職業病(労災)としての新型コロナウイルス感染症(COVID-19) どこまで把握・補償されているのか?

新型コロナウイルス感染症(COVD-19)のパンデミックが始まって以来、国際労働機関(ILO)や世界の労働組合・労働安全衛生団体らは、COVD-19自体を含めた労働者の安全・健康に対する悪影響を防止するとともに、引き起こされてしまった労働災害・職業病が業務によるものとして正当に扱われることを求めてきた(2020年6月号、7月号参照)。

日本の労災請求・認定、少ない?

日本では、2020年4月27日の全国労働安全衛生センター連絡会議の緊急要請の後、厚生労働省は、4月28日に労災認定の取り扱いを一定緩和する新通達を発出するとともにウエブサイト上で情報提供するようになり、労災請求件数は4月30日現在の4件から12月4日現在2,214件まで増加、初の労災認定は5月15日に発表されたが12月4日現在1,200件となっている(棄却は31件で決定全体の2.5%)。12月4日時点の累積感染者数155.232人と比較すると、請求件数で1.4%と認定件数で0.8%に相当する(別に地方公務員災害補償の請求145件と認定92件(棄却は0件)が明らかにされている)。

この数字をどう評価すればよいだろうか?

職業病として認定されるべきCOVID-19がどれくらいなのか、推定したものは見当たらない。本誌は、東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議で毎週提供されるようになったデータ等をもとに、7月28日以降の新規陽性者数に占める「濃厚接触者(接触歴等判明者)で感染経路が『職場』」であるものの割合が約6.5%であることを示してきた。加えて、感染経路が「施設」等に区分された者の中にも労働者として業務上感染したものがいることや、「接触歴等不明」の中にも「顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務」に従事していた等から労災認定され得るものがいることは、明らかである。また、業種別や都道府県別の情報から、メディアで報道された大きなクラスター関連で労災請求されていないものが多数あることも、明らかである。したがって、継続して一層の労災請求・認定の促進を呼びかけている。

それでは、海外では職業病としてのCOVID-19がどこまで把握・補償されているのか?入手可能なすべての情報を網羅できているわけではないが、検討してみたい。

初期の労働関連の役割は重要

早くは2020年5月19日に、ハーバード大学の研究者らによって、「アジア6か国における労働関連COVID-19の感染:フォローアップスタディ」が発表されている。以下はその抄録である。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0233588

目的:現出しつつあるコロナウイルス・パンデミックにおける労働関連感染の証拠は限られている。初期の2019年コロナウイルス感染症(COVID-19)地域感染について、ハイリスクな職業を確認することを目的とした。

方法:本観察研究でわれわれは、香港、日本、シンガポール、台湾、タイ及びベトナムにおける政府の調査報告から確認されたCOVID-19症例を抽出した。各国/地域について、地元で最初に感染した症例から40日間フォローし、輸入された症例[海外感染事例]は除外した。労働を理由とした他の確認された症例との濃厚接触の証拠がある労働者、または接触歴はわからないが労働環境のなかで感染した可能性のある者(例えば、空港タクシー運転手)として、労働関連の可能性のある症例を定義した。各職業について症例数を計算するとともに、労働関連の可能性のある全症例及び医療労働者の症例の時間的分布を示した。時間的分布はさらに、初期アウトブレイク(最初の10日間)及び後期アウトブレイク(11日目から40日目)と定義された。

結果:690件の地域感染症例中、103件の労働関連の可能性のある症例を確認した(14.9%)。症例が多かった5つの職業グループは、医療労働者(22%)、運転手・運輸労働者(18%)、サービス・販売労働者(18%)、清掃・家事労働者(9%)及び公共安全労働者(7%)だった。労働関連感染の可能性が、初期アウトブレイクにおいて重要な役割を果たした(初期症例の47.7%)。リスクのある職業は、初期アウトブレイク(圧倒的にサービス・販売労働者、運転手、建設労働者及び宗教専門職)から、後期アウトブレイク(主に医療労働者、運転手、清掃・家事労働者、警察官及び宗教専門職)まで、さまざまであった。

