上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準についての運用上の留意点について【1997(平成9)年2月3日 事務連絡第1号】

上肢作業障害の認定基準は1975年の旧基準制定から22年後に改訂されました。その間、認定基準については様々な議論や動きがあり、本認定基準への改正後においてもそれは同様であるので、労災に遭遇したときや労災申請においては、これまでの認定事例を知ることは役に立ちます。

また、認定基準そのものをよく知ることはもちろん、うのみにしないことも大切であるので次の記事を参考にしていただければと思います。

上肢作業に基づく疾病【上肢障害】の労災の申請・認定・審査請求のために(腱鞘炎、手根管症候群、頸肩腕症候群(障害)、上腕骨外(内)上顆炎等】

本事務連絡は改正通達(基発第65号)と一体のものとして、上肢障害の労災認定基準を構成します。

上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準についての運用上の留意点について【1997(平成9)年2月3日 事務連絡第1号】

上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準(以下「認定基準」という。)については、平成9年2月3日付け基発第65号通達(以下「局長通達」という。)をもって指示されたところであるが、この認定基準の運用に当たっては、下記の事項に留意されたい。

なお、昭和50年2月5日付け事務連絡第7号「キーパンチャー等上肢作業にもとづく疾病の業務上外の認定基準の運用上の留意点について」は廃止し、昭和51年11月11日付け事務連絡第45号「振動障害の認定基準等の運用上の留意点について」の記の2は削除する。

第1 改正の趣旨

これまでの認定基準は、主としていわゆる「頸肩腕症候群」に関する業務上外を判断する上での基準であったが、最近の作業方法の変化等により上肢作業者に発症する疾病も多様化していることから、認定基準の対象とする疾病の範囲、対象業務等について全般的に見直しが行われたものである。

なお、主な改正点は次のとおりである。

(1)認定基準の対象とする疾病の範囲、対象業務等を明確化したこと。
(2)業務過重性の判断に当たっては、発症前の業務量のほか、作業の質的要因も併せて評価することとしたこと。
(3)発症までの作業従事期間については、原則として6か月程度以上とするが、腱鞘炎等については、比較的短期間で発症することがあるとしたこと。

第2 運用上の留意点

1 対象業務について

局長通達記の第2の1における4つの類型化された作業について、具体的には、次に例示する作業において上肢障害の発症例をみているので参考とすること。

(1)上肢の反復動作の多い作業

イ 手指・手・前腕を早く動かす反復動作の多い作業
(イ)コンピューター、ワードプロセッサー等のOA機器、VDT機器等の操作を行う作業
(ロ)その他これに類似する作業

ロ 筋力を要する反復動作の多い作業
(イ)運搬、積込み、積卸し作業
(ロ)多量の冷凍魚等の切断・解体等の処理を行う作業
(ハ)その他これに類似する作業

ハ 上肢の挙上保持と反復動作の多い作業
(イ)製造業における機器等の組立て・仕上げ作業
(ロ)手作りによる製パン、製菓作業
(ハ)ミシン縫製、アイロンがけ作業
(ニ)手話通訳作業
(ホ)給食等の調理作業
(ヘ)その他これに類似する作業

(2)上肢を上げた状態で行う作業

イ 流れ作業による塗装、溶接作業
ロ 天井など上方を作業点とする作業
ハ その他これに類似する作業

(3)頸部、肩の動きが少なく、姿勢が拘束される作業

イ 検査作業(特に顕微鏡や拡大鏡を使った作業)
ロ その他これに類似する作業

(4)上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業

イ 保育、看護、介護作業
ロ その他これに類似する作業

2 対象疾病について

(1)局長通達記の第1の1における「運動器の障害」とは、神経、骨・関節系、血管系とともに、頸椎及びその周辺軟部組織の障害をいうものであること。

(2)上肢障害は、労働基準法施行規則別表第1の2第3号4又は5に該当する疾病として取り扱うこととされているが、例示された診断名の中では、大部分が別表第1の2第3号4に該当する。しかし、肘部管症候群、回外(内)筋症候群、手根管症候群は、腱、腱鞘又は腱周囲の炎症ではなく、当該部位の絞扼性神経障害としてとらえることができることから、別表第1の2第3号5に該当する疾病として取り扱うこと。

(3)局長通達記の第3の2において、障害部位を特定できない「頸肩腕症候群」の診断名を否定するものではないとしているが、診断法も準歩してきており、できる限り症状と障害部位を特定し、それに対応した診断名となるよう主治医に協力を求めること。

