EU/EEA及びイギリスの職業環境におけるCOVID-19クラスター及びアウトブレイク/2020年8月11日 欧州疾病予防管理センター(ECDC)
わが国でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の職場での集団感染(クラスター)は頻繁に報じられているものの、承知している限りでは、その全体状況がわかる情報はみつからない。
国立感染研究所(NIID)はこれまでのところ、「飲み会」、「航空機内での感染が疑われた事例」、「昼カラオケ関連事例」、「病院等」、「クルーズ船(横浜・長崎)」などの集団感染事例の分析結果を公表しているくらいである。
厚生労働省が2020年8月7日に労使団体等に行った「職場における新型コロナウイルス感染症への感染予防、健康管理の強化について」の協力要請に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る職場における集団感染事例」が含められたが、4件の事例が紹介されているだけである。
また、東京都の新型コロナウイルス感染症モニタリング会議で配布される資料「専門家によるモニタリングコメント・意見」には、「新規陽性者数」に関するコメントとしてクラスターの発生状況に関する一定の言及があるが、具体的データは示されていない。他の自治体も含めて同じ程度の言及か、散発的な個別事例に関する情報提供にとどまる。
内閣官房の第12回新型コロナウイルス感染症対策分科会(10月23日開催)に初めて示された「報道等情報をもとに内閣官房新型コロナウイルス感染症対策室において作成」した「(参考)7月以降のクラスター等の発生状況の推移」(別表)は、感染者数に関するデータを欠くが、この表でもすでに「職場」は最大の分類項目であり、他の分類のクラスター等のなかにも労働者として業務上感染した症例が含まれていることも明らかである。
同じ分科会に示された「クラスターの分析に関するヒアリング調査等の結果と今後に向けた検討」でも自治体から、国が収集した情報の還元や比較できるよう国において分析すること等が要望されているが、現状のクラスター分析とその情報提供・活用は明らかに不十分である。職業要因にも注目した体系的分析と情報の提供が求められている。
そのような作業の参考にという意味も込めて、[欧州疾病予防管理センター(ECDC)が2020年8月11日にまとめた「EU/EEA及びイギリスにおけるCOVID-19クラスター及びアウトブレイク」の内容を紹介する。
目次
主なメッセージ
- 欧州連合、欧州経済領域(EU/EEA)及びイギリス(UK)におけるパンデミックの開始以来、様々な職業環境におけるCOVID-19[新型コロナウイルス感染症]のアウトブレイク及びクラスターが報告されている。EU/EEA15か国とイギリスは、2020年3月から7月の間に職業環境で発生した1,376件のCOVID-19クラスターを報告した。
- 物理的に他者(同僚、患者。顧客等)と接触することになる職業の労働者は、とりわけ屋内環境、共用輸送手段または共用宿舎を使って労働する場合には、緩和策がなければCOVID-19により曝露し、より高いリスクにさらされる。
- 報告されたCOVID-19クラスターの大部分は医療部門からであったが、EU/EEA諸国とイギリスでは医療労働者の検査が優先されてきた。食品梱包・加工部門、工場・製造及び事務所環境においても多数のクラスターが報告された。鉱業部門からの報告は相対的に少なかったが、クラスターのいくつかは大規模だった。
- 職業は一般的に社会経済的地位と関連しており、それはまた個々人のCOVI-19のリスクに影響を及ぼす可能性がある。さらに、多くのエッセンシャル部門の労働者は家庭で働くことができず、そのことが一定の職業が他のものよりもCOVID-19感染及び死亡のリスクが相対的に高いことを示してきた理由を説明しているかもしれない。
- 物理的距離置き、衛生・清掃、必要な場合には個人用保護具(PPE)の使用、とりわけ閉鎖された環境のなかや、労働者の他者との接触や輸送手段・宿舎の共有が拡大された場合には手指の衛生、に関する堅固な方針と組み合わせた、労働環境におけるCOVID-19検査に対してより焦点を増大させることが、さらなるCOVID-19アウトブレイクの予防に役立つだろう。
- アウトブレイクがみつかった場合の対処方法の明確なプロトコルとして、堅固な調査と接触の追跡が必要不可欠である。
- EU内では、労働における生物学的因子からの労働者の防護に関する法令を含め、多くの労働安全衛生法令が実施されている。法令は、職場リスクアセスメントにしたがって使用者によって実施されるべき技術的及び組織的諸措置を設定している。EU及び各国レベルで労働者を防護する方法に関する特別なガイダンスが入手可能であり、これにはクラスターが発生した部門や職業が含まれている。
- 地方及び国レベルにおける公衆衛生機関と労働安全衛生機関の間の協力が、コミュニケーション及びEU/EEAとイギリスの職業環境と地域社会におけるCOVID-19の拡大の緩和を助けるだろう。
本文書の範囲
本文書の目的は、医療及び医療以外の環境を含めた職業環境と関連した、EU/EEAとイギリスにおけるCOVID-19のクラスター及びアウトブレイクを説明するとともに、こうした環境での感染に寄与する可能性のある諸要因を確認することである。
娯楽環境(例えば、家庭、ビーチ、パーティ)または大勢の集まりや社会行事(例えば、合唱練習、教会訪問または葬儀)と関連したアウトブレイクまたはクラスターは本文書の対象範囲外である。本報告はすべての職業グループを扱うものではないが、EU/EEA諸国とイギリスから欧州疾病予防管理センター(ECDC)に報告されたCOVID-19クラスター、及びECDCの疫学インテリジェンス[情報収集プログラム]が収集した関連したCOVID-19クラスターを説明する幅広いアプローチをとっている。
本文書は、それがECDCの権能の範囲外であることから、COVID-19感染の管理に関連した、特定の職業についての労働安全衛生対策に関する手引きまたは勧告を提供するものではない。欧州労働安全衛生機関(EU-OSHA)が、様々な部門と職業についての国及び国際的な労働安全衛生手引きにも言及した、COVID-19パンデミックの間の職場に関連した諸問題を具体的に扱った手引きを出版している。
対象読者
本報告の対象読者は、EU/EEA諸国とイギリスの公衆衛生機関である。
背 景
