上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準について【1997(平成9)年2月3日 基発第65号】

上肢作業障害の認定基準は1975年の旧基準制定から22年後に改訂されました。その間、認定基準については様々な議論や動きがあり、本認定基準への改正後においてもそれは同様であるので、労災に遭遇したときや労災申請においては、これまでの認定事例を知ることは役に立ちます。

また、認定基準そのものをよく知ることはもちろん、うのみにしないことも大切であるので次の記事を参考にしていただければと思います。

上肢作業に基づく疾病【上肢障害】の労災の申請・認定・審査請求のために(腱鞘炎、手根管症候群、頸肩腕症候群(障害)、上腕骨外(内)上顆炎等】

上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準について【1997(平成9)年2月3日 基発第65号】

標記については、昭和50年2月5日付け基発第59号「キーパンチャー等上肢作業にもとづく疾病の業務上外の認定基準について」をもって指示したところであるが、今般、下記のとおり改正することとしたので、今後の取扱いに遺漏のないよう万全を期されたい。

なお、本通達の施行に伴い、昭和50年2月5日付け基発第59号通達は廃止する。

第1 認定基準

1 対象とする疾病

本認定基準が対象とする疾病は、上肢等に過度の負担のかかる業務によって、後頭部、頸部、肩甲帯、上腕、前腕、手及び指に発生した運動器の障害(以下「上肢障害」という。)である。

上肢障害の診断名は多様なものとなることが考えられるが、代表的なものを例示すれば、上腕骨外(内)上顆炎、肘部管症候群、回外(内)筋症候群、手関節炎、腱炎、腱鞘炎、手根管症候群、書痙、書痙様症状、頸肩腕症候群などがある。

2 認定要件

次のいずれの要件も満たし、医学上療養が必要であると認められる上肢障害は、労働基準法施行規則別表第1の2第3号4又は5に該当する疾病として取り扱うこと。

(1)上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した後に発症したものであること。
(2)発症前に過重な業務に就労したこと。
(3)過重な業務への就労と発症までの経過が、医学上妥当なものと認められること。

第2  認定要件の運用基準

1 「上肢等に負担のかかる作業」とは、次のいずれかに該当する上肢等を過度に使用する必要のある作業をいう。

(1)上肢の反復動作の多い作業
(2)上肢を上げた状態で行う作業
(3)頸部、肩の動きが少なく、姿勢が拘束される作業
(4)上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業 

2 「相当期間」とは、1週間とか10日間という極めて短期的なものではなく、原則として6カ月程度以上をいう。

3 「過重な業務」とは、上肢等に負担のかかる作業を主とする業務において、医学経験則上、上肢障害の発症の有力な原因と認められる業務量を有するものであって、原則として次の(1)又は(2)に該当するものをいう。

(1)同一事業場における同種の労働者と比較して、おおむね10%以上業務量が増加し、その状態が発症直前3カ月程度にわたる場合
(2)業務量が一定せず、例えば次のイ又はロに該当するような状態が発症直前3カ月程度継続している場合

イ  業務量が1カ月の平均では通常の範囲内であっても、1日の業務量が通常の業務量のおおむね20%以上増加し、その状態が1カ月のうち10日程度認められるもの
ロ 業務量が1日の平均では通常の範囲内であっても、1日の労働時間の3分の1程度にわたって業務量が通常の業務量のおおむね20%以上増加し、その状態が1カ月のうち10日程度認められるもの

第3 認定に当たっての留意事項

1 認定に当たっての基本的な考え方について

上肢作業に伴う上肢等の運動器の障害は、加齢や日常生活とも密接に関連しており、その発症には、業務以外の個体要因(例えば年齢、素因、体力等)や日常生活要因(例えば家事労働、育児、スポーツ等)が関与している。

また、上肢等に負担のかかる作業と同様な動作は、日常生活の中にも多数存在している。

したがって、これらの要因をも検討した上で、上肢作業者が、業務により上肢を過度に使用した結果発症したと考えられる場合には、業務に起因することが明らかな疾病として取り扱うものである。

2 診断名について

上肢障害の診断名は、多様なものとなることが考えられることから、記の第1の1に例示した以外の疾病についても、上肢障害に該当するものがあることに留意すること。

なお「頸肩腕症候群」は、出現する症状が様々で障害部位が特定できず、それに対応した診断名を下すことができない不定愁訴等を特徴とする疾病として狭義の意味で使用しているものである。

また、頸部から肩、上肢にかけて何らかの症状を示す疾患群の総称としての「頸肩腕症候群」については、診断法の進歩により病像をより正確にとらえることができるようになったことから、できる限り症状と障害部位を特定し、それに対応した診断名となることが望ましいが、障害部位を特定できない「頸肩腕症候群」を否定するものではないこと。

3 過重な業務の判断について

(1) 「過重な業務」の判断に当たっては、発症前の業務量に着目して記の第2の3の要件を示したが、業務量の面から過重な業務とは直ちに判断できない場合であっても、通常業務による負荷を超える一定の負荷が認められ、次のイからホに掲げた要因が顕著に認められる場合には、それらの要因も総合して評価すること。

イ 長時間作業、連続作業
口 他律的かつ過度な作業ぺース
ハ 過大な重量負荷、力の発揮
二 過度の緊張
ホ 不適切な作業環境

(2) 記の第2の3の(1)の「同種の労働者」とは、同様の作業に従事する同性で年齢が同程度の労働者をいうものであること。

4 上肢障害の発症までの作業従事期間について

上肢障害の発症までの作業従事期間については、原則として6カ月程度以上としたが、腱鞘炎等については、作業従事期問が6カ月程度に満たない場合でも、短期間のうちに集中的に過度の負担がかかった場合には、発症することがあるので留意すること。

5 類似疾病との鑑別について

上肢障害には、加齢による骨・関節系の退行性変性や関節リウマチ等の類似疾病が関与することが多いことから、これが疑われる場合には、専門医からの意見聴取や鑑別診断等を実施すること。

なお、上肢障害と類似の症状を呈する疾病としては、次のものを原因とする場合が考えられるが、これらは上肢障害には該当しない。しかしながら、これらに該当する疾病の中には、上肢障害以外の疾病として、別途業務起因性の判断を要するものもあることに留意すること。

(1) 頸・背部の脊椎、脊髄あるいは周辺軟部の腫瘍
(2) 内臓疾病に起因する諸関連痛
(3) 類似の症状を呈し得る精神医学的疾病
(4) 頭蓋内疾患

6 その他

一般に上肢障害は、業務から離れ、あるいは業務から離れないまでも適切な作業の指導・改善等を行い就業すれば、症状は軽快する。

また、適切な療養を行うことによっておおむね3カ月程度で症状が軽快すると考えられ、手術が施行された場合でも一般的におおむね6カ月程度の療養が行われれば治ゆするものと考えられるので留意すること。