はつり・解体でアスベストばく露し石綿肺、肺がん発症し、うつ病で自殺のケースに労災認定/兵庫

概要・解説

本件は解体、はつり作業により石綿にばく露し、アスベスト肺がんを発症した男性が療養中に病苦から自死されたことについて労災申請し、肺がん及び自死による遺族補償についても労災として認定した事案である。自死については療養中にうつ病を発症し自殺に至ったと判断した。中皮腫を含めて療養中の自死について労災認定されるケースがほかにもあり、治療、療養環境の改善が課題であることを示した事案であった。

Nさんは、若い頃から建築物の解体やはつり作業に従事し、20台半ばからはN土建を立ち上げて一人親方として建築関係の仕事をしてきた。そのため石綿の吹き付けが行われている側所での作業や、吹き付け石綿建築物の解体作業にも従事した。
2003年の年末、咳が酷く血疾も出るようになり入院したところ、肺がんと診断された。手術を行い退院したが、生活のために無理をして働き始めた結果、2004年12月に再入院することとなってしまった。

年末には退院し、抗がん剤治療のため通院していたが、だんだんと自宅に閉じ籠るようになり、2005年3月末に自宅で自ら命を絶たれた。

ひょうご労働安全衛生センターの会員に紹介され、Nさんの奥さんが事務所に来られたのは、2006年の春だった。相談を受け、かつて一緒に仕事をされていた方から作業内容を聞き取り、神戸医療生協の松村医師にフイルムを診てもらうと「石綿肺1型」との意見書をいただき、作業内容と従事期間そして医学的所見から石綿による肺がんであることを確信した。

Nさんが亡くなられる前の様子を奥さんに聞くと、「コタツに座り、一日中ボーッとテレビを見ている毎日でした。ずっとイライラしていた。私が話しかけると、すぐに怒りだすし嫌味を言うばかりでした。『座るのも痛い』というので、病院へ行こうと私が言うと、『痛い目をするだけ。治れへん』と言われどうすることも出来ませんでした。だんだん食べなくなり、おかゆも食べられなくなっていきました」とのことであった。

昨年8月末、神戸西労働基準監督署に労災申請を行い、石綿による肺がんであるとの意見書と肺がんの悪化に伴う心理的負荷が原因とされる精神障害事案であるとの申立書を提出した。監督署の担当官は丁寧に調査を行い、通院していた病院の医師から受診の際のNさんの様子を聞き、奥さんが紹介した近所に住んでいる方からも自宅での様子について聞き取りをした。

そして今年5月末、石綿による肺がんであるとして休業・療養補償が認められ、自殺も肺がんの悪化に伴う心理的負荷による「うつ病」が原因であるとして葬祭料と遺族年金の支給決定通知が届いた。

自ら命を絶たざるを得なかったNさんの心境、その御主人を側で支えて来られた奥さんの心境は尋常ではなかったと思う。それでも、労災の申請作業を通じてご主人の死と向き合って来られた奥さんに、笑顔が戻った事が何よりだと思っている。

ひょうご労働安全衛生センター