食肉処理場、食肉加工工場、鉱山や建設現場を含め、EU/EEA及びイギリスの内外の様々な職業環境でCOVID-19の複数のアウトブレイクが観察されている。予防または速やかに確認・管理されなければ、特定の職業環境における地域的アウトブレイクがCOVID-19症例の地域的復活につながることになるかもしれない。
効果的な治療法またはワクチンのないことは、感染の指数関数的増大と結びついて、多くのEU/EEA諸国が、多くの職場や公共空間の閉鎖を含め、その他の地域社会及び物理的距離置き措置と同時に、「ステイ・アット・ホーム」政策などの非医薬品介入を実施することにつながった。しかし、EUでは、家庭で行うことができるのは35%の仕事だけと推定されており、一部の職業の者が他の者よりも多くCOVID-19に曝露している可能性がある。
他者を援助・世話する、または一般の人々または顧客と直接接触するなど、緊密な対人関係を必要とする職務の職業で働く者は、COVID-19をとらえるリスクがより大きいと考えられる。さらに、こうした仕事の一部はエッセンシャルとみなされ、提供されるサービスは「ステイ・アット・ホーム」政策が実施されている場合であってさえも確保される必要がある(例えば、医療サービス、食品小売、薬局、輸送、郵便、建設、農業等)。
他者との物理的近接やCOVID-19への曝露の頻度のモデリングやマッピングを用いて、どの職業がCOVID-19のリスクが高いかを判定する努力がなされてきた。各職業部門で報告されたクラスターの発生や、感染に関連する可能性のある諸要因を評価することが、当該部門における感染のリスクに関するさらなる情報を提供することができるかもしれない。この情報は、COVID-19曝露のリスクの高い部門について、公衆・労働安全衛生プロトコルを周知及び強化するために活用することができる。
方法
本報告は、EU/EEAとイギリスの様々な職業環境におけるCOVID-19クラスターの発生、及び、3つの情報源からの情報に基づいた、関連する諸要因について詳述する。
国ベースのデータ収集
2020年7月5日にECDCは、パンデミックの間に発生した職業環境におけるCOVID-19クラスター/アウトブレイクに関する情報を収集するために、EU/EEA諸国とイギリスに対してデータ収集シートを配布した。クラスターに関する以下の情報を収集した:国、地域、職業環境、クラスター確認日、その環境が主に屋内または屋外であったかどうか、確認された症例数、死亡、より広い社会への以降の感染の兆候があったかどうか、及び可能性のある寄与要因である。また、特定の職業環境で6件以上のクラスターが観察された場合には、各国はクラスターに関する凝集データを報告することもできた。凝集情報には、職業環境、観察されたクラスターの数、確認された症例及び死亡の数、可能性のある寄与要因が含まれた。本報告の分析のために、クラスターは少なくとも2つの確認された症例と定義された。
疫学インテリジェンス活動
ECDCの疫学インテリジェンスは、様々なメディアや各国の情報源から毎日の情報を収集・照合し、その後、検証及び分析している。2020年5月1日から7月23日の間に確認されたCOVID-19の関連のある職業クラスター/アウトブレイクを検索して、分析に含めた。また、ニュースやメディアにおける職業関連アウトブレイクの発表を捕捉するために、いくらかの特別検索も行った。
文献レビュー
国ベースのデータ収集及び疫学インテリジェンス活動で確認された、職業環境で発生した可能性のある追加のクラスター/アウトブレイクを確認するために、迅速な文献レビューを実施した。文献レビューの主な焦点は、そうしたクラスター/アウトブレイクに寄与した可能性のある諸要因を確認することだった。検索は2020年7月20日に、ECDCライブラリーによって維持されているCOVID-19EndNoteリファレンス・ライブラリー・データベースで行った。EndNoteライブラリー・データベースは、エピデミックの開始からPubMed内のCOVID-19に関連した新たな出版物を検索するよう設計され、毎日更新されている。雑誌のウエブサイト、COVID-19専門の出版社の新たな出版物についてのポータルや今後の出版物のプレプリントでこれを補足した。題名と抄録を組み合わせた検索ではナチュラル・ボキャブラリー(すなわちキーワード)を用い、切り捨てを適用した。キーワードには、国ベースのデータ収集で確認された職業グループ/部門の各々についての説明用語が含められた。
結 果
国ベースのデータ収集
2020年7月24日までに17か国がECDCのデータ収集調査に応答した。これら諸国のうち、13か国は職業環境における具体的クラスターに関するデータを報告し、3か国は様々な職業環境で発生した確認されたCOVID-19症例に関する凝集データを報告、1か国はそうした環境におけるアウトブレイクはなかったと報告した(リヒテンシュタイン)。18,198件のCOVID-19症例を含む、1,377件の職業環境におけるクラスターが報告された(表1)。
クラスターが観察された職業環境は多様で、医療・社会福祉サービス、事務所、建設現場、軍隊・法執行機関、工業、教育施設や複数のその他環境が含まれた。大部分のクラスターは医療・社会福祉環境で報告され、食品加工関連職業環境、鉱山、及び工場/製造環境が続いている(図1[省略])。
クラスターの確認日は9か国(キプロス、チェコ、フィンランド、フランス、ラトビア、リトアニア、マルタ、オランダ及びルーマニア)によって報告された264件のクラスターについて入手可能だったが、これらのクラスターのうち49件は2020年7月に発生したもので、各国がデータを月の中頃に報告していることから分析からは除外した。クラスター数が最大(n=59)だったのは5月で、6月には前の月と比較して報告されたクラスター数が減少した。
職業環境が屋内または屋外であったかどうかに関する情報は447件のクラスターについて入手可能だった。これらクラスターのうち427件(95.5%)は、完全にまたは主に屋内と記述された環境で発生していた一方で、20件のクラスターは主にまたは完全に屋外の職業環境で報告された。
表1は、報告されたクラスター数、報告した国数、報告された症例・死亡の数、及び様々な職業環境のクラスター内の最小/最大症例数の概観を示している。
COVID-19クラスター及びアウトブレイクが報告された職業環境