結論:初期のCOVID-19アウトブレイクにおいて労働関連感染は重要であったし、感染リスクの上昇は医療労働者に限られるものではなかった。ハイリスクな労働人口に対する予防/監視戦略の実施が正当化される。」

日本のデータは厚生労働省発表資料に拠っており、最初の感染症例から40日間に確認された総感染者数が405件で、そのうち表1のとおり、労働関連の可能性のある症例が35件、8.6%であった。

論文では、日本だけが他の国・地域と報告システムが異なり、都道府県ごとの報告で、標準化された職業分類その他の接触歴のデータがそろえられていないことが指摘された。

イタリアの労災請求は約20%

欧州諸国の労災保険実施機関のネットワークであるEurogipが2020年8月のニューズレターで、「ベルギー:COVID-19被災者の補償」(8月11日現在で6,046件の労災補償請求登録、同時点の累積感染者数74.620人の8.1%に相当)、「イタリア:51,000件をこす労働におけるコロナウイルス感染」(7月31日現在、累積感染者数247,158人の20.6%に相当)を報じ、これらの内容は2020年11月号で紹介した。他の国も含めたさらなる情報の提供・更新が期待されるのだが、これまでのところ見られない。

9月23日にイタリア労全国災保険機関(INAIL)の研究者らによる、「イタリアのCOVID-19パンデミックにおける職業要因:補償請求は職業監視システムの確立を支援」が出版された。以下は抄録。
https://oem.bmj.com/content/77/12/818

はじめに:SARS-CoV-2パンデミックは労働衛生にとって影響力のある課題である。COVID-19の疫学調査には総症例数及び死亡の系統的な追跡及び報告が含まれているが、労働安全衛生に対する利益にも関わらず、COVID-19パンデミックに係る職業リスク要因を確認するための監視システムの適切な経験は欠いている。

方法:感染の職業リスクを推計するために、3つのパラメーター-曝露の可能性、近接指数及び凝集因子に基づいて、各経済部門を低、中低、中高及び高リスクに分類する方法論的アプローチを実施した。さらに、エピデミックの緊急期間中にイタリアの労災保険機関は、労働災害としてのCOVID-19労働関連感染の表記を導入するとともに、国の領域全体から労働者の労災補償請求を収集した。

結果:労災補償請求によれば、イタリアにおけるCOVID-19感染は、全症例の大きな割合(19.4%)が職場で生じたものだった。関与する経済部門の分布は、ロックダウン期間中にリスクがあると分類された活動と一致していた。もっとも関係した経済部門は医療・社会福祉活動だったが、食肉・家禽加工工場労働者、店員、郵便労働者、薬剤師や清掃労働者の事例も含んでいた。

結論:保険システムの有効性を支援するとともに、ワクチン方針を管理する、職業感染リスク予防のための、感染がとらえられた状況の個別既往分析を含む、COVID-19症例の職業監視システムに向けて進む必要がある。」

論文によれば、2020年5月15日現在でイタリアの国のデータは、合計223,885件の感染者(死亡31,610件)を報告。同じ日付けで43,399件のCOVID-19職業感染症例がINAILに登録されていた(累積感染者数の19.4%、労働年齢の感染者数の約30%)。診断時の平均年齢は男女とも47歳で等しかった。29,320件については曝露した経済部門が報告されており、医療・社会福祉活動が71.6%、行政・防衛・強制的社会保障が10.4%、その他18%であった。

過少報告の改善が課題

11月号では、イギリスからの9月下旬の情報として「何千件もの労働COVID-19症例が報告されていない」と批判されていることも紹介した。これは、マンチェスター大学名誉教授による「COVID-19:労働者の死亡と疾病を精査する法定手段」という論文(https://academic.oup.com/occmed/article/70/7/515/5909155)を紹介したもので、日本の労働者死傷病報告に当たるようなRIDDOR(障害・疾病・危険事象報告規則)のあり方を批判したものだったが、8月8日までに8,090件の労働関連COVID-19症例が安全衛生庁(HSE)に報告されているとのことで、同時点の累積感染者数310,696人の2.6%に相当した。

