海外における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の労災補償状況/日本の状況は欧米と比較しても十分というにはほど遠い(2020年9月18日)

海外における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の労災補償状況に関する情報はなかなか伝わってこない。

韓国

4月1日に第1号認定があった韓国では、海外出張者の最初の認定と同時に、8月31日までで76人認定との報道があった。

香港

香港では、9月上旬に工業傷亡権益会(ARIAV)が、86件の請求中認定されたのは7件だけとして、日本の状況を紹介しながら、改善を求めている。

ベルギー

ベルギーでは、特別王令を発出して一定期間中発症事例の認定を簡素化したようだが、以下のような情報が伝わっている。

「新型コロナウイルスに感染するリスクが著しく高い医療部門の労働者や生徒・実習生は職業病の資格がある。もちろん、感染がリスクのある作業活動と医学的に関連している必要がある。

こうした労働者は(8月11日現在で)FEDRIS[連邦職業リスク機関]に対して6,046件の症例を報告し、その68.8%は民間部門からのものである。10件のうちの8件以上(84%)が女性に関するものである。40~45歳のグループが若干相対的に影響が大きい。

8月11日現在、医療部門のこれら労働者について、2,840件のPMに労災補償請求が登録された。すでに決定がなされた637件のうち、59件が請求を却下され、452件が一定期間-2~4週間(全体の68%)、4~6週間(15%)及び6週間超(17%)-の一次的労働不能と認定された。他の症例は現在当局によって検討されているところである。一般臨床医や理学療法士、訪問看護師等を含め、自営業者は労災補償登録の対象に入っておらず、それゆえCOVID-19の事例についてこの見出しのもとで補償を受けることができない。

2020年3月18日から5月17日を含んで働いた重要部門と必須部門(包括的法的リスト)の労働者もCOVID-19の症例について補償の資格があるが、いわゆる『オープン・システム』[リストに具体的に列挙されていない職業病に対する包括的救済制度]のもとにおいてである。このグループでは、被害者が死亡した後の2件を含め、34件の補償請求が登録されている。」

ベルギーの人口は日本の約9%で、COVID-19発症例は日本の約1.25倍。

イタリア

イタリアでは、8月上旬に「労働における51,000件を超すコロナウイルス感染」という情報があった。

「INAIL[全国労働災害保険機関]の第7回全国報告書によれば、7月31日現在で、51,363件の職場でコロナウイルスに感染した事例が同機関に報告されている。これはひと月に1,377件の増加を示している。死亡事例(276件)は報告された全死亡件数の約3分の1を占める。それらは主として、男性(83.3%)、50~64歳(69.9%)及び65歳以上(20%)に関するものである。感染についてはこの比率は変わって、女性がもっとも影響を受けており、事例の71.4%である。

報告された感染の約72%及び死亡事例の23.4%は医療・福祉部門(病院、休養・老人ホーム、研究所、診療所、大学病院、高齢者・障がい者ホーム)で記録されたものである。公共医療機関と合わせて、医療部門は、感染の80.6%及び死亡の33.7%を占めている。こうした感染者の83%以上が看護士である。」

INAILは労災保険機関であるが、補償情報は含まれていない。

イタリアの人口は日本の約半分で、COVID-19発症例は日本の4倍近い。

イギリス

9月下旬にイギリスから「何千件ものCOVID-19事例が報告されていない」という情報。

「新しい研究によれば、使用者が労働関連COVID-19をいつ報告すべきか示した安全衛生庁(HSE)のガイドラインが『数千件』の事例を見落としているかもしれず、拡張されるべきである。マンチェスター大学労働環境衛生センターのレイモンド・アギウス教授は、使用者が労働関連CO VID-19感染、死亡または危険事象を報告しなければならない場合を示した、RIDDOR[障害・疾病・危険事象規則報告、2018年8月号参照]規則のもとでの報告要求事項に関するガイドラインを評価した。臨床医は、COVID-19が2つのシナリオから生じた可能性を評価するよう尋ねられる。ひとつは、現行のガイダンスのもとで危険事象としてHSEに報告可できるということで、もうひとつは、報告できないということである。臨床医は、報告できないシナリオを、COVID-19の労働関連感染をもたらす可能性が高いものを報告できないシナリオにランク付けした。アギウスは、HSEのガイダンスが、感染していることが知られている者の対極にある者としての一般の人々と関わりをもって労働者が働く職業からの報告を除外していることから、リスクが高い職業に関する全国統計事務所(ONS)のデータと一致していないことを見出した。同教授はまた、検視官の作業に委ねられるべきCOVID-19死亡を医師が報告しなければならない場合に関するガイダンスも評価した。労働医学ジャーナルに報告した発見のなかで同教授は、それがすべての種類の雇用からの届出を許していることから、検視官に事例を報告する閾値は、HSEのガイダンスよりもはるかに低いと結論づけた。検視官ガイダンスは、様々な職業についていかにリスクが高いかを示した、ONSによるデータともよりよく合致している。『HSEによる現在のRIDDORコロナウイルス・ガイダンスは摘要するのが難しい。入手可能な証拠は、それが何千件もの労働関連COVID-19罹患事例と数百件の死亡を補足するのに失敗しているかもしれないことを示唆している。したがって、HSEは、将来の疾病や死亡を予防するための助言につながる可能性のある調査のための貴重な機会を失っている』。アギウス教授は、『HSEのCOVID-19に関連したRIDDORについてのガイダンスは改正すれば、明瞭さと活用のしやすさの改善と、一般の人々と関りをもつはばひろい職業からの積極的な報告を許すうえで有益だろう』と述べた。彼は、報告を調査するためにHSEは、その監督活動を大幅に増やす必要があると、付け加えた。」

レイモンド・アギウス教授の論文によれば、不十分なHSEガイダンスのもとでも、すでに約9千件の労働関連COVID-19事例が報告されている(4月10日から8月8日までに「確実」な疾病7,971件と死亡119件)。

イギリスの人口は日本の約半分、COVID-19は発症例は日本の約5倍。

アメリカ

アメリカでは、9月7日に「COV ID-19の労災補償請求が停滞または拒絶されている」という記事が現われた。


この記事は、大量に拒否されていることを非難するもので、認定された状況にはふれられていないのだが、以下のような状況が紹介されている。

〇マサチューセッツ州
・ 5,030件の報告-労災補償請求の最初のステップ
・ 734件が棄却、69件が係争中
・ 残りの4,227件が認定済みとしたら、認定率は84.0%になる。

〇カリフォルニア州
・ 3万件を超す請求
・ 4分の1近くが棄却
・ 残りの4分の3超は認定されているのかもしれない。

〇フロリダ州
・ 3,807件の請求
・ 1,695件が棄却
・ 仮りの2,112件が認定済みとしたら、認定率55.5%になる。

アメリカの人口は日本の2.5倍以上で、COVID-19は発症例は日本の約9倍。

日本の労災補償状況は、COVID-19発症例がすでに8万件超というなかで、ここで断片的に紹介した欧米の報告・補償状況を考慮しても、妥当というにはほど遠い状況である。

安全センター情報2020年11月号

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