EU/EEA諸国とイギリスによって報告されたCOVID-19クラスターは、後述するとおり、幅広い職業カテゴリーに分類される。各カテゴリーは、国ベースのデータ収集を通じて報告された、またはメディアや文献を通じて確認された、クラスターに関する情報を示している。国ベースのデータ収集、疫学インテリジェンスや文献レビューから収集された、この職業部門におけるアウトブレイクに寄与した可能性のある諸要因も、各職業部門について示してある。
医療・社会福祉
各国から報告されたクラスター及びアウトブレイクの大部分は、医療・社会福祉環境からだった。これらの環境におけるクラスターは10か国(ブルガリア、キプロス、チェコ、フランス、アイルランド、ラトビア、リトアニア、マルタ、ルーマニア及びスペイン)から報告された。具体的環境には、救急病院、外来診療所、救急サービス及び長期ケア施設(例えば、高齢者住宅、リハビリ診療所、特別支援を必要とする人々のための住居やメンタルヘルス施設)が含まれる。
救急病院における200件以上のクラスター(n=241)が10か国(ブルガリア、キプロス、チェコ、フランス、アイルランド、ラトビア、リトアニア、マルタ、ルーマニア及びスペイン)から報告された。救急病院でのクラスターの規模は、確認された症例が2件から571件まで多様だった(平均=14)。これらのクラスターで、82件の死亡を含め、合計3,298人の医療専門職が感染したと報告された。
長期ケア施設では、591件のクラスターが9か国(ブルガリア、チェコ、フランス、アイルランド、ラトビア、リトアニア、マルタ、ルーマニア及びスペイン)から報告された。長期ケア施設でのクラスターの規模は2症例から704症例の範囲であった。1か国(スペイン)は、長期ケア施設における感染者は居住者であって、医療専門職ではなかったと特定した。また、デンマークは、高齢者向け住宅で医療専門職の小さなクラスターが記録されたと報告した。症例が長期ケア施設または社会福祉機関の医療専門職やスタッフ、またはその居住者かどうかについての各国の報告は一貫していなかった。
14人の医療専門職が関わった、プライマリケア環境における少数のクラスター(n=4)が3か国(チェコ、ラトビア及びリトアニア)から報告された。2020年の春の間ほとんどすべてのEU/EEA諸国が、COVID-19と同様の症状をもつ患者に、代わりに指定された医療施設を指示して、プライマリヘルスケア提供者に居続けることをやめさせる戦略を実施したことに注意することが重要である。
報告した国から感染者の性別に関する情報が提供されたすべての医療施設において、症例の大部分は女性であり、医療専門職の圧倒的多数は屋内環境で働いていたことが報告された。
ECDCの疫学インテリジェンス活動を通じて照合された最近のメディア報告は、患者を他の医療施設に再割り当てすることが必要になった、ポルトガル・リスボンの大きな三次病院の外科におけるアウトブレイクにふれている。
医療・社会福祉環境におけるCOVID-19クラスターに寄与する可能性のある要因
医療労働者は、生物学的因子、とりわけ結核、インフルエンザ、SARS、麻疹等の感染性病原体への職業曝露のリスクが高いことが知られている。以下を含め、医療専門職におけるCOVID-19のクラスター及びアウトブレイクに寄与する可能性のある多数の要因が各国から報告された。
- 症例[感染者]との密接/直接の接触
- 個人用保護具(PPE)の不十分または不適当な使用
- 制限された屋内空間(例えば、放射線科)での労働
- 食堂スペースの共有
- 職員宿舎、輸送機関及び/または社会活動の共有
事務所
様々な事務所環境における65件のCOVID-19クラスターが10か国(ブルガリア、キプロス、チェコ、フランス、アイルランド、ラトビア、リトアニア、マルタ、ルーマニア及びスペイン)から報告された。具体的環境には、銀行、企業本社、政府建物やコールセンターが含まれた。クロアチアは凝集データのみを報告したが、事務所は、同国における確認されたCOVID-19症例の10.5%を占めていた。
10か国によって報告されたクラスターの規模は確認された症例2件から23件までと多様だった(平均=7件)。4件の死亡を含め、合計410人が感染した。8件のクラスターで以降の社会への感染と関連があった。
事務所環境におけるCOVID-19クラスターに寄与する可能性のある要因
各国によって報告された事務所環境における確認されたクラスター及びアウトブレイクに寄与する可能性のある要因には以下が含まれる。
- 同じ事務所空間の共有
- 同じ食堂スペースの共有
- 同じ部屋での複数の人との会合
- 地域社会で一緒に交流する労働者
文献では、会合への参加と同じ事務所空間の共有が、COVUD-19罹患のリスク要因として報告されている。
教育施設
5か国(ブルガリア、チェコ、フランス、ラトビア及びルーマニア)が、143件の確認された症例及び1件の死亡というかたちで、教育施設における22件のクラスターを報告した。各国からの報告は、確認された症例が教師/スタッフまたは子供/学生におけるものかについて一貫しておらず、教師/スタッフの職業リスクについて理解するのを困難にしている。幼稚園におけるクラスターの規模は、相対的に年齢の高い学校におけるものよりも小さかった。これらのクラスターでの症例数は、各々2件から6件及び2件から35件にわたっていた。報告された感染者の率は幼稚園で報告されたアウトブレイクにおいて7%から31%の範囲だった。ある中学校クラスターでは、2家族で3件の二次感染症例が確認された。
学校環境での大人の間の感染を記録したピアレビュー文献では限定的な証拠がある。2020年春の間に16歳未満の子供のための学校は開かれたままだったスウェーデンでは、公衆衛生当局が学校内の職業グループを分析し、スウェーデンの教師のCOVID-19のリスクは一般の人々よりも高くないと結論づけた(相対リスク:未就学教師(0.7)、義務教育教師(1.1)、中学校教師(0.7)、レクレーションスタッフ(0.8)、学生助手(1.1)、その他の教育者(1.0)及び児童保育提供者(1.0))。スウェーデンの学校は、社会的距離置き、軽度の症状のある者は家にとどまり、学校環境では大勢の集まりはもたない、学校環境にいる間は手指の衛生を実施すべきことを勧告した。
教育施設におけるCOVID-19クラスターに寄与する可能性のある要因
1か国で空間の共有が教育施設における感染に寄与する可能性のある要因として確認された。1か国は労働に関連した会合の間の宿舎の共有を可能性のある要因として確認した。EU/EEAでの学校環境における感染に関連した、COVID-19感染のダイナミクスと可能性のある要因のさらなる説明は、この課題に関する特別のECDC技術報告で提供されている。