HSEは、そのRIDDOR報告に基づき、「管理報告:コロナウイルス感染症(COVID-19)報告」を随時更新している(https://www.hse.gov.uk/statistics/coronavirus/index.htm)。

過少報告の問題は、ハザーズ・マガジン第151号でもさらに掘り下げられ(https://www.hazards.org/coronavirus/laidbare.htm)、イギリスで毎週公表されている全国COVID-19調査報告(https://www.gov.uk/government/publications/national-covid-19-surveillance-reports)や情報公開で入手した情報から、労働関連クラスターの増加傾向や検査結果が陽性だった者が報告した症状発現前のイベント・行動データから「労働または教育イベント」の占める割合が高いことなども示されている。

イギリスの例を挙げたが、各国で労働組合や労働安全衛生団体等が過少報告・認定の改善を求めている。

8月11日には、欧州疾病予防管理センターが「欧州連合/欧州経済領域(EU/EEA)及びイギリスの職業環境におけるCOVID-19クラスター及びアウトブレイク」を出版した。これは、職業環境/リスク要因の寄与の程度を分析したものではないが、具体的な状況がよく示されており、1・2月号で紹介した。これは、「職業環境におけるクラスターの数はおそらく著しく過少確認されて」いると指摘している。
https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/covid-19-clusters-and-outbreaks-occupational-settings-eueea-and-uk

一波と二波で高リスク職業異なる?

11月3日にノルウェー公衆衛生研究所の研究者らによる、「感染の第一波及び第二波におけるCOVID-19の職業リスク」が出版されている。以下はその抄録である。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.10.29.20220426v1

目的:ノルウェーにおける感染の第一波及び第二波にについて、一般的に他者との緊密な接触を意味する職業の労働者がSARS-CoV-2感染(CO VID-19)及び関連する入院のリスクが高いかどうかを検討する。

方法:年齢20~70歳の2020年1月1日におけるノルウェーの3,553,407人(平均[SD]年齢44.1[14.3]歳、男性51%)で、年齢、性及び出生国について調整したロジスティック回帰を用いて、年齢20~70歳の者全員と比較して、生徒/学生/患者/顧客と接触する職業、(標準職業分類[ISCO-08コード]を用いた)の人々が、①COVID-19及び②COVID-19による入院のリスクが高かったかどうか検討した。

結果:労働年齢の全員と比較して、第一波の間に、看護士、医師、歯科医師、理学療法士、バス/トラム・タクシー運転手は、COVID-19のオッズが1.5~3.5倍高かった。エピデミックの第二波では、労働年齢の全員と比較して、バーテンダー、ウエイター、外食産業のカウンター職、タクシー運転手及び旅行添乗員がCOVID-19のオッズが1.5~4倍高かった。教師のCOVID-19のオッズの増加はないか、中程度だった。この疾病による入院についての検討では、職業の、重度のCOVID-19の確率との関連性は限られているかもしれない。

結論:職業の国際標準コードを用いたノルウェーの人口全体を検討したことから、われわれの知見は、国及び地方当局がエピデミックに対処するうえで関連性があるかもしれない。また、われわれの知見は、ロックダウンと疾病管理対策についてのより狙いを定めた今後の研究のための知識の基礎を提供している。」

実際の症例データでリスクを評価

11月18日にはネバダ大学ラスベガス校の研究者により、「職種別リスク要因と症例データの比較によるCOVID-19の異なる職業リスクの推計」が出版されている。以下はその抄録である。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ajim.23199

背景:職業別の2019年コロナウイルス感染症(COVID-19)の疾病負荷はわかっていない。医療労働者のリスクが高いことはよく知られているものの、他の職業についてのデータがない。この代わりに、様々な予測因子を使って職業リスクを予測するモデルが用いられてきたが、これまでのところ実際の症例数によるデータを使ったものはない。本研究は、職業情報ネットワーク(ONET)データベースからの予測因子を使い、COVID-19感染リスクがもっとも高い個々の職業の労働者を確認するためにワシントン州衛生局によって発行された症例数とそれらを関連づけることによって、職業別の異なる職業リスクを評価した。