(4)胸郭出口症候群、変形性脊椎症、椎間板ヘルニア等の診断に当たっては別添に掲げる検査や画像所見が、肘部管症候群、手根管症候群、尺骨神経症等の神経症状の診断に当たっては神経伝導速度の検査所見が、頸部痛の診断に当たってはエックス線所見がそれぞれ参考になることから、主治医からこれらの資料を収集するよう努めること。

3 業務起因性の判断について

(1)上肢障害の業務起因性の判断に当たっては、基礎疾患や既存疾病の有無、1日の労働時間における上肢作業の占める時間、当該疾病の発症の経緯、作業従事期間、過重な業務の内容等について評価を行うこと。この場合、当該職場での同種疾病の発症状況等も参考になること。
なお、上肢障害は、業務の改善等を行うことによって軽快することから、治療開始後相当期間経過してから請求されたものについては、治療経過や症状の改善状況が業務上外の判断の参考となること。

(2)基礎疾患や既存疾病が認められる労働者に発症した上肢障害については、業務によって増悪したと考えられる急性期特有の炎症症状等が軽快するまでの期問が労災補償の対象となるので、認定に当たっては、基礎疾患や既存疾病の状況、退行性変性の有無・状況等の情報を十分得ておく必要があること。

(3)(1)、(2)については、同僚労働者はもとより、当該作業内容、作業環境、当該労働者の健康状況等を十分把握している産業医の見解を積極的に聴取すること。

(4)業務量が過重である場合の基準として「10%以上」、「3か月程度」となっているが、これは専門家の意見等を参考として決めたものであること。また、業務量が一定しない場合の基準として用いられているものについても同様であること。
なお、通常の労働者と比べて著しく労働時間の短い労働者については、この判断基準をそのまま適用できるものではないので、業務の質・量、私的要因の有無等を総合評価の上判断すること。
また、「3か月程度にわたる」とは、3か月に満たない場合でも業務量の増加の程度によって業務量が過重とみられる場合を考慮して幅を持たせたものであり、作業従事期間における「6か月程度」についても同趣旨であること。

4 業務の評価について

(1) 「上肢等に負担のかかる作業を主とする」とは、医学経験則に照らし、発症の有力な原因となる負荷を有すると認められる上肢等に負担のかかる作業が、一定程度継続的に行われているものであること。
また、当該業務において「上肢等に負担のかかる作業」が複数認められる揚合には、これらを総合して「過重な業務」の判断を行うこととなるが、発症した疾病と各作業による影響等について局医等の専門医の意見を求めた上で検討されるべきものであること。

(2)「過重な業務」の判断に当たっての通常業務とは、当該事業揚における所定労働時間における所定の業務をいうものであること。

(3)「過重な業務」における「同種の労働者」については、同一事業揚内を基本とするが、同一事業場における同種の労働者が存在しない揚合には、他の事業場における同種の労働者との比較を参考とすること。

(4)局長通達記の第3の3において示した「過度の緊張」には、手話通訳における迅速かつ正確な判断を必要とするための過度の緊張等があること。
また、「不適切な作業環境」には、不適切な作業台の高さ、寒冷負荷、照度不足等があること。

5 発症までの作業従事期間について

作業従事期間を「原則として6か月程度以上」としたのは、業務に慣れるのにおおむね3か月を要し、この期間中の症状はいわば作業不慣れからくる単なる疲労と認められるものが多いことによるものであること。
また、腱鞘炎等については、作業従事期間が6か月程度に満たない場合でも発症することがあるとしたが、この揚合の認定に当たっても、局長通達記の第1の2の認定要件を満たす必要があること。
なお、腱鞘炎等の関節・神経の急性的な炎症症状については、過重な業務により比較的短期間での発症はあり得るが、いわゆる「頸肩腕症候群」については、一般的には6か月程度以上の作業従事期間を有する労働者に認められるものであること。

6 類似疾患との鑑別について

退行性変性や素因が主たる原因となって発症する疾病としては、変形性脊椎症や肩関節周囲炎(いわゆる「五十肩」)、胸郭出ロ症候群等があること。
また、頭蓋内疾患を原因とする疾病としては、大脳基底部の異常から生じるジストニア等があること。

7 その他

(1)局長通達記の第3の6における「適切な作業の指導・改善等」とは、上肢障害を軽減するための作業方法の指導のほか、使用する機器類の改良、作業時間の短縮、作業の軽減、配置転換、休業等の事業主が講じうる労働条件等に関する各種の配慮をいうこと。

(2)上肢障害について、具体的改善効果が認められないまま長期の治療を継続している場合には、対診等により精神医学的な検討も含めた適切な診断が下されるよう留意すること。