農業を含む、食料生産
食糧生産部門におけるいくつかのアウトブレイクまたはクラスターが調査に応答した諸国及び文献で報告された。この環境では2つのカテゴリーが確認された。①屋内食品加工(例えば、肉や魚の加工・梱包、乳製品生産、パン・ペストリー生産)、及び、②農産物生産(例えば、果物採集その他の主として屋外でのプロセス)、である。
13か国が合計で153件のクラスターと3,820件の症例を報告した。また、1か国がアウトブレイクの数は特定せずに36件の症例を報告したので、合計症例数は3,856件になった。この部門における症例数が多い国は、アイルランド(1,154件)、スペイン(1,016件)、イギリス(450件)、オランダ(406件)、フランス(306件)及びルーマニア(275件)だった。153件のクラスターのうち、114件は食品加工カテゴリーのものだった(2,529症例)だった一方で、26件は農業と関連し、合計1,016症例が報告された。13件のアウトブレイクは分類されなかった。
食品梱包・加工部門におけるCOVID-19のクラスター/アウトブレイクに関する情報はメディアでも頻繁に報告され、ECDCの疫学インテリジェンス部門や文献で確認された。これらの多くは食肉処理場または食肉加工工場におけるもので、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ノルウェー、ポーランド、スペイン、オランダ及びイギリスからの報告が含まれている。
2020年7月、ドイツで1,500症例が確認されたある食肉処理場でのアウトブレイクは、ドイツの地方公衆衛生当局が7,000人の従業員を隔離し、地域的ロックダウン措置を実施することにつながった。
2020年7月、メディアは、スペインでの果物採集に雇われた季節移住農業労働者と関連したいくつかのアウトブレイクを報告した。カタロニア地方で900症例につながった12件のアウトブレイクが報告された一方で、ムルシア地方では38症例をともなった1件のアウトブレイクが報告された。また、バルセロナ地方では、ある食肉梱包企業におけるアウトブレイクが報告された。
イタリアでは7月初めに、5つの食肉処理場と1つのソーセージ生産工場で、6件のアウトブレイクと68症例がすべて同じ州でみつかった。症例のほとんどは無症状または軽い症状だった。オーストリアでは、食肉処理場における4件のアウトブレイクと39症例、あるソーセージ生産工場での1件のアウトブレイクと3症例が報告された。ポーランドでは、あるペストリー生産工場で12件のCOVID-19症例をともなうアウトブレイクがみつかった。
イタリアで2020年6月15日までに報告されたCOVID-19による傷害・死亡を検討した、イタリア国立労災保険研究所(INAIL)によるある分析では、同国で報告されたCOVID-19死亡合計の1.1%が農業部門で登録された。
スウェーデンではある研究が、2020年3月13日から5月27日の期間中の、年齢25~65歳の人々における、様々な職業で診断されたCOVID-19症例を検討した。この研究は、いくつかの職業の者のCOVID-19を診断されるリスクが高いことを見出した。ピザ職人が相対リスクが2番目に高いグループだった(RR 4.5、95%CI 3.2-6.3)。
農業を含めた、食糧生産環境におけるCOVID-19クラスターに寄与する可能性のある要因
報告した諸国及び疫学インテリジェンスデータによって確認された、可能性のあるリスク要因には以下が含まれる。
- 制限されたまたは密閉した空間での労働及び社会的距離置きの欠如
- 過密と記述されることも多い宿舎を共有する労働者(主として移住労働者に言及)及び不十分な衛生状態
- 輸送機関の共有
- COVID-19発生率の高い地域からの季節労働者の雇用
工場/製造部門
様々な工場及び/または製造環境におけるクラスターが以下の諸国から報告されている。ブルガリア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア及びスペインである。具体的な環境には、自動車部品、玩具、衣類や化学品を製造する工場及び発電所が含まれる。
2件から96件(平均:7件)の確認された症例をともなう、58件の工場または製造環境におけるクラスターが報告された。4件の死亡を含め、合計661人が感染した。また、ブルガリアは凝集形式で、371人が関わる様々な工場における19件のクラスターを報告した。
工業機械の清掃と商品の梱包に携わる年齢20~64歳の男性労働者におけるイングランドとウェールズでの2020年3月9日から5月25日の間のCOVID-19による死亡についてのイギリス国家統計事務所のある分析は、このカテゴリーの労働者のCOVID-19による死亡率が一般人口よりも著しく高いことを見出した(男性10万人当たりの死亡が73.3対39.7)。
工場におけるCOVID-19クラスターに寄与する可能性のある要因
報告した国によって確認された工場環境におけるクラスター及びアウトブレイクに寄与する要因には以下が含まれる。
- 同じ生産ラインまたは作業空間の共有
- 同じ食堂スペースの共有
- 同じ更衣室の共有
- 輸送手段の共有
建物・建設現場
文献では建物・建設現場に関連したCOVID-19アウトブレイクは報告されていないものの、いくつかの国がこれらの環境における小規模及び中規模のアウトブレイクを報告している。9か国(ブルガリア、チェコ、フィンランド、アイルランド、ラトビア、リトアニア、マルタ、ルーマニア及びスペイン)が、屋内及び屋外の双方で発生した、合計27症例をともなう、1件から8件の間のアウトブレイクまたはクラスターを報告した。各アウトブレイクでのCOVID-19症例の合計数は2件から69件の範囲で、総合計は402症例であった。これらのクラスターは死亡はともなわなかった。
建物・建設現場におけるCOVID-19クラスターに寄与する可能性のある要因
これらの環境において確認されたクラスター及びアウトブレイクに寄与するものとして確認された可能性のある要因には以下が含まれる。
- 過密な宿舎の共有
- 手指を洗う設備の欠如
- 移住労働者における言語の問題
- 輸送手段の共有
販売・小売