方法:職業別の異なるCOVID-19リスクの潜在的予測要因について、ONETデータベースをスクリーニングした。公的な情報源から、職業別に記述された症例数を入手した。職業別の割を推計するとともに、もっともリスクの高い個々の職業を予測するための回帰モデルを構築するために、ONETデータと関連づけた。

結果:2つの変数が症例率と相関した。疾病曝露(r=0.66;p=0.001)と物理的近接(r=0.64;p=0.002)であり、多住専形回帰分析で症例率分散の47.5%を予測した。最もリスクの高い職業は医療関係のもので、とりわけ歯科だったが、医療関係以外の多くの職業も影響を受けやすかった。

結論:COVID-19の影響を受けやすい労働者を確認するためにモデルを用いることはできるが、方法論的限界のために予測は加減される。COVID-19との闘いにおいて職業別の介入の実施を適切に手引きするためには、多くの州をまたがった包括的データが収集されなければならない。」

この論文によると、アメリカで公表された職業別の感染症数の統計は、ワシントン州衛生局によって2020年6月に出版され、7月に更新されたものだけ。2020年7月16日までに確認された26,799件の症例が報告され、職業データがあるものは10,850件(41%)で、内訳は、医療従事者・技術者1,208件、運輸・物品移動1,096件、医療支援者989件、生産職964件等。労働者10万人当たり症例数では、農林水産業3,330.3件、個人介護・サービス773件、医療従事者・技術者704件、医療支援者686件、建設・道路清掃・メンテナンス639.1件等とのこと。

ONETデータベースは連邦労働省が提供するもので、900以上の職業についての詳しい職業的情報(様々な質問に対する回答状況)からなる。O*NET調査質問と関連付けた可能性のある予測因子は、他者との接触、窮屈な作業スペース/まずいポジション、典型的な週労働時間、疾病/感染への曝露、対面による議論、物理的近接であった。

感染症だけでない補償対象

11月4日にオーストラリア連邦雇用教育関係省の外局であるセーフワーク・オーストラリアは、2020年7月31日時点における「COVID-19に関連した労災補償請求データ」を公表した。別掲のような4頁のインフォグラフが示されているが、主な状況は以下のとおりとされている。
https://www.safeworkaustralia.gov.au/media-centre/news/workers-compensation-claims-data-related-covid-19-now-available

  • COVID-19に関連した533件の労災補償請求が提出された。
  • 請求の34%はCOVID-19のメンタルヘルス影響に関連したものだった。
  • 提出された労災補償請求の34%は医療・社会福祉業からのものだった。
  • 提出された労災補償請求の17%は行政・保安業からのものだった。
  • 地域・個人サービス労働者の職業の労災補償請求がもっとも多かった。

インフォグラフから以下の点も読み取れる。

  • 533件の請求のうち、253件が認定(47.5%)、95件が却下(17.8%)、185件が調査中(34.7%)。
  • 533件の請求のうち、202件がCOVID-19自体(37.9%)、179件がこのウイルスに関連したメンタルヘルス影響(33.6%)、152件が検査または隔離の要求事項に関連したもの(28.5%)[これも労災補償の対象になり得るということだろう]。
  • 業種別では、医療・社会福祉183件(34.3%)、行政・保安88件(16.5%)、運輸・郵便・倉庫業74件(13.9%)、教育・訓練28件(5.3%)等
  • 職種別では、社会・個人サービス労働者184件(34.5%)、専門労働者141件(26.5%)、事務・管理労働者47件(8.8%)等
  • 地域別ではニューサウスウェールズ州が299件(56.1%)でもっとも多い。
  • 性別では男:女が、COVID-19で49:43、検査・隔離で39:35、メンタルヘルスで44:46.

