十分に検討した上で、慎重に判断しているところです。
2 引き続き、迅速かつ適正な労災認定に努めてまいります。
東京都モニタリング会議資料
東京都の新型コロナウイルス感染症モニタリング会議が、2020年7/28~8/3の週以降、週単位の「濃厚接触者における感染経路」別割合がわかる資料の公表を継続している。
「濃厚接触者」は「接触歴等判明者」のことで、別の資料から日毎の新規陽性者数、接触歴等判明者数、接触歴等不明者数が得られるので、1週間ごとの接触歴等判明者数に割合を掛けて当該感染経路による感染者数の実数を求め、1週間ごとの新規陽性者数に対する割合を計算することができる。この結果を示したのが図3である。
新規陽性者のうち「職場」を感染経路とする者の割合は3.7%~11.3%、2020年7月28日から2021年8月30日までの全期間では5.2%となった。
ちなみに感染経路判明者に対する割合では13.2%である。新規陽性者のうち感染経路が判明した者の割合は、2021年2~3月に50%を超えていたのが最高で、その後は減少傾向にあり、全期間では39.8%という状況である。
感染経路が「職場」ではなく、「施設」等他の区分に区分されている中にも、労働者として業務上感染したものが含まれていることは確実である。接触歴等不明も含めて、労災保険の支給決定(業務上認定)や公務員災害補償基金の公務上認定の対象になり得る者が含まれていることにも留意する必要がある。いずれにしろ、貴重な情報であろう。
8月30日現在における日本全国の累計感染者数は1,454,364人であり、この5.2%は75,627人に相当する。対して労災保険請求件数16,969件(8月27日現在)、地方公務員災害補償基金の請求件数731件(7月31日現在)、一般職国家公務員の報告件数57件(7月31日現在)で、合わせても17,757人で、1,454,364人の1.2%に相当するだけである。
いずれにせよ、本来は労災補償を受けられるべき者から請求がなされているとは到底言い難い状況であると考えている。
安全センター情報2021年10月号