7か国(キプロス、フランス、ラトビア、リトアニア、アイルランド、ルーマニア及びイギリス)が、188件の確認された症例・死亡をともなう、18件の販売・小売に関連したCOVID-19クラスターを報告した。特定されている事例では、環境にペストリーショップ/ベーカリー(n=5)、ショッピングセンター(n=4)、食品小売業者(n=3)、薬局(n=3)、スーパーマーケット(n=2)及びトラベルリテールショップ(n=1)が含まれた。1件のスーパーマーケットのクラスターでは、より広い社会への以降の感染の兆候もあった。このクラスターが報告されたなかで最大のものだったことは注目に値する。
この職業環境に関して発表された研究は多くはないが、このグループの労働者でいくらかの事例が確認されている。イングランドとウェールズのある研究は、一般人口よりもCOVID-19による死亡率が高いものとして販売・小売補助員を記述している。しかし、その報告によれば、この分析は観察されたCOVID-19が関わる死亡率が職業曝露の差によってもたらされたことを決定的に証明してはいない。
販売/小売環境におけるCOVID-19クラスターに寄与する可能性のある要因
これらのクラスターに寄与するものとして諸国によって報告された要因には以下が含まれる。
- (薬局における)顧客に対応する労働
- 同じ生産/販売ラインでの労働
- 更衣室/休憩室の共有
- スタッフ会議
- 同じ事務所空間の共有
- 同じ輸送手段の共有
軍隊・刑務所を含めた法執行・警備
7か国(ブルガリア、キプロス、フランス、アイルランド、ラトビア、リトアニア、ルーマニア)から、軍隊・法執行職業における合計29件のアウトブレイクが報告され、221症例を占めた。また、1か国(クロアチア)は、合計269症例をともなった[クラスターの]件数のみ(48件)を報告した。29件のクラスターのうち、7件は刑務所で発生した。アウトブレイクの大部分は屋内で発生した。これらのクラスターにともなう死亡の報告はなかった。
年齢20~60歳の男性におけるイングランドとウェールズでの2020年3月25日から5月25日の期間中のCOVID-19による死亡を検討したイギリス国家統計事務所による分析では、警備員及び関連職業の男性のCOVID-19による死亡率は一般男性人口よりも著しく高いことが見出された(人口10万人当たり74.0の死亡)。
イタリアで2020年7月15日までに公表されたCOVID -19による傷害・死亡を検討したイタリア国立労働災害研究所(INAIL)による分析では、警備を含むレンタル・サポートサービスがCOVID-19症例合計の4.3%、また、保安労働者が報告されたCOVID-19死亡の2.8%を占めた。
軍隊・法執行環境におけるCOVID-19クラスターに寄与する可能性のある要因
これらの環境について諸国から報告された可能性のある寄与要因には以下が含まれる。
- 物理的距離置きが困難な近接労働
- 食堂の共有
- 施設・宿舎の共有
- スタッフ会議・訓練
鉱 山
世界中の採掘現場がCOVID-19アウトブレイクによって影響を受けている。国ベースのデータ収集では、4症例から700症例以上の範囲にわたる、鉱山で働く人々における合計1,538症例をともなう4件のクラスターが、チェコから報告された。これらのうちのひとつのクラスターと関連したものとして1件の死亡が報告された。これらのアウトブレイクがより広い社会への感染につながったかどうかに関する情報は入手できていない。スウェーデンでは、鉱山と関連したCOVID-19症例が報告されているが、これらの症例は採掘現場に派遣された労働者のチームによって行われた(採掘ではなく)修理作業に関連したものだった。感染した者のSARS-CoV-2感染が実際に鉱山の内部または外部(例えば、食堂訪問との関連)で起きたかどうか判定することはできない。
複数のメディア情報源が、ポーランドで2020年7月初めにCOVID-19アウトブレイク後に10を超す採掘現場が閉鎖されたことを報告した。2020年7月19日にSilesian Voivodeshipの3つの会社の鉱山で約6,600件のCOVID-19症例があったが、2020年7月21日にメディアは、エピデミックの開始以来ポーランド財務省が管理する3つの鉱山会社の6,636人の労働者がCOVID-19に感染したと報じた。
鉱山環境におけるCOVID-19クラスターに寄与する可能性のある要因
このECDC調査では、COVID-19クラスターに寄与するものとして諸国によって報告された、鉱山環境特有の要因はなかった。諸国との個人的コミュニケーションのなかで議論された、可能性のある寄与要因のひとつは、労働者の濃厚接触(例えば、鉱山昇降機の使用中や入浴設備の共有)である。
その他の職業環境
国ベースのデータ収集は、合計696件の確認されたCOVID-19症例と4件の死亡からなる、様々なその他の職業環境における79件のクラスターを提供した。11か国(ブルガリア、チェコ、フィンランド、フランス、アイルランド、ラトビア、リトアニア、オランダ、ルーマニア、スペイン及びイギリス)が、梱包/郵便配達センターその他物流サービス、運輸部門(長距離輸送、タクシー、自家用車サービス)、教会・修道院、フィットネスジム、スパや税関倉庫など、様々な環境におけるアウトブレイク及びクラスターを報告した。運輸会社の2件とフィットネスセンターの1件の3件のアウトブレイクで、9件の社会感染事例が関わる、以降の社会への感染が報告された。すべての環境を通じて報告された感染率は3%から22%に及んでいた。
梱包/郵便配達センター
梱包または郵便配達国センターについて収集した国ベースのデータから、3件から27件の症例をともなう、8件のCOVID-19クラスターが報告された。さらにメディア情報源は、イタリア・ボローニャのある配送センターの労働者で40症例のクラスター、及びオーストリアとドイツで12件のクラスターを確認した。
バー・レストラン
合計32症例で死亡なしの、スペインから4件とアイルランドから1件の5件のCOVID-19クラスターがバーまたはレストランの労働者において報告された。カナダ・ブリティッシュコロンビアでのあるレストランにおけるCOVID-19アウトブレイクについてのメディア報道は、5人または4人の労働者の検査結果が陽性だったが、レストランの客への以降の感染は報告されていないと詳報した。
運輸部門