7月31日現在のオーストラリアの累積感染者数は16,905人で、253人はその1.2%相当だが、検査・隔離179件と合わせた381人だと2.3%相当

被災者の実情-カナダの例

11月23日にカナダ放送協会(CBC)は、「労災補償請求はCOVID-19がカナダの労働者に与えている被害を反映している」と報じた。参考になる点や海外情報に対して注意すべき制度上の相違等もわかると思うので、長くなるが全文を紹介する。
https://www.cbc.ca/news/canada/covid-compensation-wsib-wcb-workers-1.5810305

「ジェフリー・フリードマンは、COVID-19『長距離輸送者[long-hauler]』-ウイルスにより病気になった後なかなか消えない健康状態をかかえた多くのカナダ人のひとりである。彼は、4月初めに病気にかかった後、パンデミックの初期に仕事に就いたことを後悔していると言う。

フリードマンは、トロントの多忙な住宅建築産業にタイルを供給する会社で働いていたが、それはエッセンシャル・サービスとみなされ、他の事業が休業を命じられたにもかかわらずオープンしたままだった。
『私は拘束されていた。しかし、お金を稼ぐ必要と顧客に対する気持ちから、私は出勤を続けて、1日8時間働き続けました』。

CBCニュースがカナダ各州の労災補償評議会に取材して、仕事でCOVID-19に感染した者によって26,000件を超す労災請求がなされていることがわかった。フリードマンは、請求が認められた2万人以上のうちのひとりである[2万/26,000=77.0%。11月23日時点のカナダの累積感染者数は333,808人で、26,000は7.8%、2万は6.0%に相当]。

労災保険請求に関する統計は、どれだけ多くの者がカナダにおいて仕事でCOVID-19に罹患しているかの最初の具体的指標であるが、それは不完全なものでもある。
州及び国による追跡の仕組みのパッチワークのために、仕事中に病気にかかった者の人数を標準的な計算方法は存在していない。
さらに、システムは、[労災認定]不適格またはたんに請求をしていない労働者のCOVID-19事例は捕捉していない。

フリードマンは、4月にCOVID-19の症状が現われて病院に行ったが、そこでは感染が推定されるので、家に帰って隔離しなければならないと言われた。数日後、彼は息をするのが苦しくなり、救急車で病院に駆け込んだ。彼はそこで44日過ごし、感染症と闘うためにほとんど人工呼吸器をつけていた。
『脳に霞がかかっている。ICUから声帯に永久的な損傷があり、33日間チューブにつながれた。首と上腕二頭筋の傷むがずっと続いている』と彼は言う。

現在65歳のフリードマンは、引退と旅行の夢を楽しむどころか、二度と運転できないだろうし、毎日を乗り切るのに苦闘し続けている。
『ICUにいることでお尻に大きな圧迫傷ができ、それは少なくとも座れるところまでよくなったものの、一時に10分しかよく眠れない。それに、だいたい毎日3時までには弱って、疲れてしまう』。

オンタリオの労働安全保険評議会(WSIB)はフリードマンの請求を認め、以降、フリードマンの賃金の損失の補填と傷害に適応させるための浴室の改造を援助することによって、彼とその妻ロリを援助している。

オンタリオとブリティッシュコロンビアでは、大部分の請求が医療施設や農業の労働者によるものであることをデータが示している。しかし、すべての労働者が対象とされているブリティッシュコロンビアと比較して、オンタリオの労働者の4分の1は労災補償制度の対象になっていない。
対象にならないオンタリオの労働者には、民間経営の介護施設や社会援助サービス、技術・銀行部門などの業種の多くの者が含まれている。

『それはまさに、産業の全体の見本だけを切り出して、あなたは対象となる資格がないという補償制度をもつことの不合理さを浮き彫りにしており、彼らが病院に行ったとしてもその請求はWSIBの数には入らないことから、これらの者を追跡するのは困難である』と、トロントの被災労働者地域法律相談所の地域法律相談員デビッド・ニューバリーは言う。