1つのタクシー/自家用車サービスと2つの長距離輸送会社(バス・鉄道)で3件のCOVID-19クラスターが、輸送部門の労働者において収集した国ベースのデータから報告された。これらのクラスターは各々、3件、4件及び8件の症例で構成されていた。様々な職業で診断されたCOVID-19症例を検討したスウェーデンのある研究は、タクシー運転手がCOVID-19と診断される相対リスクが他のすべての職業よりも4.8倍高く(95%信頼区間3.9-6)てもっとも高く、バス・トラム運転手がそれに続く(RR 4.3、95%CI 3.6-5.1)ことを見出した。年齢20~60歳の男性におけるイングランドとウェールズでの2020年3月9日から5月25日の期間中のCOVID-19による死亡についてのイギリス国家統計事務所による分析では、男性のタクシー運転手、お抱え運転手、バス・コーチ運転手のCOVID-19による死亡率が一般男性人口よりも統計的に著しく高いことを見出した(男性10万人当たり死亡65.3対一般男性人口について10万人当たり死亡39.7)。
ニューヨーク市のある研究は、高齢であることが運輸労働者のCOVID-19死亡のリスク要因であり、運輸部門で働く60~69歳の労働者は他の部門で働く相対的に下の年齢の成人よりも死亡率が高いことを見出した。
その他の部門
収集した国ベースのデータには、フィットネスジム(2件のクラスター)、教会・修道院(6件のクラスター、すべてルーマニアから)、1件のスパ、1件の税関倉庫、及び他の物流サービスにおけるCOVID-19クラスターの報告もあった。メディア報道によれば、スペインの保健当局は、アラゴン地方のミンク飼育場の7人の労働者のCOVID-19感染を理由に、93,000頭のミンクの処分を命じた。同様の労働者とミンク双方における症例の報告がオランダとデンマークからあった。これらのミンク飼育場で動物から人間への感染の証拠はなく、それゆえ労働者の感染経路は不明なままである。様々な職業で診断されたCOVIID-19症例を検討したスウェーデンの研究は、翻訳者、通訳者及び言語学者の相対リスクが2.9(95%CI 1.8-4.7)で相対的に高いことを見出した。
その他の職業環境におけるCOVID-19クラスターに寄与する可能性のある要因
数か国がこれらの環境におけるCOVID-19感染に寄与するものとして以下の要因をあげた。
- 作業中の濃厚接触または労働者間の個人的接触が不可避な居住施設
- 報告された予防対策の不順守
討 論
EU/EEA諸国とイギリスがECDC調査に応答して報告した以上のデータは、既存の文献やメディア報道と合わせて、職業環境におけるCOVID-19クラスター及びアウトブレイクに関して、いくつかの特有のパターンを示している。
職業環境におけるアウトブレイクの圧倒的多数(95%)は、すべての職業カテゴリーの屋内環境で報告されており、職業感染のリスクのひとつとしての制限された屋内空間の重要性を示している。しかし、研究結果は、欧州で労働時間の80%超は屋内で費やされ、社会経済的及び人口学的地位の変化が異なる屋内労働日のパターンにつながっていることを示している。最近の論文で議論されているように、SARS-CoV-2の人間から人間への感染において様々な感染経路が果たす役割の重要性はまだ明らかではない。大きな飛沫は間違いなくCOVID -19感染に重要な役割を果たすものの、制限された空間内でエアロゾル感染がいくらかの役割、とりわけ長時間同じ空間を共有する人々にとっては、おそらく重要なひとつであることもますます明らかになりつつある。このため、十分な物理的距離の欠如が、職業環境におけるものを含め、あらゆるCOVID-19アウトブレイクに寄与するもっとも重要な要因である。職場における制限または労働の性質のゆえに物理的距離が確保できない場合には、COBID-19感染感染のリスクは増大する。文献は、アウトブレイクが発生し、最低2メートルの勧告された距離を維持するのが困難な様々な職場について記述している。ともに物理的距離の欠如と関連した、制限された空間と共有された職場も、一定の職業環境で観察されたアウトブレイクについてリスク要因の可能性のあるものとして、諸国によって報告されている。例えば、食肉加工工場、工場または他の製造会社の労働者は、加工ラインでお互いに非常に近接して働くことが多く、また、飛沫をより多くまき散らすことになる大声を出すことが必要かもしれない騒音が多い状況で働くことも多い。また、接触期間(作業シフト)が、潜在的に感染させるかもしれない同僚労働者や設備への長期曝露を提供する。さらに、労働者は、食事中、休憩中、更衣室または出入りのときに、濃厚接触するかもしれない。
制限された屋内空間内の換気の悪さが呼吸器感染ととりわけCOVID-19感染の増大と関連している。適切に維持された暖房、換気及び空調システムは、換気率を高め、空気の再循環を減らし、外気の利用を増やすことによって、屋内空間での感染の減少に役立つかもしれない。食品加工工場内の温度・湿度管理がSARS-CoV-2ウイルスの生存とエアロゾル形成にとりわけ適しているかどうかは、解明されるべき課題として残されている。
本文書で記述されたクラスターの大部分は医療・社会福祉部門のものである。12万人を超す労働者についてのイギリスの研究では、医療労働者がCOVID-19の検査結果が陽性になるリスクはノンエッセンシャル労働者よりも7倍高く、社会福祉の者のリスクは3倍高かった。医療・社会福祉労働者は感染者との頻回・長時間の接触のゆえにもっとも曝露する職業であり、職員不足によって悪化されることが多いが、この結果は、医療及び長期ケア施設の労働者についてEU/EEAとイギリスで実施された検査強化戦略によっても影響を受けているかもしれない。これらの結果はアメリカでの調査結果とも一致している。すべての医療労働者の訓練・周知の継続的必要性を示している、潜在的リスク要因のひとつは個人用保護具(PPE)の不適切な使用である。また、さらなるリスク要因のひとつとして、PPEの入手が不十分なことも確認されており、これはパンデミックの第一波から学んだ重要な教訓のひとつである。COVID-19の第二波の可能性に備えるなかで、EU/EEA諸国の保健当局と使用者は、適切なPPEの持続的供給へのアクセスを確保するとともに、医療関連のCOVID-19感染を回避するためにすべてのレベル及びカテゴリーの医療職の訓練を強化すべきである。長時間労働、複数の患者をケアするのに同じPPEを使用することや職員不足による労働ストレスも潜在的要因である。
おそらくCOVID-19への曝露のリスクのある他の具体的職業には、複数の顧客に曝露するという事実のゆえに、運輸労働者(タクシー・バス運転手)、販売員、郵便/宅配労働者や家庭清掃員が含まれる。これらの職業の労働者はそれゆえ、シンプルなタイプの介入とPPEを提供される必要がある。