オンタリオでは11月13日までに、医療など第一線産業の数百人を含め、1,425人の請求が棄却されている。

ニューバリーは、棄却された請求は-WSIBが労働者の賃金全額の85%しか払わないという事実ともに-それら労働者はパンデミックの間に経済を動かし続けている『ヒーロー』であるという宣言と合致していないと述べる。
『われわれの第一線労働者がヒーローでいてくれることに感謝するビルボードやバス広告を掲げるのに企業が何百万ドルも使っている一方で-われわれの棚を満たしてくれたり、またはわれわれの祖父母の面倒を見てくれたり、そうした職場で人々が実際に病気になっているときに-彼らが受けているのは…15%の賃金カットなのである』。

ジェニファー・コリンズは、春に29人の入所者が亡くなった大アウトブレイクの現場である、オンタリオ州ボブケイジョンのピンクレスト老人ホームで働いていた。彼女は、適切な個人用保護具を入手することができず、3月にCOVID-19に罹患し、なかなか消えない健康問題をかかえたままだと話した。

コリンズは入院はせず、病気を記録した医療記録の欠如が労災補償請求をだめにした、と彼女は言う。
『WSIBから電話があり、彼らは、COVIDが特別な事例だということに気づいているが、私が話したことを裏づける医療データも記録もなかったから、適格と認められなかったと話した』と、彼女は言う。

コリンズは、まだ倦怠感に苦しんでおり、腰が動くうちに約2ブロック歩けるだけだと言う。『毎日もっと自分をプッシュしようと試してみるが、困難でいつもイライラさせられている』と、彼女は言う。

棄却された後、コリンズは代わりにカナダ緊急事態対応給付の請求を行って、認められた。


オンタリオではこれまでに、看護・在宅看護施設の302人の労働者の請求が棄却された。

結局のところ、仕事で病気になった多くの者は、家で働くという選択肢がなかった人たちである。被災労働者法律相談所のニューバリーは、こうした労働者は労災補償が受けられるということさえ知らなかった-とりわけ言葉や職場の法律に通じていない新たなカナダ人-かもしれないと語る。
『もっとも弱い立場の者は概して、そうしたことが可能であることを知る可能性のもっとも低い人たちである』と、彼は言う。
しかし、請求が認められた者にとっても、闘いが終わったわけではない。

ジェフリー・フリードマンは金曜日に、必要なあらゆる予防措置を講じており、彼が仕事でCOVID-19に罹患したという証拠はないと主張して、彼の使用者が労災補償請求に異議を申し立てているという通知を受けた。
労災補償請求の費用が上がるにつれて、使用者が払わなければならない保険料も上がる。ニューバリーは、制度が使用者に、認定された請求に異議申し立てをするインセンティブを与えていると話す。

『カナダの労災補償制度は民間保険と同じモデルでつくられている』と、彼は言う。
『もし仮に…被災労働者が請求が正当であることの立証に成功するとしても、この手続きには数年かかる場合もあり、本当にストレスになる可能性がある』」。

職場から家庭への感染

11月25日にはトロント大学の研究者による、「産業別のCOVID-19職場アウトブレイクと関連した家庭内感染 カナダ・オンタリオ 2020年1~6月」が出版された。以下はその抄録である。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.11.25.20239038v1

はじめに:操業を続けるために労働者の実際の出勤を必要とする職場は、労働者及びその近親者に影響を与えるSARS-CoV-2アウトブレイクの影響を受けやすいかもしれない。パンデミックの第一波において職場アウトブレイクによる影響を受けた業種、及び、家庭内感染を通じた病気の追加的負荷を理解するために、2020年1月21日から6月30日の間に公衆衛生宣言された職場アウトブレイク、及び、1月21日から7月28日までのそれらに関連した症例を分析した。