前述した職業環境における多数の様々なアウトブレイク(例えば、食肉処理場、農場、建設または採掘現場)が、寄宿舎または他の種類の過密な宿舎に済む移住または季節労働者と関連している。それゆえこれら労働者の居住条件は、適切な物理的距離置きまたは適切な個人衛生措置が可能でなければ追加のリスク要因を生じさせ、COVID-19がより容易に拡散するのを許すことになる。前述したように、これらの人口集団とその使用者に対して、健康促進情報を提供するために実情に合った文化的にセンシティブなアプローチが用いられるべきである。
通勤のために、相乗りバンまたはシャトル車両、カープールや公共交通など、労働者に輸送手段を、または労働者が輸送を共有するための手段を提供することは、工場または建設などの職場では一般的な慣行である。これは、報告されたいくつかのクラスターにおいて、COVID-19感染に寄与する要因のひとつとして挙げられた。
最後に、職場における媒介物(すなわち、汚染された表面、道具または他の頻回に触れる対象)への曝露も、COVID-19感染に寄与するかもしれない。アウトブレイクが発生したいくつかの職場は、適切な感染管理や衛生基準をを実施するのが遅かったか、または不適切に行っていた。職場が手指衛生や清掃慣行を強調していた、または適切なPPEを利用可能にしていた程度はわからない。
物理的距離置きを実施していない、または実施できないことに加えて、「プレゼンティーイズム」(すなわち、病気の症状があるにもかかわらず労働すること)も、一定の場合にはCOVID-19の業務上の拡大に寄与する要因のひとつであるかもしれない。しかし、エッセンシャル労働者及び影響を受けやすい職務の労働者が行う労働の大きな部分は低収入である傾向があり、労働者は家庭で労働することもできない。職を失う恐れまたは家庭にいるために労働時間を短縮することができないことが、労働者または家族がCOVID-19にあてはまる症状を示していたとしても、通勤と労働を続けることにつながっているかもしれない。有給休暇のない労働者または従属自営業者(「偽自営業者」)は、たとえ病気であったとしても、収入を失う恐れからより働き続けがちである。これは、医療、公共サービスや教育部門を含め、すべての部門の労働者に共通している。
プレゼンティーイズムという概念と関連するのが社会経済的諸問題であり、民族や労働者の移民地位、一定のリスク人口(例えば、タクシー/バス運転手)に多いいくつかのグループと関連している場合もある。前述したクラスターに示されているように、COVID-19曝露のリスクの影響を受けやすいグループのひとつは季節的移住労働者である。多くの場合、これらのグループは、COVID-19の症状を示したときに収入が減少するリスクが高いことが示されている男性によって主に構成されている。また、彼らは滞在国の医療システムへのアクセスを低下させているかもしれない。彼らはそれゆえ、パンデミックの期間中に予防措置に関する助言・情報を周知する際に、実情に合ったアプローチの対象となるべき人口グループを構成する。他方、医療・社会福祉、小売・教育の労働者は主として女性であり、全体的に女性は、パンデミックの結果としてサービス部門における労働時間短縮で不釣り合いなほど多く損失を被っており、無給の世話についての負担の増大と対になっている。
アメリカでは、労働人口の28%が週1度から月1度の頻度で感染に曝露している可能性があると推計されている。アメリカの別の研究は、雇用の性質のゆえに一部の者が、とりわけエッセンシャル部門(例えば、医療・社会援助、病院、動物飼育・加工)及び感染への曝露の頻度が多く他者と濃厚に接触する職業で雇われる者が、感染に対して脆弱であることを強調している。労働は健康の社会的決定因子のひとつであり、一定の職業と悪い健康状態の間には潜在的関連性がある。これは、どの人口が緊急時に影響を受けやすい職業にいるかを理解するとともに、そうした脆弱性に対処する強力な公衆衛生予防政策が実施されていることを確保するために現行の政策を見直すことの重要性を強調している。さらに、医療部門だけでなく、法執行、行政的支援、教育や社会福祉においても、多数の人々が感染への頻回な曝露をともなう職業に雇われていることがますます明らかになっている。
しかし、COVID-19の地域感染の拡大が進行中の地域では、職場での症例の発見が予測されることにも注意する必要がある。また、分子疫学研究を含め、徹底的なアウトブレイク調査が実施されない限り、感染の場所を識別することは困難である。可能な場合にはそのような調査も検討されるべきである。
職場を基礎にした検査体制がCOVID-19の早期確認を支援するとともに、職業感染を予防する可能性があるという証拠があるが、職場アウトブレイクを予防するには検査だけでは十分ではない。ハイリスク環境におけるルーチンの検査の頻度に関するあるモデル化研究は、毎日の頻度未満の検査戦略(例えば、毎週の検査または職場復帰前に1回)は、追加的介入なしには、労働者アウトブレイクを防げそうにないことを見出している。
職場安全衛生
本文書で確認されたリスクのある職業で働くスタッフの安全衛生は、彼ら自身の防護のためだけでなく、ウイルスのさらなる拡大を防ぐのを助けるためにも重要である。職場で労働者の安全衛生を防護するための包括的な多数のEU法令が存在している。したがって、すべてのタイプのリスクを考慮(個人用保護具を装着する場合の追加的物理的負担も考慮)するために、労働安全衛生サービス及び労働者との合意のもとに、労働安全衛生法令及び適用されている労働安全衛生対策にしたがって、職場リスクアセスメントが見直される必要がある。安全衛生委員会が設置されている場合には、協議をすべきである。SARS-CoV2は最近、2000/54/EC指令-労働における生物学的因子にしたがってリスクグループ3に分類されたが、同指令は具体的諸措置を規定し、加盟諸国によって国の法令のなかで実施されている。
EUレベルで策定された法的拘束力のないガイドラインは、COVID-19パンデミックのために著しく変化してしまった労働環境のなかで安全かつ健康でい続けるよう使用者・労働者を援助することを目的にしている。それらは、職場リスクアセスメントと曝露を最小化させるための適切な技術的及び組織的諸措置、また労働を再開する場合、病気になった労働者の欠勤に対処するとともに、彼らを保護するための措置に関する助言を提供している。COVID-19を予防及び対処するための職場介入に関するガイダンスも、本文書で言及された部門及び職業のための適切な諸措置に関する特別の国のガイダンスへのリンクをつけて、EU-OSHAから出版されている。