方法:アウトブレイクの数、規模及び期間を業種別に示すとともに、アウトブレイク事例を同じ同じ期間における散発事例と比較した。

結果:1,245症例をともなう199件のアウトブレイクがあり、アウトブレイクの68%と症例の80%は、製造業、農林水産狩猟業及び運輸・倉庫業に属していた。アウトブレイクの平均規模は3(幅:1~140)症例で、平均7(幅:0~119)日間続いた。アウトブレイク事例は、男性[アウトブレイク事例で71.7%、散発事例で51.5%]、相対的に若く[平均年齢がアウトブレイク事例で40歳、散発事例で45歳]、また健康的[ハイリスク状態(60歳超、免疫障害、心疾患、COPD)の者の割合がアウトブレイク事例で15.3%、散発事例で28.9%]で、相対的に予後のよい[入院がアウトブレイク事例で4.2%、散発事例で12.3%]可能性が著しく高かった。339件のアウトブレイク症例(31%)に関連して住所が合致した608件の家庭内[感染]症例があり、病気の負荷を56%増大させた。家庭内症例の大部分(368件、60%)はアウトブレイク症例の後に発生した。

結論:職場アウトブレイクは主として3つの業種で発生した。曝露労働者からの感染、職場における拡大、職場外への拡大を予防することによって、COVID-19予防対策はリスクのある業種を対象とすべきである。」

職業病としてのCOVID-19罹患者からの家庭内感染は日本でも労災保険の対象とされていないが、重要な問題である。

職場アウトブレイク関連症例数が1,245件、散発症例数が22,503件で合計23,748件なので、職場アウトブレイク関連症例数の占める割合は5.2%となり、また、職場アウトブレイクに関連した家庭内感染症例608件は全体の2.6%、両方を合わせると1,853件で全体の7.8%となる。

アメリカでは労災棄却に批判

COVID-19のパンデミックに直面したとき、日本を含めいわゆる先進工業国の多くでは、新たな対応をとるまでもなくCOVID-19を職業病として認定・補償することは可能であったが、さらに法令や運用の改正などによって対象の拡大や認定の簡易化・迅速化等を図る措置を講じている。もともとの労災保険制度自体が国によってかなり異なっているのだが、アメリカではそれが不十分かつ州間格差をひろげていることも話題になっている。12月3日のClaims Journalの記事「WCRIの調査はCOVID-19命令は労働人口の小さな部分にしか適用されないことを示す」は次のように書いている。
https://www.claimsjournal.com/news/national/2020/12/03/300755.htm

少なくとも17州が、COVID-19に罹患した労働者の労災補償へのアクセスを拡大する法律を通過させるか、または命令を発行しているにもかかわらず、これらの指令の多くは労働人口のわずかな部分にしか新たな曝露を生み出していないことを、労災保険研究所(WCRI)の新たな調査が示している。

WRCIは、パンデミックに対応してアラスカ、アーカンソー、インディアナ、ケンタッキー、ミネソタ及びミズーリが採用した政策を調査した。研究者らは、6州のうちで最大の拡張-ケンタッキー州知事アンディ・ベシアによる執行命令-でも、曝露リスクを考慮に入れて調整すると、州の労働者の約4%についてしか追加的請求曝露を生み出していないことを見出した。他の州では、2.8%のミネソタと0.8%のミズーリを除き、3%超だが4%未満の労働者にしか曝露を拡大していなかった。」

11月号でも紹介しているように、棄却の多さを非難する声も多い。 例えば以下は、12月3日のWorkers Compensa-tion.comの記事「COVIDと労災補償…われわれはどこにいるか?」である。
https://www.workerscompensation.com/news_read.php?id=37487

「…カリフォルニア-CWCI[カリフォルニア労災保険研究所]のCOVID及び関連情報の報告はタイムリー、しっかりしていて、アクセスしやすい[https://www.cwci.org/CV19claims.html]。11月30日現在で56,854件の請求が報告されている。約19,000件が医療労働者で、7,700件は公共安全業務で罹患した政府職員である。…
評価が済んだ請求の68.1%が認定されている。この率はほとんどの他の州におけるよりも高い。…