職業環境におけるCOVID-19感染に対処及び予防するためのさらなる介入には、PPEの使用や労働者またはその家族がCOVID-19にあてはまる症状を示したときに労働者が自主隔離または家にとどまるのを支援する政策の促進を含め、厳格な予防・管理ルーチンの順守が含まれる。COVID-19を予防及び管理するための職場介入に関する追加的ガイダンスが、EU-OSHAによって提供されている。
限 界
この技術的報告は出版時においてECDCが入手可能だった情報及びデータに基づいて実施された。結果を解釈するにあたっては多数の限界を考慮する必要がある。第1に、本報告で示したデータは、限られた数(17/31)の国からECDCに報告されたものか、または文献検索及び疫学インテリジェンス・メディア監視活動を通じて確認されたものである。とりわけメディア情報源はピアレビューされておらず、誤りを含んでいるかもしれない。結果的にこの報告は、EU/EEAとイギリスでCOVID-19によって影響を受けたすべての職業環境の徹底的な概要を提供するものではなく、用いたデータ源によって持ち込まれたエラーを含んでいる可能性がある。
第2に、(医療労働者及び長期ケア施設で働く者を除いて)COVID-19の事例に基づく調査において職業はルーチンに収集されている変数ではなく、公衆衛生当局はアウトブレイク調査を促進するのに、民間及び公共部門による、症例、クラスター及びアウトブレイクの自主的報告に頼らざるを得ない。これは、すべての職業環境における潜在的アウトブレイクを検出する公衆衛生の能力を制限している。COVID-19パンデミックの圧力の増加のために、諸国からのアウトブレイクの詳細な調査を欠いている。これらの職業環境におけるクラスターに関連した確認された症例・死亡の年齢、性別、もとになった条件に関する情報は収集できなかった。この情報は知見の解釈及び職業環境の比較について関係があるかもしれない。
第3に、EU/EEA加盟諸国とイギリスによって職業アウトブレイクを分類、調査または報告する方法について一貫した定義が存在していない。職業環境におけるアウトブレイク調査の結果及び詳細は一般に公表されておらず、それゆえピアレビューされた文献にもあまり現われない。いくつかの事例で、本文書に報告されたクラスターの規模には、感染した労働者の数だけでなく、感染したすべての者が含まれているかもしれない。とりわけSARS-CoV-2の地域感染が進行中の環境においては、職場環境で発生した感染と、地域社会のなかで発生したものを識別することも困難である。
第4に、大部分のクラスターは医療・社会福祉関連の職業環境において報告された。これはおそらく、この部門の労働者が他の職業環境の者よりも高い率で、ルーチンに検査を受けているためである。これはおそらく、他の環境でみつかったCOVID-19クラスターの過小評価を示している。
最後に、COVID-19パンデミックという状況下でのEU/EEAとイギリスをまたがった職業環境における詳細なアウトブレイク調査データの欠如、及び、様々な職業慣行における感染リスクと重症化のリスクを区別する症例対照研究の欠如に注意することが重要である。クラスター及びアウトブレイクと関連した可能性のあるリスク要因に関する情報は限られており、ほとんど逸話的である。多数の国が職業環境において監督を行っていることは知られているが、法執行のプロセスからのデータは一般的に秘密である。それゆえ、とりわけ事象を報告する可能性が少ないかもしれない相対的に小さなビジネス(例えば、ヘア/ネイル・サロン)からの、職業環境における感染の過少報告が重要な問題である。詳細な疫学的調査及び定性的研究によるさらなる情報は、職業環境におけるCOVID-19感染のダイナミクスのよりよい理解に役立つだろう。
結 論
EU/EEAとイギリスの職業環境におけるCOVID-19クラスターの全範囲に関するデータは限られているものの、もっとも共通した曝露が、宿舎、食堂、休憩室や輸送手段の共有を含め、とりわけ屋内環境での、物理的距離置きの欠如と関連していることは明らかである。感染に関連する要因には、運輸・小売などの部門における顔を合わせた接触、手指洗浄設備へのアクセスの欠如、季節的または移住労働者の居住条件や、勧告される公衆衛生諸措置についての適切な周知が含まれた。
職業環境におけるクラスターの数はおそらく著しく過少確認されており、現時点ですべてのクラスターを徹底的に調査することは困難である。医療・社会福祉部門、とりわけ長期ケア施設と病院で、多くの職業クラスターが報告されているが、これらの部門はおそらくかかる環境における頻回な検査による過大評価である。
食品梱包・加工、工場・製造及び事務所関係で多数の職業感染が報告されており、屋内環境での労働及び物理的距離を維持することができないこととの関連を示している。鉱山部門で報告されたクラスターは相対的に少なかったが、これらのいくつかが大きなクラスターであったことは重要である。低い社会経済的地位と典型的に関連した職業の者はもちろん、自営業者は相対的にリスクが高い。
物理的距離置きのための堅固かつ厳格な政策、衛生・清掃、適切なPPEの使用と手指衛生(とりわけ密閉された環境や接触の拡大、輸送手段・宿舎の共有が関わる状況のなかで)と組み合わせた、職場環境におけるCOVID-19検査に対して焦点を増大させることが、COVID-19アウトブレイクを予防するのに役立つだろう。堅固な調査と接触の追跡は、それらがみつかった場合にアウトブレイクに対処する方法として明確なプロトコルであることから、必要不可欠である。職業環境におけるCOVID-19の予防のいくつか側面についてEU-OSHAからガイダンスが提供され、また、一般的な感染予防・管理ガイダンスがECDCから提供されている。
職業環境におけるCOVID-19アウトブレイクまたはクラスターを踏まえて、COVID-19の拡大に対処・予防するために、地方及び国レベルで公衆衛生当局と労働安全衛生当局の間の強力な協力の必要性がある。強力な部門間協力とハイリスクな職業環境における勧告された公衆衛生諸措置の実施が、職場及びより広い社会におけるCOVID-19の復活を予防するのに役立つだろう。本報告ではクラスターにおける主要な要因は報告及び示されていないが、クラスターが季節労働者または他の国からの労働者が関わる場合には、国及び国際的な当局の間の協力に特別な配慮がなされるべきである。