ニューヨーク-10月8日現在で12,000件をこすCO VID関連請求がなされており、圧倒的多数が調査中である。現在までのところ、約8.000件の請求は[労働]時間を損失したもので、184件が補償給付を受けており、他に5.000件の請求者は保険会社/使用者による「自主的」な賃金代替払いを受けている。
約1,230件が当初棄却され…ここでも約4分の3が調査中である。

ハワイ-国の反対側では、10月31日までにハワイで約400件の請求がなされただけである。約半数が当初棄却され、ほとんどがなお検討中である。驚くことではないが、多数(166件)は医療・社会福祉労働者からのものであった。

フロリダ-10月31日現在、この陽光の州は23,000件のCOVID関連[労働]時間損失請求を認定または棄却し、13,000件が補償の資格ありと認定され、残りは棄却された。…

ペンシルバニア-ペンシルバニアでは、11月29日現在で9,510件のCOVID関連請求があるが、認定等に関する情報はない。

テキサス-国境地帯の友人が、9月27日現在で25,571件の請求-圧倒的多数は棄却されたか、またはなお調査中であると報告している。他の州と同様に、テキサスのデータは、4月に最初のピークとその後7月にそれよりも多いピークを示している。過去2か月についてのデータはない。…

他にもCOVID請求について報告している州が多数あり、2020年当初の状況からは大きな改善である。しかし、用いられている基準の違い、期間の違い、提供される請求のタイプやデータの違いが、どれだけの請求が報告、認定及び棄却されたのか、医療のみと[労働]時間損失の比はどれくらいか、どれくらい費用がかかっているか、明確な状況を知るのを困難にしている。

筆者の考えは以下のとおりである。

  1. 最良の推測として、10月31日までに[全米で]20万件から30万件のCOVID請求がなされている[同時点のアメリカの累積感染者数9,004.255人の2.2~3.3%に相当]。
  2. 約3分の1がすでに認定されているか、認定されるように思われる。
  3. 給付額はかなり低い-この見方は進行中の請求に関するわずかなデータに基づいたものではあるが-他の補償給付と比較して著しく低い。」

COVID-19の長期影響

アメリカのある保険会社の「医療従事者が知っている必要のある労災補償請求に対するCOVID-19の3つの長期影響」は、参考になりそうだ。
https://viewpoint.libertymutualgroup.com/article/3-impacts-of-long-term-covid-19-on-wc-claims-for-healthcare-employers/

「長期間にわたって軽度から中等度の症状を経験する患者の数が増えていることが明らかになっており…『長期COVID』または『長期輸送(long hauler)』患者と呼ばれるようになっている」。

① COVID-19請求はユニークである可能性が高く、単純ではない。
…米医師会誌によれば:
・ COVID患者のおよそ10%が長期の症状を経験する
・ 症状が軽度の者であってさえも、33%超が検査陽性後2~3週間では完全に回復しない
・ ある調査では、87%が少なくともひとつの症状の持続を報告している…

② 影響の全体が後までわからないために、COVID-19請求は長引くかもしれない。
…全米労災保険協議会(NCCI)の「2020 State of the Line Guide」によれば、アクティブな請求を容易に長引かせる可能性のあるいくつかの側面がある。この報告は、以下のような、COVID-19請求期間の予測を強調している。
・ 病気の重度が費用に影響するだろう-軽度の症状に対する低コストの治療から、より重い事例の入院及び/または長期リハビリテーションへ
・ 他の非急性症状に対する治療や理学療法の遅れが傷害の遷延につながるかもしれない-請求期間を延ばし、費用に上昇圧力を加える
・ いくらかのCOVID-19請求にはメンタル要素も関わってくるかもしれず、一時的または長期治療が必要になる可能性がある…

③ COVID-19の経験が通常の仕事や配置への復帰に問題を引き起こす。」

※本稿は、安全センター情報2021年3月号のための予定稿であり、発行まで随時情報を更新する予定でいる。
また、全国労働安全衛生センター連絡会議のウエブサイトでは、随時COVID-19関連の最新情報を提供している: